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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第3章 精霊祭
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3-27 精霊祭 三日目〈Ⅷ〉

「ミカロス! 状況はどうなっている」


 赤龍、そしてクリストフォロスとの戦いを終えたテオドールは空中を跳ぶように降りてくる。目立った外傷も無く、疲労を顔に滲ませている程度だ。正門からギルドまでの道程の中腹にある建物の前が新たな指揮所となった。


 急遽引っ張り出した長机の上に城壁を縮小させた地図が置かれ、その上に敵味方を示す駒が置かれている。空から舞い降りたテオドールを見てミカロスは胸をなで下ろした。


「陛下、ご無事でしたか!? ……ご帰還のお喜びをお伝えしたい所ですがそれは後で。戦局に関してはまず、こちらをご覧ください」


 ミカロスは場所を譲る。コンロンに目配せすると、指揮棒を用いて戦局に関する報告が始まった。


「現在、こちらの残存兵力は兵士が予備兵役を含めて五千.冒険者は六百程です。これらを五つの城門と城壁に沿って配置してあります」


「魔法工学の兵器はどうした? あれは配置に着かせているのか」


「正門上と一定の距離を取って左右に。三つの地点に配置しております。光弾の弾幕が敵を近寄らせない為、数の足りない我らにとって防衛の要となっております」


 防壁が無くなった事と魔法工学の兵器の出現は戦略を大きく変える引き金となった。これまでは防壁を突破されることを想定して防壁の内側で方陣を組み、敵を迎え撃てた。


 しかし、城壁を破られればそこは平地では無く左右を建物に阻まれた狭い道。これが人相手なら密度が上がった事で守備は堅固になったかもしれない。だが、敵は人の力を優に超えるモンスター。人の密集地帯なぞ的が集まったような物だ。


 必然的に城壁を突破されない戦い方にシフトしていた。城壁上にずらりと並んだ兵士たちは弓を手に矢の嵐を巻き起こす。城門には内側から魔法や瓦礫などを引き締めて城壁よりも堅牢とかした。例え超級モンスターでも簡単には破壊できない。防壁よりもひときわ高く、分厚い城壁はさしものモンスター達でも簡単には超えられない。彼らは己の牙や爪、あるいは魔法などを駆使して城壁を上り始めた。


 南北に弓なりの城壁上でモンスターと人の鍔迫り合いが繰り広げられる。それ以上に脅威なのが飛行系のモンスターたちだ。空を独壇場とする奴らは城壁を無視して直接街中を狙う。すでに都市のあちこちに火の手が上がる。その度に少数で戦える冒険者が遊撃部隊として討滅に向かっている。


 街の被害は正確な数字は出ていないが相当数に上る。一つは赤龍のブレスによる延焼だ。流れ弾のように街に飛来したブレスが起こした火事が建物を焼いた。それに加えて前述の飛行系モンスターの襲来により、避難民たちにも少なくない被害が出ている。


「それと『氷瀑』のウォント殿が討死しました」


「なんと! ……そうか。分かった。他に冒険者たち……特に二つ名持ちで被害は?」


 ウォントの訃報を聞きテオドールは刹那の間、目元を拭った。彼も現役の頃偉大なる魔導士に世話になった一人だった。恩義を感じ、その上重要な戦力を喪った事への悲しみを感じていた。


 しかし、悲しみに暮れている暇は無かった。すぐさま、精神を再構築し他の被害を尋ねた。


「A級冒険者のロテュス殿とディモンド殿は城壁上にて指揮をとられています。オルド殿は一度ブレスを浴びたことで負傷したのち治療。復帰後は後方部隊の指揮を執り、都市に舞い降りたモンスターを優先的に狙っています」


「そうか、オルドも無事か。戦局は押されてはいるが……まだ、何とかなるな」


「ええ。現状、敵は上級、超級モンスターを動かせないようです。攻めてくるのは中級モンスター二万ばかり。向うの異変に助けられていると考えると複雑な気持ちですが」


 コンロンの言う通り、モンスターたちの異変はいまだ続いていた。上級や超級モンスターはいまだに呆けた様に動きを止めて立ちすくむだけだった。攻めてくるのは中級モンスターのみだった。


「陛下、空での戦いはどのようになりましたか? 赤龍は討滅できたのでしょうか?」


 ミカロスが頃合いを見計らったように尋ねた。指揮所に居る誰もが最初に聞きたがっていた内容だった。彼らの視線が食い入るように王を見つめた。


 テオドールは顎を掻きながら何処から説明した物かと嘆息してしまう。彼自身、空での戦いに納得いかない点があった。不確定情報を下手に話すべきかどうか逡巡しつつも口を開いた。


