12-22 黒と緋色の焔
伸ばされた右腕と金色の瞳で見た光景が重なる。レイがやろうとしている事をすぐに理解できたシアラは、信じられないとばかりに叫んだ。
「正気なの、主様! 右腕を凍らせて龍刀の熱を耐えるつもり!?」
シアラの言葉を聞いた者達が表情を変え、レイの方を向いた。彼の口から、否定の言葉を聞きたいとリザは尋ねた。
「……シアラの言っている事は本当でしょうか、レイ様。まさか、本気で?」
だが、返ってきた言葉は彼女の願いとは違っていた。
「ああ、本気だ。本気で、僕はこの右腕を凍らせてくれと言っているんだ」
「右腕を凍らせたからといって、龍刀の熱を防げるとは限りません」
「いや、可能性はあるんだ。もう、試している」
レイはイチェルが話を聞いているのを警戒して内容をぼかしながら、一周目にあった出来事を語りだした。
「魔法で召喚された水の体の蛇に飲み込まれた時、僕は龍刀を抜いた。完全に抜き放った訳じゃないが、その熱で水は一気に蒸発して脱出できた。その時は気が急いてたから気づかなかったが、龍刀から腕に伝わる熱が大量の水によってかなり弱くなっていた。実際、右腕は火傷程度で済んだ」
ゲオルギウスの召喚した水の蛇から脱出した時、レイの右手は真っ赤に腫れあがっていた。重度の火傷で、普通ならば効果の高い回復薬が必要なほどだが、進化した龍刀が与えるダメージとしては軽度と言えた。
「氷で腕を保護すれば、龍刀の熱を防いでくれる。そうすれば、龍刀の斬撃が放てるようになるだろ」
「確かに入り江での戦いの時のように、龍刀の斬撃でしたら遠くのゲオルギウスまで届くかもしれませんが……どちらにしてもレイさんの腕が無事じゃ済まないのでは? 右腕を凍らせるなんて」
「その通り。いくらなんでも無謀すぎるよ」
《ミクリヤ》の中で誰よりも医療の知識があり、回復役として仲間を支えるレティが、レイのやろうとする事がどれだけ無茶なのかを説明する。
「龍刀の放つ熱を防ぐだけの氷で右腕を保護したら、途端に血流が収縮して部位が凍っちゃう。凍傷は細胞の壊死だから、回復魔法でも完全に治療するのは難しいんだよ。神経組織が駄目になったら、その部分はいずれ腐敗化するから切断しなくちゃいけない」
「龍刀の熱を耐えられても、氷に耐えられずに右腕が駄目になるという訳ね。言っておくけど、龍刀の熱を数秒間耐える氷を生みだせる魔法なんて、《アイスエイジ》しかないわ。でも、《アイスエイジ》で生み出した氷は、私の意志で簡単に消えないわ」
仮に、レイの目論見通りに氷が熱を防いだとしても、今度は氷によって体温が奪われてしまい、右腕を失うリスクがある。
龍刀の熱を防げる強力な氷は、簡単に砕けるとは思えなかった。
「でも、君が視た未来で僕が凍った右腕で龍刀を抜いているのは間違いないんだろ。だったら、それを実現するのが未来を切り開く可能性かもしれない」
「忘れたの? ワタシの未来予知は、これまで不吉な未来を知らせてきたのよ。今回視た未来が今の状況を変える方法だとは限らないわ」
真っ向から意見が対立するレイとシアラ。二人の間に険悪な空気が立ち込め、仲間達はどうするべきかと思案する中、意外にも声を上げたのはパーティーの中でも年下の少女だった。
「あのね。ちょっと、いい?」
「エトネ? 悪いけど、この向こう見ず主様の目を覚ますのに忙しいから話は後にして頂戴」
「ううん、と。……いいから、こっちの話を聞きなさい、人間」
スイッチを切り替えるかのように喋り方が変わった。レイとシアラがエトネの方を向くと、彼女の瞳の虹彩が青く縁どられているのに気づいた。
エトネの中に宿るハヅミが表に出ているのだ。
