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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第12章 大陸の果て
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12-55 未来への道筋 『後編』

「前提。『正体不明アンノウンの娘たち』に関する情報は非常に少なく、情報源が『正体不明アンノウンの娘たち』の一人から聞き取ったため、確度も低く、創造主ノーザンの所感が混じっているという前提を承知ください」


 持って回った言い方だが、それだけ『正体不明アンノウンの娘たち』に関する情報は不確定で疑わしい内容なのだろう。レイは了解の意志を込めて頷くと、立体映像のポラリスは説明を再開した。


「悪意。創造主ノーザンは『正体不明アンノウンの娘たち』を悪意の塊と結論付けました。12神に紛れ込んだおとうさまの望む、まだ見たことの無い滅びの瞬間を達成するために、歴史の表と裏で暗躍する五つ子。それが『正体不明アンノウンの娘たち』です」


「先程のモルグでも話に出ていましたが、エルフの国の崩壊に関わっているというのは本当ですか?」


「ちょっと、それ本当なの?」


 リザの質問にシアラ達が反応を示す。この部屋に集まった者達のほとんどが、エルフの国に何が起きたのか、崩壊をもたらした『国喰』の正体、悲劇に翻弄されたエルフの師弟を知っている。


「肯定。エルフの国を滅ぼした引き金。黄龍を『国喰』という怪物に作り替えたのは、間違いなく『正体不明アンノウンの娘たち』の一人の仕業だと判明しています。当時の周辺国の関係者から裏付けとなる情報を取得して判明した確度の高い情報です」


「ふむ。黄龍の異変は何者かの作為と睨んでおったが……古代種の六龍すら己が手足のように操るとは。これは一筋縄ではいかぬ相手らしいな」


「『正体不明アンノウンの娘たち』ってのは、冒険者みたいに集団で動いているのかな? それとも、一人で黄龍を掌握したのかな?」


「単独。『正体不明アンノウンの娘たち』は原則として単独行動を取ります。互いの行動を邪魔することも許可されており、互いを姉妹と認識しつつも競争相手と考えているとノーザンは考えています」


 おとうさまの目的は世界の滅びを再び見ることであり、それはどんな形の滅びであっても構わないと口にしていた。つまり、目的と手段が明確に定まっている訳ではないのだ。


正体不明アンノウンの娘たち』は一つの目的を達成するためにきちんと役割分担をしている訳でも無く、自分たちが思いついた計画を無軌道に実行しているのだ。


 エルフの国を滅ぼしておきながら、エルフという種族を滅ぼさなかったのも、国を無くしたエルフが他国を彷徨う過程で起きる混沌を眺めるために、ワザと滅ぼさなかったのかもしれない。


「おとうさまにしてみれば、エルドラドに送りこんだ『正体不明アンノウンの娘たち』は、舞台を盛り上げるための要素に過ぎない。世界が混沌とし、滅びへと向かっていくなら、『正体不明アンノウンの娘たち』が何をしていても構わないのか」


「気に入らないわね。蟻の巣穴に水を流し込んで、自分だけは高みの見物を決め込んでいるつもりなのかしら」


「『正体不明アンノウンの娘たち』っていうからには、やっぱり女性なの? それで、無神時代とか黄金時代から行動しているとすれば、エルフとか魔人種みたいな長命種なの?」


 レティの疑問に、レイは一瞬だがある女性の顔が脳裏を過った。


 長命の魔人種で、なおかつ女性。その性格と行動は、まさしく混沌を生みだし続けている。


 そっと、シアラの方に視線を向ければ、彼女は彼女で嫌そうな表情を浮かべていた。もしかすると、同じ人物のことを思い浮かべているのかもしれない。


 他の仲間も同様なのか、シアラの様子を窺っていて、青い瞳と視線がぶつかった。


「転生。『正体不明アンノウンの娘たち』の正体は、エルドラドの滅びを免れた五つ子ですが、肉体は既に滅んでおります。彼女たちは魂だけの状態を維持しつつ、気に入った女性の、正確には赤子に転生する力を有しています」


