表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第3章 精霊祭
91/781

3-22 精霊祭 三日目〈Ⅲ〉

 歩兵携行型連射機銃N-11。それがこれに着けられた名前だった。六個の銃身が輪状に並び、底部の魔力動炉からくみ上げたエネルギ―が銃身に刻まれた魔法式によって光弾へと変化して弾きだす。一発一発が現在の基準で言う所の上級魔法と同程度の威力を有す。


 ノーザン・オルストラが生み出した初期作品の一つ。テーマは空想兵器。本来なら固定兵器として運用される機関砲を一兵士に持たすことが出来ないかと考えて生み出された魔法工学の兵器。


 初期作品のため排熱処理の関係で毎分100発程度しか撃てないが歩兵が持ちうる火器としては大変優れ、単独での制圧射撃を可能とした。欠点は取り回しに不便なほど重く、大食いな点だ。


 ミカロスが木箱から取り出したガトリングは赤龍の鱗を削り、肉を抉る。色とりどりの光弾は多少のばらつきをみせながらもまるで釘を叩きこむ様に深い傷跡を残していく。


「ギャアア、ガアアアア!」


 予想外の物の登場に赤龍は悲鳴を上げるなり翼をはためかして空へと逃げ出す。ミカロスはすかさずガトリングの銃口を空へと持ち上げる。赤龍を追いかけて光弾はまるで虹を描くような輝線を残して、唐突に途切れた。ミカロスが握りしめた取手の後方で魔力炉が真っ白い煙をあげ、蓋がぱかりと開く。


「も、もう燃料切れなのか!?」


 僅か二分足らずで動力が無くなった。ミカロスは念には念を入れて上級モンスター二十体分の大小さまざまな魔石を投入したがそれらは炉の中でエネルギーを抽出されただの石ころへと成り果てた。むろん、このような場合を想定して魔石の残りはある。それに加えて今回のスタンピードで討滅されたモンスターの魔石も大量に残っている。それでもこんなに早く消費するとは。


 ただの重たい鉄器物と成り果てたガトリングを抱えてミカロスはオルドの元へ駆け寄った。大地にうつぶせに寝かされたオルドは背中が酷く焼けただれていた。皮膚は広範囲に水膨れを起こし、ホラスとレイが降り注ぐポーションが体に触れるなり蒸発していく。魔法の鎧でブレスそのものの直撃は免れたが、高熱によって蒸し焼き寸前まで追い詰められた。彼の頑強さが無かったらとうの昔に死んでいただろう。


「オルド殿! 返事をしてください。ここで貴方を失えば、我らは壊滅しますぞ!!」


 あまりの言いように二人の下級冒険者は目を剥く。だが、これは決して誇張では無い。オルドは戦力的にもそうだが、防衛側の精神的支柱といえる。それが無くなれば士気が下がるのは火を見るよりも明らかだ。それでも指揮官がそのような事を口走るのは言い換えればそれほど追い詰められている証明だ。


 事実、防衛側は追い詰められている。三日目開戦時の防衛側の兵力は満足に動ける兵士四千。予備兵役千五百。冒険者六百八十。治療中の負傷者は合計すると五百程。これらすべて合わせても六千七百程度。対するモンスターの数は今日だけで三万五千。出し惜しみしている戦力が更に二万以上。数の上で圧倒的に不利だ。昨夜のうちに防壁沿いに施した地雷型魔法の活躍で敵軍勢の内五千は足止めできた。だが、残りは防壁に取りつき、中にはもう突破して乱戦に持ち込まれた地区もある。飛翔できるモンスターは防壁なぞ関係なく空か舞い降りている。赤龍の襲来により浮足立った防衛側は開戦からして劣勢だった。


