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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第12章 大陸の果て
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12-28 槍を奪え Ⅱ

 レイとゲオルギウスの戦いが激化する一方で、クリストフォロスも静観しているつもりは無かった。彼も、レイの行動があからさまな罠だと理解し、その上で罠に乗るのも効果的だと考えていた。


 レイ達に隠れながら移動を続けられると、遠隔操作による人造モンスターの捜索だけでは、影を掴むことすら難しかった。そのため、レイがわざわざ姿を見せて舞台に上がってくれるなら、それに乗るべきだろうと考えて、ゲオルギウスの好きにやらせた。


 同時に、彼は残っている全ての人造モンスターを、《アンダンテ・フィールド》前の広場へ集結させるように操作していた。


 無論、レイを捕獲するためだ。


 ゲオルギウスに知られたら、確実に不快を示すだろうが、それこそ知ったことでは無い。より確率が高く、堅実的な方を選ぶのが軍師としての役目である。


 氷の天蓋が砕けたせいで、満足に動かせる人造モンスターは九体。負傷したが治療を施したお蔭で、一応は動かせるのが六体。合計十五体の内、四体はレイに倒されてしまったため、残っている十一体を現場に向かわせていた。


 レイの戦闘力や、ゲオルギウスの昂りから察すると、足手まといになる可能性は高いが、それでも余剰戦力を分散させておくことにメリットを見出せなかった。それに気になることもあった。


 レイ以外の《ミクリヤ》メンバーがまだ見つかっていないのだ。


「レイ以外はどこに居るのですかね。まさか、リーダーを囮にして、先に研究所に向かったとか」


 疑問が口を突いて出るが、答えは返って来ない。ともかく、人造モンスターを急がせようと意識を集中させ―――気づく。


「む? ……これは、奇襲ですか」


 人造モンスターの視界に写るのは、巨大な質量の水を操る少女が、鋼鉄の巨人を締め上ようとする場面だった。


 ディオニュシウスという例外を除いて、人造モンスターは全て自我を持たない肉塊として誕生した。それを誕生と呼ぶべきなのかどうかはさておき、自我を持たない彼らを、クリストフォロスは自身の精神を分離させて植えつけることで、仮の人格を構成。命令を吹き込めば、自らの判断で動くようになった。


 こうして人造魔物部隊は誕生したのだ。


 基本的に、彼らに植えつけた精神は貧弱で、処理能力の低い人格だと与えた数行の命令しか実行できない。だが、こうして直接自分の精神と接続すれば、より多くの命令を指示できるようになる。奇襲に対応するべく、そちらの方へと意識を集中させた。


 だが、手遅れだ。


 進行方向にトラップが仕掛けられていたのだろう。片足が縄に囚われ、関節部分が歯車のような金属に押さえつけられ、水が体内に侵入している。粘液の肉体は切り分けられ、魔石が脳髄から引き千切られると、人造モンスターの命は尽きた。


 同時並列で操作している弊害と呼ぶべきか、トラップを警戒せずに移動させたクリストフォロスのミスと言えた。人造モンスターは作る手間が多少かかるが、損失としては軽微で、失ってもなんら問題は無かった。


 問題は、それが同時に別の場所でも起きていることだろう。


 十一の視界の内、半数で似たような光景が繰り広げられていた。足元をすくわれ、爆発で崩れた建築物に押しつぶされ、長布で関節を縛られ、歯車で分解され。細かく上ればキリがない。


 あっという間に、人造モンスターたちが撃破されていく。


 確実に先手を取られてしまった状況に、クリストフォロスは思考の海に沈んだ。


(どういうことだ。これは間違いなく、《ミクリヤ》のメンバーによる奇襲だ。此方の移動経路を先読みしたのは死に戻りによる情報の蓄積か、あるいは斥候スカウトの功績か。どちらにしても、レイの仲間達はゲオルギウスを相手にするよりも、人造モンスターを倒すことに力を入れている。ゲオルギウスを脅威と見做していないのか?)


