11-65 正しいと思った選択
冬の冷たい空気が頬にあたり、白い息が口元から吐き出される。表に出てきた人たちをすり抜けて、屋敷の玄関を開けた。
「ただいま、戻ったわ」
暖かい空気がシアラを出迎えた。
「おかえり、シアラ」
「おかえりなさい、シアラ」「おかえりなさい」「おかえりなさい、外は寒かったでしょう。ちょうど、紅茶の用意ができましたが、飲みますか?」「ガリゴリガリゴリ」「おかえりなさーい」
「ええ、貰えるかしら、クロノ……あら?」
レイの声に続いて、リザ達が口々に言葉を返す中、一つ多いのに気づいた。片方の玄関を開けるとすぐに応接間に繋がっているが、そこには《ミクリヤ》のメンバーが全員そろっていた。一人掛けのソファにはレイが座り、肘置きを背もたれにして床に座って魔石をたべているのはコウエンだ。クロノは紅茶を淹れに部屋を出て、詰めれば数人が座れるソファにはリザとエトネ、そしてもう一人が座っていた。
「レティ、もう動いても大丈夫なの?」
「うん、なんとかね」
リザとエトネに挟まれて座る、栗色の髪をした少女は俯き加減で返事をした。まだ、本調子ではないのだろう。頬は青ざめ、カップを持つ手は指先まで血が通っていないかのように白い。
《リバースワールド》から帰ってきてすぐに、レティは目を覚ました。しかし、毒の影響が残っているのか、体を満足に動かす事が出来ず、『紅蓮の旅団』のヒーラーに助けを求めた。
一時はどうなるかと心配していたが、動けるようになれば一安心だ。ところが、室内は重い空気で満たされていた。
どう声を掛ければいいのか分からないシアラに、レイが助け舟を出した。
「お疲れさま。そっちの方はどうだったかな」
「……多少は手ごたえあり、かしら。流石に腹の底までは読めなかったけど、何かしらの方法で未来を観測しているのは間違いなさそうよ」
「そうか。僕やシアラ以外に未来を知る術を持っている人がもう一人居るってことか。それも、よりにもよってカタリナさんなのが厄介な所だね。ヨシツネと影法師は何か掴めたのかい」
この部屋の中に居ない二人をレイが呼ぶと、それぞれ声はシアラの方からした。
「残念ながら、不首尾に終わったでござる」
「ありゃ、用心深い性格だったぞ」
シアラの防寒具から飛び出すと、ヨシツネは技能を解除し、元の大きさまで戻り首を振った。影法師は、シアラの足元にある影からレイの方へと移る。
「あの女、シアラが出ていった途端、部屋の中を影で洗いやがった。危うく、忍び込んでいるのがバレそうになっちまったぞ」
「いえ。おそらくでござるが、気づいていたのでしょう。拙者たちのいる場所から隙間への最短距離を塞がず、態と開けていたかと。扉の隙間から撤退すると、それ以上は何もしなかったでござる」
二人は護衛兼密偵だ。
能力を使ってシアラの傍に張り付き、シアラがカマを掛けた後にカタリナがどんな反応を見せるのか、何かしらの情報を引き出せないかと部屋に忍び込んでいた。その目論見は失敗したが、同時にある事を証明している。
「カタリナが警戒するような事がある。……それが分かっただけでも十分収穫だよ。ご苦労様、二人とも」
「勿体なきお言葉、頂戴いたします」「へいへい、っと」
頭を下げて、全身で喜びを表すヨシツネに対して、影法師は適当に返事をするなりレイの中に戻っていた。その間、防寒具を外したシアラは、空いているソファに腰かけ、クロノが淹れた紅茶を飲んでいた。
「美味しい。紅茶を淹れるの、上手くなってきたんじゃないの」
「本当だよ。僕もお代わりを貰ってもいいかな」
クロノはありがとうございます、と嬉しそうに微笑んだ。一瞬、自分もこういう女性らしさを伸ばすべきだろうかとシアラはクロノを見つめていると、リザの青い瞳も似たような視線を向けているのに気づいた。
