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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第12章 大陸の果て
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12-17 対策会議

「と、まあ、そういう訳でシアラ達に火を放って、ゲオルギウスを引き剥がす為に上空へと飛翔中に対等契約で死んで戻って来た訳だ。ここまでで質問はある?」


「さらりと人を焼き殺した告白してんじゃないわよ」


「質問はある?」


 じと目で睨むシアラをレイは無視した。


 正直、自分でもどうかと思う行為で、レイとしても謝罪の心はあるのだが、状況が状況だけに速やかに対策会議を進めないといけない。シアラもその点は理解しているのか、本心から怒っている様子では無く、ため息一つで流した。


 雛馬車の中にはレイとシアラの他に、リザとレティ、クロノ、エトネ、コウエンが揃っていた。ヨシツネとキュイはイチェルの見張りとして外に残っている。


 死に戻った後、レイは何かを言いたそうにしているシアラを視線で制し、手早く朝食を取るなり今後の事で相談したい内容があるからと、イチェルを閉めだして、こうして仲間を集めた。


 エルフの魔法で馬車内部の空間は拡張されているが、これでもかと荷物を積み込んだせいで非常に狭く、レイ達は身を寄せ合うように座っている。エトネやコウエンのように小さい者は荷物の上から話を聞いていた。


 そんなエトネが手を上げた。


「それじゃ、こんかい戻ってきたのは、レイおにいちゃん、シアラおねえちゃん、それにレティおねえちゃんの三人なの?」


 レイは名前を呼ばれた二人に視線を向けると、二人とも頷いた。どうやら、炎に飲み込まれて絶命したタイミングはほとんど一緒だったようだ。


 だが、レティは自分に何が起きたのか分からなそうに首を傾げた。


「でも、死んだ時のことなんて、まったく覚えてないんだよね。ゲオルギウスが何かを指で弾いた途端、目の前が真っ暗になって、気づいたら炎の中をさまようイタミを味わって、どうにか耐えたら朝に戻ってたんだよ。シアラお姉はどうだった?」


「ワタシも似たり寄ったりよ。主様の話によれば、植物の種子が膨らんで大樹になってワタシたちを拘束したんでしょ。思いつく魔法は幾つかあるけど、意識を失うとなれば、考えられるのは《バインドツリー》かしら」


「その魔法なら聞いたことがあります。取りこんだ対象者の精神力を吸い上げて大きくなる木の拘束魔法ですね」


「そうよ。ワタシとレティ、それにクロノが取りこまれたんでしょ。吸い上げられた精神力だってそれなりになってたから、さぞ大きな木ができたんじゃない」


 シアラの説明にレイは納得した。木に拘束されたとはいえ、シアラなら魔法を使って脱出するなり、状況を伝えようとしたはずなのに、なんの反応も無かったのは意識を失っていたからか。


「それより厄介なのは、ゲオルギウスの槍でワタシ達が殺されると、戦奴隷の契約が消えちゃうことよ。そんな事があり得るの?」


 13神であったクロノに視線が向くと、彼女は神として残された僅かな知識と、感覚から答えた。


「恐らくはあり得るかと。死の神タナトスは物質のみならず不要な概念の排除を担っていた神です。人の想いの集合体や、複雑に絡み合って現象となった魔法実験の残骸。普通の方法では除去でない概念を消し去るタナトスの神器ならば、対等契約を解除ころしてしまうのも造作もありません」


「そう、なのね」


 一瞬、金色黒色の瞳がレイに向いたが、当の本人は気づいていなかった。ただ、同じ方向を向いたクロノだけが、シアラの視線に気づいていた。


 問いかけようとしたクロノに先んじてシアラが言葉を発する。


「リザ。アンタは何か覚えていることはあるの? ゲオルギウスと戦ったことや、交わした会話とか」


「……いいえ、まったく。レイ様のお話に出てきた戦いには一切心当たりがありません。やはり、私の記憶は引き継がれていないと思います」


「そっか。それじゃ、ゲオルギウスの槍には十分注意しましょう。ただでさえ、魔法や戦技を掻き消せる厄介な槍なのに、対等契約まで消せるんじゃ、死んでも戻れるというワタシ達の数少ない武器が使えないわ」