「赤龍……殿は追い詰めれたがあと一歩のところで邪魔が入った」


「おお! ……邪魔とは一体?」


 テオドールの発言に指揮所の空気は一気に明るくなった。それもそのはずだ。A級冒険者のウォントの死亡や防壁の消失は全て赤龍のブレスから始まった騒動だ。耳を覆いたくなるような不利な情報ばかり上がってきた指揮所に暗雲を切り裂くような光として王の言葉は迎え入れられた。


 だが、テオドールの次の言葉に指揮所は更なる暗雲に飲まれてしまう。


「邪魔をしたのは……六将軍第四席クリストフォロスだ」


「―――っ! 陛下……それは……本当でしょうか?」


「こんな所で虚言を吐く必要はないだろ? 見ろ、戦技を三つも使わされ、技能スキルを一つ使い、その上この様だ」


 テオドールは腰に差した二本の刀を抜いた。といっても刀身は無く、柄の部分しかない。それを見て、テオドールの戦技を知る者達は無言で理解した。


 クリストフォロスと名乗った者の実力の高さを。


「赤龍の存在とクリストフォロスを加味した上で戦略を練り直すぞ。……へたに増援がやってきても龍の餌食になるだけだ」


「それは……そうですが。クリストフォロスのような強敵を相手にどんな策を練れば……」


 指揮所に集まった武官たちは口々に様々な策を提言したがどれもこれといった決め手に欠けた。その間も街のあちこちに火の手は上がり、城壁上にて血が流れていく。




「リザ! うしろ!!」


 ファルナの叫びにエリザベートは振り返らなかった。迫りくるガーゴイルの三叉槍を壁を蹴る事で躱した。彼女の動きに合わせて黄金の髪が宙に舞った。


 エリザベートは空中にて不安定な体勢から剣を振るうも全身が石で出来たガーゴイルの肌を削るしかできなかった。


「浅い! もう一度!」


 着地するなり彼女は素早くガーゴイルへと駆け寄った。石で出来ているくせにガーゴイルは表情豊かに笑う。その笑みを見てエリザベートは咄嗟に足を止めた。それは正解だった。


 彼女の進む先を予期した様に垂直にハーピーが飛翔してきた。エリザベートの眼前にてハーピーの爪が石畳を割った。


「どいてくださーい!!」


 すると、第三の声が通りに響く。エリザベートはその声の主が誰か気づいてバックスッテプにて道を彼女に譲った。


 濃い茶色の三つ編みが駆け寄る彼女に合わせて弾む。エリザベートよりも小さな体に樫の長杖は重たそうで振り回せば彼女の小柄な体格ごと振り回されそうだ。


「《超短文ショートカット低級ロー風弾ウィンドバレット》!」


 その杖から人の頭程の風の塊が弾きだされるとハーピーとガーゴイルはまとめて弾き飛ばされる。モンスターたちは数メーチル先の軒先に激突した。


「キャメル、カメール! そっちに行ったぞ!」


「「へい、姉御!!」」


 ファルナが叫ぶと軒先にて動きを止めたモンスターに向けて人影が二つ飛びかかる。年の頃はどちらも15、6ぐらいの幼さが名残として残る顔立ち。そまつな鎧を精一杯磨いた駆け出しの冒険者といった風体。片方が手にしたパルチザンをハーピーの胸元に深々と差し込み、もう片方が振り上げたハンマーをガーゴイルに叩きつけた。さしもの岩の悪魔も粉々に崩れ去った。


 パルチザンを持つ少年がキャメル。ハンマーを持つ少年がカーメルだ。自分たちのレベルからすると強敵の二体を倒して意気揚々と振り返った。その顔立ちはまるで鏡に映ったかのようにそっくりだった。


 彼らは双子の冒険者だった。ファルナがあるギルドで同じ顔が二つ並んで居るのを見つけて面白がって声を掛けたのがきっかけで『紅蓮の旅団』に入った。どちらもE級冒険者のLV20と揃えたように同じだ。髪型も衣服や防具も同じなため、見分けるポイントは互いの武器ぐらいだ。


「二人とも、よくやったな! それにメーリア。アンタもナイスだったよ」


「そんな、そんな。私なんかそんな。お二人に助けられっぱなしです」


「そんな事ないです。メーリア様はきちんと戦力になっています」


「ああ、そんなエリザベートさん。私なんかに様なんてつけないでください。お、恐れ多いです。私のような新入りに対して」


 ファルナとエリザベートに褒められて逆に縮こまっている少女の名はメーリア。アマツマラ在住の冒険者だ。ランクはG級。レベルも9と低い。それもそのはずだ。彼女は二週間と少し前に冒険者になったばかりの正真正銘の新人である。