お互い、気まずい空気が流れ、断ち切る為に咳払いをしてしまった。
「どうしたんだ、風邪か?」
「いいえ、何でもないわ。それより、レティが起きているって事は、聞き取りでもしていたのかしら?」
「その通りよ。レイ様が目を覚ます十二時よりも前、どうしてレティがフィーニスに捕まったのか、その経緯を聞いていたの」
今回の騒動は、レイ、リザ、シアラ、エトネのグループに分かれて時間は進んでいた。個々人の視点で起きた出来事は摺合せしていたが、ぽっかりと空いている時間帯があった。それこそが、十二時前の屋敷内だ。より正確に言えば、シアラとヨシツネがカタリナの研究所に向けて出発してから、十二時までの間になる。
この時間帯にフィーニスが屋敷に現れ、レティは誘拐される直前にシアラの毒を呷り、そして帰宅したばかりのクロノも捕まったという事実は全員知っている。
問題は、その経緯だ。いかにして、フィーニスはレティ達を捕まえたのか。
「そう。それで、結局何があったのかしら。どうして、レティは捕まったのよ」
「それが……その……」
急にリザの歯切れが悪くなった。不思議に思えば、レイもエトネも、クロノまでもが似たような反応を示した。コウエンが魔石をかじる音が響いた。
「ちょっと、どうしたのよ。ワタシ、何か変な事を言ったかしら」
壁際に控えているヨシツネに助けを求めるが、彼も不思議そうに首を傾ける。
すると、意を決したようにレティは立ち上がると、勢いよく頭を下げた。
「……レティ?」
突然の事に金色黒色の瞳に困惑の色が浮かぶ。
栗色の頭は机にぶつかりそうなほど下げられ、彼女は言った。
「ごめんなさい。私がフィーニスを部屋に上げてしまったの」
「……はぁあああ!?」
絶叫が屋敷に響くも、防音完備の建物のお蔭で近隣迷惑にならなかったのが救いだ。
少しして、レティから何があったのか聞き終えたシアラは、苦虫を噛み潰したような、何とも言えない表情となっていた。
「そう。……まとめると、アンタはご丁寧にあいさつした男を、主様の進めている事業関係者だと思っちゃって部屋に上げたのね」
こくり、と。席に戻ったレティは頷いた。
現在、レイは毛生え薬と安価で丈夫な靴を開発する事業に取り組んでいた。そのため、迷宮に潜る前はひっきりなしに商人や職人が屋敷を訪れており、レティはその対応に追われていた。
堂々と姿を現したフィーニスも、その類だろうと思ってしまったのは、昨夜に行われた『紅蓮の旅団』主催の打ち上げも関係していた。あの時、オルドが学術都市に居た商人たちを打ち上げの席に呼んで、レイと引き合わせていた。
知らない顔だったのに、部屋へ招いてしまったのは、その時の誰かかもしれないと思ってしまったのだ。
「迂闊よね。まあ、もしもその通りで、主人不在でもてなしもせずに追い返したら、それはそれで後からややこしい事になってたかもね」
「いいえ。こればかりはレティの手落ちです。キョウコツのように帝国の人間が普通の人になりすまして接近する可能性だって十分考えられます。今回は『魔王』がジグムンントへの切り札として、レティを生かしたまま捕らえようとしましたが、帝国皇室から派遣された者なら、場合によってはその場で殺されていたかもしれません。私達が追われているという自覚が足りません」
「……はい、ごめんなさい」
肩を落として落ち込むレティに、クロノがフォローを入れる。
「で、ですが。レイさんのコートを着ていた事に気づいて、相手がフィーニスだと見破ったのはお手柄じゃないでしょうか。それに、シアラの毒を服用して、捕まる前に死のうとする判断も、間違ってはいません」
「それは結果論よ。今回は大丈夫だったけど、主様の状況が分からない時にやるのは危険よ。もしも、死んだ直前に主様のセーブポイントがあったりしたら、目も当てられない状況じゃない」