 シアラの言葉に該当するリザとレティが頷いた。


「それじゃ、話を次に進めましょう」


「次とは、どういう意味でしょうか?」


「そんなの決まってるでしょう、リザ。ゲオルギウスをどうするのか」


 一拍開けて、彼女は重々しい口調で告げた。


「ゲオルギウスから逃げるか、それとも戦うか」


 雛馬車の空気が一段と固くなった。口にしたシアラ本人も、自分が口にした内容に恐怖の色を隠せないでいた。


 誰もが、どう切り出せばいいのか分からない中、幼子の揶揄う声が響いた。


「呵々。逃げると口にしたが、それが不可能なのは其方とて承知しておろう。夢物語を口にしても虚しさしか残らんぞ」


「はいはい。それぐらい、分かっているわよ」


 褐色の肌に愉快そうな笑みを貼りつけたコウエンに、ばつが悪そうにシアラは返した。


 コウエンの言う通りだ。


 逃げることは出来ない。


 北方大陸に来たのが『機械乙女ドーター』ポラリスを修復するのが目的であり、そのために莫大な資金と人材を投入して、ここまで秘密裏に進めてきた。帝国第一皇子に介入されるという予想外なトラブルはあったが、ポラリス復活を諦める訳には行かない。


 時間が過ぎれば、ゴルディアスのように、魔法工学の兵器が使えるようになったのを気づく輩が現れる確率が上がってしまう。世界が兵器の炎で焼かれないためにも、レイ達は任務を果たす必要があった。


 加えて、研究所へ近づくにつれて悪化する吹雪も逃げられない理由だ。


 レイが前の周回のエトネが吹雪に違和感を持ったと説明していると、目の前のエトネも同じことに気づき、更に重要なことを口にした。


「ぜんぜん気づかなかった。このふぶき、まほうのふぶきとまじってるよ。それも、湖だけじゃなくて、もっと遠くのほうまで」


「もっと遠く? 具体的にはどの辺りまでよ」


「うんとね、ふねのところまで」


「船って……あたし達が乗ってきた船の入り江まで!?」


 驚きに声を失ってしまうレイ達とは対照的に、エトネはそれを事実として受け止め頷いた。


 どうやら、ゲオルギウス―――もしくは、可能性は限りなく低いが別の術者―――はサブヴェーニエストラナー湖を中心に、広範囲に渡って自然現象の吹雪に魔法の吹雪を混ぜていた。


「おいおい。此処から入り江なんて、どれだけの距離があると思ってんだ。そんなに広範囲に吹雪を展開して、何がしたいんだ、アイツ」


 その目的は何かとレイがぼやくと、シアラが考えた末の可能性を口にした。


「多分、ワタシ達の位置を知るためだと思うわ」


「位置だって?」


「ええ、そう。覚えているかしら。ゲオルギウスはワタシ達がポラリスを復活させる為に北方大陸に来ると読んで、湖で待ち構えていた。でも、本当に来るかどうかは分からないでしょ。だって、北方大陸に研究所があるという情報は偶然手に入れたんだから」


 ポラリスの内部から発見されたパーツに書いてあった座標をクロノが知っていたからこそ、レイ達は研究所が北方大陸にあると確信できた。もし、パーツが見つからなかったら、クロノの知識が無ければ、レイ達がここに来るのはもっと遅かったかもしれないし、あるいは来なかったかもしれない。


「ゲオルギウス達がワタシ達の上陸を知るには、何かしらの方法で監視するのが必要。でも、変な魔法を使ったり、目視での監視は、ワタシ達が感知して警戒してしまう恐れがある。だから、北方大陸で不自然じゃない吹雪を使って、ワタシ達の上陸や位置を調べていたんじゃないかしら」