 ミカロスはすでに次の策を用意し、部下に指示を出していた。それにはオルドの存在が不可欠だ。御霊へと昇らせてたまるかといわんばかりに肩を揺すった。


「うる……せえな……ちと、眠い……だけだ」


「団長!」「オルド!」


 不機嫌そうな地響きに似た声が放たれた。オルドは億劫そうに首だけを動かしてミカロスを見上げた。彼の持つ鈍色の輝きを放つ異形へと視線を送る。


「そいつが……魔法工学の兵器か」


「ええ。これが木箱の中に三丁入ってました」


 レイが驚いて噴き出したが、二人は構わずに声を交わす。


「現在、これを持ち歩ける人間に残り二丁を渡し左右に展開させ……防衛ラインの撤退を行っています」


「あ? 防壁を放棄すんのか」


「これ以上、乱戦でいたずらに兵を消耗させるべきじゃありません。特別地域全域に兵を散らばらせて戦線を保持するのは不可能と判断しました。想定していた最終防衛ライン……つまり城壁を前線とします」


「それってつまり」


 ポーションを降り注ぐホラスがミカロスの真意を悟り、声を上げてしまう。レイも理解した。ミカロスは表情を硬くして告げる。


「これより我らは城壁を突破される事も想定します。……市街地戦へと移行するやもしれません」




「急いで! 早くしないと!!」


「分かってる! 分かってるけど待ってなよ、リザ!」


 リザとファルナは城壁の内側でバリケードを積み上げていた。左翼側の城門近く。最終防衛ラインを担当していた二人は右手から巻き起こった衝撃に身を固くした。何が起きたのか分からず、持ち場を離れる事もできずにいた。その数分後、馬に乗った伝令が撤退を命じた。


 理由は明確にされていなかったが超級を越える超弩級モンスターの襲来を誰もが理解した。特にレイから事前に知らされていたリザはこれが龍の襲来だと直感した。そして、その巨大な存在と対峙すると予言されていた主の事を思う。


 だが、迂闊にこの場を離れるわけにはいかない。部隊の指揮官が開かれる城門を潜るように命じた。二人はその流れに飲み込まれるように都市内へと入っていく。


 事前に通達があったのか、取り決めがあったのか、ともかくその後は混乱も少なく新しい命令が下された。それがバリケード作りだ。城門を突破された時を想定して二段構えの陣地を構築していく。柵を立てて紐で結わいた単なる障害物だが、無いよりかはマシだろう。


 時折、城壁をも砕く炎の塊が街を焼く。その度にリザもファルナも消火活動に参加した。城壁沿いの建物にも撤退命令が出ており、職人やヒーラーたちはすでに中腹まで退避していた。しだいに城壁越しにモンスターの足音が響き渡る。リザは今も特別地域内に居るだろうレイを思ってしまう。


(予言が外れたのか、それとも変化した結果がいま起きているのか学の無い私には分かりません。ですがどうか無謀な行動だけは控えてください)


 ファルナも向う側に残って戦う父や『紅蓮の旅団』の冒険者を思って城壁を見上げる。時折、遠距離部隊を指揮するロータスの声が聞こえてくるのが唯一残った家族との繋がりといえた。


 奇しくも二人が城壁を見上げた時、絶叫と共に赤龍が飛翔した。ガトリングの光弾を避ける様に旋回した赤龍は彼女らの頭上で円を描く様に飛翔する。


「な……何だいあれは!?」


 思わずファルナは驚嘆した。当然だろう。小ぶりな山のような巨体が翼を生やして頭上を旋回している。そこから放たれる威圧感は本物だ。彼女がかつて退治したバジリスク亜種の幼生体とは比べ物にならない。


「あれが……赤い龍!?」


 リザも同じように呆然と空を見上げた。レイから話を聞いていたが実物を目の当たりにすると恐怖が背筋を凍らす。生き物の生存本能が狂ったように叫ぶ。あれは人の挑める相手では無いと。あれが下を向いて火を吐けばそれだけでこの都市が大火に包まれるとすぐに分かった。


 滞空を始めた龍は何かを見出した様な不思議な動きを見せて彼女らの頭上から離れていく。ようやく金縛りにあって動けなくなった二人は緊張を逃がせた。彼女たちだけじゃない。その場にて龍を目撃した人々はみな似たような反応を示していた。


