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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第11章 星の橋
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11-29 リザの視点Ⅴ

「摂理。感情から生まれたぱくは、モンスターとして具現化します。有象無象のモンスターは代を重ねるごとにモンスターとしての在り様を変質させ、単なる獣へと退化していきます。あれはモンスターの中に宿った魄が浄化されていき、消費されていった結果です」


 喋っている時間も勿体ないというポラリスの提案から、屋敷へ向かいつつポラリスによる『七帝』の、そしてこの世界の根幹となっている魂に関する秘密が明かされていく。


「他方。他にも魄を消費する存在は居ます。精霊や古代種の六龍などが大地からくみ取る魔力とは、即ちモンスターとして孵化する前の魄。彼らの存在を維持するエネルギーとして、魄は利用されていました。こんが人を育て、人の生み出した感情が魄となり、死した後に魂魄は天と地に分かれ、魂は次の人へ、魄はモンスターに生まれ変わり、そして消費され消える。この循環こそ、エルドラドの生命循環」


「モンスターが感情から生まれていたというのは知っていましたが、まさか喜びや愛と言った善の感情から生まれるなんて」


「不可解。喜びや愛が善の感情だと断定するのは浅薄」


「……どういう事ですか?」


「感受。何に喜びや愛を見出すのかは人によって違うということ。汚泥に塗れて倒れ伏す人の姿に喜びを見出す者も居れば、鬱屈した繋がりにしか愛を感じない者も居るはずです。果たして、その喜びや愛を善と呼べるのかどうか」


「そう、ですね。ポラリスの言う通りです」


 ポラリスの説明から、リザは女帝と呼ばれるジョゼフィーヌの事を思い出した。男も女も平等に愛し、骨まで溶かしてしまう女は、身の毛もよだつ方法で幾人もの男女を手籠めにしてきた。


 彼女に纏わる噂は帝国の隅々にまで届いていた。


 あまりにも屈折した愛情表現だが、愛には変わりないのだ。


「強すぎる感情が魄を生みだす。それは理解できました。でも、六龍や精霊、それにモンスターが生み出されることで、魄は消費されてきたのですよね。なのに、どうして『七帝』が誕生するのですか」


「説明。魄は強すぎる感情から生まれ、モンスターとなって大地に蘇る。そのモンスターを討伐する事で、人間は魂魄を成長させてきた。モンスターの魄を取りこんでいった」


 冒険者のみならず、エルドラドで強くなるにはモンスターを倒す事でレベルを上げるのが常道だ。『冒険王』に言わせれば、経験値なる物を取りこんで成長するのだ。


「成長。モンスターの魄を取りこみ成長した魂魄が死んだ時、魂と魄は天と地に別れる。問題はモンスターの魄を取りこみ、自身の強き感情と混ざり合った魄の存在。普通に生きて、普通に死亡する人間よりも大きな魄は、より強いモンスターを生みだしてしまう」


「普通の人間が死ぬと、魄は初級や低級モンスターになって、強い人間が死ぬと中級や上級、超級モンスターになる、という事ですか?」


「肯定。その認識は概ね正しい。若干の修正を加えるとするなら、『冒険王』が定めたモンスターの等級とは魄の量。あるいは亜種という形でこの世に生を受ける。強靭なモンスターを倒す為に人は徒党を組み、結果として魄は分裂して人々の中に取り込まれていきます。魂魄は人として生き、モンスターとして生まれ、精霊や六龍が生きるために消費していくことで総量に大きな変化を起こさず、世界は安寧を享受していました。ところが、この生命循環に大きな欠点があったのです」


 欠点という言葉にリザの心臓が脈打つ。


「欠点。それは『()()()()()』たちの存在です。彼らは、エルドラドと違う世界の法則によって誕生されたたましいを持ち、その死後、この世界に招かれた()()です。彼らはエルドラドに生まれた魂と違い、魄を取り込む量も、生み出す量も桁違いに多いのです。『招かれた者』と行動しているのなら、心当たりがあるのでは」


 ポラリスの問いかけに頷きはしなかったが、心の中であると返事していた。


 レイの能力値アビリティは《トライ&エラー》のペナルティもあって減少しているが、それでも異常と呼べる伸び率をしていた。同様に、ヨシツネの能力値アビリティもレベルに比べれば高い。これは『招かれた者』共通の特性なのだろうとシアラは分析していた。


