12-59 神の権力 『後編』
レイが龍刀を抜き放ち、武装神官を威圧していた時、《神聖騎士団》の面々に守られたリザ達は周囲に気を配りながら小声で相談をしていた。
「どうするのでござるか。主殿と共に暴れて、船を奪うでござるか?」
「駄目よ。状況がこうなった以上、下手に力で押し通そうとすると立場を悪くするわ。最悪の状況だけど、時間さえ稼げれば潮目が変わるかもしれない。一度死に戻って、伝手を頼りに法王庁と交渉するのが無難な方法だと思うわ」
「賛成です。ここを力づくで乗り切っても、先はありません。レティさん。毒薬の効果はどれぐらいで発揮しますか?」
「多分、十五分弱ぐらいかな。さっき、体の軸がぶれたし、龍刀を構える腕にも力が入っていない。そんなに長続きはしないよ」
「でしたら、ここは戻るのが賢明という事ですか」
「報告。法王庁側に動きがあります。甲板をご覧ください」
冷静に死に戻りのプランを検討しているリザ達だったが、最後尾に居たポラリスの言葉に全員が船の方を見上げた。
吹雪と距離のせいでハッキリとは見えないが、人影が甲板から飛び降り、桟橋へと音も無く着地した。
「じょうず」
その表現が適当なのかは不明だが、エトネの言う通り上手と表現したくなるほどの身のこなしに、リザとヨシツネの表情が変わった。
「腕の立つ御仁でござる。少なくとも、背後の武装神官よりも」
「そうなの? ……リザ?」
「大丈夫でしょう。レイ様なら一人でも相手できるレベルです。むしろ、こちらの戦力を減らす方が危険かと」
リザの見立ては間違っていない。少なくとも、異端審問官が連れてきている武装神官の中では、桟橋に着地した人物は腕が立つ。正面からぶつかった場合、ヨシツネやクロノでは相手にならず、エトネは精霊なしだと厳しく、リザやレイなら劣勢になることは無い。そこまでを冷静に判断して、彼女は法王庁が他に隠し玉を用意していないか後方で待機をしている。
彼女の言葉通り、レイは襲撃者の双剣を難なく龍刀で受け止めた。
戦いの衝撃で彼女の顔を隠していたフードがめくれ上がる。
途端、リザ達の間で戸惑いと困惑の声が上がった。
白い大地に血を垂らしたかのような赤い髪が肩の近くで揺れ、リザとは違う色合いの青い瞳に冷たい光が宿る。会わなかった時間の分だけ変化した彼女の容姿だったが、手にした双剣の鋭さだけが半年前と変わらなかった。
「ちょっと! あれって、ファルナじゃない?」
「うん、間違いないよ。あれはファルナさんだよ!」
「ファルナと言うと、『紅蓮の旅団』団長の娘でしたか。法王庁に操られたという」
シアラとレティと違い、ファルナと直接の面識はないヨシツネに、彼女との面識はないが、レイを見守る過程で知っていたクロノが肯定した。
「はい。『岩壁』のオルドさんの一人娘、ファルナさんです。髪や背丈が伸びて印象が違うように見えますが、間違いありません。……でも、彼女がどうして、レイさんに剣を向けているのでしょうか」
彼女の疑問に答える形になったのは、学術都市の調査船から上がった叫びだった。
「おい、《ミクリヤ》! お嬢を止めろ!!」
「いまのこえ、エスラさん?」
「探査。あちらをご覧ください。調査船の甲板を」
桟橋を挟んだ反対側に停泊している巨大な調査船。その船上で叫んでいるのは『紅蓮の旅団』のメンバーで、今回の調査団の冒険者たちを束ねている『首狩』エスラだ。
彼女は両腕を縄で縛られ、武装神官達に押さえつけられながらも、欄干にかじりつくかのように離れようとせず、声を張り上げた。
「いまのお嬢は、うちらの声が届かない。カーティスの言っていた通り、操られている! お嬢が、うちらに対して……剣を向けるなんて、ありえないんだ! だから、頼む、お嬢を止めてくれ!!」