「転生を技能スキルとして保有しているのですか! そんな馬鹿げた話が」


「事実。『正体不明アンノウンの娘たち』はこの千三百年、御霊に昇ることなく、エルドラドの大地で生と死を繰り返しながら彷徨う亡霊の如き存在となっています」


 世界の理すら無視した振る舞いに、クロノは開いた口が塞がらない様子だ。


 レイは胃の奥から昇ってくる不快な気持ちを抑え込む。自分とは違った形で死を超越し、世界に悪意を振りまいている五人の娘たちが、『御厨玲』の娘たちというのが酷く不愉快だ。


 彼女らのせいで、サファとイーフェを含めた多くの人々の人生を狂わしたのかと考えると、頭の後ろに奇妙な熱が生まれてくる。


 これは怒りだろう。


 レイだけでなく、御霊に宿る無数の人々。滅んだエルドラドの民が無意識に発する理不尽への怒りがレイの感情と混じりあっていく。


 そんなレイに冷や水を浴びせるように、錆びた声が耳元に響いた。


『おい、レイ。俺を出せ』


「……なんだよ、影法師。外に出たくなったのか?」


「主様、どうかしたのかしら?」


 影法師の声はレイにしか届かない。不思議そうにするシアラを目で制すると、影法師が続けた。


『いいから、俺を外に出せ。てめぇらが知りたがるだろう話をするつもりだ』


「分かった。ちょっと待って。《漆黒よりもなお昏き影よ、我と共に起て》》」


 言葉と共に変化が起きた。光沢を放つ床に伸びていた影が起立すると、立体映像のポラリスよりも摩訶不思議な存在が部屋に現れた。人の形をした起立する影の出現に、《ミクリヤ》のメンバーは不思議そうな視線を向けた。


「レイ様。影法師を出して、どうかしたのですか?」


「僕にも分からないけど、何か話したいことがあるみたいだ。影法師、どうしたんだ?」


 影法師はコウエンが寝転ぶのとは別の二段ベッドに飛び移ると、気怠そうな雰囲気を隠しもせずに口を開いた。


「てめぇに伝える義理も貸しも無えが、黙っていればアイツ等を利するだけなのも癪だ。だから、教えてやるよ。せいぜい、涙を流して感謝しろ」


「だから、何を教えるつもりなんだよ」


「いまの時代を生きる『正体不明アンノウンの娘たち』が誰なのか、教えてやるって話だ」


 降ってわいた爆弾発言にレイ達は驚きを隠せなかった。上がった声が完全防音の室内に響く。


「はぁ!? どういうことだ、影法師。お前は『正体不明アンノウンの娘たち』が誰なのか知っているのか?」


「いえ、確かに驚くべきことだけど、本当に驚くべきなのはそこじゃないわ。ワタシたちはすでに、『正体不明アンノウンの娘たち』と遭遇しているの?」


 レイとシアラの問いかけに影法師は、そうだと答えた。


「別段、驚くことじゃねえだろ。《トライ&エラー》は因果を重ねる技能スキル。因果を重ねて厄介事を引き寄せてきたのは、これまでにもあっただろう。世界を滅ぼそうとする『正体不明アンノウンの娘たち』なんざ、最大級の厄ネタじゃねえか」


「身も蓋もない言い方しやがって。それで? なんでお前は『正体不明アンノウンの娘たち』を見分けられるんだ? もしかして、特徴でもあるのか」


「興味。『正体不明アンノウンの娘たち』を見分ける術は創造主ノーザンでさえ発見できませんでした。興味深い発見です」


 全員の視線が影法師へと向けられた。


「見分けるというか、感じられるってのが正確だな。俺は……正確には俺の雛型とでも呼ぶべき人格はおとうさまと『正体不明アンノウンの娘たち』の一つと接触しただろ。あのとき、アイツらの歪な魂を記憶したんだ」


