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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第12章 大陸の果て
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12-40 戦闘用端末

「ドウゾコチラヘ。詳シイ説明ハ中デ致シマス」


 自らを歓待用自動人形と語ったロボットはその場で一回転すると中へと戻っていった。


 どうやれば扉を開けられるのか三十分以上も費やして、心が折れそうになっていたときを見計らったかのように現れたロボットに対して、どう反応すれば良いのか分からなかった。あまりにも都合の良い展開に冒険者の経験が罠ではないかと囁く。


 だが、一歩先んじたのは冒険者で無いが、冒険者よりも強い魔人だった。


「おや。貴方達は行かないのですか?」


「クリストフォロス」


「行かないのでしたら、私はお先に行かせてもらいますよ。研究所までの道案内という協定は履行しました。あとは、北方大陸に居る間は手出しを禁ずるという協定だけで、ここからは自由行動ですから。目的を果たすのも大事ですが、『科学者』の研究所ともなれば、色々と面白い物が転がっているかもしれませんからね。興味が尽きません」


 冷然とした面持が多いクリストフォロスにしては珍しく、どこか興奮した素振りを見せつつ、ロボットの後を追った。


「やばいな。アイツを一人で行かせたら、不味い気がする。急ぎましょう」


 レイが促すと、《ミクリヤ》と《神聖騎士団》の面々は転がるように研究所の中へと入っていた。


 全員の入室を確認して扉が閉まると、空調が動く微かな音だけが響き、太陽のように明るい室内に戸惑いの声が続いた。


「これは金属製の壁と床、でしょうか? それにしては、随分と感触が違いますね。私達の使っている鋼とは違う素材なんでしょうか」


「なんていうか、技術力の差を見せつけられている感じがするわね」


 リザとシアラが研究所の内部を見て、率直な感想を口にした。


 確かに、と目にした光景に頷く。


 白い壁は艶やかな光沢を放ち、天井にはライトを埋め込み、眩い輝きを落とす。塵一つ落ちていない床は滑らかで、エルドラドの職人を集めても再現するのは難しい。


「中世から近世ぐらいの文明に、近代を飛ばして現代風のデザインの研究所なんてやり過ぎだろう」


 レイが呟くと、横に立つクロノも思う所があるのか頷いていた。


 どうやらここは、研究所の出入り口で、左右と正面に向かって通路は延びている。視界の範囲でも曲がり角がいくつも続き、全体でどれだけ広いのか見当も付かなかった。案内役のロボットと共にクリストフォロスは奥へと進んでいた。


「ちょっと、待ちなさいよ、クリストフォロス。ああ、もう。主様とローラン様の介添えは、エトネとヨシツネに任せるわ。クロノとレティは護衛を。あとの皆で、アイツを追いかけるわよ。それでいいかしら?」


「妥当な線じゃな」


 シアラの指揮に従い、レイ達は二手に分かれた。


「それでは、拙者がローラン殿を背負いましょう。エトネ殿は主殿を」


「うん、おんぶする。乗って、おにいちゃん」


「いや、流石に背負われなくても歩けるぐらいには回復したよ。でも、そんなに早く歩かないでくれよ」


「御意」


 クリストフォロスを追いかけた一行を追いかける形でレイ達も歩きだした。


 廊下は曲がり角や部屋の入り口がいくつもあったが、《神聖騎士団》の槍使いが先頭と後続を結ぶように中間で行き先を指示してくれるため、迷うことは無かった。


 だが、エルドラドでは見慣れない、それでいて御厨玲の記憶を刺激する風景に心が動揺してしまう。柔らかな白を基調とした壁や清潔感のある廊下は、大きな病院に似ているなと思う。


 レイやクロノ、ヨシツネは別の世界の知識があるため、そこまで驚きはしない。ヨシツネにしてみれば、本来の世界よりも進んだ技術なのだが、自分の世界と大きく違った技術に対する耐性はエルドラドに来たことで得ているそうだ。