「レイ、てめぇに頼むのは嫌だが、頼む。アンタ達だけが頼りなんだ!」「リザさん、レティさん、シアラの姉御、お嬢を元に戻してくれ!」「あんなの、私達が知っているお嬢じゃない! お嬢を返せ!」
エスラの叫びに続いて、調査船自体が楽器のように『紅蓮の旅団』メンバーの悲痛な声を響かせた。姿が見えないのは法王庁によって拘束され、軟禁されているのだろう。
「ファルナさんが『紅蓮の旅団』メンバーに剣を向けるなんて……って、お姉ちゃん!?」
気がつけばリザは雪の大地を疾走し、極光に彩られた刃を抜き放っていた。
態勢は低く。まるで蛇が茂みから顔を覗かせたかのように低い姿勢から上段に向けて刃を振り上げると、死角からの攻撃にも関わらずファルナは機敏な反応を見せて刃から逃れた。
「おっと、危ない。主に剣を向けられて怒ったのかい、リザ」
「……ええ、怒っていますとも。私は怒っています」
レイを庇うように―――いや、レイからファルナを奪うように前に立つと、彼女は剣を構え直した。
「おい、リザ。相手はファルナだ。君が前に出る必要なんか、っ」
言葉を呑んだのは、彼女の背中から立ち上る感情に当てられたからだ。
殺気ではなく、怒気。
言葉通り、彼女は怒っているのだ。
だが、その対象はファルナじゃない。
「貴女に何があったのかは、カーティス様から聞いています。誰かに操られているかのようだったと。最初にその話を聞いた時は、信じられませんでした」
「あたしが誰かに操られている? なにそれ? そんな馬鹿げた話があるわけないじゃない。……ああ、アイツ等の戯言を真に受けちゃったのかい? だったら笑えるね」
「笑えませんよ。ええ、笑えませんとも!」
一喝。
リザの大音声が入り江に反響する。いつの間にか、調査船の叫びも納まっていた。
「私は知っています。貴女が、どれだけ『紅蓮の旅団』を愛しているのか、母親が立ち上げ、父親が育て、そして仲間達と共に作り上げたクランをどれだけ誇りに思っているのか知っています。そんな貴女から、『紅蓮の旅団』を取り上げた存在に、私は怒っています!」
リザとファルナは青い瞳という身体的特徴意外に、似通っている部分がある。
考えるよりも先に行動する性格や、名門貴族の娘と有名クランの後継ぎという周りから期待と重圧を掛けられる立場。そして、それを苦しいとは思わず、責任と誇りを持って受け入れようとする覚悟があった。
リザはファルナに自分の生い立ちや境遇を話した事は無かったが、中央大陸からシュウ王国までの旅路でファルナに対してシンパシーを感じていた。そして、『紅蓮の旅団』をいつかは引き継ぎたいという夢を語るファルナに対して嫉妬心も感じていた。
彼女には、背負うべきはずだったウィンドヘイルという家はもう無い。
あるのは『勇者』ジグムントと、生家を滅ぼした帝室への憎しみだ。
だからこそ、素直に夢を語れるファルナを羨ましく思い、同時に嬉しくもあったのだ。自分と似たような夢を抱いている同年代の仲間が居たのだと、心の底で思っていた。
いま、それが踏みにじられた。
自分と同じように、巨大な組織の、顔も知らないような誰かの悪意によって、ファルナの夢と誇りが踏みにじられた。
それがリザには許せなかった。
「この剣に誓って、貴女を元に戻してみせます、ファルナ!」
「ははっ、そういうの余計なお世話だって知ってるかい、リザ!」
双剣と精霊剣が激しくぶつかり合う。
「おやおや、これはこれは。……素人目でも『戦巫女』と拮抗していると分かりますね。いえ、『戦巫女』の方がやや押されていますかな」
オーバートの見立ては正しい。レイの目から見ても、リザとファルナの戦いは、リザの方がやや優勢だ。極光が躍るような軌跡を描き、ファルナの双剣が燃えるような剣戟を繰り出し、両者の戦いは続く。
