第3-5 下校
「泪~。帰ろ~」
「あ、うん」
放課後になり、優にそう声をかけられて、私は鞄を肩に掛けた。
それから玄関で靴を履き替え、私と泪は外に出る。
「そういえば、泪の家に行くのって、何気に初めてかぁ……」
「そうだね……優の家になら、三回?」
「うん、多分。……あー。初めて泪の家に行くなぁ……」
口元を両手で押さえながら優はそう言う。
その動作にどういう感情があってやっているのかは分からないが、なんだかとても可愛くて、私は直視できずに目を逸らした。
「あはは、友達の家って、行くの結構緊張するね! 初めてだから、よく分かんなくて」
「私も、家に……連れてくの、初めてだから……心臓ドキドキいってる」
「てか、泪そんなんだと誰かの家に上がるのも初めてだったんでしょ? 前に家に上げた時、緊張とかしなかったの?」
「あー……あの時は、ホラ、今みたいに深く考える時間とかも無かったし」
咄嗟の言い訳に、優は「なるほどねぇ」と呟いた。
本当は、少し違う。確かに、あの雨の時は、深く考える余裕とかは無かった。
でも、それだけじゃなくて、あの時は優のことを恋愛対象として見てなんていなかったから。
友達を家に連れて行くのと、好きな人を家に連れて行くのじゃ、緊張の度合いが全然違う。
逆もまた然り。だから、今私が優の家に行ったら、きっと緊張する。
「……っと、危ないよ」
その時、優がそう言って私の体を抱き寄せる。
すると、先ほどまで私がいた所のギリギリを、白い軽トラックが通って行った。
「ふぅ~……危ない危ない。ちゃんと見てないと危ないよ?」
「あ、ごめん……ちょっとボーッとしてた」
私がそう言うと、優は呆れたように笑って、私のおでこをツン、と軽く突いた。
「おっちょこちょい」
そう言って、優しく笑う。
予想外過ぎる出来事に、私はしばらくの間放心する。
すると、優は口元に手を当ててクスクスと笑った。
「ホラ、早く行こ? 泪の家楽しみだなぁ~」
上機嫌にそう言いながら歩いて行く優の後ろ姿を見つめながら、私は自分の胸に手を当てる。
……やっぱり、バクバク言ってる……。
抱き寄せたり、さっきの動作と言い、ホント……。
「卑怯だよ……そんなの……」
「あ、よく考えたら、私が先に行っても道分かんないじゃん! 泪~」
私より前に出ていた優は、すぐにこちらに振り返って、私の袖を指で摘まむ。
その動作に私は苦笑しつつも、優の手をソッと握った。
「別にゆっくり行けば良いじゃん。私の家は逃げないんだからさ」
「でもでも~」
ムゥッと頬を膨らませる優がなんだか可笑しくて、私は声をあげて笑った。