 だが、残りの二人は違う。レティとエトネは迷宮を潜るよりも緊張している。


 センサーに反応して開く扉や、壁全体がディスプレイとなった道案内の表示、歓待用ロボットとは違うタイプのロボットとすれ違うたびに飛びあがらんばかりに驚いている。実際、靴裏と床が僅かに浮いていた。


 二人の面白い反応をこっそりと楽しむのも終わりを迎えた。廊下の中ほどで扉が自動で閉まらないように押さえている盾使いの横を通り、レイはクリストフォロスたちに追いついた。


 室内はこれまでに覗いた部屋のなかでも狭くて殺風景で、家具や備品などは全くない。部屋の奥に人が一人寝そべる台が置かれ、その向こう側に歓待用ロボットが待ち構えていた。


 部屋の中の風景が、何かの風景に似ていて、レイは戸惑いを覚えた。


「えっと、これはどういう状況なんだ?」


 戸惑いながらも尋ねると、入り口近くを陣取っていたシアラが答えた。


「どうやら、この部屋でポラリスを修復する……みたいなの」


「そうなのか。こんな何も無い部屋で修復できるのか」


 頭の中で思い描いていたのは素材や工具が所狭しに置かれ、ロボットアームやコードがジャングルの森林のようにあちこちから伸びている作業部屋だ。もっとも、これは御厨玲の中にある漫画やアニメの知識だけで、実際のロボット開発の現場はこんな風にシンプルなのかもしれない。


「ミスター・レイ。現在、ポラリスハ通常ノプロトコルトハ異ナル形デ運用サレテイマス。ソノタメ、コノ台座ノ上ニポラリスノパーツヲ全テ置イテクダサイ」


「この上にパーツを置いたら、ポラリスの修復は始まるのか」


「ハイ、ポラリスノ再起動シークエンスガスタートシマス」


 一瞬、疑問が脳裏を過るが、疲労困憊のレイは言われるがままにポラリスの頭部やパーツを全て台の上に並べた。


 瞬間、長方形の台座に置かれた頭部が、なぜか皮膚と肉が剥がれ落ちた頭蓋骨のように見えた。


「これで全部だ。学術都市の戦いが終わった後に回収できた全てのパーツだ。それで、ここからどうするんだ。ポラリスの頭部から記憶を保存している部品でも抜き取るのか」


「イイエ。隠密潜入プロトコル中ノデータリンクハ随時行ワレテオリ、魔法デ形成サレタ空間内ノ戦闘ログマデ全テ保存サレテイマス。コチラノレムナントハ廃棄処分イタシマス」


「レムナント……廃棄処分!?」


「ハイ」


 部屋に響いたブザーの音が合図だった。台座がゆっくりと沈下していくと、ポラリスのパーツを飲み込んでいった。床が閉じる直前、はるか下に見えた頭部が炎に巻かれているが見えた。


 途端、この部屋の雰囲気が何に似ているのか分かった。


 火葬場だ。


 頭部が骸骨に見えたのは、置いた台が焼けた遺骨を並べる台に似ているから、直感的にそう思えたのだろう。


 眼前で起きたことがとっさに理解できず、麻痺した思考回路が客観的な分析をしていた。我に返った時にはすでに遅い。龍刀の炎を扱うようになったから、床一枚隔てた足元で渦巻く炎が、どれほど高温なのか理解できる。


 龍の放つ息吹に近い炎だ。パーツを回収するのは無理だろう。


「……いやいや、待った、待った! ポラリスを修復するんじゃないのか? 燃やして……処分したのか?」


「ソノ通リデゴザイマス。複合術式ニヨル疑似的ナ赤龍ノ息吹ハ数秒デ数千度ニ達シマス。戦闘用端末ヲ構成スル部品トイエド、防御機能ヲ発動シテイナイ状態デハ耐エラレマセン」


 水が高いところから低いところへ流れるのを説明するかのように、ロボットは淡々とポラリスのパーツを破壊したことを語った。混乱した頭では聞きたいことが山のようにあったのに、口から言葉が落ちなかった。


