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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第3章 精霊祭
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3-13 精霊祭 一日目〈XIII〉

 流れる血が重力に従って床板に吸い込まれていく。運ばれてきた兵士が顔を青ざめて苦悶の表情を浮かべている。


 一人、二人では無い。


 室内には二十人を超える怪我人が仮設のベッドの上で痛みに呻いている。兵士も冒険者も、男も女も関係なく戦場で傷ついた人たちが寝ている。


 ここはアマツマラの城壁近くの建物。元は食堂だったらしいが机は撤去され、仮設の診療所と様変わりしている。都市に在住する医師や回復魔法の使い手、そして冒険者たちが忙しなく運ばれてくる怪我人を捌いている。


『紅蓮の旅団』D級冒険者のカーミラは運ばれてくる人の種類が変わった事に気づいていた。


 この仮設診療所は最初、特別地域においてモンスターの襲撃を受けて傷を負った人たちで溢れていた。彼らの多くは一般市民だった。


 だが、開戦からすでに五時間以上は経過している今は兵士や冒険者たちばかりが運ばれてくる。もうじき夕方になるというのにモンスターの勢いは止まらないようだ。


 護衛の為に派遣されている兵士や運ばれてきた怪我人たちの呟いた情報を拾い集めると、この室内からでも状況が大よそ理解できる。


 開戦当初にオルドを含めた強襲部隊によって超級モンスターを撃破して以降、地上部隊は防壁を積極的に攻撃しなくなったようだ。


 その代りに増援としてきた飛行部隊によって防壁を飛び越える作戦に切り替えたのだ。距離を取られて一方的に空を飛び防壁を越えていくモンスターたちに人間側はてこずっている様だ。


 実際、この診療所にも空からモンスターが攻めてきたのは一度や二度では無い。その度に全員で協力してモンスターを撃退していった。


 そのかいがあったのかどうか分からないが、合計して二万を超える軍勢も今ではその半数に到達しようとしていた。明日以降どう数が変わるか分からないが少なくとも今日という日は生き残れそうだ。


「《超短文ショートカット中級ミディアム拡散回復ディフューズヒール》!」


 カーミラの耳に少女の懸命な声が聞こえてきた。遅れて、足元に魔方陣が広がると光を放った。その光に触れると負傷者の傷口が塞がっていく。


 中級魔法、拡散回復。範囲型の回復魔法を使ったのはレティシアだった。彼女は額に汗をかきながら杖を下ろした。


「あんまり無理するんじゃないよ。ほら、エーテル」


「あ……ありがとう……ございます」


 まだ幼い少女は膝を着きそうになるのを堪えて茶色の小瓶を掴むなり一気に飲み干した。その姿を見ながらカーミラは感心していた。


 魔法の実力では無い。


 確かにこの年でこれだけの魔法を何発も使えるのは素晴らしい才能だ。だが、彼女が感心していたのはそこでは無かった。


 彼女の年齢に似合わない精神の強さだ。


 ここは戦場近くの野戦病院。刀傷どころか猛獣の爪で抉られた傷口や、溶解液をかけられて溶けた肉。高所から落下したため折れて突き出た骨に毒を撃ち込まれて腐りだした皮膚。思わず目を背けたくなる光景が今も広がっている。


 場馴れした冒険者である自分でも思わず目を背けたくなる状態の人も居た。そんな地獄のような光景でもレティシアは眉ひとつ動かすことなく淡々と回復魔法を使っていく。


 まるで心を無くした人形の様に動きにためらいが無く、正確だった。


 いつもの愛嬌を振りまいている少女と同一人物だと思えなかった。むしろ思いたくなかった。


 一度、交代で休憩を取れた時に、彼女に嫌になったらすぐにでも言いなさい.。あなたを連れ出してあげるから、と。責任はもちろん自分が取るつもりだった。


 だが、この少女は丁寧に断ると自分をエメラルドグリーンの瞳で見つめると、


「もし、ご主人さまやお姉ちゃんが傷を負ってここに運ばれた時。自分が二人に何もできないのは嫌だからここに居ます」


 と、毅然と言われてしまった。


 あの態度の前では沈黙するしかない。中級の魔法を使ったばかりなのにレティはもう一度同じ魔法を放った。一度に複数の怪我人がある程度治癒されていく。


 回復魔法は万能では無い。短時間に同じ人に使いすぎると、その人に耐性ができてしまう。そうなると同じ回復魔法を使っても中々完治には到らなくなっていく。そのため、ある程度まで回復させたら後は本人の治癒力に任せるべきなのだ。


