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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第12章 大陸の果て
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12-5 氷の巨人 『後編』

 レイ達がアーチを渡り切ると、歯車は溶けるように消えた。蜘蛛に似た氷の小型モンスターは、レイ達を追おうとはせずに、包囲網を崩そうとしない。


 生えたばかりの牙を見せびらかすように威嚇するなり、クロノを狙いに定めた。器用な物で、足の先を平たくして雪を滑るように移動していた。


 結論から言えば、自由な腕から伸びた牙がクロノの防寒具を切り裂くことは出来なかった。


 クロノの手元から伸びた鞭がしなると、先端の歯車が小型モンスターの体を砕いた。


 血と肉の代わりに、雪の上に氷の欠片が降り注ぐ。かつてはリザと同じ青色だった瞳が、同じ白色の雪の上を見つめて呟いた。


「良かった。砕いて細かくすれば再生しないのね」


「それは僥倖。これらがモンスターの生み出した存在ならば、弱点たる魔石は無く、どうすれば倒せるのか分かりかねていたでござる。砕けば倒せるなら容易いこと」


 ヨシツネは言葉が偽りでないのを示す。


 首に巻いた長布は防寒のためではなく、戦うための武器だ。技能スキルによって伸縮自在な武器と化した長布は、槍のように鋭く伸びると、蛇のように氷の蜘蛛を掴んだ。


 手元を握ったヨシツネが力を込めて引き寄せると、蜘蛛の体は宙を舞う。このまま雪原に叩きつけても、雪がクッションになって衝撃を吸収すると判断したヨシツネは、狙いを別の蜘蛛に切り替えた。


 高所から勢いよく振り下ろされた蜘蛛の体は、元からの造形もあり破壊力は高い。長布を鎖、巻き付いた蜘蛛を鉄球に見立てれば、モーニングスターもどきが誕生した。


 ヨシツネは、具合良し、と短く呟くと長布を振り回した。


 吹雪の音に混じり、ガラスが粉々に砕けるような音が響いた。


 鞭と長布が振るわれるたびに、蜘蛛の数が減っていく。背中合わせに戦いながらも、互いのフォローを忘れない連携にレティは感嘆の吐息を上げる。


「うわぁ、すごいな。二人とも、もうちゃんとした冒険者だよ」


 感心するのも当然である。


 二人のレベルはそれほど高くなく、肉弾戦を得意としている訳でも無い。ましてや、クロノは数か月前までは13神が一柱、時を司る神クロノスだった。荒事が得意という訳でも無く、神としての権能はほとんど失っている。


 それが、この短期間でこれほど強くなったのは、二人が休むことなく鍛錬を重ねた結果であるのをレティは知っていた。


 同時に、負けていられないという感情が湧きおこる。


 北方大陸に向かう原因となった、学術都市の騒動。『魔王』フィーニス、『龍王』黒龍、『機械乙女ドーター』ポラリス、『魔術師』オルタナという怪物達が一堂に集まった戦いにおいて、レティは何もできなかった。


 フィーニスに捕まってしまい、自力で脱出することも出来ず、レイの足を引っ張ってしまった。ポラリスが破壊され、こうして北方大陸に来る遠因とすら自戒していた。


 だからこそ、彼女は負けていられない。


 誰よりも、自分が奮起しなければならないのだ。


 杖に積もった雪を振り落としながら、彼女は宣誓をする。


「《道よ、開け》」


 途端、レティの小さな体を膨れ上がった精神力が圧し掛かる。体内から抽出した魔法の源が、今にも暴走しそうだ。


 動きを止めた少女に対して、氷の蜘蛛は音もなく近寄る。無防備な首を両断しようとした牙は、間に割り込んできた小さな体に阻まれた。


「いま、レティおねいちゃんががんばってるでしょ。邪魔しないで」


 雪原という劣悪な環境でありながら、軽やかなステップで舞うエトネは、小さな体を軸に独楽のように回ると、蜘蛛を吹き飛ばした。彼女の両手足は、防寒具の上からガントレットや脚甲が嵌っている。


 エトネは雪の上に着地するのではなく、あえて敵の体を踏みつけ足場とする。敵に接近するリスクはあるが、雪に足を取られて速度が落ちるのを嫌った。


 彼女が群がるモンスターを殴り、蹴り飛ばす度に吹雪に差し込む僅かな光を反射して、あたかも幻想的な光景であった。


 だが、三人の善戦も次第に押されてくる。


 壊した蜘蛛は三人の指の数を越えているのに、まだ包囲網に切れ間が出来ない。


 吹雪に隠れてしまっているが、頭上では時折、巨大な氷柱が空を切り裂く音がする。周囲では砕けた氷柱から氷の蜘蛛が生み出されている。クロノ達を足止めするグループとは別のグループが雪を滑る音もした。