「何だよ、あれは……あんなの人になんとかできるのかよ!」


 誰もが怯えて騒めく中ファルナが叫んだ。リザは自分の気持ちを代弁したかのような思いにとらわれる。あれは少なくとも自分やレイのような弱い存在が挑んでいい相手では無い。あれは、そう。幾多の困難を踏破し、数多の祝福を受け、無限の強さをほこる―――英雄・・が相手をするべき敵だ。


 だけど、現実にはそんな存在は居ない。絶望がリザの胸中を締め上げる。さらに追い打ちをかける様に城門の前に陣取っていた兵士が叫ぶ。


「やばい! 敵が防衛戦を突破してこっちに突っ込んでくる。城門を閉めろ!」


「アンタらはどうすんだよ!?」


「分かるだろ? 誰かが残ってあいつらを足止めしないとな」


 言って兵士たちは陣形をとってモンスターを止める壁のように広がった。刻々と戦況は不利になっていく。誰もが心の奥底で敗北の二文字を想像し始めた。


 ―――それを吹き飛ばすような一陣の風がから戦場へと吹き荒れた。




 ガトリングの暴力的な光弾の前に一度退避した赤龍は空の上から戦局を眺めていた。土塊の防壁沿いに沿って無数の杭が外に向かって伸びている。王宮魔術師のヨグトゥースが率いる魔法使い部隊が一夜にして仕込んだ地雷型魔法の一つ、『パイルフラッド』だ。岩で出来た杭が防壁に近づいたモンスターを食い破る。しかし、仕掛けはそれだけで終わらない。杭自体に魔方陣が刻まれており貫いたモンスターの魔石を糧に次なる杭が伸びる。一本の杭から新しい杭が津波の様にどこまでも伸びていく。モンスターは迂闊に近づけずにいた。


 だが、この魔法にも欠点はある。ホワイトタイガーは杭の先端を見極めると軽やかに跳躍した。魔力を使い切った杭は新しい杭を生み出せずタダの岩石となる。そもそも、岩よりも固い皮膚を持つモンスターには最初から効くはずも無かった。レッサーデーモンが斧を振り回して杭を蹴散らす。


 魔方陣型の魔法の欠点といえる。相手を選ばずに発動できるという事は相手によって有利不利が分かれる。有利なモンスターには鋭く伸びた杭に早贄の様に貫かれ、不利なモンスターはいとも簡単に攻略する。


 こうして杭の津波を潜り抜けたモンスターは防壁のあちこちで突破口を開き、特別地域へとなだれ込んでいる。防衛側は方陣を用いモンスターたちをくいとめようと懸命に戦うが数も質もモンスターの方が上だ。濁流の様に押し寄せる怪物たちに飲み込まれていく。


 そんな中、二つの場所で盛り返しているのを赤龍の白濁した瞳は捉えた。色とりどりの輝きを四方に放ち、モンスターの勢いを確実に削り始めている。その輝きを見て意志のない龍に鋭い灼ける痛みを思い出させた。胴体の中央。並大抵の魔法なら弾き飛ばす龍の鱗が只の光弾によって四散され、肉を深くえぐられた。あれが何なのか龍には見当もつかなかった。もっとも考える意志も無いのだが。


 だが、龍を操る黒幕には心当たりがあった。その映像を遠く離れた場所で『窓』を開いて覗いていた六将軍第四席クリストフォロスには理解できた。彼は端麗な唇を歪めて嗤った。まるで愚者をあざ笑うかのように。


「まさか魔法工学の兵器を持ち出すとは機械乙女ドーターが怖くないのか? それとも切羽詰まったが故の愚行か。……やはり愚かだね、人間は」


 龍の視界から得られる情報を分析していたクリストフォロスは一方で厄介だなと考えていた。


(少なくとも耐兵器用兵器がこの地に来るのは三日かそこら。あの威力を考えるとこのまま戦場に残しておくのは得策とはいえないな)


 複数の『窓』を操作しながら戦局を眺めていた彼はそこで、人間側の動きに気づいた。防壁と城壁の間の区域を彼らは主戦場としていた。それが左翼側から城壁を開けて負傷者を収容し、戦線を後退していくでは無いか。


(兵の数が足りなくなり、攻め手の勢いが増したことで戦線を後退させて守りに厚みを持たすつもりか)