だが、それはあり得ない。
リザがこの半年で潜り抜けた修羅場は、経験は、普通の冒険者なら一生涯経験することもない過酷な戦いだ。そこを生き延びて手にした力というのは凄まじく、いまの彼女は上級冒険者の中でも上位に食い込む実力者だ。
そんな彼女と、ファルナが互角に近い勝負を演じられるのはあり得ないのだ。
確かに、彼女は将来性のある冒険者ではあるが、いかんせん経験が足りない。聖都までの旅路でトラブルはあったと聞くが、リザの経験とは比べ物にもならない。半年の間で大きく差の開いたはずなのに、ファルナが食い下がっていられるのは理屈に合わない。
「お前たち、ファルナに何をしたんだ。彼女の心を操るだけじゃなくて、彼女自身に何をしたんだ!」
「なんと心外な事を! まるで私達が『戦巫女』の心を惑わし、肉体に危険な薬液を服用させ、過酷な戦闘訓練を施したかのような物言いじゃないですか。証拠も無しに、そのような根も葉もないことを口にしないでくださいますか」
心外だと言わんばかりに、オーバートは肩を竦めた。
「とはいえ。ある程度は認めましょう。法王庁では、武装神官に対してある程度の精神操作を施している、と」
「……なんじゃと」
「これは『三賢』殿でも知らない事でしょうが、武装神官の役割を考えれば当然の話ではあります。本来、武装神官は国の兵士や冒険者が常駐しないような僻地の守護と、その地への信仰を広めるのが役割のため、モンスターと積極的に戦うのが義務付けられています」
エルドラドはモンスターの徘徊する危険な世界だ。
迷宮によって常にモンスターは生産され、数が一定数を越えれば地上に出て、テリトリーを拡大する。供給される量に対して、兵士や冒険者の数が足りているとは言えないのだ。
そこで、法王庁は自分たちの勢力基盤を広げるために、信仰を僻地にまで届けるという名目で武装した神官を派遣するようになった。それが武装神官の始まりだという。
「幼少の頃から訓練を重ねますが、やはり相手はモンスター。戦いに対して恐怖心が生まれるのは仕方ありません。そこで、法王庁では恐怖心を和らげる香草と言葉を繰り返し覚えさせ、一種の恍惚状態を作り出せるように教育しているのですよ」
通常とは異なった意識状態を生みだす、トランス状態を指しているのだろう。
パブロフの犬という実験がある。犬に対して餌を与えるのと同時にベルを鳴らすことを覚えさせれば、餌を出さなくてもベルの音でよだれを出すようになるという実験だ。
「言葉を唱えれば、香草を用いずとも恍惚状態となり、戦闘への恐怖心が和らぐという寸法か」
「流石はマクスウェル殿。理解が早くて助かります。実は信仰の言葉が鍵となっていましてね。祈ると不安感や恐怖心が和らぐので、独り立ちしてからでも習慣づける武装神官が多いんですよ」
にやり、と。オーバートの口元が歪む。
その笑みを不吉と感じたのは、体内を蝕む毒のせいでは無い。
「たとえば、こんな風にね『13の神に願い奉る。ここに神の執行者を招き給え』。さあ、《ミクリヤ》のメンバーを生かしたまま拘束しなさい」
瞬間、レイの体が尋常ならざる力によって吹き飛ばされた。視界は高速で流れ、雪で固めたイグルーを三つほど壊して止まった時に、やっと攻撃されたのだと気づいた。
『この大馬鹿野郎、ぼさっとするんじゃねえ、追撃が来るぞ!!』
歪な声が耳朶を震わすが、衝撃で力が入らない。辛うじて、手にした龍刀だけは離さなかった。
雪で塞がった視界に誰かの影が見えて、レイは咄嗟に炎を生みだした。
自分を取り囲む小規模なドーム状の炎。周辺の雪は一瞬で蒸発する。
レイを取り巻く紅蓮の防壁は、しかし、役目を全うできない。
炎を突き破って伸びた手に首を掴まれる。
