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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第12章 大陸の果て
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12-20 騎士の中身

 レイ達が北方大陸の入り江に到着し、謎の巨大モンスターを撃退した頃まで時間は巻き戻る。


「《ミクリヤ》レイの死に戻りは異常な力であるが、決して無敵という訳では無いという結論になります」


 学者然としたクリストフォロスの言葉は倒れ伏すゲオルギウスの耳朶に届く。激しい戦いの名残が全身に色濃く表れ、息も絶え絶えな魔人は忌々しそうに同胞を見上げた。


「……おい。その話は、今の状態で聞かなければならない話なのか」


「仕方ないでしょう。先刻、此方が偵察兼遅滞兼嫌がらせとして送り込んだモンスターが、あっという間に倒されてしまった。これでは、せいぜい出発を一日遅らせた程度でしょう。今から二週間以内には、彼らが来ますよ。私も暇では無いので、今の内に死に戻りへの対抗策を授けなくては、後の予定に差し障ります」


「だからといって、治療の片手間で話をされてもな」


 倒れ伏すゲオルギウスの損傷は酷い物だった。脇腹は斜めから抉られ地層のような断面を晒し、右腕は場所によって左右別々に捻じれている。肩にある口は、肩その物が吹き飛び、左足は膝の辺りがぽっかりと抜け落ち、足先だけが右足と揃えて並べられている。


 文句を言われたクリストフォロスは、背筋が凍りそうなほど整った美貌を迷惑そうに歪めた。


「暇なんですよ。貴方に回復魔法は効かないから、時間ばかりが掛かってしまい、手持ち無沙汰なんです」


 クリストフォロスの言葉通り、展開する回復魔法が全身の火傷を癒しているが、その治癒速度は非常に遅かった。


 再生される皮膚の速度はナメクジが這うよりも遅く、クリストフォロスの脇には読み終えたと思わしき報告書の束や、調合中の薬品が並べられていた。


「陛下から賜った自己改造と同化の力によって、貴方は他者の臓器や四肢を自分の物とし、必要数以上の臓器を体内に有するように作り替えられるようになった。代償として、回復魔法の効果が効きづらくなって、正直効率が悪すぎます。こうして呼び出されて、終わらない治療に掛かりきりになるのは、いい迷惑なのですが」


「悪いと自覚はしているぞ。動ける程度に治癒が終われば、あとは自力でどうにかする」


「それまでの繋ぎとして私を呼んだわけですか。まあ、見合った戦果を挙げたのですから大目に見るとしましょう」


 クリストフォロスが視線を横にずらすと、戦果の証と呼べるオブジェが聳えていた。青い光を滲ませる天井と相まって、どこか幻惑的な雰囲気を放つそれを眺めていると、ゲオルギウスが先を急かせるように口を開いた。


「おい、話が途中だ。貴様はここに芸術鑑賞にでも来たのか。レイの死に戻り対策をさっさと話せ」


「これは失礼。じつに見事な光景だと、少々見入っていました。……先の戦いで、陛下は『緋星』レイが死に戻りを持っていると確信しましたが、厄介なことにこの確信を裏付ける確固たる証拠はありません」


 なぜなら、とクリストフォロスは続けた。


「死に戻りは発動した瞬間を当人以外は知覚できない。レイ以外の観測者が存在しなければ、研究も対策も手の打ちようがありません」


「……おい。先程の発言と矛盾していないか」


 疲弊した体に怒気を混じらせるゲオルギウスに、クリストフォロスは肩をすくめてみせた。


「こればかりは、どうしようもない事実でしょう。あの裏切り者カタリナでしたら、死に戻る魂を標に時の流れを観測して死に戻りの実証を示すどころか、自己の力として取り込むことすら出来るでしょうが、残念ながら私はそこまで優秀ではありません」


 クリストフォロスはカタリナが去った後のフィーニス陣営において、新技術や魔法の研究を一手に担っている。そんな男が無理だと口にした以上は、本当に不可能なのだろう。


 だが、怜悧な相貌に酷薄な笑みを湛えた魔人は、死に戻りの力に迫りつつあった。


「ですが、過去の結果から死に戻りの力が万能でも無敵でも無く、弱点があることは判明しています」


 死に戻りの弱点と聞き、ゲオルギウスの瞳に興味の色が浮かぶ。


「かつて、陛下は《ミクリヤ》レイと迷宮にて遭遇した際に、レイの仲間である女性を殺しました」


 デゼルト国の王子だったダリーシャスの側近、ナリンザのことだ。


 ダンジョントラップにかかってしまったレイを助けようとして、一緒に迷宮の深層まで転移し、彼を守る為に『魔王』に挑んで死んだ。いまだに、レイの心残りとして癒えない傷はある。


