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透明少女と仮面少女  作者: あいまり
第二章:狂い咲く百合
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第2-6 駆け引き

「榊野……さん……」


 自分の声が震えるのが分かる。

 先ほどの目を思い出し、私は、体が強張るのを感じた。


「え、でも……」

「影山さんとも、少し、お話がしてみたいですから」


 顔は笑っている。でも、目が笑っていない。

 まるでゴミを見下ろすような目で、私を見ている。

 私はそれに何も言えなくて、ただ、静かに目を逸らすだけ。


「私は別に良いけど……泪もそれで良い?」

「えっ……うん……」


 優の問いに、私は小さく頷いた。

 ここで反論や拒否ができるような性格ならば、透明人間なんて呼ばれていない。

 私の反応に、優は「そっか」と言って笑い、静かに椅子を榊野さんに譲った。

 それから少し離れた椅子に座り、自分の体をゴシゴシと洗い始める。


「えっと……榊野さん……」


 私の言葉を無視して、榊野さんは私の背中を擦り始める。

 それがとても強い力だったために、私はつい「いっ……!?」と声を漏らす。


「さ、榊野さん、少し力が強……」

「ねぇ、影山さん……」


 流石に少し不満を口にしようとした時、榊野さんがそう言って私の耳元に口を寄せてくる。

 私はそれに言葉を詰まらせ、続きを待った。

 その反応に、榊野さんがフッと笑ったのが分かった。


「……私の優に近づかないで」


 ドスの効いた声。

 それを聞いた瞬間、私は体が硬直し、寒気が背筋を走るのをただただ感じた。


「優はね、私の物なの。私と愛し合うことが、彼女にとっても幸せなの。それを、貴方如きが邪魔しないで」


 ボソボソと、小さな声でそう言ってくる。

 それを聞いた瞬間、私は一つの結論に至った。


 榊野さんは、優のことが好きなんだ。


 そう考えてみれば、今までの行動にも納得がいく。

 自分が好きな人が別の子と一緒にいれば嫉妬だってするだろうし、優のスキンシップの多さからすれば尚更だ。

 好きな人が別の子にベタベタしていたら、誰だって良い気持ちにはならない。

 ただ、些か愛が重すぎやしないだろうか。

 それに、優は本当に榊野さんのことが好きなのか? 本当にそれが、優にとっての幸せなのか?

 まぁ、例えそうだったとしても……。


「……嫌だよ」


 私は、同じように小さく言い返した。

 それに、榊野さんが微かに息を呑んだのが分かった。

 私は自分の呼吸が荒くなるのを感じながら、言葉を続ける。


「私、だって……優と仲良くしたい……貴方に……止められる筋合いはない……」

「……」


 彼女は何も言わない。

 その間がなんだか苦しくて、私は静かに彼女から距離を取る。


「泪、雛。何してるの~? 早く体洗って湯船浸かろうよ~」


 その時、体を洗い終えた優がそう言ってくる。

 彼女の言葉に、私と榊野さんは顔を見合わせた。


「ごめん! 先入ってて!」


 まるで何事もなかったかのように、榊野さんは優にそう言った。

 優は「分かった~」と言って、湯船の方に歩いて行く。

 彼女の様子を眺めながら、私はゆっくり自分の手を見た。


 ……まただ。

 なんで優との関係が邪魔されそうになった時だけ、私はすぐに否定できてしまうのだろう……。

 顔を上げると、榊野さんが忌々しそうな目で私を見ている。

 私は視線を逸らし、無言で体を洗い始めた。

 原因不明の違和感を、胸の中に抱きながら。

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