「なるほど。おとうさまや『正体不明アンノウンの娘たち』の正体が滅んだエルドラドだとしても、魂は『御厨玲』に転生した時点で変質しています。エルドラドの魂とも、普通の『招かれた者』とも違った波長となっていてもおかしくはありません。それを御霊である貴方が感じるのも不思議ではありません」


 元神のお墨付きを得られたからか、影法師は自信を持って告げる。


「てめぇの罪悪感を軸に今の俺の人格が出来ても、その時の歪な魂は覚えている。だから、てめぇが『正体不明アンノウンの娘たち』と接触したときは一発で分かったぜ。あんときの奴らと魂が一緒だってな」


 文字通り、正体不明なのが『正体不明アンノウン』たちの強みだ。


 誰にも正体を知られていないから、彼女たちはこれまで自由に動けていた。だが、そのアドバンテージが失われようとしている。秘密のベールに手が掛かった。


「誰なんだ。僕達が旅してきたなかで出会った誰が、『正体不明アンノウンの娘たち』なんだ」


「俺が知る限り、『正体不明アンノウンの娘たち』なのは三人だ。一人はてめぇらもよく知る女だ」


「……もしかして、ワタシの母親かしら?」


「シアラ……それは」


 リザが何かを言おうとするも、シアラは手で制した。金色黒色の瞳は覚悟を決めたかのように、影法師を見上げる。


 顔の無い影法師だが、彼女の視線を真っ直ぐに見つめ返すかの如く、断言する口調で告げた。


「そうだ。元六将軍第三席カタリナ・マールム。奴は『正体不明アンノウンの娘たち』の一人だ」


 やはり、そうなのかという言葉を心の中で呟く。先程、脳裏を過ったのは、シアラの母親とは思えないほど若々しい女性の顔だ。


 カタリナが『正体不明アンノウンの娘たち』ならば、彼女が『魔王』の娘という地位にいながら、フィーニスの計画を邪魔した理由に説明がつく。


 フィーニスのやろうとした世界救済計画は、おとうさまの望みと真っ向から対立する。彼女が『正体不明アンノウンの娘たち』ならば、邪魔して当然だろう。


 とはいえ、彼女が世界を崩壊に導く担い手の一人という事実がシアラに与える影響は計り知れない。唇を噛みしめ、掌を強く握って感情を抑えようとする友を、リザがそっと支えた。


「大丈夫。……いろいろ思うところはあるけど、大丈夫よ。影法師、続きをお願い」


「りょーかい。もう一人は、これまたてめぇらの身内というべき存在だな。シュウ王国先代国王の妃にして、帝国皇室に名を連ねていた女。ジョゼフィーヌ・ヴィーランドだ」


「なんですって」「うそっ」


 ウージアの『女帝』の名前が出て、リザとレティからか細い悲鳴に似た吐息が漏れた。カタリナの時と違い、不意打ちに近い登場だったが、言われてみれば納得できる。


 色気が可視化できそうなほど妖艶な女性の立ち振る舞いや存在感は冒険者とも『七帝』とも違う迫力に満ちていた。あれが普通の人間だとしたら、その方が異常だ。


 それに、もう一つ納得できる理由もあった。


「アクアウルプスで『女帝』がご主人さまに協力した理由が分かったよ。ご主人さまが誰なのか知ってたからだ。自分たちの敬愛するおとうさまが送りこんだ存在。それだけで、手を貸す理由になるんだ」


「そういうことだろうな」


 レティの推察にレイは同意した。


 アクアウルプスでの戦いにおいて『女帝』はレイの後ろ盾となってくれた。彼女の協力が無ければ、多くの冒険者が騒動鎮圧のために協力してはくれなかったはずだ。


 本来なら、帝国の危険分子であるリザとレティを所有しているレイを、帝国側のジョゼフィーヌが助ける理由は無い。だが、彼女が『正体不明アンノウンの娘たち』の一人なら、従者まで貸したのも納得できる。