 彼女のことをクリストフォロスが知っているのは、デゼルト動乱の際にレイ達の情報収集をしていたからだ。


「死に戻りの力が万能で無敵ならば、仲間の死という結末はいささか腑に落ちません。というよりも、その時点での最適解は全く違うはずです」


「陛下と遭遇したという事実を死に戻りで無かったことにするべきだと、貴様は言いたいのか」


「その通りです。あの時点でのレイの実力は、中級冒険者と多少は渡り合える程度。赤龍を素材とした特殊な魔道具があったとはいえ、陛下に勝てる見込みもない。なら、陛下と遭遇しないように死に戻ればいい。強敵との遭遇と仲間の死。死に戻りという規格外の力を持ちながら、この結末に至った理由はさておき、死に戻りの力が万能かつ無敵では無いという証拠に他なりません」


 ゲオルギウスも同感なのか、あるいは喋りながら興奮しているクリストフォロスの邪魔をしないためなのか、彼は口を真一文字に閉じた。


「死に戻りが万能でないのなら、殺し続ければ限界が来るはずです。回数制限なのか、死に方なのか、戻れる時間が決まっているのか、あるいはあるいは。もっとも、残念ながら弱点を見つけ出したとしても、死に戻りで見つけた事実を消されてしまえばどうしようもありません。……ゆえに、死に戻りを唯一記憶できるレイを狙うしかありません」


「レイを殺し続け、心を屈服させろというのか。徹底的に死を刷り込ませ、反抗する気力を削ぎ落し、肉体では無く精神をすり潰せと。悪辣非道な策だな」


「おや、お嫌いでしたか? 弱い者いじめは」


「貴様と一緒にするな。私は、私の魂が燃え尽きるまでの死闘を望んでいるんだ」


 六将軍第二席ゲオルギウス。


 彼が『魔王』フィーニスに槍を捧げたのは、いつか彼の元でそんな戦いをして死にたいという願望を抱いたからだ。


 そんな同胞に金色の瞳を向けるクリストフォロス。同じ瞳の色なのに、薄ら寒くなる不気味な気配が漂っている。


「そんな貴方にとって、この対抗策は矜持を汚すかもしれませんね」


「……どういう意味だ」


 訝しむゲオルギウスに向けて、クリストフォロスは告げた。


「狙うのはレイでは無く―――」









 紅蓮の炎が槍のように放たれるも、金属の表面で削り取られる。本来の勢いなら、そのまま貫通して体内から対象を焼き尽くすのだが、見えない膜で遮断されているかのように、炎は力を失ってしまう。


 レイの炎だけでは無い。


 リザの斬撃も、シアラの魔法も、エトネの拳も、クロノの歯車も、ヨシツネの長布も威力を減衰されてしまう。頭からつま先まですっぽりと覆っている鎧全体が、魔道具としての力を発揮し、あらゆる攻撃を減衰させていた。


 魔道具なのは鎧だけでは無い。


 人の背丈ほどある大剣は炎をまき散らし、槍は伸縮自在に長さを変え、大斧に切られると傷口が勝手に広がる。どれも魔道具として恐るべき能力を宿していた。


 鎧騎士たちの連携も厄介だ。


 二十体以上の生物が、まるで一個の生命体かのように一糸乱れぬ動きで立ち回り、金属の塊とは思えないほど素早い動きを披露している。


 ゲオルギウスを除けば、この北方大陸で最も手ごわい敵だろう。


 だが、戦況は明らかにレイ達が優勢だった。


 炎が巻き起こると鎧騎士の体は高々と空へと持ちあがり、重力に捕まると氷上に叩きつけられて動けなくなった。薄紅色の斬撃が嵐のように通り過ぎると、分厚い金属の板がへしゃげていた。精霊の力を借りた幼子の一撃は、魔道具の猛威を一蹴する。


 歯車が風のように戦場を駆け巡り連携を寸断し、神出鬼没の忍者が鎧騎士たちの死角から注意を引いて隙を作る。まともな連携を維持するのは難しく、孤立した鎧騎士から順番に狩られていった。