「異物。彼らの魂魄はエルドラドにおける異物、異端、異種。数多の神々によって送りこまれ、この大地で死亡すれば、彼らの魂魄はエルドラドの生命循環に従います。魂は天へ、異常な魄は異常なまま大地に染み込みますが、最も厄介な点は、彼らの魄は()()()()()()点にあります。消費されずに塊となって取り残されます。それらが少しずつ蓄積していき、一つ目の肥大化した魄が大地に誕生しました」


「誕生という事は、モンスターとして、ですか」


「肯定。肥大化した魂を宿したモンスターは数多の人々を喰らい、屠ります。当然、それは『神々の遊戯場』における大きな目玉となります。あのモンスターを倒せるのは、誰の『招かれた者』なのか。……推測するに、その熱狂は凄まじい物だったのでしょう。多くの犠牲の果てに、肥大化した魄を持つモンスターは誰かに倒され、その誰かに強い感情の塊である魄が宿ってしまったのです。これこそが『七帝』誕生の瞬間と言えます」


「待ってください。その異物、『招かれた者』が生み出した魄は消費されなかったのですよね。なら、神々が気づいたのではないのですか。それに、六龍や精霊といった上位存在も気づくはずでは」


「否定。彼らにとって重要なのは、魂魄の総量が世界を崩壊させるに至らないように調整すること。消化しきれない魄があったとしても、他の魄を消化する事でバランスを保っていたため、気づくのが遅くなりました。そもそも、彼らはエルドラドの摂理に縛られた存在。赤と青の違いが理解できても、濃い青と薄い青の区別は出来なかった。エルドラド人が生み出した魄と『招かれた者』の魄を判別するセンサーを持っていません」


「そんな……それじゃ、消費しきれない魄は、ずっとエルドラドを彷徨うのですか」


「肯定。『七帝』の魄を受け継いだ者が死ねば、その魄は大地に沈み新たなモンスターとなって誕生します。誰かがそのモンスターを倒せば、その者が新たな『七帝』として君臨し、後生大事に『七帝』の魄に自分の強い感情を注ぎ込んでいきます。そうやって、強い感情を注ぎこまれた魄が一つ、二つ、三つと増えていきます。普通の魄の場合、あまりにも量が多すぎると、複数に分裂する特性があります。超級モンスターが一体誕生するのではなく、複数の上級モンスターとして誕生するのですが、『七帝』の魄は分裂することなく、一個の魄としては異常な量を蓄積していきます」


 無神時代が始まるよりもずっと前から、エルドラドは『神々の遊戯場』として存在していた。数多の神々が、己の遊興の為に異世界人の魂をこの世界に送り込んできた。彼らにも、異郷の地で成し遂げたい想いがあったのだろう。あるいは、神々に流されるまま送りこまれたのかもしれない。


 神々と『招かれた者』によって、この世界は致命的な毒に侵されてしまった。一滴、一滴、注がれた魄が壺を満たし、世界を破壊する。


「継続。一つ目の『七帝』の魄が生まれ、二つ目、三つ目、四つ目と気が遠くなるような時間が過ぎ去る。その間に、エルドラドの文明は幾度かの滅亡と再生を繰りかえし、その都度魂魄のバランスを調整がなされていきます。五つ目、六つ目の『七帝』が誕生したのは今より千二百九十五年前。無神時代が始まる直前となります。そして、千三百年の時を経て、七つ目の魄が誕生し、世界は処理しきれない魄の前に崩壊を迎えます。これが『七帝』による世界崩壊のメカニズムとなります」


 衝撃的だった。


 エルドラドで生まれ育ち、習って来た常識や知識を根底から揺さぶる事実が明らかになった。特に、魂魄の概念はリザにとって常識の外にあった事だ。これまでモンスターは人の悪しき感情から生まれると聞かされていたが、ポラリスの説明が正しければ、それは正しくないのだ。


 モンスターは人の魂魄から分離した魄から生みだされた存在。人の生まれ変わりと呼んでも間違いでは無いのだ。


 これまでに自分が何も考えずに切ってきたモンスターが、過去に誰かの魂だったとしたら、それは人を切っているのと何ら変わりないのでは無いのか。そんな疑問が頭の片隅に浮かんでしまう。


「それじゃ、どうやったら肥大化した魂、『七帝』の魄を消滅できるんですか。普通に倒しても、魄はエルドラドの大地に残ってしまい、またモンスターとして蘇ってしまうのですよね。……いえ、そもそも、エルドラドが滅ぶきっかけとなった『七帝』が『招かれた者』の魂が原因なら、今の問題を解決しても、神々の遊戯場として再開したら、また滅んでしまう可能性があるじゃないですか! それじゃ、何の解決にもなっていない!!」