 どうやら、供給源が断たれない限り増えていくようだ。


 主力が欠けているとはいえ、クロノ達がこれほど手こずるのは、吹雪が原因と言えた。


 吹きすさぶ雪風が酸素を取りこむたびに体から熱を奪う。冷えた体と慣れぬ雪原での戦いが疲労を蓄積させ、集中力を削っていく。顔に雪が当たると視界がぼやけ、敵との間合いを取らなくてはいけない。


 ギルドの資料室にある、かつて生還した調査隊は、北方大陸での戦闘を短くこう評していた。


 環境に適応できるかどうか。


 環境に適応しなかった生物は死ぬだけ、と。


 それが北方大陸での常識だ。


「だったら、環境の方を変えればいいんだよ。《花開け、春の風》《降り注げ、柔らかな陽光》」


 レティの詠唱は、シアラの世界を屈服させるような力強い詠唱と違う。世界に寄り添い、語りかけるような優しさを含んでいた。


 伸ばした杖の先に、暖かな光が集まる。


「《満ちる、満ちる、満ちる》《此処に春の訪れを告げん》」


 詠唱の完成と共に光が一気に膨張した。


「《カム・スプリング》!」


 暖かな光が周囲をドーム状に包むと、クロノ達は空間が変化したことに気づく。


 いや、変化したというよりも、切り替わったと表現できるほどの変わり様だ。


 先程まで顔に吹き付けた雪の粒はどこかへと消え、暖かな温もりが全身を柔らかく包む。肺に取りこむ刃のように冷たい空気は、柔らかな質感すら感じられそうな物となる。


「お見事。まさしく、春を呼び寄せましたな」


 長布を振り回しながらヨシツネはレティの魔法が成功したのを喜ぶ。これまで練習では成功していたが、本番で試すのは初めてだった。


 レティは、喜びを全身で表現するのを我慢しつつ、代わりに杖を強く握った。


「周りの環境を切り替えたけど、あんまり長くは持たない。急いで!」


 レティの唱えた《カム・スプリング》は局所的な環境変動魔法だ。空間内の季節を魔法によって文字通り切り替える。


 いま、彼女が展開した半径十メートル以内の空間は、北方大陸特有の凍てつく寒さは消え失せ、生命に満ち溢れた春の陽気が満たしている。吹雪や冷気は光の膜に弾かれて中まで入ってこれない。


 《カム・スプリング》はレイ達が戦う上で最大の障害を取り除くだけでなく、相手にとって有利な環境をひっくり返す効果もあった。


 クロノが振り回す歯車の鞭が、表面が溶けかけている氷を簡単に削っていく。蜘蛛の手足はいとも容易く千切れ、胴体が斜面を転がっていく。それまで、足場の悪い雪の上で飛び回っていた氷の彫像が途端に動きを悪くしていた。


「シアラの読み通りでしたね。この大陸に適応したモンスターは、環境が突然変化してしまうと対応できずに弱体化する。レティの魔法が発動した途端、動きが確実に悪くなっています」


「うん。これなら、簡単」


 エトネの突きが氷の蜘蛛をまとめて吹き飛ばす。


 それまで、崩れる隙すら無かった包囲網だったが、綻びが見え始めた。


 流れは一気にレティ達へと傾いていた。


「こっちは大丈夫。あとはそっちだけ。頑張ってね、お姉ちゃん」


 エメラルドグリーンの瞳が、僅かに北の山を捉える。魔法の範囲外は凍てつくような吹雪に満ちており、白いレースのような向こう側で青白く輝く巨大なモンスターが君臨しているのが見えた。


 レティは一瞬だけ姉たちの無事を祈ると、杖を構え三人を援護するように魔法を展開した。






「それで? 具体的にアイツをどうやって倒すんだ?」


 アーチを越え雪面を蹴るように走るレイが尋ねると、毛に雪が絡むキュイに乗ったシアラが答えた。


「三段構えでいくわ。まず、主様がアイツの体を割る。理想を言えば四等分だけど、難しそうなら四等分にこだわらないで。リザの精霊剣で削れるぐらいの大きさにすればいいから」