 戦闘向きじゃない性格と能力値パラメーター、それに所属しているパーティーの構成上魔法使いを志す事になった彼女だが精神力がまだ低かったため新式魔法を二つしか使えない状態で、今回のスタンピードに巻き込まれてしまった。


 当初は遠距離部隊としてロータスの指揮下に入っていたが前線が城壁になった時に部隊が再編され、後方の遊撃部隊に回された。この五人で一つの部隊だ。隊長はファルナが務める。


「リザ、悪いんだが索敵の続きを」


「了解したわ、ファルナ」


 エリザベートはあの夜からファルナに対して様を着けるのを止めた。涙を流し感情を吐き出したファルナ自らが懇願した結果だ。呼び捨てにされるたびに何だかくすぐったさを覚えた。家族クランにばかり拘ってきて友達を持つのがこれが初めてだと彼女は今更ながらに気づいた。


 壁を蹴り上げて屋上に辿りついたエリザベートは支給された双眼鏡で敵がどの位置で暴れているのかを確認する。火の手が上がったり、人の流れや悲鳴などの異変に全神経を注いだ。


「ファルナ! 通りを三つ行った先でモンスターの影が見えた!」


「分かった。アタシらは下から行く。リザ、あんたは上から先に偵察してくれ!」


 頷いたエリザベートは身軽に屋根から屋根へと飛んでいく。ファルナは三人を連れて彼女の向かった先に走る。先程までの平地での乱戦と違い、市街地戦は勝手が違い過ぎた。左右を建造物に阻まれ小隊規模での戦闘を強いられ、どこからか振って来るモンスターに常に警戒する必要がある。


 だが、それはかえって冒険者たちにとって有利に運ぶ。彼らにとってそれはいつもの事だったからだ。迷宮は都市よりも入り組み、常に曲がり角を警戒して進み、時には思いがけない所からの奇襲を凌いできた。中級モンスターが敵とはいえ、ファルナの隊はすでに十を超えるモンスターを倒してきた。


 それに加えてモンスターたちにも異変が起きていた。同士撃ちだ。迷宮という母体の中ではめったに起きない現象だが、地上を故郷としてコロニーを形成しだしたモンスターは時に縄張り争いの為に戦う事がある。だが、どういう訳かスタンピードの最中なのにハーピーやガーゴイルなどの別種種族同士が時に争っている現場に遭遇する。


 エリザベートが見つけたモンスターの影がそうだった。ホーンハーピーをガーゴイル三体が取り囲み手にした三叉槍を振るう。器用に避けるホーンハーピーだが逃げ場を塞がれている為徐々に槍が体を掠めるように鳴る。起死回生の一手として放った魔法は建物の外壁を壊すだけだった。


 曲がり角で戦いを見つめていたファルナは同じように戦況を見ていたエリザベートに手で言葉を送る。事前に決めていたハンドシグナルだ。内容は二つ。同士討ちに決着がついたら間髪入れずに攻撃。エリザベートは敵の注意を引いてほしい。


 理解したエリザベートはその場を移動してファルナたちが待機する曲がり角から離れた位置で待機する。ファルナたちも準備を始めた。


 間もなくしてその時が来た。ホークハーピーは哀れにも翼を折られ、三叉槍にて串刺しにされた。ガーゴイルは己の仕留めた獲物を高々と持ち上げた。


 敵の意識が、警戒が解けた瞬間だった。ゆえに頭上から降って来るエリザベートに反応できたものは居なかった。


「《超短文ショートカット低級ロー形状変化シャープチェンジ》」


 詠唱と共に下に向けたロングソードの刀身が厚みを持つ。エリザベートの使う新式魔法《形状変化シャープチェンジ》は武器の姿形を自由に構築できる。籠めた精神力次第だが倍以上の長さに伸ばすことも、倍以上の重さにも膨らますことも可能だ。欠点は姿形を大きくすれば質量も比例して増大。彼女の手に余る重さへと成る。素早い攻撃が彼女の取り柄の為、ここぞという時以外では使わない魔法だ。