「この子の中から話を聞いてたわ。要約すれば、龍刀の熱を防ぐ氷の冷気で腕を凍らせないようにしたいのでしょう」
幼さの残るエトネとは違った口調でまとめると、彼女はレイの方へと近づく。
「その通りだ。それで、ハヅミ。君がわざわざ出てきて、そんな事を聞いたのは、もしかして」
期待を込めて尋ねると、エトネの体を借りているハヅミは、鷹揚に頷いて見せた。
「ええ。出来るわよ……多分」
「最後に自信なさそうに付け加えるなよ。それだけで不安が増すだろ」
「だって、仕方ないじゃない。理論上は可能というだけで、実際にどうなるのかは試してみないと分からないもの」
そう言うと、ハヅミはレイの右腕を掴んだ。
「私の水で右腕全体を包み込むの。そして、その上から、人間の魔法で氷の保護を作りなさい。龍刀の熱は氷が受け止め、氷の冷気は私の水が受け止めるわ。水の温度が、氷点より下にならないように調整すれば、凍傷は免れるでしょう?」
「……冷えた血液が体中を巡って低体温症を引き起こす危険性はあるかもだけど、直接氷で覆うよりかはずっとましだね」
それでも危険だと、レティは表情で訴えていた。
「勿論、今の状態じゃ、そんな高度な水温調節は出来ないわ。きちんと召喚されないと無理。だから、指輪の魔力を一度使いきることになるわね。それでもいいなら、やってみる?」
「ああ、頼む」
「主様ッ!」
即答したレイに対して、シアラが焦りを滲ませて叫んだ。
彼女にしてみれば、これまでに予知した未来は、どれも不吉な未来を示唆していた。今回も、同じという可能性が拭いきれず、拭いきれない不安が全身に絡みついていた。
だが、レイは意見を変えようとはしなかった。
「君が心配する気持ちは分かる。でも、今は試せることは全部やっておきたいんだ。相手はあのゲオルギウスだ。このまま死を積み重ねても、アイツに届くとは思えない」
これまでの自分を否定するかのような発言に、シアラはレイも不安を抱えていることに気づいた。
死に戻りの力を知られ、仲間の命を狙われ、技能の限界が近い。
これまで戦って来た強敵とは別の意味で、ゲオルギウスとの戦いは生死の境にある。
深いため息を吐くと、シアラは折れた。
「……分かったわ。やってみましょう」
喜ぶレイに対して、彼女は念を押すように告げた。
「でも、絶対に無茶はしないこと。意識を失うのもナシだから!」
「うん、分かってる。それじゃ、ハヅミ。よろしく頼む」
「じゃあ、エトネに返すわね。後は任せたわ……うん、分かった」
青い虹彩が消えると、体のコントロールはエトネに戻った。
そのまま指輪の魔力を使ってハヅミを召喚しようとしたが、それに割って入ったのはリザだ。
「待ってください。まだ、問題があります。というよりも、このままでは意味がありません」
「どういう意味だい? まさか、龍刀の一撃でもゲオルギウスに通じない、とかか?」
「正しく、その通りです」
軽く言ったつもりが、至極真面目に肯定され、逆にレイが戸惑ってしまう。
「……いや、流石に龍刀の一撃ならゲオルギウスも受け止めきれないだろ。万全の状態ならまだしも、手負いのアイツなら」
「はい。私もその点に関しては同じ考えです。しかし、龍刀の一撃は、どれだけ凄まじい物でも炎による斬撃に変わりありません。言ってしまえば、龍刀影打と同種ではありませんか。なら、ゲオルギウスの槍によって破壊されてしまいます」
リザの指摘にレイは言葉に詰まった。
確かに、龍刀の一撃は炎を斬撃の形に圧縮して放つ。ゲオルギウスの持つ、タナトスの神杖とは相性が悪いのだ。
「龍刀は引き抜いた瞬間から、とてつもない力の奔流があふれ出します。ゲオルギウスほどの強敵なら、たとえどれだけ距離があっても、見過ごすはずがありません」