 そして、もう一つ。彼には腑に落ちないことがあった。


(姿を見せないのは、精霊剣を扱うジグムントの弟子の末裔。それに、姫様か)






 二つの槍が螺旋の軌道を描いた。


 振るわれる度に風が巻き起こり、穂先が血によって赤く染まっていく。左右の手にある槍を、ゲオルギウスは恐るべき技量で使いこなし、猛攻を続けていた。


 レイの狙いを看破し、槍を二つに分けたが、練磨された魔人の技量に陰りは一点も無い。流石に、両手で振るっていた槍を片手で振り回しているのだから、一撃の重さは弱まっているが、その分、手数が増えている。


 体を軸に上下左右、あらゆる方向から放たれる槍撃は、どれも絶命してもおかしくない威力だ。


 だが、戦いは続いていた。


 レイの流した血が蒸発し、鉄錆のような臭いと熱気が充満する戦場で、ゲオルギウスは己の失策に気づいていた。


「これは一本取られたな。こうなることも織り込み済みだったのか、それとも試していたのか?」


 魔人の瞳は、刃の形をした炎を映していた。


 人造モンスターから奪った魔道具を握るレイは、全身を炎の鎧で固めるのと同時に、周囲に龍刀影打を複数展開していた。ゲオルギウスが二刀流ならぬ二槍流なら、レイは三刀流、いやそれ以上の刃を振るっていた。


 ゲオルギウスの持つタナトスの神杖は、本来の形でなければ権能を発動できない。そのため、二本の槍に分けてしまうと、レイが使う炎の力を消すことは出来ないのだ。


 槍を二つに分けたからといってゲオルギウスが弱くなったことは断じてない。だが、概念殺しの権能が使えないことで、レイが力を自由に振るえるようになったのは事実だ。


 ゲオルギウス優勢なのは変わりないが、それでも炎の刀を自在に操るレイを追い詰めきれない。


 もっとも、両者の力量差が完全に埋まった訳では無い。それまで百あった力量差が、九十になった程度だろうか。


 ゲオルギウスの右の槍が、レイの肩を狙う。瞬間、展開していた龍刀影打が間に入り穂先を受け止めようとするが、槍は炎ごとレイの肩を貫いた。


 苦痛に顔を歪めるレイはすかさず反撃に出ていた。


 貫かれた炎が形を変えると、渦を巻いてゲオルギウスに迫る。そのまま肩を裂こうとしたゲオルギウスは、すぐさま後退を選び、炎の手から逃れた。


 しかし、その炎を突き破り、レイが距離を詰める。左右に展開した龍刀影打が矢のように放たれた。ゲオルギウスは手にした槍で刀を弾くも、懐が空いてしまった。


 それを見越していたかのように一気に距離を詰めたレイは、剣で胴を狙う。だが、重心を後ろに傾けながら放たれた蹴りがレイのこめかみに突き刺さる。


 一瞬、視界が揺れる。


 そのまま崩れ落ちそうになるのを、鎧の推進力で体を支え、更に前進しようとした。直後、本命として放たれた二つ目の蹴りが、レイの体を後ろへと吹き飛ばした。


 ゲオルギウスは槍の柄尻を地面に突き刺し、それを支えに二つ目の蹴りを放った。一つ目の蹴りは、蹴りの威力を最大限に発揮できる間合いの距離を整える、牽制の一撃だった。


 吹き飛んだレイに向かって攻撃を繰りだせるはずのゲオルギウスだったが、魔人は警戒を保ったまま、自分の足に突き刺さった龍刀影打を引き抜いた。蹴られる直前、読んでいたかのように待ち構えていた刀に、足の甲を貫かれたのだ。


 焼けた鉄串で貫かれたような痛みに対して痛覚を遮断し、千切れた神経は他の神経を迂回せて繋ぎ合わせる。魔人として覚醒したゲオルギウスにとって、体の構造を作り替えるのは簡単な作業だ。


「止血をする手間が省けるのは助かるな」


「嫌になるな。どれだけ攻撃しても、こっちには手ごたえらしきものが一つも感じられないよ」


 炎の鎧越しでも判別できる幾つもの創傷を焼いて塞いでいるレイ同様、ゲオルギウスの体にも幾つもの傷跡があった。だが、どれも浅く致命傷とは至らない。


「くははは。それでも恐れ入る。死に戻りによる情報の蓄積は、私の攻撃方法をもその身に刻んでいると見た。一撃を与えるのに、どれだけの手数が必要になるのか、見当も付かんな」