「……ごめんなさい」
更に小さくなるレティ。本心から反省しているのが伝わってくると、シアラもそれ以上は言えなくなった。ちらり、とレイの方を窺えば、分かったとばかりにアイコンタクトが返ってくる。
「レティ」
静かな呼び声に、レティの肩が震えた。レイはリザと場所を変わると、小さくなって縮こまっている少女に優しく尋ねた。
「レティ、君は、シアラの毒を飲もうとした事を、その時は正しいと思って行動したかい。僕やリザの口から、今回の騒動の顛末を聞いて、俯瞰で判断するんじゃなくて、その瞬間の君の考えていた事を聞きたい」
持って回った言い方だが、レティは数秒考え込み、その時の自分を思い出して答えた。
「正しい。正しい事をしていると、そう思っていた」
「うん。なら、それでいいんだ」
「レイ様? それは、幾らなんでも」
「リザ。それに皆も聞いて欲しい。僕の力、《トライ&エラー》はやり直しができる力だ。使い方次第では色々な未来を生みだす事の出来る力だけど、幾つかの制約があり、場合によってはこっちの首を絞める結果になるかもしれない。確かに、シアラの言う通り、レティの死のタイミング次第では、手詰まりになっていたかもしれない。でも、それはこうやって全体を見渡してから、分かる事だ。いつだって、手詰まりの状況を切り開けるのは、正しいと思った方向に進んだ時なんだ」
レイは一拍開けると、言葉を続けた。
「今回のレティのように、自分がどうするべきなのか分からない、手探りの状況になったら、判断基準はたった一つ。その時、正しい方だと思う選択肢を選んでくれ。皆が正しいと思った道なら、必ず未来を切り開けるはずさ」
「……もしも、間違っていたら。あたしが選んだのが間違いで、皆を危ない目に合わせたら」
姉とは違う、翠の瞳に涙が溜まる。レイは安心させるように言う。
「その時は僕が正しかったと言える未来にする。だから、安心してくれ」
その言葉は力強く、皆の心に届いた。レティは浮かんだ涙を零すまいと鼻をすすり、エトネが差し出したハンカチを受け取った。
「でも、確かに見知らぬ人を屋敷に上げたのはダメだったな。フィーニスや帝国以外にも、どこかで恨みを買っているかもしれないし、危ない人も居るんだ。一人の時は、もっと注意するんだよ」
「うん、分かった。本当にごめんなさい」
「分かってくれたなら、それでいいよ」
ヨシツネとクロノは口元を緩め、リザとシアラは目線で語り合っていた。
正しいと思った選択。
かつて、レイはその選択に救われた。
『魔王』フィーニスと戦い、ダリーシャスの従者ナリンザはレイを守って死んだ。彼女は、彼女の考える正しい選択に殉じて死んだ。レイにとって彼女の死は、その後の旅の行く末を決める大きなきっかけとなった。
ナリンザが守ろうとしていたダリーシャスを守り抜き、遂には彼を王にした。
レイは自分の口にした通り、ナリンザが死を選んだのは正しかったと実証したが、その裏でどれだけの苦難があったのかを忘れてはならない。
そして今回、レイを守る為に正しいと思った事をして倒れた女性が居る。
いや、正確には女性の形をした機械だ。
二人は揃って、机の上に大事そうに置かれている女性の頭に目を向けた。究極の造形美も、埃を頭からかぶり、引き千切られた時の指の跡や亀裂が走り、見るも無残な姿となっていた。
『機械乙女』ポラリスの頭部だ。レイが《リバースワールド》から戻ってくる時に掴んでいたためか、頭だけが回収できた。残念ながら、胴体は行方知れず、頭だけの彼女が起動する様子は無かった。
シアラは探るような口調で尋ねた。
「あのね、主様。今後の事に付いて確認しておきたいんだけど……ポラリスを修復するなんて考えてないでしょうね」
「そのつもりだよ」
事もなげに言われ、シアラは表情をしかめた。リザもやはり、とばかりに目をつぶった。