 レティシアは傷口に布を当てて、その上から包帯を巻いて固定していく。


 その手つきも実に慣れた手さばきだった。修道院で習ったと本人は言っているが、それだけでここまで上手くならない。どこかで今回の件に近い何か大きな体験を潜り抜けて得た技術だろう。


(と、私も私の役目を果たさないと)


 少女の手つきに見とれていたカーミラは彼女と背中合わせになりながら怪我人に包帯を巻いていく。その間も負傷者が運ばれていく。


「ここに運ばれてくる人は……まだ望みがあるんですよね」


 急にレティシアが呟いた。カーミラが振り返ると少女は運ばれてきた患者の顔を確認していた。自分の知っている人かどうか確かめている。


「一度、正門が閉まった後、戦闘能力のあるヒーラーが何人か向うに行きましたよね。あれってここまで連れてこれない重傷者をその場で治療する為の遊軍……ですよね?」


「そうね。……ここに来るのは、ここに来るまでの間は死なないだろうと判断された人たち。それ以外は……」


 そこから先をカーミラは言う気にはなれなかった。


 ここに来ないからといって彼女の主や姉が無事とは限らないのだ。奴隷紋で繋がれているレティシアは二人の内の片方が死んだら連鎖して彼女も死ぬかもしれない。


 これが単に主であるレイが死んだだけなら奴隷の二人は救済措置として身近にいる人が仮の主人になればいい。だが、もし姉のエリザベートが死んだのなら、対等契約により主が死に、そしてレティシアの番になる。レティシアだけなら救済措置で生き残るかもしれない。


 代わりに家族と主を失うが。


 そんな事態が数秒先の未来で待っているかもしれないのに少女は懸命に負傷者の治療を続けていく。


 恐れも不安も表情には出さずに。


(凄いな……もしそんな事になったら、絶対にうちのクランに誘おう。だから安心して成仏してね、レイ君!)


 決意も新たにカーミラは愛用の杖を振るう。




「ぶえっくしょん!!」


「わっ! 汚いっすよ、レイさん」


 急に鼻がむず痒くなり、クシャミが出てしまう。正面でナイフの数を確認していたマクベが飛沫した物体に抗議している。


 僕は謝りながら鼻を擦った。


「こんな時に暢気に風邪でも引いたのか? だったら後ろで大人しく寝てなF級」


「違うっつうの。というかだ。いい加減ランクじゃなくて名前で呼んでくんないかな、ホラス」


「あ? 俺の方が年上だろ。いい加減ホラスさん付けろよ。舐めてんのか、オイ」


「こんな時に喧嘩なんてしないでください!! ほらほら、こっちにモンスターの群れがまた来ますよ!!」


 マクベがにらみ合う僕らの間を割って入った。少年の言う通り、上級よりの中級モンスター、ブラッドリザードが数匹、防衛線を突破してやってきている。


 僕たち支援部隊の属していた冒険者は現在、五つある城門の最終防衛ラインを任されている。


 モンスターの飛行種が戦場に姿を見せてから攻め手の戦い方が変わった。防壁を直接攻撃するのを止めて防壁を飛び越える事に切り替えたのだ。空中部隊による空爆が始まってからどれぐらいの時間になっただろうか。


 敵が自由に壁を乗り越える様になるとこちらも陣形を変える事になった。弓なりに長い防壁全てに兵士を置けない為、ワザと防壁を飛び越えさせる。特別地域にて魔法使いと弓兵の混合部隊が防壁を越えた敵を迎え撃つ。