「そして最後の一人だが、こいつもアクアウルプスで出会ったな」


「……おい、ちょっと待って。……まさか」


 影法師の口ぶりに、リザとシアラも顔色を変える。この中で、彼女と直接の面識があるのは、この三人だけだ。


 海上国家アクアウルプスを舞台に、多くの人々を人間とは別の存在に作り替えようとし、レイの手で倒された道化師。


「三人目はエレオノール。奴も『正体不明アンノウンの娘たち』の一人だ」


「それはおかしくありませんか? 彼女はレイ様と敵対し、殺そうとしたはず。それに、ジョゼフィーヌはエレオノールの行動を間接的とはいえ邪魔していた。二人とも『正体不明アンノウンの娘たち』という仲間の筈では」


「いいえ。おかしくないわ。思い出して、リザ。エレオノールは盲目。アイツは主様がおとうさまの関係者だとは気づけなかったから敵対したのよ。それに、ポラリスも言っていたじゃない。『正体不明アンノウンの娘たち』は協力関係に無く、互いを競争相手とみなしているって」


「……そういうことですか」


 シアラの説明にリザが納得したような声を呟いた。


 シアラの説明は正しいだろう。エレオノールは幼い頃から盲目となり、人の顔を識別できない。戦いの終盤、アニマに感染して傷を癒したが、瞼を塞いだ火傷は治らず、彼女の瞳は光を取り戻せなかった。


 加えて、彼女の狂気じみた振る舞いはおとうさまに似通っている部分があった。二人が親子だとすれば、納得もできる。


 彼女は『正体不明アンノウンの娘たち』の一人でありながら、自分が誰と戦っているのか分からないまま死んだのだ。


「カタリナさん、ジョゼフィーヌ、エレオノール。今の時代を生きている『正体不明アンノウンの娘たち』の五人中、三人は目星がついたな。それで、スターダストシリーズ壱号機に取りついた『正体不明アンノウンの娘たち』は、その後どうなったんだ?」


「交渉。スターダストシリーズ壱号機、個体名称コカブに宿った『正体不明アンノウンの娘たち』は、創造主ノーザンに情報を提示する代わりに、ある施設の所有権を要求しました。施設の名称は魔法工学兵器量産工場。通称、『科学者』の工場です」


「ノーザンが残した三つの施設の一つを要求したの。それも、よりにもよって兵器の量産工場なんて」


「ですが、納得できます。『正体不明アンノウンの娘たち』の目的が世界を混沌とさせることである以上、魔法工学の兵器は効率よく目的を達成できる道具です。それに『科学者』亡きあとも兵器が現れる謎が解けました。『機械乙女ドーター』ポラリスと同じように、千年近く稼働できる兵器が工場を所有しているのですから」


 魔法工学の兵器は、黄金期から九百年以上も経つのに、新品同様の姿で迷宮から発掘される。この謎を解く鍵こそ、世界の何処かで稼働している『科学者』の工場という眉唾物の噂話をレイも聞いていた。


 真実は奇なり。


 まさか、世界を混沌へと導く担い手が、明確な悪意を持って黄金期から延々と工場を稼働し続けているとは、誰も思うまい。


「もしかして、ポラリスさんが兵器を壊す兵器になったのって」


「肯定。創造主ノーザンは、『正体不明アンノウンの娘たち』の危険性を理解し、彼女が兵器を量産し世界中に拡散するのを防ぐための対抗措置として、スターダストシリーズ弐号機をモデルに対魔法工学兵器用兵器Ω―1は完成しました」