「槍を構えられたら、策を講じて放った一撃も無効化されて終わり、って訳ね」
シアラの出した結論が、全員の中で容易に想像できた。
再び、重たい沈黙が《ミクリヤ》に覆いかぶさる。
一度は光明を見出せたかと湧いていたが、実現したとしても意味が無いと判明してしまった。一度上がった状態から、叩き落とされた分、余計に落胆を感じて沈痛な表情を浮かべていた。
すると、クロノがあることに気づいた。
「そういえば、どうしてなんでしょうか?」
「どうして、ってなにが?」
「いえ。シアラさんが視た未来予知の場所は、この斜面の下でしたよね」
クロノの確認にシアラは頷いた。《ラプラス・オンブル》が見せた光景は、斜面を降りたレイが凍った右手で龍刀を引き抜く場面だった。彼女は、それを尾根の辺りから見下ろしている。
「どうして、こんな場所なんでしょうか? エトネさんとシアラさんが協力すれば、もしかしたら一度は龍刀を抜けるかもしれません。でしたら、こんな遠くから抜き放つのではなく、ゲオルギウスの近くで抜き放つべきです」
「言われてみれば、変よね。近い方が、確実に命中できるもの」
「ゲオルギウスの間合いで抜くのが難しいからではござらんか? 氷漬けの腕では刀を抜くのも容易ではないかと」
「そうね。……あるいは、ここじゃないといけない理由がある、とか」
考え込むシアラは自然と歩きだしていた。
《ラプラス・オンブル》で視た未来の光景と一致する場所を探し、その場所から直接風景を見れば何かが掴めるかと考えたのだ。
その場所はすぐに見つかった。
緩やかに伸びる斜面の先に、万年氷と呼ばれる分厚い氷が張った湖が広がり――――。
「―――あっ」
思わず声が出てしまった。
脳裏に浮かんだ可能性。そのあり得なさに、戸惑いと驚嘆の声が出た。
こんな事を思いついてしまったのは、やはり未来を視てしまった弊害だろう。
ある意味、ゲオルギウスを直接狙うよりも効果的かもしれないが、その後がどうなるのか全く予想が着かない。
例えるなら、今まではゲオルギウスが敷いたチェスの布陣を、どうやって攻略するか一手ずつ試していた。だが、シアラが思いついたアイディアは、文字通りチェス盤をひっくり返す。良くも悪くも、どうなるのか分からない。
口を押え、思いついた可能性を秘密にしようとするも、斜め下からの視線を感じてそちらを見れば、無垢な萌黄色の瞳と視線がぶつかった。
「……あっち行きなさいよ、おちび」
言うと、珍しくエトネは素直に指示に従った。
凍って滑りやすい地面を草原のように軽やかに進み、レイの裾を引っ張った。
「ねぇ、シアラおねえちゃんが、何かおもいついたみたいだよ」
「おちび!」
「本当かい、シアラ」
叱責の声は時遅く、レイを含め全員の視線がシアラに集まった。
「どんな方法を思いついたんだ?」
「……相当、荒唐無稽で、成功したからといってどうなるのか、予想もつかないわよ」
「構わない。いまは、どんな思い付きでも言ってくれ」
真剣なレイの眼差しに、シアラは観念したようにため息を吐いた。
そして、指先を斜面の先に向けた。
「氷よ」
「……はぁ? そんなの、見れば分かるだろ」
レイは何を言っているのか分からないとばかりに首を傾げた。
予想できた反応に、ほらね、とシアラは心の中で返して、続きを説明した。
「主様の一撃で、あの氷を破壊するのよ。ここから、少なくともゲオルギウスのいる場所まで」
口にしてから自分がとんでもない事を口にしているなという実感を味わいつつ、この作戦が《ミクリヤ》好みであるのも理解していた。
「ね? とんでもなく荒唐無稽で、無茶苦茶な話でしょ。万年氷と呼ばれている湖の氷を砕いて、それでどうなるのかなんて誰も予想できないし、意味があるとも思えないわ。こんな思い付き、止めておきましょう」