 打ち漏らしてモンスターを落としていった場合に備えてオルド、ロテュス、ディモンドの三者が冒険者を従えて自由に遊撃する。そして城壁沿いに兵士たちが陣を敷いてこれ以上の進軍を拒んでいる。僕ら後方支援部隊もそこに組み込まれた。


 天幕や商店をある程度解体していたおかげで兵士たちは陣形を取ってモンスターの襲撃を防げている。それでも打ち漏らした敵が五つある城門を突破しようと攻めてくるので 最後の防衛ラインとして僕らD級以下の冒険者たちが待ち構えている。


 モンスターもさることながら、空中を飛び回る怪鳥たちは最初の襲撃以来城壁を突破しようとはせずに運搬係に専念している。自分たちが数を減らせば地上を這う事しかできない種族のモンスターが守りの厚い防壁を前に屍を築くと理解しているかのようだ。


 僕はバスタードソードを引き抜きながら疲労を感じていた。防壁が役に立たなくなった時点から右翼の門の防衛部隊に回されてこれで七度目の襲来だった。


 僕だけじゃない。ここに居るD級以下の冒険者20名はみな十代後半の少年少女たちだ。レベルも高くて30少し。戦闘経験が少ない訳じゃないが向かってくる敵は中級のモンスターばかり。低級寄りならまだしも上級よりの中級は一体だけでも脅威だった。


 厄介な事に門を目指して突破してきた新しいモンスターの群れは上級よりの中級モンスター、ホワイトタイガーを中心にブラッドリザードが五体の群れだ。こちらは連戦の疲労から満足に戦えるのは僕を含めて十人ばかりだ。


「ホラス! ホワイトタイガーは僕が抑える。他を頼む!」


「俺に命令してんじゃねえよ!!」


 叫び声を聞きながら僕は集団から一歩前に踏み出す。なけなしの精神力を剣に纏わせて切れ味と耐久を一時的に上げた。


 白き虎はどこかで傷を負ったのだろうか。純白の毛並みを自らの血で赤く染めている。だが、その瞳はまだ殺意を込めている。手負いの獣こそ気をつけるべきだ。


 スピードの関係で群れから飛び出したホワイトタイガーとバスタードソードを振り下ろした僕の一撃がぶつかった。


 瞬間、両腕に痺れが走った。高密度の筋肉がまるで鋼の様に密集し切れ味を増した剣を防いでいる。


「ほんっとに嫌になるな!」


 獣の四肢があくまで前進しようと力を込める。頭蓋に食い込む剣など微塵も気にしていない。そうしている間にホワイトタイガーと並走していたブラッドリザードが僕に目がけて吶喊しようとした。海賊が持っていそうなサーベルが夕日に反射している。


「《我を倒す者は汝なりか》!」


 すると、申し訳程度に積まれた土嚢の影からホラスが飛び出した。彼が技能スキルを発動するとブラッドリザードたちが僕を無視してホラスの方へと走った。


 《決闘ノ宣誓》Ⅰ。僕の持つ《心ノ誘導》Ⅰに似た技能スキルだ。効果はモンスターの意識を自分に向けるのと、自分のステータスの上昇だ。僕の技能スキルと違い対象が一種類だけ。この場合、彼はブラッドリザードたちにだけ挑戦状を叩きつけた事になる。


 狂ったような唸り声を上げてブラッドリザードがホラスへと走る。盾を構えた彼は不敵な笑みを浮かべると背後の相方の名を呼んだ。


「マクベ! お前の出番だ!!」


「聞こえてますってホラスさん」


 同じく土嚢から飛び出したマクベは体に括りつけているナイフを瞬時に抜き取ると綺麗なフォームで投げた。僕のダガーよりも小さなナイフは本来なら刺さることなくモンスターの皮膚に弾かれるはずだった。


「グギャアアア!!」


 ブラッドリザードの悲鳴が五つ、背後から聞こえた。マクベの技能スキル、《正確無比》Ⅰが猛威を振るう。彼は距離が近くて、投げる物が軽ければ軽いほど正確に当てる事が出来る。おそらく背後のブラッドリザードは二つしかない眼球・・にナイフが突き刺さっているのだろう。