「私の精霊剣で体を削るのですか? しかし、レイ様が砕いた体のどこに本体がいるのか、私だと知覚できません」


「そこはコウエン様の出番よ」


「む? 妾が?」


 指名があると思っていなかったのか、意外そうな声を上げたスライムの表面がブルりと震え、コウエンの上半身が形作られる。


 褐色の頬が裂け、笑みと呼ぶには凶悪そうな人相は正しく龍の生まれ変わりだ。


「妾を使おうとするのか? たかがあの程度の塵芥を相手に?」


「ええ。それが最も効率の良い攻略方法よ」


 並の冒険者ですら威圧されそうな気を放つコウエンだが、シアラはそれがどうしたとばかりに受け止めている。


「呵々。不敬ではあるが、貴様の気構えに免じて見逃してやろう。娘、首を借りるぞ」


「え? ちょ、お待ちくだっ、冷たい!」


 リザが止める間もなく、粘液の体がマフラーのように彼女の首に絡みついた。傍から見れば、スライムに首を絞められている図だ。


 スライムの感触が気になるのか、リザは苦しそうにしつつ言う。


「動かないで、下さい。もうっ! シアラ。私の役目は、コウエン様が見つけた本体のある肉体を削ることですね」


「そうよ。リザの精霊剣で吹き飛ばせるなら、それに越したことは無いけど、あれだけの巨体。四等分されて小さくなっても、吹き飛ばすのは難しいでしょ」


「……ええ、流石に厳しいです」


「ワタシの魔法でも手に余るわ。だから、リザが削り切れなかった残りを、ワタシが魔法で吹き飛ばす。これが作戦よ。誰か、異論は?」


 数秒待つが、誰も言わない。


「結構。正直、失敗すればもう一回同じことをやろうとしても難しいわ。本体がどれだけの大きさか分からないけど、逃がしてしまえばどこかで力を蓄えられて、また船を狙ってくるかもしれない」


「次は無い。絶対に、ここで潰さないといけない、ということですね」


「ああ、最初からそのつもりだ。……リザ、シアラ、コウエン。僕はこの辺りで十分だ」


 言うと、レイが減速し始める。確かに、レイが言った通り、氷の巨人まで三百メートル程度の位置だ。


 だが、吹雪に隠れ氷の巨人の全容は掴めず、そもそも攻撃が届くというイメージすら湧かない。


「本当にこんな所で良いの? もっと近づいた方が確実じゃないの?」


 シアラの疑問は尤もである。


 しかし、レイは淡々と事実を言う。


「ここで十分だ。これ以上近いと、余波で君たちまで吹き飛ぶ」


「……そうですか。分かりました。射線上に入らないように、横に逸れておきます」


「うん、そうしてくれ。合図はシアラ。君に任せる」


 レイは完全に足を止めると、その場で膝を付いた。


 呼吸が乱れたのを整えるためでは無い。雪面とはいえ、この程度の距離で息を荒げるほど弱くは無い。レイは細い呼吸を繰り返し、意識を集中させる。


 氷の巨人の方へ進んでいくと、あっという間に、レイの姿は吹雪で見えなくなった。


 吹雪で見えなくなる直前、彼の相貌に浮かんでいたのは緊張の色だ。


 失敗することへの恐れでは無く、成功した後に待っている現実への強張りだ。


「リザ。アンタが何を考えているのか、なんとなくだけど分かるわ」


「シアラ」


 いつの間にか、速度が落ちてしまっていたのか。


 キュイから遅れそうになる寸前、シアラの静かな声がリザの意識を引っ張り上げる。


「いま、ワタシ達にできるのは、さっさとあのデカブツを倒して、大急ぎで主様の元に戻ることよ。違う?」


「……いいえ、違いません。その通りです」


 迷いは断ち切れ。


 覚悟を決めろ。


 リザは精霊剣を引き抜くと、精神力を注ぎ込み始める。呼応するように輝きを放つ剣。その輝きは、学術都市の戦いを経てより強く、より美しくなっている。


 シアラも杖を引き抜き、世界に告げる。


「《器を、満たせ》」







 細い呼吸を繰り返し、イメージを固める。


 これまでに何度も繰り返してきたルーチンだ。実力で劣るレイが、格上を相手に互角の動きを演じてこれたのは、《トライ&エラー》による積み重ねによる経験則と、相手の動きをシミュレーションする想像力だ。


