第1-2 視線
茂光さんが来てからというもの……―――
「影山さん、教科書無いから見せてくれないかな?」
「影山さん一緒に組も?」
「影山さんっ。一緒にお昼ご飯食べよっ!」
「影山さんっ!」
―――なぜかほぼ毎日、しつこく話しかけてくる。
転校生というものは人気者で、彼女がスクールカースト高い系の女子に話しかけられているのだって何度も目にする。
それにも関わらず、彼女は私に構ってくるのだ。
現に、今もなぜか私と机を向かい合わせて、一緒にお昼ご飯の弁当を食べている。
「それでさぁ、この間行ったお店で……」
楽しそうに話す茂光さん。
ちなみに、私はコミュニケーション能力に多大な障害があるため、現在進行形で無言で昼食を頬張っている。
そう、私は彼女に対して、まともな返答など一度も行っていないのである。
どこで彼女の機嫌を損ねるか分かったものじゃないので、相槌すらまともに打っていない。
……茂光さん。彼女には今、何が見えているのだろうか……。
まぁ、それはどうでもいい。問題は別にある。
私は箸を起き、視線を動かして、先ほどから感じているとある違和感の正体に視線を向ける。
あっ……目が合った……。
私と目が合った瞬間、先ほどからずっとこちらを睨んでいたであろう、スクールカースト高い系女子の一人は怪訝そうな表情をしつつ目を逸らす。
彼女だけじゃない。このクラスの女子のほぼ大半が、転校生と一緒に昼食を取る私を忌々しそうに睨んでいるのだ。
私が頼んで一緒に食べているわけじゃないのに……たまったものじゃない。
「影山さん? どこ見てるの?」
その時、茂光さんがそう聞いてきた。
それに私は肩を震わせて、慌てて首を横に振った。
「な、なんでも、ないですっ……」
「あは。やっと話してくれた」
その言葉に、私は顔を上げた。
茂光さんは机に肘をついて、その手に頬を乗せて首を傾げる。
無駄に整った顔立ちの彼女がそんな素振りをして微笑むとそれだけで絵になり、私はつい、俯いた。
「えっと……」
「折角隣の席なんだし、もっと仲良くなりたいんだけどなぁ」
そう言うと、彼女は私の手を取る。
次の瞬間、私に感じる鋭い視線が強くなるのを感じた。
……この視線だけで軽く死ねる……。
「えっと……」
「おっと。早く食べないと次の授業始まっちゃうか。ごめんごめん」
そう言って茂光さんは私から手を離し、菓子パンを頬張る。
ちなみに、彼女の今日の昼食は菓子パン一個と酷く貧相だ。
いや、今日だけじゃない。ここ数日の昼食を見る限り、いつもこれくらいの量だ。……なぜだろう。
しかし、それを聞く勇気など私にはない。
触らぬ神に祟りなし、とよく言うではないか。
ここで私が変に言及して、彼女の機嫌を損ねたらどうする? もしかしたら複雑な家庭事情で、最悪泣かせたりしたら……考えるだけでも恐ろしい。
たかが好奇心でこれからの高校生活を棒に振る度胸などあるハズが無い。
よって、無視。
私はそう心に決めて箸を手に取り、弁当のおかずを口に含んだ。