「そういう裏事情があったんだ。それで、スターダストシリーズ壱号機ってのは、いま何処に居るのか分かるの? やっぱり、兵器の工場に居るのかな」


 レイはコカブの居場所を尋ねるのと同時に、フィーニス等が探している工場の場所も聞きだそうと探ろうとした。ところが、予想とは違った回答に当てが外れてしまった。


「回答。スターダストシリーズ壱号機の現在位置は不明。しかし、稼働を示すシグナルは点灯していることから、現在も稼働中なのは確実」


「それって、工場に居ないってことかしら?」


「推測。工場は当研究所の設備では観測不可能のため、仮にコカブが工場内に存在するなら、現在位置が不明な理由にも繋がります」


 どういうことだとレイは仲間と顔を見合わせた。


「受領。情報開示の条件を満たしました。創造主ノーザンは兵器の量産工場を他勢力に奪われることの危険性を想定し、位置を把握できないように常に地中を移動するように設計しました」


「じめんの中をいどうするなんて、モグラみたいだね」


「肯定。移動パターンはランダムで座標を特定するには当研究所では不可能となっています」


「それが分かるのが工房って訳ね」


 クリストフォロスが手に入れた情報が、期せずして『正体不明アンノウンの娘たち』を追いかける手掛かりとなってしまった。


「僕たちが旅をしている間に出会った三人に加えて、黄金期からずっと稼働しているコカブが、過去の記憶に登場した『正体不明アンノウンの娘たち』だとすると、『正体不明アンノウンの娘たち』はあと一人居ることになるな」


「そういうことになるよね。ねえ、影法師。なにか、心当たりはないの?」


 レイの言葉に同意したレティは、ベッドの上を占領している影法師に気軽に尋ねると、舌打ちが返った。


「馴れ馴れしく尋ねるんじゃねぇよ。……少なくとも、俺が人格を得てから出会って来た女の中には居ねえぞ。俺の情報は以上だ。あとは勝手に相談しやがれ」


 吐き捨てるように言うと、影は水面に飛び込むカエルのようにレイの足元に戻っていた。


「最後の一人か。誰か、心当たりはあるかな?」


 最後の一人について考え込むレイ達に、立体映像のポラリスが口を開いた。


「提供。最後の一人に関連した情報かは不明ですが、創造主ノーザンが疑いの目を向けていた組織があります。『正体不明アンノウンの娘たち』が関連した可能性は高いです」


「ノーザンが疑いの目を向けていた、ってだけでも十分興味が引かれるな。どんな組織なんだ」


 全員の視線を集めたポラリスは、端的に組織の名前を告げた。


「開示。それは法王庁です」


 告げられた名前の持つ意味が全員に浸透するまで多少の時間を要した。


 まさか、世界に根付いている宗教組織の名前が出てくるとは、とレイは嘆息する。


「法王庁が怪しいとノーザンは考えていたんだ。その理由は?」


「確認。ノーザンがどうして法王庁を警戒していたのか説明する前に、法王庁という組織が設立された背景を振り返りましょう」


 言うなり、立体映像のポラリスの姿は掻き消えた。


 代わりに現れたのは、サーコートを身に纏った青年だ。


「解説。映像の人物は『冒険王』エイリークのパーティーに参加していたグレゴ・ラングフォード氏になります」


 真っ先に反応したのは、『冒険王』の物語を読みこんだリザだった。


「もしかして、この方が初代法王なのですか!?」


 歴史上の偉人を前にして、青い瞳が興奮から輝いていた。立体映像は初代法王のまま、スピーカーからはポラリスの声が流れる。


「肯定。グレゴ氏は熱心な宗徒で、独自の人脈と金銭を用いて13神にまつわる書物や美術品を集めていたコレクターでした」


「無神時代から黄金期の直前までは、神に関する書物や神殿が打ち壊された時代でもありました。それまで、神に見守られている安心感がエルドラドの民にはありましたが、無神時代が始まり神との対話も出来なくなり、見捨てられたという恐怖心が怒りへと変わったのです」


