第2-1 隣
バスの震動に揺られながら、私は、前の席の背もたれを死角にしながらスマホを操作し、イヤホンから聴こえる音楽に没頭した。
そうしないと、緊張のあまりどうかなってしまいそうで。
現在、私と優はバスの最後列の席で、隣同士で座っている。
私達だけじゃない。このバスに乗っているのは、全員同じクラスだ。
学校指定のジャージの色で車内は埋め尽くされている。
今日から、宿泊研修というものが一泊二日で行われる。
内容は、一日目は山のふもとまでバスで行き、そこから歩いて山の中腹にあるペンションまで行く。二日目はそこから山の頂上まで登山して、下山して、帰る。そんな日程だ。
研修というより、最早ただの登山じゃないか。
体力がない私にとってはかなり辛い行事だが、今はそんなことより、隣で私に凭れ掛かって熟睡している転校生の方が重要だ。
「ふわぁ……よく寝た」
そこまで考えていた時、優はそう言って私から離れ、軽く伸びをした。
私はそれに息をつき、左耳のイヤホンを外した。
「おはよう、優。よく寝てたね」
「んー……そうだね。む、泪、何してんの?」
そう言って、優は私が持つスマホを覗き込んでくる。
私はそれに戸惑いつつ、画面を見せる。
「暇だったから、音楽、聴いてた」
「へぇー。どれどれ」
そう言うと、優は私が持っていた片方のイヤホンを手に取り、左耳に装着する。
ちなみに、私達が座っている列は右側で、私はその窓側の席に座っている。
だから、優が左耳にイヤホンを付けると、お互いの体がかなり密着して、距離がものすごく近くなるのだ。
「あぅ、ぇと……」
心臓がバクバクと高鳴って、顔が熱くなる。
そんな私に気付いていない優は、目を瞑って音楽に聴き入っている。
優と友達になってから、もうじき一ヶ月が経とうとしている。
あの事件以降、私と優に話しかけるような生徒はいなくなり、完全に孤立した。
とはいえ、優と友達でいられれば、私はそれで構わないと思っていた。
優さえいれば、それだけで充分だと。
……しかし、あれ以降、優に対して不思議な感情を抱くようになっている。
優の笑顔を見ると顔が熱くなったり、一緒にいると鼓動が激しくなったり、彼女に触れられた部分が熱くなったり、その他諸々。
この感情の正体は何なのだろう……と不思議に思う反面、もしそれを知ってしまったら、もう優とはごく普通の友達には戻れないだろう、という、よく分からない危うさも孕んでいて。
「ゆ、優……」
「あー……この音楽好き……なんてバンド?」
そう言いながら画面に書いてあるバンド名を読み始める優。
私はそれに何も言うことができなくて、口をパクパクとさせた。
それからバスがふもとの辺りで止まるまで、私の緊張が止むことはなかった。




