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透明少女と仮面少女  作者: あいまり
第二章:狂い咲く百合
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第2-13 偽り

 それから、雛は優を孤立化させるための作戦を開始した。

 最初に、自分を変えることから始めた。

 髪型を変え、明るい感じの見た目に。

 それから、笑顔を偽り、優のように、明るく社交的な性格であるように見せかけた。

 見た目だけならまだしも、性格まで偽るのは容易ではない。


 しかし、恋が成せる技というべきか、数日程度で雛は偽りの笑顔を覚え、六月頃から少しずつ、優と仲が良い女子達と接触するようになっていた。

 周りの生徒達は、雛が単純にイメチェンをして明るくなったと思い、特に気にせず、仲良くするようになっていた。


「雛、最近変わったよね~。どうしたの?」

「うーん……少し、イメチェンを」

「へぇ~。良いと思うよ。すごく可愛い」


 明るい笑みで言う優に、雛は、心がドロドロに蕩けるような快感を抱いた。

 たくさんの人と接しても、雛の中で何かが満たされることはなかった。

 だって、大半の人間が好いているのは、結局『偽りの榊野雛』でしかないのだから。

 本来の自分……引っ込み思案で、大人しくて、友達すらまともに作れない雛に自分から近づいてきてくれたのは、優ただ一人だ。


 雛の中では、最早、優は唯一無二の存在となっていた。

 本来の自分を愛してくれるたった一つの人。

 ―――優を、私だけのものにしたい……。

 歪んだ愛情は、すでに、留まることを知らなかった。


 二学期に入ると、雛も優と同等くらいにはクラスの中心的な存在となっていた。

 ここまでくれば、雛の作戦は八割達成しているようなもの。


「ねぇねぇ……」


 ある日、クラスで話している女子数名に、雛は話しかけた。

 ドロドロとした黒い感情はひた隠し、笑顔を偽り、そして……―――。


「私も人から聞いた話なんだけど、優ってさ……―――」


 そこから始まったのは……偽りの情報の拡散。

 優に関して、あらぬ噂をでっち上げ、それを様々な人に広めていった。

 人間なんてもの、少しでも見下せる対象が出来れば、それを見下すために最善を尽くす。

 そうしないと、自分の存在を見いだせないのだから。

 最初は、優がそんな人間なわけがないと否定する者もいた。

 しかし、雛が拡散した情報はあまりにも巧妙で、最終的に、優を孤立化させることに成功した。


 ……そこまでは、雛の作戦通り。

 だが、雛が想像していたよりも、人間というものは残酷だった。

 二年生に上がった頃から、孤立していた優を苛める動きがあった。

 最初は、優の日用品が無くなることから。

 それから徐々にエスカレートしていき、気付けば、取り返しのつかないくらいのイジメへと変貌していた。


 それからだった。優の腕に傷が入り始めたのは。

 最初は、手首に切り傷が一本入っているだけだった。

 優が体操服になってそれを見た時、雛は、悲しみだとか罪悪感よりも前に、恍惚としてしまった。

 ―――私が、優に傷をつけたんだ……優に影響を及ぼしたんだ……。

 まるで、その腕の傷が、自分が付けたキスマークのように見えて、雛は、そのリスカ痕すらも、愛おしく思えてしまった。


 歪んだ日常は続く。

 三年生になっても、それは変わらなかった。

 優の家は裕福じゃないため、彼女は公立の高校を選んだ。

 もちろん、優がいない学校に通うという選択肢はなかったし、優と雛の成績はかなり近かったため、雛も同じ高校にした。

 そして……その高校でも、雛は優の噂を流し、中学校と同じ状況を作り出した。


 しかし、高校一年生も終わりかけの三学期……事件は起こる。

 いじめっ子達が、優の髪を切ったのだ。

 それも、かなりバッサリと。

 今まで背中まであった髪の毛は、少年と大差ないくらいまで切られ、雛が現場に着いた時には、すでに犯人達はおらず、床にへたり込んで切られた髪を見つめる優の姿だけがあった。


「優……」

「私、何か変なことしちゃったのかな……」


 ポツリと呟いた彼女の言葉に、雛は目を見開く。

 顔を上げた優は、涙をボロボロと流しながら、それでもなお、笑っていた。


「私、悪いことなんて何もしてないのに……ただ、普通に生きたかっただけなのに……」

「ゆ、う……?」

「私はただ……―――」


 その後の言葉を聞いた瞬間、雛の肩から、ストン、と、学生鞄が落下した。

 そしてその事件が原因で、優は転校していった。


---現在---


 ようやく平静を取り戻した雛は、壁に凭れ掛かったまま一点を見つめていた。

 握り締められたスマートフォンの画面には、相変わらず、優の画像だけがある。


「ねぇ……優……」


 掠れた声が、彼女の喉から零れる。

 涙の痕を上書きするように、新たな透明の雫が、静かに頬を伝った。

 瞼を瞑るのと同時に、乱雑に切られた短い髪を手で押さえながら、泣きながら笑う少女の顔が浮かぶ。


『私はただ……誰かを愛したかっただけなのに……』


「私のことは……愛してくれてなかったの……?」


 そう呟くのと同時に、雛は膝を抱え、顔を埋める。

 ―――久々に再会した優は、すごく晴れ晴れとした笑顔だった。

 ―――私といた時と同じように、孤立しているハズなのに……。

 ―――ねぇ、優……。


「優にとって、あの女は一体……何なの……?」

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