「肯定。しかし、それは先の問題。現状、『七帝』の魂を正常に消費する術は見つかっておらず、考えるだけ無駄と判断できます。付け加えれば、『七帝』の魄は消費されることなく人々の魂を渡り歩いた結果、自身を倒した者や、引き継ぐに値する器を見つければそちらに乗り換える特性を得てしまった。現在の『七帝』たちは、そうやって先代から引き継いでいます」


「それは、貴女もですか。貴女も先代の『七帝』を倒して、『七帝』の魄を引き継いだのですか?」


「否定。本来、私は魔法工学の兵器を破壊する兵器として誕生したのではありません」


 一瞬の空白が生まれた。


 リザは何を言われたのか理解するのに数秒を必要とした。


 いま、彼女は何を言ったのだ。


「告白。本来、私は『七帝』の持つ肥大化した魂を全て収容し、エルドラドの外に放逐する為の目的に建造された道具でした。計画名、スターダストシリーズの一番機でした。残念ながら、私が取り込めた魄は一つだけで、姉妹となるべきシリーズも一体を除き全てが性能不足によって目的を達成できませんでした。結果、私は世界に散逸してしまった魔法工学の兵器を破壊する兵器として改修され、現在の姿となったのです」


「『科学者』は『七帝』の魂をこの世界の外側に追いやる事で、世界崩壊を防ごうとしたのですね。それ以外の方法は」


「皆無。少なくとも創造主が実行しようとしたプランは一つきりです」


 途方もない話だ。


 消費しきれない魂をこの世界から追放する事で、世界崩壊を回避しようという計画は、リザ達では思いつきもしない。ましてや部分的にまで成功しているのだ。魂なき道具ポラリスが『七帝』の一角になっているのが、その証だ。


 とはいえ、大きな収穫と言えた。


 これまで謎だらけだった『七帝』の本質に大きく近づけた上、彼女は更に情報を持っている可能性が高い。おそらく、ポラリスが話した『七帝』に関する情報は、正しいが全てではないのだろう。それは話を始める前に、部分的な情報開示と言ったことから推測できる。


 全ての情報を引き出すには、何かしらの条件が必要なのだろうが、それはこれから探っていけばいい。今明かされた情報から推測するなら自分よりもシアラやヨシツネの方が多くの事に気づけるだろう。これまで、どこから手を付ければいいのか分からなかった世界崩壊に対して、大きく前進した。そんな気がしていた。


 だからだろうか。リザは更に多くの情報を集めようと、気になったことを尋ねた。


「……その、『科学者』が思いつたけど実行しなかった計画とは、どんな物があるのですか」


「疑問。それを聞いて、どうするつもりですか」


「『科学者』に出来なくても、私達になら出来るのではないかと、そう考えたのです。もちろん、魔法工学の道具を生みだした、黄金期の一人に不可能だったことを、私達が容易く出来るとは思いません。それでも世界救済に繋がる手掛かりになるのではと考えたのです」


 自分でも驚くほどに口が滑らかに回る。人のような感情を持たない相手に機嫌取りは効果があるのだろうかという疑問を押し込めて反応を待つと、ポラリスの瞳に星の輝きが浮かんだ。


 どうやら、この輝きは彼女が考え込むときの仕草の様だ。


「受諾。創造主の果たせなかった願いを受け取る、という覚悟があるのでしたら、廃棄されたプランの一部を公開します」


「……分かりました。どこまで出来るか分かりませんが、その覚悟だけはあります」


「結構。……廃棄、凍結された世界救済計画は全部で十二個。うち、貴女に開示できる計画は一つ。創造主が目指したのは、不死の存在」


「不死……ですか?」


 ぞわり、と。


 首筋に冬の冷たさとは違う、体の芯から底冷えする寒さが走った。


「肯定。貴女方がアクアウルプスで遭遇した騒動。『魔導士』が開発した《アニマ》と呼ばれる魂魄改造魔法に創造主は着目しました。『魔導士』は『七帝』の持つ魄を別の存在に変化させることで生命循環の理から逸脱させようとしましたが、創造主は魂魄を固定。つまり死なない魂を生みだそうとしたのです」


「死なない魂を生みだして、それがどうして世界崩壊に繋がるのですか」


「説明。死の存在しない世界は、生命循環が起きない世界。魄の肥大化が起きず、結果『七帝』の世界崩壊が起きずに済むというのが当初の考えでした。しかし、創造主は全人類の魂を改造する事の手間から、本計画を破棄。次に発案したのが、不死者に『七帝』を取りこませるという計画です。……脈拍に乱れがあります。問題ありませんか、ミス・エリザベート」