 だが、どれだけイメージを固めても、不安要素は消えない。


 氷の巨人を斬るイメージが湧かないのではない。むしろ、あれを四等分するイメージは既に完成しているのだ。


 あとは、その通りに動きをなぞれば、その通りの結果が出る。濡れた紙を破くのよりも容易い。


 問題なのは、その後に待ち受ける物だ。


「……ああ、ちくしょう。こんな所で、使う羽目になるなんてな」


 レイはため息交じりに龍刀の柄を握る。


 途端、掌の神経を通じて脳にまで激痛が走る。


 刹那の痛みに、心が屈服しそうだ。


 抜かずに、触れるだけでこれなのだ。


 抜いた瞬間、自分がどうなるのか。想像するだけで空恐ろしい。


 いや、既に体験しているからこそ、痛みが強烈なリアリティを放つ。


 もっと近づけば、あるいは龍刀を抜かずに氷の巨人を倒せるかもしれない。


 そのためには巨人の攻撃範囲まで近づかなければならない。危険度は増え、近づく間に船を沈められる危険性もある。


 これが最適解だ。


 そう、自分に言い聞かせて、レイは不安を押し殺す。


 そして、―――。


『主様、始めて!』


 ―――合図が届いた。


 シアラの声が鼓膜を震わせるのと同時に、レイは龍刀の柄を掴む。腰を捻り、脚を前に出す抜刀の構え。


 これまでに何度も行って来た動作。


 だけど―――違う。


 鯉口を切った瞬間、これまでに積み重ねてきた抜刀とは次元が違うと理解する。振り抜いた刃の軌跡に沿って、黒い炎が刃となって放たれた。


 それは例えるなら、炎の津波だ。


 暗い夜の海の如き津波が、吹雪を飲み込み雪面を駆け上っていく。山すら飲み込むほど巨大な炎は、氷の巨人の胴体を一瞬で通り抜け、空へと吸い込まれていった。


 熱波が吹雪を蹴散らすどころか、山に積もった雪すら蒸発させていく。


 自分より前方の地面がむき出しとなった山の斜面に、レイは崩れそうになった。


「ぐっがあああああああああああああああああ!」


 口から零れるのは獣じみた絶叫。


 立ち込めるは肉が焼ける匂い。


 龍刀を横に薙いだ右腕が燃えているのだ。氷の巨人を一撃で両断した黒い炎と同じ炎が、レイの右腕を包み込む。他のメンバーと違い、防刃性に加え耐火性の高いモンスターの被膜を内側に縫い込んだ防寒具が一秒も持たない。炎は肉をついばみ、炭と変えようとする。


 やはりこうなってしまうのか、と叫びたかった。


 だが、そんな当たり前の事実を再確認するよりも前にするべき事がある。まだ、氷の巨人は半分にしかなっていない。


 レイは右に薙いだ刀を離すまいと力を籠め、その場で回転する。ぐるり、と視界が周り、再び氷の巨人を正面で捕らえた瞬間、無事だった左手で龍刀の柄を掴もうとする。


 炎によって食いつぶされそうになる右腕。


 力を失い下がっていく切っ先を支える様に左手で掴むと、瞬間、炎が左腕を包み込む。


 持ち主の至らなさを責めるかのような漆黒の炎に包まれながら、レイは言葉にならない絶叫と共に龍刀を下から上へと振るった。


「――――ッアアア!!」


 切っ先から噴き出した炎は天と地を繋ぐ塔のように巨大だった。


 巨大な炎の刃が山頂部分を縦に切り裂きながら直進する。


 氷の巨人に向かって真っ直ぐ突き進んだ炎は、勢いを止めることなく山の向こう側へと消えていった。大陸の反対側まで届いたと言われても、信じてしまいそうな破壊力だ。


 当然、刃の軌道上にあった巨人の体は抵抗することも出来ずに刃を受け入れた。


 両腕が漆黒の炎に包まれ、レイは必死になって指先に精神力を回す。炎によって焼き切れそうになる筋肉を総動員して、龍刀から手を離すと、まだ残っている雪へと飛び込んだ。


 音を立てて雪が溶けていくが、同時に両腕を包んでいる炎も弱まっていく。炎の原因である龍刀から離れたからだろう。その龍刀は、レイの手から滑り、地面に突き刺さった。


 かつて、レイが自身の全てを贄として差し出すことで発動した《赤龍天穿咆哮》。


 それに匹敵する斬撃を、連続で発動させた龍刀の刀身は、以前と違った色をしていた。


 鮮やかにして、烈しい紅蓮の輝きは消え失せ、黒よりも濃い闇を固めたような刀身。不気味で、触れた物を全て呪い尽くすような色合いなのに、人を引きつける筆舌しがたい魅力は変わらない。