一気にまくし立てて否定するも、湖を見つめるレイの横顔は、覚悟を決めていた。
「……なんて、ね。……その顔からすると、やる気なんでしょ」
「ああ。予想もつかない。うん、そこが良いね。僕等にとって予想もつかないような事態なら、ゲオルギウスも予想していない可能性が高い」
ゲオルギウスの裏を掻くという一点においては、この作戦は非常に効果的だといえる。
「とりあえず、やってみようか。エトネ、シアラ。お願いできるかな」
名前を呼ばれたシアラは盛大にため息を吐きつつ、自分の役目に集中する。宣誓を唱え、《アイスエイジ》の詠唱に入った。
同時に、エトネは指輪に祈りこめるように呟いた。
「お願い、《ハヅミ》!」
名を呼ばれ、指輪の魔力を媒介に《ハヅミ》が北方大陸に顕現した。
様子を窺っていたイチェルは、超級精霊の登場に圧倒され呆然としている。その間に、リザやレティの手で、安全な後方へとキュイと共に下げられた。
水の体で顕現した《ハヅミ》は自身の腕を切り離した。水の塊がレイの右腕の肘から下を包み込む。
ぶよぶよとした水の塊は、弾力性に富み、水風船のような柔らかさがあった。
『私の体を分け与えたから、精密な水温調整が可能よ。あと、癒しの効果も含んでいるから、ある程度の痛みも緩和されるはず。それでも、危険な賭けには変わりないんだから。注意しなさいよ』
脳に直接語りかけるような《ハヅミ》の忠告にレイは頷いた。
タイミングを同じくして、シアラの呪文も完成した。表情は険しく、僅かに脂汗を浮かべている。
本来なら、《アイスエイジ》は視界の範囲を一瞬で氷漬けにする範囲攻撃型呪文だ。広範囲に向けて発動する魔法を、右腕だけに限定するのは非常に集中力を必要とする作業である。
「いつでも発動できるわ。だから、早く準備をして」
「準備って言われてもな。僕はどうすればいんだ。未来予知で視たんだろ。それを教えてくれ」
言われ、シアラはもう一度未来の光景を思い出す。
斜面を降りたレイは、奇妙な構えを取っていた。
腰に佩いていた龍刀を鞘に納めたまま、左手で掲げ、氷漬けになった右手で柄を掴んでいた。
視た光景をそのまま伝えると、レイは同じポーズを取ってみせた。
「なるほど。右腕を凍らせるから、可動域が狭くなるし、手首を返すこともできない。左手で鞘を持てば、鞘を抜くのと同時に右腕を振り下ろせるという寸法か」
「そうね。あとは……柄を直接握らないで。僅かに空洞を作ってね」
「未来の其方から情報を引きだし、参考にするなど、あのオルタナと同じような事をしておるの」
見物とばかりに前に出てきたコウエンを無視して、シアラは準備の出来たレイに魔法を放った。
「《アイスエイジ》!」
時代を凍らせた氷が、レイの腕に絡みつく水に向けて放たれた。晴れた空を雲が高速で埋め尽くす映像のように、あっという間に氷がレイの腕を包み込んだ。
「龍刀の、柄の部分と、掌を、氷で繋げたわ。直接、触れるよりも、こうした方が、熱の伝導が、ちょっとでも、治まるでしょ」
少女は細い方を何度も上下させ、息を整えようとしている。地面に向かって落とした針でアリの目を貫くような、常識外の集中力を要求された疲労が一気に押し寄せているのだ。
左手で鞘を掴み、氷で柄と繋がっているという間抜けな図だが、レイは気にすることなく感謝の言葉を告げた。
「ありがとう、シアラ。レティ、彼女を頼む。それと、余波を防ぐために防御魔法を展開しておいてくれ」
そして、斜面を滑るように降りて行った。