「それはこっちの台詞だ。やっと凌いだと思えたら、超人的な反応でこっちの抵抗を軽々と越えてくるんだから。……本当に嫌になるよ」


 そう、口で弱音を零しつつも、構えを取る瞳は強い意志で支えられていた。


 凄まじい精神力と集中力を発揮して、どうにか喰らいつてくるレイに対して、ゲオルギウスは昂りを抑えられないのと同時に、思考の冷静な部分が警鐘を鳴らしていた。


 同時に距離を詰めたレイとゲオルギウスは剣戟の応酬を繰り広げる。これまでに積み上げてきた技量の全てを出しきろうとするレイの戦いぶりは筆舌にし難く、ゲオルギウスですら受けきれない攻撃もある。刃が肌を舐め、衝撃が内臓を揺らし、苦痛が脳を苛む。


 一進一退の攻防が繰り広げられるも、やはり違和感は拭いきれなかった。


 ―――このまま戦いを続けたとしても、レイに勝ち目はない。


 傲慢な結論ではあるが矛を交えたゲオルギウスにしてみれば、疑いようも無い事実だった。


 龍刀に宿る炎を自在に操り、数多の戦いで磨いてきた剣技は過去に戦って来た強者たちに匹敵する。加えて、死に戻りによって蓄積された情報による先読みと対処によって、攻撃の組み立てが複雑となっている。


 魔法が使えず、概念殺しの権能も使えず、ローランたちとの戦いで負った深手は癒えておらず。ゲオルギウスにとって不利な要素は幾つも重なり、レイが積み上げてきた有利な要素が実力差を埋めている。


 それでも、実力は圧倒的にゲオルギウスの方が上である。槍を通じて伝わるレイの消耗ぶりからすれば、あと数分も続ければ限界を迎えるだろう。対して、ゲオルギウスは暴風のような連撃を一時間続けても息が乱れることすらあり得ない。


 優勢なのはゲオルギウスなのだが、それが気にくわないのだ。


 学術都市の戦いでレイが死に戻りの力を持っていると判明してから、軍師であるクリストフォロスはレイが関わっている戦いを再度分析していた。


 アマツマラでの赤龍戦。


 シアトラ村地下での『魔王』戦。


 デゼルト国での神前決闘。


 他にも大小さまざまな戦いを分析してみると、レイの本質に迫れた。


 一見すると、《ミクリヤ》は過酷な状況に対して、自身よりも強い者達の助力を借りるか、綱渡りのような作戦を圧倒的な幸運で乗り切ってきたかのように映る。自らの力だけで勝利をしたことの無い、偶然に助けられたパーティーという印象があった。


 だが、それは事象の表面的な上澄みだけをすくった程度の分析だ。そこに、死に戻りというフィルターを通してみれば、全く別の姿が見えてくる。


 《ミクリヤ》の戦い方は、過酷な状況に追いやられても、死に戻りによって状況をつぶさに分析。分析結果から生き残るための勝利条件を設定すると、成功率が極端に低い奇策が成功するまで死を繰り返し、そして、死を積み重ねることで届かなかった奇跡をもぎ取る。


 異常な精神力を有し、定めた勝利条件をクリアするまで諦めることをしない異常集団。


 クリストフォロスは、《ミクリヤ》をそのように表現した。


 つまり、レイはこの状況下における勝利を設定して、この場に立っているはずなのだ。闇雲に死を積み重ね、万が一、億が一の幸運を、エサが降ってくるのを口を開けて待つ雛鳥のような男ではない。


 ―――何をする気なのだ? 仲間が居ないことに、何か意味があるのか?


 レイの苛烈と呼べる斬撃を凌ぎながら、冷静な部分が鳴らす警鐘が大きくなっていくのを感じていた。すると、魔糸で繋がっているクリストフォロスから連絡が入った。


『報告です。此方で操作していた人造魔物部隊が次々と破壊されています。申し訳ありませんが、増援は期待しないでください』


「そんな物を期待したつもりはないのだがな」


『付け加えると、人造魔物部隊を破壊している中に、ジグムントの弟子の末裔と姫様はいません。以上』


 一方的な連絡は、繋がった時と同様にあっという間に切れてしまった。


 龍刀影打を槍の側面でいなし、足元から噴き出した炎を大きな動作で避けつつ、思考はクリストフォロスからもたらされた内容に向けられた。


 レイの援護をせずに、人造魔物部隊を強襲するのは、明らかに計画的な動きだ。だが、その真意までは分からない。


 首を狙って振り抜かれた剣を槍で受け止めると、同時にレイの右膝蹴りがゲオルギウスの脇腹に突き刺さる。ローランに切り裂かれた傷口が開くも、ゲオルギウスは表情を変えずにレイの脇腹に槍を突きたてた。


