第2-5 背中
「おぉ! ひろーい!」
大浴場の中に入ると、優がかなりテンションを高くしながらそう言った。
確かに広い……二校の生徒がいるとは思えないくらいだ。
そう感心していた時、榊野さんが優の腕を抱いた。
「優、転んだら危ないよ。気を付けて」
「えっ? あっ……大丈夫だって。子供じゃないんだから」
あんな美少女に密着されても、優はあくまで平常運転で、笑みを浮かべている。
それだけで二人の距離の近さを感じられて、私の胸は痛くなる。
唇をかみしめていた時、ソッと右手を握られた。
「……?」
「泪。あっちで一緒に体洗おう?」
そう言って、優は私の手を引く。
引っ張られる形で私は、三つ並んだ椅子の一番左側に座らされた。
それから、優の挟む形で右端に榊野さんが座る。
「それにしても、明日から登山かぁ……憂鬱……」
ため息交じりにそう言いながら、優はシャンプーを手に出していく。
私はその様子に苦笑しながら、同じようにシャンプーを出して、髪の毛を洗っていく。
「優は割と体力ある方だから良いじゃない。中学生の頃は、よく鞄を持ってもらったりしてたよね?」
榊野さんの言葉に、私は髪を洗う手を止めて、優の顔を見た。
「中学生……?」
「ん? 言ってなかったっけ。私と雛は、中学生からの友達なんだ」
その言葉に、私はサァッと頭の中が真っ白になるような感覚を覚えた。
……いやいや、私はなんでそんな反応を……。
そう思っていた時、榊野さんが、優に寄り添うようにして鏡を見た。
「そういえば、こうして一緒にお風呂入ったりするのも、中学三年生の修学旅行以来だよね」
「そうだねぇ……ていうか、雛近いよ。シャワーかかるよ?」
「良いよ~。ついでに一緒に流してよ」
クスクスと笑いながら言う榊野さんに、優はため息をついてから、シャワーからお湯を出して彼女の頭をワシャワシャと洗い流していく。
私はその様子を眺めながら、シャワーから熱湯を出して、自分の髪を洗い流していく。
やがて洗い終わった時、ポンポンと肩を叩かれた。
見ると、優が笑顔でタオルを握り締めていた。
「……?」
「泪。背中流し合いっこしよっ」
「ふぇ……!?」
「なっ……」
私が呆けていた時、優の後ろで榊野さんが目を見開いてこちらを凝視しているのが見えた。
そんなに反応されても……私だってそれくらい驚いている。
しかし、優のキラキラした目を見ていると、断ろうにも断れない。
「い、良いけど……」
「やった! じゃあ、背中向けて」
その言葉に、私は優に背中を向ける。
すると、彼女のタオルが私の背中を擦った。
「んっ……」
「あっ、ごめん。痛かった?」
「大丈夫……」
「そう?」
そう言いながら、優はさらに私の背中を擦る。
タオルが肌を掠っていく度、くすぐったいような、変な感覚が体中を駆け巡り、私は体が震えるのを感じる。
早く終われ、と感じていた時、私の背中を擦る手が止まる。
「……?」
不思議に思い振り向いた瞬間、私は言葉を詰まらせた。
「私もやって良いかな? 影山さん」
そこには、優の手首を掴んで微笑む、榊野さんの姿があった。