彼には急がなければならない理由があった。時代を凍らせるほどの氷とまで呼ばれている《アイスエイジ》だが、既に溶け始めているのだ。鞘から抜き放っていないというのに、龍刀が熱を発している。まるで、これから自分が暴れられるのを感じ取っているかのようだ。
氷と水の保護は、さながら厚手の手袋で熱した鉄を掴むかのように、マグマの如き熱が侵食しつつあるのを感じていた。
残された時間はそれほど長くないだろう。
青白い氷は光を屈折させ、どれだけの厚みがあるのかさえ不明だ。
レイは細い息を繰り返すと、龍刀を引き抜いた。
左手で鞘を滑らすと、途端に噴き出した汗が蒸発し、皮膚が乾燥した。
黒々と表現するほかない刀身の周囲が蜃気楼めいた揺らめきをする。氷の融ける速度が加速度的に上昇していた。同時に、右腕に向けて耐えがたい熱量が押し寄せる。
レイはそのまま体を回し、湖に向けて叩きつける様に龍刀を振るおうとした。
しかし、その回転は途中で止まった。
これでは、足りない。
どうしてそう思ったのか、理由は定かでは無かった。
ただ、これまでの戦いを通じて培った直感で理解し、どうするべきなのか瞬時に答えを出した。
「《超短文・超級・全力全開》!」
詠唱によってレイの指輪に籠められ魔法が発動した。全身の力が強化されると、意識を集中させ、より多くの炎を効率的に運用する形をイメージする。
魔法で強化された精神力が自然と漏れ出し、龍刀の力と混じり合い、一つの神秘へと形作る。
「《崩剣焔樹》!」
放たれた戦技はサブヴェーニエストラナー湖を覆う分厚い氷の中を幾つも枝分かれしながら進む。もし、誰かが上空から監視をしていたら、湖に稲妻めいた、あるいは樹のような図形が広がっていくのが目撃できただろう。
黒と紅が混じった炎は湖を侵食すると、次の瞬間膨れ上がると、火柱を立てながら内側から分厚い氷を焼き切った。
レイの持つ戦技《崩剣》は、斬った箇所から対象を崩す。それと全く同じ事が、サブヴェーニエストラナー湖に起きたのだ。
まるで、子供がクッキーを手で割るかのように、轟音を立てて氷が砕けていく。同時に、レイの視界を埋め尽くすかのように白い煙が噴き出した。
煙の正体は大量の、そして高温の水蒸気だ。
当たり前の話だ。氷を急速で熱すれば水となり、更に熱すれば蒸気となる。
広大な湖の氷を溶かしたのだから、発生する水蒸気の量は規格外な物となる。水蒸気爆発じみた高温の蒸気がレイを飲み込もうとし―――。
「失礼仕る!」
飛び込んできたのはヨシツネの長布だ。背後から伸びた長布に絡め取られたレイは、後方の斜面を滑るように引っ張られ、直後に展開された魔法の盾と歯車の壁に守られた。
こうなる事を予期して、後方で控えていたレティ達が備えていたのだ。
「あ、危ないでござるな! いやしかし、よもや成功するとは! ……主殿、如何なされた?」
興奮冷めやらぬ様子のヨシツネだったが、レイの様子に首を傾げる。彼は、自分の右手を呆然と見つめていた。
全員の視線が同じ方向を向き、同時に固まった。
シアラが生み出した氷は跡形もなく無くなっており、ハヅミの肉体が辛うじてしがみ付いている。その下にある腕は、防寒具が吹き飛んでおり、皮膚にうっすらと火傷の跡が走っている。だが、原型はきちんと保っていて、龍刀の力を振るった代償としては軽く、無傷と呼んでも差し支えない。
神経がきちんと繋がっているのをアピールするかのように、空の手を何度も繰り返し動く。
そう、空の手なのだ。
右手は何も持っていない。
「主、様? 聞きたくないんだけど、龍刀はどこへやったのよ?」
聞きたくないとばかりに震える声でシアラが尋ねると、レイは至極真面目に答えた。
「落とした」
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