 代わりに、シアラが冷静な声色で尋ねた。


「ねえ。さっきアンタは、いまのポラリスは通常とは違う、って言ったわよね。あれはどういうことなのか説明してちょうだい」


「承リマシタ。本来、ポラリスハ対魔法工学兵器用兵器ノタメ、通常ノ運用プラン、及ビプロトコルハ破壊ト帰還ガ最大ノ目標トナッタ戦闘用プロトコルガ適用サレテイマシタ。デスガ、現実ノ戦闘ハママナラズ、予期セヌ強者トブツカリ、時ニハ敗北シ行動不能ニ陥ルレアケースモアリマス」


 クリストフォロスが笑ったのは、数少ないケースに自分の主が該当したのが誇らしいのだろう。


「我ラガ創造主『科学者』ノーザンハ、ポラリスガ機能停止マデ追イ詰メラレ、戦闘用端末ガ何者カノ手ニ渡リ、解析サレ、魔法工学ノ兵器トシテ転用サレルノヲ警戒シテイマシタ」


「道理ではあるが杞憂じゃな。黄金時代から現代にいたるまで、ノーザンを越えた天才は現れてはおらん。仮に、『機械乙女ドーター』を確保できたとしても、研究がそこまで進むとは思えんな。」


「ノーザンガ恐レタノハ、人ノ繋ガリデス。ポラリスノ研究ガ世代ヲ越エテ受ケ継ガレテイケバ、ドンナ凡庸ナ研究者デモ、イズレハ彼女ニ匹敵スル兵器ヲ生ミダスダロウト予測シテイマシタ」


「孤高の天才の割に、随分と人間の繋がりを危険視しておったのう」


「創造主ヘノ賛辞トシテ頂戴イタシマス。ノーザンハポラリスガ敗北シ機能停止ニ陥ッテ回収ガ不可能ダト判断シタ場合、次ノ戦闘用端末ヲ起動サセルヨウニ、プロトコルヲ設定シマシタ」


「……何だって? 次の戦闘用端末だと。ポラリスには……予備があるのか?」


「予備ト呼称スルノハ、ニュアンスガ違イマス。ポラリスハ対魔法工学兵器用兵器。想定スルエネミーハ常ニ魔法工学ノ兵器ヲ所持シテイマス。通常ノプロトコルデハ自己ノ安全ト任務ノ成功ヲ優先シテ長距離カラノ空中爆撃ヲ行ッテイマスガ、状況ニヨッテハ接近戦トナリ反撃ニアイマス。マタ、稼働時間ハ短イトハイエ、戦闘用端末ヲ構成スルパーツモ摩耗シ、劣化モシマス。ソノタメ、当研究所ニハ私達ノヨウナコミュニケーショント雑務ヲメイントシタロボットノ製造、修復ライントハ別ニ、ポラリスノ戦闘用端末ノパーツヲ製造、修復スルラインガアリマス」


 一度言葉を区切ると、ロボットはタイヤを回転させ、音もなく床を滑る。狭い部屋に集まった冒険者たちとぶつかる事なく通り過ぎると、廊下へと出た。


「イマカラ、ポラリスノ戦闘用端末ノ組ミ立テガ開始サレマス。興味ガアル方ハ、ゴ案内イタシマス」


 そう言って、案内されたのは別の部屋だ。先程の火葬場に比べれば部屋は倍以上に広いが、天井から蔦のように伸びているロボットアームのせいで狭く感じられる。


「なんだろう。触手を振り回すモンスターみたいで不気味だよ」


 モーター音を響かせ、火花を散らして作業する腕だけのロボットを見て、レティが少しだけ後ろに下がる。リザやシアラも同様なのか、顔色は優れない。興味深そうに見ているのは、マクスウェルとヨシツネや、《神聖騎士団》の男衆ばかりだ。


 ロボットアームが複雑な部品を手早く繋いでいく。何処からか集まったサポートロボットが必要な部品

や、あるいは不要な部品を運んでいると、あっという間に四肢が完成した。遠目でも、白磁の器のように滑らかで、水を弾くような生気を感じられる。人工皮膚を剥がせば、先程まで見ていた鋼鉄の中身が出てくるのを知っていながら、あれが生きた人間の手足としか思えなかった。