万力のように締め上げる指は首に食い込み、的確に気道と頸動脈を押さえていた。
毒で命の残量を削っているレイに、振りほどく力なんて残っていない。
酸素が行き渡らず、意識が急速に闇に飲まれる中、最後に見たのは紅蓮の炎で表面が灼けた鋼の義腕だった。
異変はほぼ同時に起きていた。
リザとファルナが互角に近い戦いを繰り広げている最中、レイとローランの姿が同時に消えた様にシアラには見えた。
「……え?」
マクスウェルが振り返り、何かを叫んでいるがシアラの脳細胞が理解するよりも前に、彼女は腹部に硬い物を突きつけられた。鳩尾を的確に打ち抜いたのは、ミストラルの持つ杖だった。
慈愛に満ちた佇まいとは裏腹に、杖をメイスのように振り回してモンスターの頭を吹き飛ばすシーンは過去に見たことがあるが、それを味わうとは夢にも思わなかった。
無防備な所を狙われ、肺から酸素を吐きだし、雪の上に崩れ落ちると、後頭部を靴裏で押さえつけられた。これでは魔法を詠唱することもできない。
シアラが真っ先に潰され、ポラリスが敵対行動に反応して戦闘モードに移行する寸前、割り込んできた盾使いに射線を塞がれてしまう。異変に反応したヨシツネがレティを抱えて離脱しようとするも、足を矢に貫かれた。クロノがエトネと共に包囲網を突破しようとするが、槍使いの技に敗北して、地面に背中から崩れてしまう。
「これは、如何なる仕儀じゃ。場合によっては、妾手ずから首を斬り落としてやるぞ、神の走狗共」
静かに事の成り行きを見ていたコウエンは、ミストラルと弓使いに照準を向けられても動じることなく威圧を振りまいていた。幼い外見から立ち上る怒気は紅いオーラのように揺らめいている。
だが、尋ねられた《神聖騎士団》の面々は無言のままだ。不審に思ったコウエンが身を乗り出すと、彼らに共通点を見出した。
「其方らの瞳……もしや、正気では無いのか」
答えの代わりと言わんばかりに空から降ってきたのはローランだった。大剣を片手に握り、煙を上げている義腕はレイの首を掴んでいた。
意識を失っているレイを地面に転がすと、ローランはミストラルに命じた。
「解毒して目覚めさせろ」
頭上で聞こえた冷たい声色にシアラは背筋を凍らせた。優しく穏やかな、『聖騎士』と呼ばれるのに相応しいローランとは思えないほど冷たい響きにではない。
命令の指す意味を理解して、やられたと叫びそうになった。
ミストラルの詠唱をコウエンとポラリスが同時に動いて止めようとする。しかし、割って入ったローランと盾使いによって防がれてしまった。魔法は完成し、優しい光が残酷にもレイに降り注ぐと、閉じていた瞼が開いた。
「うっ、……ローランさん、なんでっ!」
叫びは途中で止まる。体内の毒は浄化されたが、それまでの毒のダメージとローランに吹き飛ばされた痛みは治っていない。その上、ローランの大剣が首元を抑えているため動けなかった。
炎を生みだすよりも早く、首が落ちるのを簡単にイメージできてしまう。こうなると、コウエンもポラリスも迂闊に攻撃できなかった。
「ローラン、ミストラル、レイ殿たちに何をしておるのだ! 皆も早く正気に戻らんか!!」
突如としてレイ達を瞬時に拘束した《神聖騎士団》のなかで、ただ一人、マクスウェルだけが仲間の変貌に困惑している様子だった。
リザとファルナの戦いは、レイ達がローランに捕まったのを見て、リザが精霊剣を手放して決着が付いた。今は、ファルナによって拘束されていた。
「オーバート、貴様、ローランたちに何をしよった!」
「あまり激昂されない方が宜しいのでは? 見た目が若くても、中身は年相応だとお聞きしていますよ」
今にも杖を抜きそうなほどの剣幕で詰め寄るマクスウェルに対して、オーバートは子供の悪戯が成功したかのような気軽さで、ローランたちの変貌の原因を明かした。