「正気なの! 相手は『七帝』! それも『機械乙女』なのよ。黄金時代から、恐怖と畏怖の対象として恐れられた存在。破壊の化身。そんなのを蘇らせようとするなんて!」
「でも、僕は彼女に助けられた。僕だけじゃない、君やリザ、レティ、エトネ、ヨシツネ、クロノ、コウエン、キュイ。全員が助けられたんだ」
「レイ様。そのお優しい気持ちは尊い物だと思います。ですが、全てに優しさを向けるのは不可能です。今回の彼女は、通常とは違う意志で動いているからこそ、共闘したり、意志を通わせることができましたが、一時の気まぐれに過ぎません。ポラリスと接した時間はそれほど長いとは言いませんが、それでも断言できます。元に戻ってしまった彼女とは、意志を交わすことは出来ません。『招かれた者』と敵対する『七帝』に戻ってしまいます」
二人の説得は一理あるとレイは頷いた。
だが、これは何もレイの感情だけで決めた事では無いのだ。
「二人の言い分も理解できる。デゼルト動乱で遭遇したポラリスは、兵器破壊を優先する破壊者で、あれが本来の彼女なんだろう。もし、彼女を修復したら、世界は『機械乙女』の恐怖に晒され続ける事になる。僕にとっても危険な結果になるかもしれない。でも、そっちの方がマシかもしれないんだ」
「……どういう意味でござるか?」
レイは手に持っていた羊皮紙の束を机に置いた。シアラが視線で、これは何だと問いかける。
「これは学長付き秘書官のモランヌさんから送られてきた書類だ。とりあえず、緊急で開かれた会議の議事録と、明日以降の僕らの予定がまとめられているんだ」
「エトネたちの予定を、どうしてモランヌさんが?」
「もっと詳しい情報や対策の為に、事件に関わった当事者の証言が必要なんだって。重要なのはそこじゃなくて、ここだ」
レイが羊皮紙を捲ると、ある項目を指差した。覗き込んでいたシアラが代表するように読み上げた。
「『機械乙女』不在による魔法工学の兵器の復活。暗黒時代以上の惨禍が起こりうると指摘。……そういう事ね。ポラリスという抑止力が無くなれば、兵器を使おうとする馬鹿が出てきてしまう可能性が高くなるわね」
「誰かが使うかもしれないという恐怖に負けて、兵器の封印が解かれたら最後だ。歯止めが効かなくなるだろうね」
「拙者は魔法工学の兵器の恐ろしさを知らないのでござるが、それほどまでに危険な物なのでござるか?」
ヨシツネが尋ねると、魔法工学の兵器を使った事もあるレイが答えた。
「危険だ。今のヨシツネでも、上級モンスターの群れを一人で殲滅できてしまう。いや、それどころか、レティや戦闘訓練を積んでいない一般人でも同じ事が出来てしまう」
「……なんと。それほど恐ろしい物でござるか」
冷汗を浮かべるヨシツネにレイは同意した。
魔法工学の兵器は恐ろしい。それは間違っていない。
だが、恐ろしいと同時に、これほど便利な物はないとも実感していた。果たして、抑止力無き時代にどれだけの為政者が使わないでいられるか。一人でも使えば、後はドミノ倒しのように崩れていき、世界は死で溢れる。
「兵器が使用されるのを防ぐには、ポラリスを復活させるしかない。それをやるべきなのは、僕達だと思う」
「……意志は固そうね」
「シアラ!」
「リザ、諦めなさい。こうなった主様はどうしようもないわよ。それぐらい、アンタも知っているでしょ」
「……そうですね。それに、考えてみれば妹を助ける手助けをしてくれた方に、お礼も言えていません」
「あたしも、賛成! というか、あたしの責任も大きいと思うんだ。だから、手伝いたい」「エトネも! ポラリスとお喋りしてみたい」「私はレイさんが望むままに」「拙者も同意でござる。主殿の道が拙者の進む道です」「バリゴリバリゴリ」
「皆……って、コウエン。いつまで魔石を食べているんだ?」