 奇しくも、クリストフォロスが予言した通りの結果と言えた。


 A級冒険者の集団を撃破できるだけの戦闘力を持った集団だったが、開戦から五分と経たずに、その数を半分まで減らしていた。倒れた鎧騎士たちが、まるで砂浜に打ち上げられたイルカのように氷上に転がっていた。


 光帯を放った反動でレイの隣に並んだリザが、警戒を解かないまでも余裕を感じさせる様子で口を開いた。


「最初は驚きましたが、慣れてくると存外対処しやすい者ばかりですね」


「うん。こいつら、全員が魔道具を持っているだけだ。魔道具を使いこなしていない、昔の僕と一緒だ」


 魔道具は強大な力を秘めた恐るべき道具ではあるが、使いこなすのにある程度の力量と時間が必要になる。赤龍の肉体とゲオルギウスの血を混ぜて誕生した龍刀は、レイでは扱いきれず抜くだけで火傷を負っていた。


 鎧騎士たちも、魔道具を支配できず、その力に振り回されているかのようなそぶりを見せていた。中には、魔道具の力で自滅した者も居た。


 半数以下まで数を減らした鎧騎士たちが、態勢を立て直すべく僅かに距離を取り始めたのを見て、シアラがレイの傍に来た。


「主様。ちょっと確かめたい事があるから、クロノとヨシツネを借りてもいいかしら」


 急な申し出に、レイは目を白黒させる。


「おいおい、ちょっと待てよ。いま、戦闘中だ。こっちが有利とはいえ、相手がどんな切り札を持っているのか分からないのに人手を割こうなんて」


「そんなの重々理解しているわよ。それでも、今確かめたい事があるの」


「戦闘が終わってからでは駄目なのでしょうか?」


 建設的で真っ当な意見を言うリザに、シアラは金色黒色の瞳を鋭くして首を横に振った。


「駄目よ。アイツらがゲオルギウス側なら、そう遠くない内にゲオルギウスが動くわ。決着が付く前に介入するか、決着した瞬間を狙うのか。そこまでは分かんないけど、動くのは間違いない。逆に言えば、今ならゲオルギウスが動く可能性は低いはずなのよ」


 シアラの説明にも納得できる部分はある。既に根回しはしているのか、レイとリザを除くメンバーたちは、シアラ達の離脱を受け入れた上で身構えていた。


 レイは仕方ないと頷いた。


「リザ。僕と君とエトネの三人で立ち回りつつ、レティの魔法で援護してもらったら、どれぐらいの時間を稼げるかな」


 質問に対して、リザは静かに返事をした。


「稼ぐ必要はありません。全員、撃破できます」


 慢心しているかのような発言だが、リザの性格上、それは無い。ここまで鎧騎士と剣を交わして下した正当な評価だ。


「なんとも心強い発言だな。こっちは僕たちに任せろ。何を調べるのか分からないけど、十分気をつけてくれよ」


「ええ、分かったわ。来てちょうだい、クロノ、ヨシツネ!」


 二人を呼ぶなり、シアラは駆けだした。それが合図だったかのように、鎧騎士たちが再び陣形を整えてレイ達に襲いかかった。波のように押し寄せる鎧騎士たちに対して、レイ達は少なくなった人数で挑む。








 両陣営の激突を横に、クロノとヨシツネを伴ったシアラは、戦場の端で動かなくなっている鎧騎士へと駆け寄った。


 杖を構えて、走りながら詠唱して完成させた魔法を高々と告げる。


「《アースチェイン》! これで、急に動いても大丈夫よ」


 魔法の鎖が氷上から伸びると鎧騎士の体に巻き付いた。魔道具の加護で鎖は直接触れていないが、それでも拘束は出来ているのだろう。もっとも、拘束が必要だとはクロノには思えなかった。


「これは……生きているのでしょうか?」


 クロノが疑問の声を上げるのも仕方なかった。


 戦場の端で倒れている鎧騎士は背中からエトネの足刀を叩きこまれ、脚部にリザの斬撃を喰らい、止めとばかりにレイの炎で空高く持ち上がり叩き落とされた。幾つもの圧力を受けたせいで体は捻じれ、半身が氷上に飲み込まれている。