 どんな生物でも眼球の柔らかさはそう変わらない。その激痛も同じだ。


 そして、マクベの攻撃はまだ終わらない。彼は必要な命令を口にする。


「爆裂しろ!」


 その言葉が合図だった。背後で五つの鈍い爆裂音が響いた。ホワイトタイガーと向き合っている僕からは見えないが恐らく眼球から侵入した、爆裂ナイフがブラッドリザードの頭蓋を内側から弾いたのだろう。きっと僕の背後では吹き飛んだ脳漿があたりに散らばっているはずだ。


 そんな嫌なイメージを背後で抱いていると、正面のホワイトタイガーの力が緩んだ。恐らく僕越しで後ろの光景を見ていたのだろう。僕よりもマクベを脅威に思ったのか、四肢を巧みに使って後ろに飛ぶなり僕の脇をすり抜ける。


「しまった! そっちに行った!」


「何やってんだよボンクラ!!」


 ホラスが怒りまじりにマクベとホワイトタイガーの間に入った。そして彼は盾を握りしめて叫んだ。


「《盾に宿るは攻めの力》!」


 彼の第二の技能スキル、《後転ノ盾》Ⅰが発動した。技能スキルが発動し輝くのとホワイトタイガーがぶつかるのは同時に見えた。そして、予想外の事にホワイトタイガーの方が後ろへと下がらされた。


 何てことは無い。ホラスの技能スキルの効果だ。自分よりも大きくても、自分よりも強靭でも、自分よりも強敵でも関係なく相手を転ばせる。一対一の相手にこそ絶大な効果を発揮する技能スキルだ。格上のホワイトタイガーもあっけなく転がされている。


 その隙にすばしっこいマクベがナイフを握りしめてモンスターの口の中に投擲して―――起爆した。


 皮膚が鋼鉄の様に強靭でも内臓はそうでは無かったようだ。口の中の爆弾によってホワイトタイガーの頭が裏返り、柘榴のような艶やかな赤色を晒す。正直見ていて気持ちのいいものでは無かった。


 戦闘に参加しなかった残りのメンバーが死骸を脇に集めていく。その際に魔石を忘れずに回収していく。この騒動を生き抜けばギルドから報酬が出る。分かりやすい武功を持っていれば報酬は増額されるが、そんなものが望め無さそうな僕ら下っ端はこうやって自分の食い扶持を稼いでいく。


 分配は揉めない様に戦闘に参加した回数の割合だ。今の所、僕とホラスが同数のトップのはず。


「それにしても……いいコンビネーションだね」


 渡された水を口に流し込みながらホラスとマクベを称賛する。本心からの賛辞だった。二人は、特にマクベはレベルもレティと変わらないのにこのグループで一番モンスターを撃破している。『紅蓮の旅団』にこの爆裂ナイフを作れる職人が在籍しているとはいえ、彼の投擲術は目を見張る物だ。


「お嬢が見出したんだよ。ある迷宮で遭遇した時こいつは別のパーティーに参加していた。そん時は石を投げてたよな?」


「石? 石ってその辺に転がってるあの石?」


「そう石石連呼しないでくださいっス。……あん時はステータスも低かったから戦闘要員としてじゃ無くサポーター、いわゆる荷運び役として参加してたんすよ」


 支給された干し肉を摘まみながら休憩がてらマクベの話に耳を傾ける。


「参加していたパーティーがクソみたいな奴らでね、最初に支給される金を根こそぎ持っていきやがったんすよ。ろくな武器も防具も無いからパシリとして使われてたんです」


「そんな時、お嬢の率いていた俺たちのパーティーとコイツのパーティー、そんでモンスターの群れが同時に広間で遭遇しちまって……そしたらなんと、こいつが仲間に見捨てらたんだよな」