 当時の時代背景を説明するクロノの瞳には憂いが浮かんでいた。神として民を慈しんでいたのが、返って深い憤りや怒りを生んだとしたら皮肉としか言えない。


「設立。エイリークの旅において、グレゴは自分と理想を共にする同士を見つけ、法王庁の雛型と呼ぶ組織を設立。その後、エイリークが手にした巨万の富と名声を背景に、法王庁は本格的に13神にまつわる遺物の収集と編纂を開始しました。目的は、無神時代前にあった13神への信仰を世界に根付かせることでした」


 法王庁が設立された経緯はレイも聞いていたが、特段不審に思う点は無かった。確かに、黄金期から遡って三百年近く前にあった宗教を復活させるという目的は壮大で、成し遂げるには並々ならぬ熱意が必要だろう。


 だが、そこに悪意があるとは思えないのだ。


「不審。創造主ノーザンが法王庁に対して不審を抱いたのは、法王庁で管理されている書物の年代測定をしたことがきっかけでした」


「ねんだいそくてい?」


「その物が今からどれぐらい昔に作られたのか、測定することだよ。それで、どんな結果が出たんだ?」


「結果。ノーザンが測定した書物、百十四点は、全て十年以内に制作された物だと判明。書物には経年劣化したかのようなシミや汚れはありましたが、全てが薬剤によって染色され加工されていました。同様の結果と工作が、法王庁が管理し公開している遺物で確認されました」


「それってつまり、ノーザンが生きていた頃の法王庁は偽物を本物のように作って見せかけていたってことか。でも、なんでそんな面倒なことを。大体、集めていた本物はどうしたんだ?」


「人目に付かない場所で保管していたのでしょうか。黄金期に至るまでに打ち壊されていたという経緯を考えると、破壊される危険性もあったでしょう」


「……多分、そうじゃないんだよ」


「レティ? なにか、分かったの?」


 妹の真剣な表情にリザは尋ねた。頭の回転が速いレティは、自分の出した結論を信じられないという思いと共に吐き出した。


「ノーザンが生きていた頃の法王庁は……12神に関する書物や遺物を収集して、それらを破棄していたんだ。だから、真新しい書物や遺物を古めかしく加工する必要があったんだよ」


「破棄って、なんでそんな事をする必要があったの」


()()()()()()()()()()()()()()()。おとうさまが人の認知を操るのは間違いない。だって、無神時代より前から生きているサファ様やエルフの人たちが、12神が13神になっているのに違和感を抱いてない。つまり、おとうさまは全世界規模で人々の認識を、エルドラドの神は13柱いるっていう認識に書き換えたの」


 おとうさまが全世界規模で認知を歪めたという推測は正しいだろう。シアラ達からも否定の声は上がらない。


「でも、おとうさまの力でも、どうしようもないことがあった。それは、無神時代より前に作られた書物とか、12神にまつわる遺物だよ」


「……ああ、そういうことか! 人の認識は歪められても、人が残した歴史的資料は改ざんできない。だから、破棄して作り直す必要があったのか! エルドラドの神々は13柱いると、嘘の歴史を!」


 歴史を伝える手段は、過去の伝承を口頭で伝える語り部か、過去の歴史を記した書物しかない時代。おとうさまの力で語り部の認識を歪められても、書物の内容まで変えることは出来なかったのだろう。


 試行錯誤の異世界が神々の収集した情報によって正確に再現されているとしたら、12神にまつわる遺物も再現されている筈だ。それらはおとうさまにとって都合の悪い歴史的資料に他ならない。


 12神に紛れ込んだ13番目の神の嘘が暴かれてしまう。


「正答。ノーザンも同様の結論に達し、法王庁という組織が神々に紛れ込んだおとうさまという偽りの神に正当性を与えるために活動していると見抜きました。おとうさまを利する存在となれば、考えられる可能性が高いのはただ一つ」


