第2-4 邪魔
「え、あ、えっと……」
「雛。こっちが私の今の学校での友達の、影山 泪」
優に紹介され、私は慌てて頭を下げた。
緊張だけじゃなくて、自分でもよく分からない色々な感情が胸の中でグルグルと混ざり合って、気分が悪くなりそう。
顔を上げると、榊野さんがニコニコとした笑みを浮かべていた。
「フフッ、安心した。優、新しい学校では上手くやってるみたいで」
「そんなことないよぉ……こっちの学校でもなぜか知らないけどハブられちゃって。結局前の学校とそんなに変わらなくてさ。でも、泪は私と仲良くしてくれて」
「へぇ……」
生返事のようなものをしながら、榊野さんは私に視線を向けてきた。
その時、一瞬彼女の目が、氷のように冷たいものに変わる。
「っ……」
彼女のその目に、私はすぐに体を縮こまらせ、できるだけ目立たないように脱衣していく。
なんだ……今のは……。
まるで、獲物を狩るかのような。もしくは、親の仇を見た時のような。
どちらも本物を見たことがあるわけではないが、本当に、そんな比喩が正しそうなほどの、静かな迫力があった。
「でも、まさか一緒に入浴するのが母校とはねぇ……って、風呂入ってる時にまた嫌がらせされたらどうしよう」
その時、優がそう言って肩をブルブルと震わせる。
あぁ、そっか……優は前の学校で苛められてたから……。
そう思っていた時だった。榊野さんが優の肩を抱いたのは。
「……!?」
「大丈夫。もう学校だって違うんだし、皆もう優のことなんて忘れてるよ」
「そ、そうかな……」
「うん。だから、もう気にしなくて大丈夫」
そう言って、榊野さんは優の頭を優しく撫でた。
優はそれに恥ずかしそうにして、なぜか私をチラッと見た。
「あ、えっと……私、邪魔したら悪いから……先行くね?」
無論、邪魔するつもりなんてないし、そもそも何の邪魔だ、と思うのだが、私は慌ててそう言いながらタオルで体の前を隠し、そそくさとその場から離れる。
その瞬間、バッと顔を上げた優が、すぐに私の元まで駆け寄って来て、私の腕を掴む。
「待って! 一緒行く!」
「なっ……せ、折角榊野さんと再会できたんだから、もっと、二人で話せば良いじゃん……私は、えっと……」
尻すぼみになっていた時、優が、ポンッと軽く私の頭を撫でた。
恐る恐る顔を上げると、優はなぜかムスッとした顔で私を見下ろしている。
「優……?」
「私は泪とも一緒にお風呂入りたいもん。もしかして、泪は雛と一緒に入るの、嫌?」
「嫌じゃ、ないけど……」
主に榊野さんからの視線が怖い。先ほどの目は、軽くトラウマだ。
恐る恐る榊野さんの方に視線を向けてみると彼女は……。
「私は一緒でも大丈夫だよ? 影山さんとも、もっと話してみたいし」
その言葉に、私は、自分の肩から力が抜けるのが分かった。
まぁ、本人がそう言ってくれているのに、それでも尚離れようとするのは悪いか。
……優に嫌われたくないし……。
「分かっ、た……一緒入る」
「そうこなくちゃっ! さ、早く行こ!」
満面の笑みでそう言うと、優は私の手を引いた。
私はそれに引っ張られる形で、大浴場の中に入った。