「その可能性はあり得ますね。湖に近づくにつれて吹雪の頻度が上がったのは、より正確な位置を知るため。湖の上を歩くほど吹雪が強くなったのは、奇襲の成功率を上げるために視界を奪うのと、体力を奪うためでしょうか」


「かもしれないわ。全く、どいつもこいつも、やる事が陰湿なのよね。六将軍って」


 その意見には同意するが、厄介な状況は変わらなかった。


 ゲオルギウスは吹雪でレイ達の位置を知っている。つまり、既にサブヴェーニエストラナー湖の近くまで来ている事は知られており、引き返せば追って来る可能性が高いのだ。


 これらの事情があって、逃げるということは出来ないという結論は出ていた。


 シアラは少し前の会話を思い出し、馬車の隙間から今にも入って来そうな吹雪を睨みつけた。


「逃げるのが無理なら、戦うというのですか。あの六将軍最強と」


 デゼルト動乱での記憶が蘇ったのか、リザが苦渋に満ちた表情で呟く。同じ光景を思い出したのかエトネも似た表情となり、前回の記憶を持っているシアラとレティも頭を抱えていた。


 無理もない。


 六将軍第二席ゲオルギウスは、それだけの怪物だった。上位冒険者を含めたパーティーを相手に最後まで攻撃の手を緩めず、矢継ぎ早に放った魔法で流れを掴んで離そうとしなかった。


 レイ達とて、これまでに多くの修羅場を潜り抜け連携を高め、個々人の技量も上げて北方大陸に渡ってきたのだが、それらはまるで通じなかった。ある程度のダメージは与えたが、常に先手を取られてしまった。


 何より、槍の持つ力が厄介だ。龍刀を使えないレイとは致命的に相性が悪いのだ。形なき炎という概念は、槍によって一蹴されてしまう。


 重い空気が頭上を覆う中、考え込んでいる様子のクロノがおずおずと手を上げた。


「あの……確認ですが、ゲオルギウスと戦ったのは、ヨシツネ、エトネ、コウエン、リザ、レイさんの順番ですよね」


「うん。もっとも、僕の場合はずっと雷の虎に邪魔されて、ゲオルギウスときちんと戦った訳じゃ無いけど」


「それで、全員が一対一で戦ったんですか?」


 問いかけに、レイは記憶を振り返る。ヨシツネたちの戦いはシアラの口づてでしか聞いていないが、個別に戦ったようだ。コウエンの奇襲を共同とするかはともかく、その後もリザが一人でゲオルギウスと剣を交えていた。


「そうだね。ゲオルギウスとは常に一対一だった。でも、それがどうかしたのか」


「私の記憶は穴だらけで、覚えている事の方が少ないぐらいです。そもそも、六将軍もレイさんが遭遇したから注目するようになったので、当時の事を深く知っている訳ではありません。ですが、それでもゲオルギウスの強さが異常だったのは、記憶にこびりついています」


 神としての証だった色を失った瞳でレイを見つめたまま、クロノは続けた。


「ゲオルギウスはどれだけ多数の敵が相手でも、恐れず飛び込み生還してきました。尋常ならざる魔法を駆使し、神器を手にして戦場を駆け巡る姿は神々ですら言葉を失うほどです」


「そうね。エルフの隠れ里に当時の記録があったから目を通したけど、どれも信じられない内容だったわ。戦場のど真ん中に降り立つと、自分ごと太陽のような巨大な炎を頭上から落として生還したとか、黒龍とジグムントの戦いに割って入ったとかふざけた内容ばかり。書いたのがサファじゃなければ、信じられないわよ」