 そして、既に完成された胴体に四肢が繋がる。ノーザン・オルストラは完璧主義者だったのか女性美に溢れたボディラインは非常に艶めかしく、小ぶりながら主張する双丘の先端には―――そこまで見た所でレイの視界がリザによって覆われてしまった。


「駄目、駄目です、レイ様! 女性の裸をまじまじと見るのは駄目です!」


「いや、女性といってもポラリスは作り物だから」


「とにかく駄目です! ……なんなんですか、あの曲線。『女帝』のように肉感的じゃないのに、同性なのに目が離せなくなるなんて。……むぅ」


 途中から何を言っているのかレイには分からなかったが、周りの反応からするとポラリスの裸身は作り物とは思えない圧倒的な美の塊なのだろう。


 ようやくリザの拘束が解けた時には、燃えて消えたのと瓜二つの頭部が首と繋がり、その下は清楚さを感じさせるメイド服で身を包んでいた。


「……なんだよ」


「いえ、別に」「なんでもないわよ」「お気になさらず」


 突き刺さる視線に文句を言えば、リザはそっぽを向き、シアラはニヤニヤと揶揄うように笑い、クロノはどこか伏し目がちにちらちらとこちらを見る。


 なにか言いたいことがあるなら言えばいいのにと思いつつ、レイは案内役のロボットに声を掛けた。


「これでポラリスは復活するのか。それとも、新しいポラリスが誕生するのか」


「ポラリスノログハ二十四時間常ニバックアップガ取ラレテオリ、衛星ヲ介シテコノ研究所ニ蓄積、保存サレマス。記憶ノ連続ニ齟齬ハ無ク、常ニ同一ノ存在トシテ復活シマス。コレカラ、記憶ノダウンロードガ始マリマス」


「僕たちと一緒に戦ってくれたポラリスが蘇るのか。こんな形で復活するなら、僕達が北方大陸にまでくる必要も無かったのか。学術都市でポラリスのパーツを破壊すれば、彼女は自動的に復活していたんだろ」


「ソウデハアリマセン。今回ノケースニオイテ、ポラリスハ該当地域ノ危険性ト重要性ヲ鑑ミテ、戦闘用端末ノ設定プロトコルヲ戦闘用カラ隠密潜入用ニ切リ替エテイマシタ。隠密潜入用プロトコルデハ機能停止ニナル前ニ撤退スルノガ義務付ツケラレテイマシタ」


「でも、ポラリスは黒龍の炎から僕達を守り、機能停止になったじゃないか」


「コチラトシテモ、予想外ノ結果トイエマス。戦闘用端末ガ自己ノプロトコルヲ変更シ、ノーザンノ定メタ原則ヲ無視スルトハ。結果トシテ、戦闘用端末ガ機能停止二陥ルモ廃棄シークエンスニ移行デキズ、マザーモ沈黙シテシマイ、ミスター・レイガ到着スルマデ何モデキズニイマシタ」


「マザー? マザーって誰なんだ?」


 新しい固有名詞に疑問を抱いたレイに答えたのは、ロボットでは無く部屋の天井にあるスピーカーからだった。


『挨拶。初めまして、ミスター・レイ』


 その声に最初に反応したのはリザだった。学術都市の戦いにおいて、多くの時間を共にした彼女の耳朶には、作り物とは思えない涼やかな声が残っていた。


「この声は……ポラリスですか」


 リザの問いかけに全員の視線が作業台の上で眠るように瞼を閉じているポラリスへと注がれた。お伽噺のように眠っている彼女が起きる様子は無かった。


 代わりに、壁に掛かっていたディスプレイの一つが勝手に点くと、モニターの中には作業台に横たわるのと同じ顔の女性が映し出された。


『肯定。ですが、初めまして、ミス・リザ。『科学者』ノーザン・オルストラの遺産である研究所を統括している対魔法工学兵器用兵器Ω―1、情報分析用内部端末、個体名『機械慈母マザー』ポラリスです』


読んでくださって、ありがとうございます。


次回の更新は7日ごろを予定しております。

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