第2-8 一緒
「……ふぇ……?」
私の言葉を聞いた瞬間、顔を赤くして優は固まる。
あれ、思っていた反応と違う……。
少し戸惑いつつ、私は続ける。
「もしダメなら、別にい……」
「いやいやいや! 大丈夫! ダメじゃないです! むしろ大歓迎です!」
顔を赤くしながら早口でまくしたてる優に、私はホッと息をつく。
それから備え付けのドライヤーを置いてあったであろう場所に置いた優は、押し入れに近づき、ふすまを開く。
「一緒に寝るなら、その……布団は一枚で良いん、だよね……?」
「う、うん……多分……」
「そっか……そっか……」
やけにぎこちない動きで敷布団を引きずり出す優。
本当に大丈夫なのかな? と心配しつつ、私もシーツなどを出していき、二人で協力して一枚の布団を敷き終える。
布団を敷き終えた瞬間、私は、自分の鼓動が速くなるのを感じた。
「えっと、じゃあ……どうぞ」
先に布団に入った優は、そう言って隣をポンポンと叩く。
私はそれに頷き、ゆっくりと布団の中に入っていく。
敷布団自体は、それほど大きくない。
一人用の布団で強引に二人で寝ようとすれば、かなりくっつかないといけなくなる。
結果として、私と優は掛け布団の中で密着状態になるわけで……。
「えっと、泪、大丈夫? 暑かったりとか……」
「だ、大丈夫……優は?」
「私は平気だけど……」
微妙な感じの空気が流れる。
私は無言で優を抱きしめる力を強くし、彼女の胸に顔を埋めた。
やけに心臓が強く高鳴り、自分のものなのか、彼女のものなのか分からない鼓動の音が、耳元で爆音を鳴らす。
その時、優しく頭を撫でられた。
「泪……なんで、急に一緒に寝ようなんて……言ったの?」
その言葉に、私は少し戸惑う。
顔を上げると、優が優しく微笑んだ。
「えっと……」
「急にあんなこと言うなんて……どうかしたのかなって」
そう言って、ニコッと彼女は微笑んだ。
私は、まず優の腕の中で少し身じろぎし、それから静かに口を開いた。
「榊野さんと優が話している時……すごく、胸が痛くなって……それに、優を見ていると、鼓動が速くなって、恋なんじゃないか、って思って……」
「……うん……」
「だから、確かめようって、思って……こうして密着したら、分かるんじゃないかって」
「……それで、どうだった?」
そう聞いてくる優の声色は、やけに優しかった。
私はそれに額を彼女の首筋辺りに当てながら、「内緒」とだけ言う。
「あはは……何それ」
優は、そう言うと私の髪をワシャワシャと撫でる。
恋なんて今までしたことないから、ハッキリと分かるわけではない。
でも、きっと、これが恋なら……それはすごく、甘いものなんだろう。
その人のことを見ると、緊張したり、ドキドキする。
でも、こうして抱かれてみると、緊張だってするけれど、段々と安心できてしまって、気持ちが少しずつ安らいでいく。
甘酸っぱい、なんて表現をするのを見ることがある。
でも、恋をしてみて分かる。恋というものは、甘酸っぱい。
その人が別の誰かと話しているのを見ると、苦しくて、苦くて、酸っぱい。
でも、こうして密着すると、とても気持ちが安らいで、まるでアロマの匂いでも嗅いでいるかのように、フワフワした気持ちになって、甘い。
そこまで考えて、私は微かに苦笑した。
あぁ、なんだ……私はこんなにも、優のことが好きなんじゃないか。
いや、本当はきっと、もっと前から自覚はしていたのだろう。
でも、認めるのが怖かった。同性を好きになるなんて、普通じゃないから。
けど、目を逸らそうとすればするほど、優のことしか見えなくなって。
「ねぇ、泪……」
その時、耳元でそんな声がした。
私はそれに「何?」と聞いた。
すると、優はフッと息を吐くように微かに笑って、私の体をさらに強く抱きしめた。
「なんでもない」
「……変なの」
私が笑いながら言うと、優もそれに笑った。
その笑顔は、今まで以上に、私の心を揺さぶった気がした。