 レイがシアラに対して二振りまで可能と答えたのは、龍刀をコントロールできる回数じゃない。龍刀を一回振るうのに腕を一本犠牲にするため、二振りと答えたに過ぎないのだ。







 横を、まるで黒い壁のような炎が通り過ぎる。天と地面を繋ぐ塔の如き炎は、山を縦に裂いた。砂で出来た山を子供が戯れに切り崩すような荒々しい行為だが、驚くには値しない。


 今の龍刀なら、それぐらいは出来るという確信があった。


 だから、リザは動じることなく、精霊剣に精神を注ぎ込み、時を待った。


 リザの首元に巻き付いたコウエンがじっと氷の巨人を見つめる。


 黒い炎の刃で四等分された体が地面へと落ちる前に、どこに本体がいるのかを見逃すまいとしていた。


 そして、彼女の縦に裂けた瞳孔が、本体の位置を見抜いた。


「見えたぞ。左上! 胴体の辺りじゃ!」


 言葉と共に、リザは精霊剣を振るった。


「全力全開!」


 戦技でも魔法の詠唱でも無い、単なる気合の叫びが炎によって溶けた禿山に響く。リザの精神力を吸い上げた精霊剣の極光は、龍刀の炎に劣るとはいえ、巨大な光の柱となって巨人の体を襲う。


 十字に切られた胴体の断面に触れると、氷の体が蒸発していく。光に飲まれていき、四等分された体の一つが小さくなっていく。


 凄まじい一撃。


 普通なら、精神力切れを起こしても不思議では無い威力だ。


 にもかかわらず、リザは息切れ一つを越さず、力の制御を完璧にこなしていた。


「どうですか? 本体はこれで消えましたか」


「否、あ奴め、氷の中を水の如く動き回っておる。すでに腕から指先へと移動して、待て……何をしようとしているのだ」


 コウエンが何を訝しんでいるのか、リザもすぐに理解できた。


 熱線によって削られていく巨人の体。


 四等分された内の一つ、本体が居ると思われる部位は、腕の関節より先しかない。


 その残った腕が突如として三つに砕けたのだ。


 自らの体を小さくする愚行に思えるが、最善手とも呼べる。


 これまでの流れで、自分の位置が把握されているのは、氷の巨人の本体も理解できるだろう。そして、種類の違う波状攻撃で体を削っていくのは、最後の止めが確実に決まるまで追い詰めているという事も。


 ならば、本体に取れる手は限られている。瞬時に氷を展開して体積を増やすことでガードするか、的を増やして狙いを絞らせないようにするか。


 どうやら、敵は後者を選んだようだ。本体にしてもバクチに近い選択肢だろう。的を増やす為に、自分を守る氷の体積を減らせば、直撃を受けた時に逃げる暇が無くなってしまう。


 死ぬリスクを覚悟の上で、最後の賭けに出たのだ。


「逃がすな。真ん中じゃ!」


「モンスターながら、覚悟は認めます。ですが、逃がしません!」


 リザは熱線を止めると、再び剣を構える。そして、剣を振り上げた軌道に熱線を乗せた。


 一条の光は、空中で二つに裂けた。


 光は三つに分かれた腕のうち、コウエンが指示しなかった二つを貫く。


 その意味を正確に理解できる仲間に、後を託したのだ。


「あとは、お願いします。シアラ」


『上出来よ、リザ。後は任せて!』


 言葉が届いた筈はない。だが、シアラの力強い声が耳朶を震わせるのと、終わりの時を迎えるのは一緒だった。


「《紅蓮の嵐に飲み込まれろ》《ファイヤーストーム》!」


 リザよりはるか前で準備をしていたシアラの魔法が、光で撃ち抜かれなかった部分をピンポイントで飲み込んだ。


 猛々しい紅蓮の炎が消えるのと同時に、コウエンが確信をもって告げた。


「ふむ。どうやら、完全に消滅したようじゃな」


 彼女の言葉通り、氷の巨人の本体は、最後までレイ達の前に姿を現すことなく、地上から消え失せたのだった。


読んで下さって、ありがとうございます。


次回の更新は、16日頃を予定しております。

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