 吐き捨てる様に言ったシアラに同意しつつ、クロノは自分の抱いた疑問を皆に打ち明けた。


「そんな怪物が、どうして私達と戦う時は、消耗戦を仕掛けたり、一対一になるように立ち回っているのでしょうか? それも、失礼な物言いで恐縮ですが、《ミクリヤ》の中で戦闘力の低い者から順番に戦い、念を入れる様に戦闘不能にするなんてらしくありません」


「それは……それは、なんでだ?」


 言葉に詰まる。


 確かに、ゲオルギウスの力量なら《ミクリヤ》全員を同時に相手しても勝てるはずだ。殺さずに無力化することだって可能だったはずだ。


 だが、ゲオルギウスは常に仲間の連携を乱すように立ち回っていた。吹雪の中から奇襲をしかけ、隊列が乱れた所を津波で押し流そうとし、パーティーの要である回復役レティを真っ先に狙い、その後の戦いでは常に一対一になるように魔法を駆使していた。


 かつて、ネーデの街でオルド達を相手に戦っていた時でさえ、そのような事はしなかった。


 あの時は―――と、思い出そうとしてレイの頭は痛みを覚える。針で突き刺すような、耳に雑音が飛び込む感覚は覚えがある。《トライ&エラー・グレードディバイド》で忘れた誰かに関する記憶を呼びだそうとしている時の雑音だ。


 このまま記憶を呼び覚まそうとすれば、逆に黒い影に飲み込まれて意識を失いそうだと直感した。


 レイは記憶を振り返るのを止めて、心残りはしつつも議論に戻った。


「つまり、今のゲオルギウスは僕らを殺さずに無力化するには、全員同時に相手するのは難しいほど弱体化しているって事か」


「その可能性は十分にあるわね。吹雪で体力を削るなんてちまちましたやり方、ゲオルギウスらしくないもの。それぐらいの事をしないといけないぐらい弱っているっていうのは間違いないわね」


 仇敵に対して妙な信頼を示しつつ、だけど、とシアラは続けた。


「だけど、クロノの推測通りゲオルギウスが弱っていたとしても、ワタシ達が連携すれば勝てるとは限らないわね。だって、奇襲を受けたとはいえずっと相手に主導権を取られて、仲間を個別に無力化されたんですもの。相手が弱っているとはいえ、ゲオルギウスなのは変わりないわ」


「そうですね。やはり、戦うのは厳しいですか」


「もっと戦力があれば、話は別だよね。……ねえ、ゲオルギウスに傷をつけた人物を探すのはどうかな?」


「話に出ていた、心臓を2つ潰したという方ですか。確かに、その方、あるいは方々が味方になってくれれば心強いですが、探す余裕があるかどうか」


「そもそも、生きているかどうか分からないわよね」


 二人に言われて、レティは肩を落とした。ゲオルギウスを消耗させたほどの戦士が味方になるなら心強いが、果たしてゲオルギウスがそんな人物と戦って殺さずに見逃すだろうか。


 手負いとはいえゲオルギウスが生きているのだから、どちらが勝利したのかは自ずと答えは出ている。


 結局の所、ゲオルギウスが弱体化していて、《ミクリヤ》の総力をあげれば倒せるとしても、それを実践できるかどうは別なのだ。


 さらに言えば、ゲオルギウスの持つ槍はリザ達の契約を殺せる。死に戻りが発動できるのがレイの死亡だけという状態は、ゲオルギウスが相手だと心もとない。


「……やっぱり、出来るかどうか不確実なままゲオルギウスに戦いを挑むのは危険だ」


「そりゃ、そうだけど。でも、危険を承知で挑まないといけない時は絶対にあるわよ」


「うん。それは僕も覚悟している。でも、今はその危険に挑む時じゃないと思うんだ」


「それじゃ、どうするの」


 エトネの問いかけに、レイは躊躇することなく答えた。


「とりあえず、逃げてみようか」


 予想外の答えに、コウエンですら呆気に取られてしまった。


読んで下さって、ありがとうございます。


次回の更新は、22日頃を予定しております。

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