第3-4 誘い
「おはよ、泪!」
朝。学校に行くと、嬉しそうな表情で優が言った。
私はそれに「おはよう、優」と返して、席につく。
鞄から教科書とかを出していた時、やけに視線を感じたので顔を上げてみると、そこでは優が私の顔をジッと見ていた。
「な、何……? 何か、私の顔に付いてる?」
「いや……なんか、今日はいつもより少し緊張した感じするなぁって……どうかしたの?」
「えぇっと……」
返答に困っていると、優が身を乗り出してさらに距離を縮めてみる。
無垢な彼女の目に、強張った私の顔が映る。
でもここで誘わなかったらお姉ちゃんに絶対文句言われるし……ええいっ! 当たって砕けろ!
「じ、実は、お姉ちゃんが、今日の夕食に、優を呼んでみなよって、言ってて……」
「私を……?」
「う、うん……ほ、ホラ! 私、こ、こんな性格だからさ! 友達できるの、は、初めてで……だから、お、お姉ちゃん達も舞い上がっちゃって……」
気付いたら、そんな言い訳をペラペラと語る。
違う。こんなことが言いたいんじゃない!
でも、じゃあ何を言いたいのかと聞かれると、よく分からなくて、結局私の舌は嘘を語る。
私の言い訳を聞いた優は、フッと微笑んだ。
「まぁ、私も泪の家、結構行ってみたいし。良いよ?」
「本当? 良かったぁ……」
心の底から、そんな声が漏れ出る。
私の反応に優は「あははっ」と笑い、私の頭を撫でた。
「あっ……」
「そんなに家に来てほしかったの?」
そう言って、悪戯っぽく笑う。
私はそれに慌てて彼女から離れ、口を開いた。
「ち、違うよっ! ただ、お、お姉ちゃんが、優と、話してみたいって言うからっ……」
そこまで言った時、優の顔が微かに悲しそうな表情になった。
彼女の表情を見た瞬間、私は後悔した。
確かに、あの言い方は良くなかった。
別に、友達に家に来てもらって、それを嬉しいと思うことくらい普通じゃないか。
緊張しているからって、あんなに否定しなくても良かった。
「あ、優、えっと……ごめん。こういうの初めてだから、その……緊張しちゃってて……えっと、私も、優が来てくれたら……嬉しいよ?」
「……本当に?」
不安げに聞いてくる優に、私は大きく頷く。
「うん、本当。嘘ついてるように見える?」
「……ううん。見えない」
そう言って、嬉しそうに笑う。
彼女の笑顔に、私も、自分の顔が無意識に綻ぶのを感じた。
「それで……えっと、放課後直接泪の家行けばいい? って、泪の家分かんないや」
「あはは……一緒に行けば良いじゃん」
「あ、そっか。そうだね。……ははっ、ごめん。私もこういう体験は初めてだからさ」
恥ずかしそうに頬を掻きながら言う優に、私はクスクスと笑った。
でも、そっか……優が家に来るんだ。
ていうか、今思ったけど、好きな人を家に呼ぶってかなりすごいことなんじゃないだろうか?
それに気づいた瞬間、緊張が一気に押し寄せて、心臓がバクバクと音を立てる。
緊張するし、すごく不安だけど、でも……。
「楽しみ、だな……」
優に聴こえないくらい小さな声で、一人、呟いた。




