表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明少女と仮面少女  作者: あいまり
第三章:密やかに咲く百合
26/92

第3-1 彼氏

 バスから降りた瞬間、肩から一気に力が抜けた。

 脱力感が体から溢れだし、短いようで長かった宿泊研修が終了したことを体感する。


「優は、帰りは、歩き?」

「うん、まぁね。泪は?」

「私は……」

「泪~!」


 遠くから聴こえた声に、私はビクッとして、視線を向ける。

 そこには、車から降りてこちらに手を振っているお姉ちゃんの姿があった。

 迎えに来てくれるのは嬉しいけど、せめてテンション落としてよ……。


「泪……あの人は?」

「……私のお姉ちゃん。なんであんなテンションで……」

「泪~。おかえり~!」


 そう言うとお姉ちゃんは私を抱きしめる。

 く、苦しい! 主に息が!

 押し返そうとしていた時、お姉ちゃんは優に背を向ける形にして、耳元に口を寄せてくる。


「ところで泪……彼は何? 彼氏?」

「彼……って、もしかして優のこと?」

「へぇ~……優君って言うんだ~」


 お姉ちゃんの言葉に、私は優に視線を向ける。

 なるほど。体操服を着た優は男にしか見えないから、男で、しかも彼氏だと思ったわけか。

 ……なんでだよ。


「お姉ちゃん……何か勘違いしてるみたいだけど、優は女の子だよ?」

「えっ?」

「あ、えっと……茂光優です。泪とは、友達で……」


 優の言葉に、お姉ちゃんは「茂光……?」と首を傾げ、やがて「あぁ!」と声をあげた。


「茂光さんかぁ! 泪から話は聞いてるよ! あ、私は影山 凛。泪の姉です」


 お姉ちゃんの自己紹介に、優は「あぁ、泪のお姉さん」と言って微笑んだ。

 私はなんとか肩を掴んでいるお姉ちゃんの腕を離し、距離を取る。


「にしても、それにしても、そっかぁ。貴方が茂光さんねぇ……。思ってたよりボーイッシュだけど、確かに優しそう。名前の優は優しいの優?」

「はい、まぁ……でも優しくは……」

「いやいや。泪はすごく優しいって言ってたよ?」

「ちょっとお姉ちゃん!」


 そういうことを話しているのを言われるとすごく恥ずかしい。

 私が顔を赤くしながら咎めると、お姉ちゃんは「冗談だって」と言って笑った。


「あはは……嬉しいですけど、多分気のせいですかね」


 しかし、優はそう言って爽やかに微笑んだ。

 それにお姉ちゃんは「そうなの?」となぜか私を見る。

 いや、私に聞くな!


「まぁいいや。そうだ。優ちゃんは迎えは?」

「あ、いえ……母は……あっ、母も、父も忙しいので、歩いて帰ります」

「そうなの!? 疲れてるでしょう。家まで送ろうか?」

「ありがとうございます。でも、すぐそこですし、体力には自信がありますから、遠慮しておきます」

「そぉ?」


 不満そうに聞くお姉ちゃんに、優はもう一度頷いた。


「そっか。じゃあ、気を付けて帰ってね」

「はい。じゃあ、泪。バイバイ」


 そう言って手を振る優に、私も振り返す。

 それから私はお姉ちゃんの車に乗り、家に向かって走り出す。

 窓の外を眺めながら、私は右手を何度か握り締め直す。

 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 ……よし。


「ねぇ、お姉ちゃん……」

「ん~? なぁに?」

「私……女の子を好きになっちゃったかもしれない」


 そう言った瞬間、お姉ちゃんはブレーキを強く踏んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