 普通の生命なら生きている筈はない重症だ。


 だが、シアラは顔を強張らせたまま、分からないと告げた。


「生きているのかどうか、ワタシ達が考えている定義に則っているのかどうかだって、分からないわ」


 不可思議な言い方に首を傾げるクロノではなく、ヨシツネに向かってシアラは頼んだ。


「ねえ、こいつの兜か、あるいは鎧を剥がしたいんだけど、出来るかしら?」


 鎧騎士たちの共通点として、身に付けている鎧の魔道具が非常に硬い事が上げられる。


 威力が減衰しているとはいえ、レイやリザの攻撃でも切断まで至らないのだから、それなりの素材を使っているのだろう。歪んだり、折れ曲がったりするので限界だ。


「承知したでござる」


 請け負ったヨシツネが軽快な動きで鎧騎士の頭の側に膝を付き、長布を使いながら鎧の隙間を探す。岩壁の表面を撫でてとっかかりを探すクライマーのような指使いをするヨシツネだが、結果は芳しく無かった。


「駄目でござる。というよりも、奇妙です。こやつの鎧はつなぎ目が全て溶接されております」


「え、それじゃ外せないですよね」


「その通りでございます、クロノ殿。この鎧は外せない鎧となっているでござる」


 内側からしか外せない機構となっている鎧なら、まだ理解できる。だが、外側から溶接されて外せないのでは、鎧というよりも檻のようではないか。


 戸惑うクロノに対して、シアラは短く、そう、と呟いた。


 どこか理解していたかのように態度を問いただす前に、シアラの方がクロノに言葉を発した。


「クロノ。貴女の歯車って、物質の内部で生成すると周囲の物質を削るのよね」


「え? ええ、そうですね。私の歯車は権能の残滓。この世界における上位の存在になります。たとえば岩の中で生成すれば、歯車の体積分、周囲の物質が消えます」


 13神の生まれ変わりであるクロノに許された最後の神の御業。


 理論上、黒龍の堅牢な鱗すら破壊できるのだが、弱点もある。歯車の生成はクロノの周囲でしか出来ないため、物質の体内で生成するには相手に触れられるぐらい近くに居ないといけないのだ。


「じゃあ、こいつの鎧を削るのは出来ない? 歯車を首のつなぎ目に沿って生成して消せば、兜が外れるんじゃないかしら」


 問われて、クロノは数秒考え込んでから、出来ると答えた。


 生成した歯車の攻撃は魔道具の力によって減衰されて効果は薄かったが、歯車の生成は魔道具といえど止める事は出来ない。


「お願い。ヨシツネは作業中のクロノを守ってちょうだい。戦況はワタシが把握して、危ないと判断したら撤退するわ」


 ヨシツネは頷くと、場所をクロノに譲った。そして鎧のつなぎ目を指で示した。


 ヨシツネと同じように指で繋ぎ目をなぞると、クロノは大きく息を吸って吐いた。凛とした空気が彼女の周囲に漂い、集中しているのが伝わってくる。


「それじゃ、始めます」


 宣言と共に、奇妙な音がした。


 鉄をねじ切るような、鈍く、耳障りな音。


 音の正体は歯車の生成で削られる魔道具の金属片が上げた悲鳴だ。


 鎧の外側でも無く、内側でも無く、鎧その物を狙って生成するのは集中力が居る作業なのだろう。神が作りし美貌に真剣さが増していく。


 断続的に上がる悲鳴の音を聞きながら、シアラは戦況を確認した。少々距離はあるが、鎧騎士の数がさらに減っているのが分かる。


 三人が抜けたことで戦力は落ちているが、その分注意深く戦ったのだろう。余裕すら感じられる立ち回りをレイ達は披露している。このまま行けば、勝利は確実だ。


 ふと、人の気配を感じて振り返れば、いつの間にか鎧騎士の傍に小さな少女が現れていた。膝を折り、紅蓮の髪が氷の上に広がるのを気にせずに、コウエンは鎧の解体現場を眺めている。


 キュイの護衛を任せていたが、勝ちを確信して離れたのだろうか。勝手な振る舞いを叱るべきかと悩むシアラだったが、それよりも尋ねたい事があり、そちらを優先することにした。