「『正体不明アンノウンの娘たち』ってことか。納得できる話だな。……隣の人たちには聞かせられない話だけど」


「そうね。自分たちの所属している組織が、歴史を歪めるための組織だったなんて悪夢みたいな話よ。それで、初代法王はその事を知っていたのかしら? あるいは、初代法王と『正体不明アンノウンの娘たち』に繋がりがあったのかしら」


「不明。初代法王とノーザンは直接の面識はありません。また、初代法王は妻帯しておらず、特定の女性と交際していたという記録もありません。男性のため『正体不明アンノウンの娘たち』本人という可能性は低いです」


「男性には転生できないのか。……でも、気になるな。いまの法王庁も」


「うん。真相はどうあれ、法王庁がおとうさまのために活動していたのは間違いない。だとしたら、現代でも同じ役割を担っているかもしれないよね」


「そうですね。『正体不明アンノウンの娘たち』本人が所属しているのか、あるいは協力関係を結んでいるかは分かりませんが、調べてみる価値はありそうです」


 クロノが結論付けると、傍に居たエトネが大きく背伸びをした。萌黄色の眦に涙が浮かび、頭を重そうに振っている。いつの間にか、時計の針は真夜中を越えていた。


「そろそろお開きにしようか。随分と話し込んでいたな」


「そうね。でも、これで当面の目的も定まったわね」


 パーティーの指揮を執るシアラが、これまでの話の総括をするように喋り出した。


「ワタシ達の今後の目的は三つ。神々の意識体が集まっている、試行錯誤の異世界側の観測所を探し出すこと。『正体不明アンノウンの娘たち』を探し出して、おとうさまの情報を引き出すこと。そして三つ目が『七帝』を止めることね。これらを果たせば、本当の意味で世界を救う手段も見つかるかもしれないわ」


 シアラの言葉に全員が同意を示す。


「どれから手を付けるべきなのか悩ましいですね」


「まずはカタリナさんから会いに行くべきじゃないか。あの人なら、案外色々と話してくれるかも」


「でも、あの人のいばしょを、クリストフォロスにしゃべるけいやくだよね」


「そうでしたね。……個人的には、『魔王』が工場を見つけるのを防ぎたいのですが。工場にはコカブに宿った『正体不明アンノウンの娘たち』も居ます」


「まずは北方大陸を脱出するのが先決よ。朝になったら、脱出方法について《神聖騎士団》の方たちと話し合いましょ」


 喧々諤々。


 《ミクリヤ》の面々はこの話し合いで判明した事実から今後の計画を相談し合う。コウエンはいつの間にかスライム形態に戻って、我関せず眠り始めていた。


 レイも疲労から横になろうとすると、いつの間にかポラリスの姿に戻っていた立体映像に呼び止められた。


「提案。ミスター・レイ。メッセージのノーザンから提案があります」


「アイツ、立ち直ったのか。それで、どんな内容なんだ」


「伝達。ミスター・レイの持つ武装。龍刀を改造しないかという提案になります」


 予想もしていなかった内容に、レイは返事が遅れてしまった。

読んで下さって、ありがとうございます。


次回の更新は、27日頃の予定でしたが、都合により30日頃に変更させて頂きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新有り難うございます。 どんどん新しい情報が出てきますね。 ついでにいえば、帝国についても何か分からないかな。 [気になる点] 割と今更だとは思いますが、小説の検索タグに、「シリアス…
[良い点] 法王庁か…。確かにトップからして腐ってるからなぁ。 問題はいつから、そうだったのかということだけど…。 至上の命題とされている鍵とやらと関係大有りなんだろうな。 前は世界崩壊のことかと…
[良い点] ついに自分の立ち位置を確認し、真の敵を見定め、方針が定まった…そんな感じがしますね それでも、誰がどう動くのかまったく予想がつかないのがわくわくします [気になる点] 法王庁のあの2人と…
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