「簡単な話ですよ。武装神官たちは幼い頃から香草と祈りの言葉を用いて恍惚状態を意図的に作れるようにしていると説明しましたよね。それと同じ事が、《神聖騎士団》にも施されているのです。ただし、普通よりも念入りに、周到にね」
「……そうか。お主の仕業では無く、法王庁上層部が仕込んだのか」
「流石ですねぇ。『三賢』の名に偽りなし」
「貴様に褒められても、嬉しくは無い。……祈りの言葉を鍵として、自分たちの意のままに操れるように幼少の頃から仕込んでいた訳じゃな」
マクスウェルの推理にレイは自分を押さえつけているローランを見た。
伽藍洞のような光を失った瞳にローランの意志は感じられず、マクスウェルの言う通り誰かに操られているかのようだ。
「そうらしいですね。私は単なる異端審問官なので詳しいことは知りませんが、法王庁の神官が鍵となる言葉を囁けば、すぐに洗脳状態になるようですよ。まあ、当然と言えば当然の措置です。だって《神聖騎士団》や『聖騎士』なんて危ない力が、法王庁に盾突くことが無いように保険は必要でしょ」
「本人の意志を捻じ曲げて、意のままに操ろうなんて……『勇者』を使役する帝国と一社じゃないですか。これが、法王庁のやり口なんですか!」
「黙りな、リザ」
「黙りません。貴女も、自分が操られているのが分からないんですか、ファルナ!」
「操られている? このあたしが? そうじゃないんだよ、リザ。あたしはね、目覚めさせてもらったんだよ。あたしの力が何のためにあるのか、この世界のためにどうすればいいのか、13神のために何をするべきなのか。アンタ達も、きっと目を覚ましてもらえるよ」
説得しようとするリザを、逆に説得しようとするファルナ。氷のような青い瞳に渦巻く狂気の色に、リザは言葉を失ってしまった。
拘束されたレイ達を前に、オーバートは懐から新しい羊皮紙を取り出した。
「さて、色々とありましたが仕事は手早く片付けるのが私の主義なので、さっさとやりましょう」
手にした羊皮紙には法王庁の印があり、オーバートは中身を開くと重々しく告げた。
「法王様のお言葉を伝える。《ミクリヤ》所属、『緋星』のレイ。貴様には異端審問の嫌疑が掛けられている。しかし、その内容の難題さもあり、この場での審問は不可能である。よって、貴様を法王庁は総本山、聖都の本裁判へ掛ける。貴様に断わる権利などはなく、13神のひざ元で捌きの時を待つべし」
一方的な宣言はこれで終わりでは無かった。オーバートは続けて二枚目の羊皮紙を読み上げた。
「また、此度は取り扱う嫌疑の重要さと深刻さを鑑みて、不安要素を排除する必要がある。《ミクリヤ》に所属し、なおかつレイが所有している戦奴隷たちも全て拘束、法王庁の聖都へと移送する」
「なんじゃと! 異端審問の嫌疑が掛かっている本人以外を拘束するなど、聞いたことが無いぞ!」
これまでの前例に無かった処置に憤るマクスウェルに対して、オーバートは命令書でもある法王庁の通達を印籠のように掲げてみせた。
「そうですね。確かに、私の知る限りでは無かったことです。ですが、前例に無いからあり得ない、などと申していたら人間は進歩がありませんでしょう。……どこかから圧力があった、なんてこともあるかもしれませんが」
そう言って、爬虫類のような細い瞳をリザとレティに向けた。
それだけで、誰が圧力を掛けたのか分かった。この異端審問の狙いも。
帝国第一皇子ゴルディアス・スプランディッドは、法王庁の権力を使ってレイとリザとレティを分断させるのが狙いなのだ。
読んで下さって、ありがとうございます。
次回の更新は11日頃を予定しております。恐らく、次回で12章最終話となります。