(レイの援護を誰もしないのは、《ミクリヤ》にとって私とレイの戦いの重要度はそれほど高くないのか。……大駒の使い方がこちらと違うのか)


 滅んだアトス国を舞台にしたこの戦いにおいて、ゲオルギウスという大駒は最終防衛ラインを動かず、レイ達を一方的に破壊できる大駒であった。だが、《ミクリヤ》はレイという重要かつ失ったら危険な大駒をワザと前線に送りこんだのだ。


 そうなれば、当然のようにゲオルギウスが動くと分かっていた。言い換えれば、ゲオルギウスはレイが姿を見せたことで、誘導されてしまったといえる。


 豪腕が唸り、レイの体は弾き飛ばされた。開いた距離を詰めてくるだろうと予測した少年は、しかし、動きを止めたゲオルギウスに嫌そうな顔を向けた。


「そういうことか。……貴様の役割は時間稼ぎか」


「本当に嫌になるよ。どうして毎回毎回、正解するのかね」


 嘆息を吐くレイは、しかし、不敵に笑った。


「だけど。今回は気づくのが遅かったようだ」


 言葉と同時に、レイの体から精神力が立ち上り、その力が右手に集中する。


「《砕拳》!」


 振り上げた拳はゲオルギウスではなく、自身の足元に向かって落ちた。力は昇華され、戦技が発動する。広場の表面が見えない刃を受けたかのように薄く亀裂が走るのだ。


 不可解な現象にゲオルギウスは警戒心を最大限に引き上げた。


 この都市は、全てが魔道具化している。崩れた建築物や生活雑貨や家具。当然のように、地面を舗装している煉瓦ですら、魔道具として強化されている。


 レイとゲオルギウスが戦っていたからといって、戦技一つで表面が割れるほど脆くは無いのだ。


 あり得ざる光景を前にして引き上げた警戒心が、もう一つの異変に気づかせた。


「なに―――ッこれは!?」


 空気が変わった。穏やかな気候が、一瞬にして炎の海に頭まで浸かったかのような熱気が辺りに充満していた。


 異様な熱気が足元から全身へと駆けあがっていく感覚に、この広間にあった熱気が、レイの炎とは別の熱だったことを理解した。


 直後、戦技で表面が脆くなった地面が割れ、明るいオレンジ色の炎が間欠泉のように吹き上がる。


 魔法だ。それも旧式超級魔法相当の威力。


「くっ、舐めるな!」


 ゲオルギウスは足元から自分を飲み込もうとする猛火に対して、手にした槍を一つに戻した。二つの槍を融合させたかのようなデザインのタナトスの神杖は、炎をあっさりと打ち消す。概念殺しの権能が戻ったのだ。


 炎が噴き上がり出来た穴は脆くなった影響から口を広げていく。逃れるように下がったゲオルギウスは、穴の淵で薄く笑う。


「地下からの奇襲とは驚かされ―――ッ!!」


 驚愕のあまり、言葉が途切れ、笑みが凍る。


 魔法で地中を掘り進めたのだろう。穴の中から魔法を放ったと思しきシアラの傍に、薄紅色の極光を従えたリザの姿を視認する。既に、斬撃は放たれている最中で、地の穴から天に向かって、光帯が打ち出された。


 同時に、視界の端で緋色の残像となって迫るレイの姿を魔人は捉えていた。


 息の揃った同時攻撃による第二の奇襲。一つ目の奇襲を辛くも回避したゲオルギウスにとって、それは回避不可能なコンビネーションだった。


「取ったッ!!」


 勝利を確信したレイの気勢が上がった。


読んで下さって、ありがとうございます。


次回の更新は3月2日頃を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] しに戻る度に強くなる異常集団の恐ろしさ。 [気になる点] 魔法は使えるのか使えないのかはっきりしない点。 地中なら可能なんでしょうか? だとすると、都市と魔人の設定的にゲオルギオスらが知…
[良い点] 死に戻りについて敵側の検討の深さも表現されていて、 高まった読み合いバトル要素がより大きなワクワク感を与えてくれる。 [一言] やったか…!?
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