 ガーゴイルの石の肌は重みを増した剣の自重によって深く食い込んだ。刀身から伝わる手ごたえで魔石を砕いたのを理解した。


 エリザベートの剣と体重、そして落下したエネルギーをもろにくらったガーゴイルの遺体は地面に叩きつけられて粉々に砕けた。勝利に酔っていたガーゴイルたちは一瞬にして怒り狂い、金切り声をあげながらエリザベートに向かった。


 つまり、ファルナたちに向かって背を向けたのだ。


「《超短文ショートカット初級ビギナー粘液ムュクス》!」


 無防備な背中を見せるガーゴイルたちの頭上に向けてメーリアは魔法を放った。彼女の詠唱に従って粘液の塊が出現し、ガーゴイル二体に降り注いだ。体に纏わりつく液体の重さに耐えかねてガーゴイルは地面へと落下した。更に粘液は絡みつき、モンスターの動きを止める。


 ファルナが指示を出す前にキャメルとカメールの双子は武器を手にガーゴイルを襲った。ハンマーを振るカメールは問題なかった。数度の攻撃でガーゴイルの首がごとりと落ちた。


 だが、キャメルのパルチザンは何度振るってもガーゴイルの皮膚に薄い線を残すしかない。ムキになった彼は不用意に距離を縮めてしまう。それを待っていたとばかりにガーゴイルの三叉槍がキャメルを襲う。


「《この身は一陣の風と為る》!」


 《風ノ義足》Ⅰを発動したエリザベートが高速で間合いを詰めて槍の刃先を切らなければキャメルを貫いていただろう。そして入れ替わるようにファルナが跳躍した。


「《両の手に宿るは焔の翼》!」


 ファルナが手にした双剣に焔が巻き付くと翼を形作る。焔の翼は振り下ろされると粘液に濡れたガーゴイルを切り裂き―――火柱をあげた。


「って、なにこれ!?」


 誰よりも驚いていたのはファルナだった。目もくらむような火柱は瞬く間に燃え尽き、黒焦げとなったガーゴイルが焼け残っていた。


「あ、あの。すいません! 粘液の魔法は燃えやすくて……それであの火力になったんだと思います。説明忘れてました!」


 メーリアが勢いよく頭を下げると三つ編みも揺れた。自分の技能スキルが進化したかと期待したファルナは内心がっかりしたがおくびも出さずにメーリアを慰めた。


 すると、エリザベートの耳に複数の足音が飛び込んできた。身構えた彼女たちの前に複数の冒険者を引き連れたオルドが姿を現した。


「おい! さっきの火柱は一体……ってファルナに嬢ちゃん。それにうちの双子共じゃねえか」


「親父!」「オルド様」「「団長! って一括りにしないでください!!」」「オルド? 団長? 親父?」


 突然のオルドの登場にそれぞれ違った反応を示した。特に理解できていないメーリアの頭上にクエッションマークが幾つも踊る。ファルナはオルドの無事を確認できて喜びそうになって、全身に巻き付いている包帯に気づいて声をあげた。


「ちょ、ちょっと親父!? その包帯はどうしたんだよ?」


「あ? ああ。ちょっと龍のブレスが直撃してな。まあ、俺はこの通りピンピンしてるがな!」


 胸を張ったオルドを背後に控えていた冒険者が苦笑いを浮かべた。彼の反応で傷が浅くないことは容易に分かる。エリザベートはその二人の間に割って入るように尋ねた。


「あのオルド様。ご主人様……レイ様がどちらに居るかご存知でしょうか? 遊撃部隊として配属されているのでしょうか?」


 部隊が再編される際にエリザベートはレイの姿を目で追っていた。だけど、黒髪の少年の姿は何処にもおらず、行方を知っていそうな上級冒険者を探していたのだ。ファルナも父親の顔を見上げた。


 オルドは困った様に頬を掻いた。どう説明するべきか悩むそぶりを見せる。その反応にエリザベートとファルナは顔を青ざめた。契約によりレイが生きているのは間違いない。だがそれはどんな状況で生きているかの証明にはならない。もしかしたら重傷を負って生死の境をさまよっているのかもしれないと二人は想像した。


「親父! レイの奴になんかあったんならちゃんと説明してくれよ」


「お願いします、オルド様!」


 懇願する少女に対してオルドは手を横に振った。


「ああ、違う違う。レイの奴は多分、大丈夫だ。……大活躍した反動でぶったおれちまったが」


「レイが?」「ご主人様が?」


「「大活躍?」」


 レイをよく知る美少女二人は思わず顔を見合わせた。とても、あの少年に相応しい言葉とは思えないからだ。


読んで下さってありがとうございます。


外伝は考えた結果、3章が終了した後に投稿しようと思います。

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