「そうっす。思いっきり放り投げられて気が付いたらモンスターの真ん前っす。後ろからは囮になれよって声が聞こえて。どうしようもないと思ったらお嬢が助けてくれて」


「あん時のお嬢は凄かったよな。もう烈火のごとく燃え盛る焔の化身。ってな具合で暴れまくってさ」


 ホラスは頬を赤くして興奮した様に喋る。僕もその姿を容易に想像できた。手にした双剣を炎とかして暴れるファルナの姿が目に浮かぶ。


「お嬢の奮戦もあったが、モンスターの方が数で上回っていた。そん時マクベが的確に石を投げて敵の注意を引いてくれてたんで俺達も無事に広間を脱出。そのあとひと悶着合ったけど、こうして『紅蓮の旅団』に入った訳さ」


「おいら。本気で感謝してるっス。お嬢の為ならこの命だって使いますよ」


「俺もそうさ! お嬢に誘われなかったらどっかの迷宮で野垂れ死にしてたのを助けてもらった恩を命で返すぜ」


 少年の目は真剣な輝きを放っている。ファルナは大分慕われている様だ。おそらくこの二人以外にも彼女を慕う者はいるのだろう。そしてその思いが深いほど僕を目の敵にしてるんだろうな。


 マクベとは大分打ち解けてきたとは思うが、ホラスはまだ僕に対する敵意がある。こうやって話に興じていても思い出したように僕を睨んでいる。


 困ったなとため息を吐いていると遠くの方から騎兵が走ってきた。旗を掲げた兵士は僕らの前方にて陣形をとっている兵士たちの元へ向かっている。


「ありゃ……なんだ? 伝令か?」


「まさか、何処かの門が破られたのか」


 ポツリと誰かが零すと、空気が固くなる。嫌な想像を抱きながら伝令の方へと走り寄った。


 兵士たちも騒めきながら騎馬の動きに注目している。僕らの視線を受けつつ、兵士は声高に叫んだ。


「外のスタンピードの動きに変化あり! どうやら撤退・・をしている模様。ついては軍議を開くため部隊長は指揮所に来られたし」


 衝撃を持って兵士の言葉は迎えられた。




「モンスターが撤退だと!?」


 テオドール王の叫びが謁見の間に吊るされたシャンデリアを揺らす。伝声管から伝わった情報を読み上げる兵士は王の叫びに震えながら己の職務を果たそうとする。


「先程、防壁から五百メーチルの地点で動かずに空中戦に切り替えたモンスターの群れが移動を開始。現在一シロメーチル付近まで下がっているとの事です」


 謁見の間に集まった人々は騒めきながらその知らせを聞いていた。テオドールはすぐさま宰相のルルスへと視線を走らせた。


「師よ。貴方が集めたスタンピードに関する伝承の中で夕暮れ時に引き上げるなどというふざけた現象は記されていたでしょうか」


「そんなもん、あるわけなかろう」


 ルルスは弟子の質問を一蹴した。


「本来のスタンピードなら昼夜を問わずに攻めているはずだ。それゆえの暴食の群れスタンピード。理性などあるはずが無い」


「だとすればこれは今回の件を裏で糸を引いてる奴の行動だが……クソ! 全く読めん。何がしたいんだこいつは!!」


 テオドールは苛立ちまじりの拳を机に叩きつけた。




「夜は寝るべきなんだよ……人間」


 テオドールが憤る姿を『窓』から覗いていた魔人は誰にも拾われない呟きを零すと『窓』を掻き消した。


 大地の方を見れば夕日が沈む所だ。


「ああ。なんて美しいんだ。沈む夕日が生命の死を暗示するならこの光景・・・・と絶妙に調和していると思わないか、赤龍よ!」


 彼は足元にてひれ伏させている龍へと語りかける。大仰な身振りで夕日に赤く照らされた廃墟・・を指さす。


 城壁は打ち砕かれ、火の手が至る所で上がり、逃げ惑う人々の絶叫が響き、歓喜したモンスターの蹂躙する音が木霊する街。


 街の名はダラズといった。


 いまはもう―――ただの地獄。


読んで下さってありがとうございます。

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