ちょっと感動的なシーンにも関わらず、魔石を砕く音に水を差されたレイがスライム形態のコウエンを覗き込む。彼女は積んであった魔石を、それこそクッキーを食べる様に気軽に砕いていたが、やっと満たされたのか食べるのを止めた。表面が波打つと、途端に人の形を取り戻した。
「ようやっと、ここまで回復できたわ。呵々、危うくスライムで果てる所だったぞ。さて、レイ。話は聞かせてもらったぞ」
コウエンはひらりとテーブルに乗ると、大事に置かれているポラリスの頭を抱えて胡坐をかいた。
「こやつ、『機械乙女』を復元すると言っておったが、当てはあるのか」
「無い……訳じゃ無い」
「というと?」
「前にポラリスが……いや、正確に言えばポラリスの口を借りてノーザンが言っていたけど、この世界の何処かに彼の研究所があるはずなんだ」
「研究所……あっ」
研究所という単語に聞き覚えがあったリザが声を上げた。途端、全員の視線が彼女に向いた。
「何か心当たりでもあるのか?」
「はい。フィーニスがポラリスに尋ねていました。『科学者』ノーザンが残した遺産の一つ。工房、工場、そして研究所。フィーニスはその中の工場を探しているようでした」
実の所、工場以外にも探しているのだが、その事をリザは知らない。
レイはフィーニスも探しているという事実に苦い顔をしている。
「フィーニスもか。……被っていないのが幸いと言うべきか。フィーニス達でも見つけられないと嘆くべきなのか」
「この絡繰り娘を修復するのに、研究所へ行くのは分かった。じゃが、場所の心当たりは無いのか?」
「残念ながら、まったく」
「呵々。なんじゃ、期待外れじゃのう」
「期待させて悪かったな。まあ、ここは学術都市。様々な情報が集まり蓄積されている場所だ。研究所の手掛かりが、探せばあるかもしれないだろ。それに、僕としては君達が知っているんじゃないかと期待しているんだけど」
そう言って、レイはコウエンとクロノを順に見た。
「コウエンは赤龍の頃に、クロノは神々の観測所にいた時に研究所を見つけたんじゃないかな。あるいは手掛かりとか、その辺りはどうかな」
「妾は知らんぞ。クロノ、其方はどうじゃ」
「申し訳ありません、レイさん。記憶を失ったから知らないのではなく、本当に知らないのです。ノーザンの研究所を含めた遺産は、神々も把握できませんでした」
「やっぱり、そうか。そんな気もしていたんだよな」
二人の返答にレイはそこまで落ち込んでいなかった。
ポラリスを通じて届けられたメッセージは、明らかに神を警戒した内容だった。そんな男が、神々への対抗策を講じていないはずが無いと睨んでおり、そこまでの期待はしていなかった。
むしろ、そこまで神々を警戒していたノーザンの研究所に行くべきだと、決心が固まった。
「やっぱり、そう簡単には行かないか。まずは情報収集から始めるしかないか……ってコウエン、お前、何をやっているんだ?」
目を離した隙に、コウエンは体の一部をスライムに戻すと、ポラリスの頭を包み込んでいた。紅蓮色の粘液が、壊れた兵器の隙間へと染みこませていく。
「なに、ちと気になってな。……こちらでないとすれば、体の方か……いや、これか」
そう呟くと、ポラリスの頭の中でばきり、と嫌な音がした。
「おい、コウエン。明日には、ポラリスを調査する研究者に引き渡すんだから、壊すんじゃ……なんだこりゃ」
首の方から吐き出された粘液に包まれているのは、金属製のパーツだ。
パーツの表面にはへこみがあり、コウエンの粘液が残っていて紅蓮色の数字を浮かび上がらせていた。数桁の数字が二列、上下に並んでいる。
それはまるで―――。
「これは……エルドラドの座標ですね」
意味を理解したのは、元神であるクロノだった。
読んで下さって、ありがとうございます。
おそらく、次の回で11章終了となります。




