第2-7 関係
「んんっ……スッキリしたぁ!」
軽く伸びをしながら、優は部屋に入る。
私は、彼女の背中を追うようにして、部屋に入った。
あれから榊野さんが私に何かしてくることは特に無く、いたって平和に入浴を終えることができたと思う。
体を癒すためのお風呂のハズなのに、逆にかなり疲れてしまった。主に精神面が……。
そう思っていた時、顔にビュオーと熱風が吹き付けられた。
「……!?」
「どしたの? 顔色、かなり最悪だったけど」
そう言って、部屋に備え付けられているドライヤーを片手に、優はため息をついた。
しばらく答えられずに呆然としていると、コツン、とドライヤーで軽く小突かれた。
「……?」
「何かあったなら、ちゃんと言いなよ? ……泪のそんな顔、見たくないからさ」
そう言って優は優しく微笑むと、私の頭を優しく撫でた。
私はそれに何も答えられずに、彼女の目を見つめ返す。
「ちょっと、気になることがあって……」
「ん? 何?」
聞き返してくる優の目は、本当に純粋。
そんな純粋な目で見られると、動揺してしまう。
しかし、なんとか私は一度深呼吸をして、喉を震わせる。
「榊野さんと優は……どういう関係なのかな、って……」
「私と、雛?」
「う、うん……」
私の言葉に、優は「どんな関係って……」と言って、頬を掻く。
「どういう関係も何も、ただの友達だけど?」
「……そっか……」
彼女の言葉に、私は、肩から力が抜けるような気がした。
その時、優は私の顔を覗き込んでくる。
突然の急接近に、私は呼吸が止まる。というか、真面目に一回心臓も止まった気がする。
「それがどうかした?」
「えっと……ただ気になっただけ! それだけ、だから!」
慌てて離れながらそう言うと、優は「そっか……」と、なぜか少し落胆した表情で言う。
私はそれに胸がざわつくのを感じながら、湿った髪を指に絡めた。
「……先、乾かしなよ。私は短いし、そんなに時間かからないからさ」
そう言って、優はドライヤーを渡してくる。
彼女の言葉に甘え、私はドライヤーを受け取り、壁に掛けられた大きな鏡を見ながら、髪を乾かしていく。
その間、優はせわしなく部屋をウロウロしたり、床に座ってボーッとしたりしていた。
やがて、私が髪を乾かし終えると、優と交代して、彼女も髪を乾かしていく。
その間、私はずっと床に座って、髪を乾かす優を眺めていた。
彼女の寝間着は、半袖のシャツにズボンだけ。まぁ、私も似たようなもの。
でも、彼女がそれを着ると、本当に男の子みたいに見える。
なるほど。と、思う。榊野さんが好きになる理由も、なんとなく分かる気がする。
中性的な見た目で、優しくて、明るくて。
こんなの、好きにならない方が無理な話ではないだろうか。
そう思っていた私は、自分の胸に手を当てる。
……私は……優のことが好きなのだろうか?
もうほとんど、私の中で結果は出ている気がする。
でも、まだそれを認める勇気がない。こんなこと、許されるわけがない。
……確かめる必要がある。
自分の気持ちが、本物なのか、否か。
そう思った私は顔を上げ、髪を乾かし終えた優に、近づく。
「泪……?」
「ゆ、優……」
口の中が渇くのが分かる。
変な汗が出てきて、手が湿っていくのが分かる。
私は服の裾を掴んで、震えそうになる声を、震えないようにして、なんとか言葉を、続ける。
「一緒に……寝てくれないかな?」