 ポラリスの話を聞くうちに、リザの胸中で不吉な影が伸びていく。煮えた鉛を飲まされるような、不快感と絶望が体の内側に広がっていく。


「……大丈夫です。続けて下さい」


「了承。創造主の考えは世界救済における時間稼ぎでした。死の無い存在に『七帝』を宿す事で、『七帝』の散逸を防ぎ肥大化を一時的に停止。その後、『七帝』の魂を宿した不死者を世界から追放する事で世界崩壊を回避する計画が立案されました。しかし、不死者とはいえ魂を持った存在を、世界の外側に追いやるのは制約が大きく、この計画は断念。代わって、魂の持たない無機物に『七帝』を宿す計画、つまり私の誕生に繋がります」


 どうしてポラリスがこの計画について話してくれたのか納得できた。


 アクアウルプスで《アニマ》に関わり、ポラリスからスターダストシリーズについて聞かされていたから、説明しても問題ないと思われたのだ。


 だが、どうしてだろう。


 ポラリスの話に出てくる不死者という単語を聞く度に、脳裏に浮かぶのはレイの姿だ。


 不死者。


 死の無い存在。


 それは果たして―――死の螺旋を行き来する彼も含まれるのだろうか。


 言葉にならない、どうしようもない不安に駆られていると、リザの手をポラリスが掴んだ。


「……どうかしたんですか? 屋敷まではもうすぐですが」


「不可解。どうかしたのかは貴女の方では、ミス・エリザベート。いま、どちらに行こうとしました?」


「え? ……あれ!?」


 言われて周りの景色を見ると、おかしなことに気づいた。リザは屋敷に向かって歩いていたはずなのに、いつの間にか百八十度方向を変えて、反対方向に向かって歩こうとしていたのだ。


 幾ら考え事をしていたからと言って、来た道を引き返そうとするような真似をするのだろうかと考えていると、ポラリスがマントの下で何かを弄っている。


「解析。……完了。周囲一帯に人払いの魔法が発動しているようです。発生地点は、進行方向の先にある強い魔力を宿した屋敷からと観測」


「―――っ、その屋敷が、私達の屋敷です!」


 強い魔力を宿した屋敷は、学術都市でも一つしかない。魔道具となっている《ミクリヤ》の屋敷だ。そこを中心に人払いの魔法が発動している理由は分からないが、確実に分かるのは何かが起きているという事だ。


「仲間が、妹が屋敷に残っています! この人払いの魔法を突破する方法はあるのですか!?」


 焦るリザに対してポラリスは無言で、しかし銀の瞳に星の輝きが起きた。


「受諾。魔法阻害障壁の実行許可が下りました。これより、戦闘モードに移行しますが、宜しいですか」


「……いえ、駄目です」


 ポラリスの言葉にリザは学術都市が滅びる姿を想像してしまった。彼女が魔石を砕いたのを見たが、それでもその可能性を捨てきれない。彼女を自由にすると、どうなるか分からない。


「私が前衛に立ちます。貴女は後衛、それも補助をお願いします。決して、自分から戦って周りに被害を出そうとはしないでください。私の指示に従うと、そう約束しましたよね」


「了承。それでは手をこのまま繋いでください」


 言われた通り手を繋いでいると、ポラリスは前に突き進む。屋敷に続く道へと踏み出した途端、何かが砕ける音が辺りから響いた。


「警告。術者に侵入が感知されます。高速移動を開始します。このまま、手を離さないでください」


 途端、ポラリスは頭から被っていたマントを脱ぎ去ると、染み一つないメイド服姿をあらわにした。そして、足元の靴が変形すると、小さな車輪がむき出しになる。


「え、ちょ、わ、分かりました!」


 慌ててリザがしがみ付くのと、車輪が勢いよく回転するのは同時だった。車輪は煉瓦の道を噛みつくように進み、ぐんぐんと前に進んでいく。あっという間に屋敷を視界にとらえると、通りに面した扉が開いたのに気づいた。


 遠目からでも分かる。出てきた少年とドレッドヘアーの半裸の男は、何かを抱えている。


 片方は白色の髪をした女性で、もう一人は小柄な体格の栗色の髪をした少女だった。


 それを見た瞬間、リザは叫んでいた。


「レティ!! 貴方達、私の妹に何をしているんだ!!」


読んでくださって、ありがとうございます。

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