「なにか、気になりますか?」


 曖昧な物言いに、僅かに振り返ったコウエンの瞳は愉快だと細くなった。


「ほう。妾を試すつもりか。よいよい、それぐらいの戯れには付きおうてやろう。其方の言の通り、妙に気にかかるのじゃ。こやつも、そしてあそこに居る者共にな」


 コウエンの答えに、シアラは自身の疑念が更に深まった。予想していた返答だが、同時に当たっていて欲しくないとも思っていた。


「その感覚はもしかして―――」


 続けようとした言葉は、クロノの安堵感に満ちた声に上書きされる。


「出来ました! つなぎ目を破壊できました」


「お下がりください。兜を外すのは、拙者が」


 消耗したクロノに背中を見せつつ、ヨシツネは長布で兜を外す。シアラとコウエンもその瞬間を目撃しようとして視線を向けた。


 ―――途端、どろりとした液体が金属の穴から零れ落ちた。


 液体は歯車の形に抉られた首だけでなく、ヨシツネが持ち上げた兜の中からも同じ液体が零れ落ちる。


 赤い液体を血かと思ったヨシツネだが、すぐにそれが違うと理解した。


 粘り気を持つ液体は、まるで粘液の肉体のように広がっていく。そして、兜の中からぼとりと音を立てて落ちた物は、冒険者である彼らにとって見覚えのある物だった。


 人の拳ほどはある大きさの白い塊。


 魔石だ。


「シアラ殿。これは、いったいどういう事でござるか?」


「私達は魔道具を操る魔人種の部隊と戦っていたんじゃないんですか?」


 彼らの疑問と混乱に、シアラは目にした現実から導き出せる回答をした。


「見ての通りよ。こいつの、いいえ、こいつらの正体は六将軍第六席ディオニュシウスと同じ人造モンスター」


 コウエンが興味を持つのも当然だ。ディオニュシウスが残したと思われる卵から生まれたコウエンにしてみれば、彼らは近しい存在なのだ。


「ディオニュシウスは他の人造モンスターを失敗作。自我が生まれたのは自分だけだって言ってた。そんな人造モンスターが、こうして連携を取ったり魔道具を使ったりするだけの知性を得た理由は分からないけど、一つだけ言えることがあるわ」


 顔を上げたクロノは、母親譲りの整った顔を苦しそうに歪めているシアラに驚く。まるで、自分の半身をもがれたか辛さを耐えるかの如く、絞り出すように告げた。


「これまでの戦いでも、今回でも、ワタシ達の敵は魔人と人造モンスターばかり。フィーニス達と一緒に、新しい国へ向かっていた魔人種は――――」


 その言葉の最後はなんと告げたのか、それはクロノには分からなかった。


 突風と轟音を遅れて運んできた槍の衝撃で、彼女の意識は吹き飛んでいた。


 ただ、意識を失う寸前、シアラの胸元に巨大な空洞が誕生したのだけは目撃していた。









 レイ達が人造魔物部隊と交戦している場所から北西方面に十五シロメーチル以上離れた地点に、ゲオルギウスの姿はあった。


 踏み抜いた足元の氷は砕け、轟音と共に振るった右腕からは血が垂れている。


 金色の瞳は遠く離れた場所を見据え、まるで見えているかのように呟いた。


「御息女に命中したか。いや、私怨を晴らすつもりは無かったのだが、などと弁明した所で、信じてはもらえないだろうな」


 そう言って、氷に突き刺していたもう一本の槍を引き抜いた。


 死の神タナトスがエルドラドに残した神杖は、二つの槍に分離できる。そして、片方を手放したとしても、もう片方が引き寄せる。命ある限り、死という概念はどうやっても切り離せないかのように。


 投擲した槍を引き寄せることも、手元にある槍を引き寄せることも出来る。


 手にした槍が片割れの放つ引力に引かれると、ゲオルギウスの体が浮遊する。戦場にたどり着くまでの間、魔人は同胞の言葉を思い出していた。


 ―――「狙うのはレイでは無く、レイの仲間。レイは死に戻れても、仲間は死に戻れない可能性があります。死に戻りの弱点は、何かしらの条件を満たしてしまうと、死という結末は変えられなくなる。そうならないようにレイも立ち回るでしょうが、此方がありとあらゆる方法で殺し続ければ、いずれは手詰まりとなり()()()()()()()()()()()()()()()。戦奴隷なら対等契約の呪いもあって、一緒にレイも死ぬから、死に戻りの力に負荷もかけられます。まずは、戦奴隷あたりから殺してみましょうか」


 ★


読んで下さって、ありがとうございます。


次回の更新は1月31日あたりを予定しております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます! [気になる点] ゲオルギウスに、レイ以外がやられての死に戻りははじめてですね… レイでさえ、悶絶していた痛みに果たして耐えられるのか、気になります! スキルば…
[良い点] さすが、六将軍の参謀の名は伊達じゃないですね。 レイの敵って変わらずこんなのばかりですか(白目 むしろ悪化…。 というか、レイをがちで殺しに来てますけど生かさなくていいんですかね。 本人…
[良い点] クリストフォロスさんが怖くて有能で素敵。
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