 クリストフォロスはすぐさまミカロスの考えを看破した。仮にクリストフォロスが防衛側でも同じことをしただろう。強力な武器を得たことで逆に態勢を立て直すチャンスを得たと考えたのだろう。


「だったらまずは浮いた強力な駒を潰させてもらおう」


 彼は人の手が絡み合ったような不気味な杖を振るう。空中で滞空していた赤龍へ指示を飛ばした。ぶるり、と身震いした赤龍は目標を定めると滑空しだす。狙いは兵士たちの撤退のため単独で残っている兵器持ちの兵士。


 押し寄せる上級モンスターや超級モンスターを一撃で倒す魔法の杖を手にした兵士は絶頂の域に達していた。己が手にする武器の破壊力に酔いしれていたといえる。そのため殿役とはいえ単騎で長く留まっていた。これがもし、周囲に冷静な者が居たら彼に告げれただろう。


 頭上から高速で落下する赤龍の存在に。


 彼が気づいた時には遅かった高速で飛来した赤龍は勢いそのままに前腕を振るった。鋭い爪は兵士の胴体から上を抉りとった。胴体というパーツを無くした両腕はバルカンを握りしめたまま地面へと落下した。


 たった一人に足止めされていた軍勢は脅威の排除に鯨波を挙げた。そして累々と築かれた屍を越えてモンスターが城門を目指す。兵士の収容はまだ終わっていなかった。押し寄せてくる怪物たちを見て兵士たちも負けずにときの声を上げた。彼らは城門を閉めるように言い残すと軍勢へと挑みかかる。互いの持つ命のぶつかり合いとでもいう光景を前にしてクリストフォロスは醒めた顔を浮かべていた。


「下らないね。……人とモンスター、どちらが勝ってどちらが死ぬかなんて」


 クリストフォロスにとってそれら全てが茶番劇に等しかった。スタンピードも魔法工学の兵器も精霊祭も。至上の御方・・・・・の下さった勅命オーダーを果たす事だけが彼にとっての全てといえた。


 ふと、『窓』の一つ。赤龍の視界が大地に置き去りにされたバルカンを見つけた。モンスターどもに踏みつぶされてなお、その健在ぶりを発揮している。興味は惹かれないが排除すべき対象だと考えて龍に指示を送る。


 赤龍は大地を揺らしながら一歩ずつ歩み出して、しかし、直ぐに歩みを止める事になる。


 ―――一つの影が舞い降りた。


 城壁を飛び越えた影は赤龍を目視すると空中を蹴り上げて軌道を変えて着地した。


 豪奢なマントはすでに風に舞い上がり曇天の空へと飛んでいく。その下から現れた黄金色を基調に、縁などのラインを朱に染めた重装な鎧が男の鍛え上げた体を包む。腰に差した二本のが動きに合わせて揺れた。


 自然とその男へと全ての視線が引き寄せられた。理由は簡単だ。この戦場であまりにも圧倒的な存在感を放っているからだ。ミカロスもコンロンもオルドもロテュスもディモンドもカーティスもホラスもレイも。ホワイトタイガーもブラッドリザードもマンティコアもガーゴイルもレッサーデーモンも。そして赤龍を通して見ていたクリストフォロスもその男から目を離せなかった。


 一瞬、曇天の空を切り裂く様に太陽の輝きが大地を、男を照らした。短く刈った灰色の短髪が輝きを受けて銀灰色のように見えた。


 クリストフォロスは『窓』に映った男を前にして嗤った。それは何もかもを醒めたような表情で見ていた男のそれとは違っていた。吊り上がった唇から言葉が漏れた。


「やっと、やっと出てきたか。さて、見せてもらうか『銀狼』テオドール・ヴィーランド。お前の持つ全力を持ってして赤龍を撃ち滅ぼしてみろ!」


 おかしな光景が広がっていた。戦場にて恐怖に震える人間がそれを求めるなら分かる。だが、どういう訳だかクリストフォロスこそが一番、その存在を―――英雄・・・を待ち望んでいた。


「……頼みますから、そう簡単に倒されないでくださいね」


読んで下さってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