11-24 状況整理Ⅰ
「と、勢いよく意気込んでみたけど……こうやって書きだしてみると、どこから手を付ければいいのか分からないな。どこから手を出しても、大やけどしそうだよ」
応接室のソファに身を投げ出したレイは、机の上に散らばる紙切れを見てため息を吐いた。書き殴られた紙は、レイの視点、シアラの視点から得た情報と、今回の騒動の時系列、そして起きるであろう可能性をまとめた物だ。
レイとシアラが情報を出し合い、それをヨシツネが筆記した物だ。ヨシツネにエルドラド共通言語を教えていたのが役立った。
「いつもの事だけど、状況は最悪よね」
「こ、これがいつもの事でござるか。クロノス殿の騒動と比較しても、遜色ないでござらんか。あのような事態は一生に一度とかではないのですか」
冷汗を流すヨシツネに、シアラが頭を抱えそうになりながら応じた。
「主様と出会ったのが運の尽きね。生き延びたかったら、知恵を振り絞るしかないわよ」
「人を疫病神のように言うな。……三十分が経過したか」
応接室にある置時計は一時を指していた。死への残り時間は三十分だが、それもどうなるかは分からない。
今までの時間軸では、シアラはフィーニスを追跡し、逆に発見されてしまい交戦状態に入っていた。それが前回の時間軸でレイが乱入し、そして今回の時間軸で大きく変化した。レティが死ぬまでの一時間半という時間制限が、この変化によって変わる可能性がある。
それこそ、今この瞬間に対等契約の呪いが発動してもおかしくは無いのだ。
「それにしても、リザもエトネも来ないな」
レイは通りに面した扉を見やる。その扉から誰かが飛び込んでくるような気配は、今のところなかった。
「《送声》って、相手が受け取ったかどうかは分からないのか」
「残念ながら、分かんないわね」
状況整理を行う前に、シアラに《送声》を発動してもらった。この場に居ないリザとエトネ、そしてコウエンに屋敷へ戻るように呼びかけたのだ。それから三十分が経過したが、戻っては来ていない。
「魔法の効果範囲外に居るため届かないのか、あるいは届いているけどこっちに来れないのか。どちらにしても、リザとは合流しておきたいわね」
リザはレイと戦奴隷の契約を結び、《トライ&エラー》の効果対象に含まれている。彼女が死ぬと、記憶を保持した人間が三人になり、取れる行動が増えるのだ。
「リザには《トライ&エラー》が発動できる状態だと伝えたから、あの子がどこかで死を選べば、仕切り直しもできるけど……それでも優先するべきなのはリザの方ね。エトネたちには悪いけど」
「そうでござるな。今回集まっている『七帝』の中で、『機械乙女』ポラリス殿だけが、目的が不明でござる。主殿が聞いたシアラ殿の《送声》では、リザ殿とポラリス殿が共にレティ殿たちを追いかけていたのでござるな」
自分の書いた紙を指差しながら、確認を取るヨシツネにレイは頷いた。
レイが受け取った《送声》は二回だ。
時系列順にすると、一つは目覚めてから二十分以上が経過した頃だ。
地上に出たレイに向けて、
『主様、聞こえているなら急いで! お爺様がジャイルズと一緒にレティとクロノを誘拐して。ワタシ一人で……ヨシツネはワタシを庇って死んじゃって……お願いだから、早く来て!』
と、メッセージが飛んできた。
そしてもう一つは、目覚めてから一時間半が経過した頃。死のタイムリミット直前に、
『こっちは最悪なの! お爺様とジャイルズがレティとクロノを誘拐して、リザとボラリスが追いかけているのを、オルタナが邪魔してヨシツネが死んで、混戦状態なの!!』
という、頭を抱えたくなるメッセージを受け取った。
「確認だけど、リザがポラリスと会ったというのは間違いないんだね」
「ワタシは直接見ていないけど、キョウコツがそう言ってたわ。……そんな嫌そうな顔をしないでちょうだい」
キョウコツの名前を聞いて、しかめっ面になるレイに、シアラは苦笑した。まるで幼い子供が嫌いな野菜を食べてしまったのを見たかのような反応に、レイは頭を振った。
「……カタリナの指示で動いているキョウコツを頭から信じるのは難しいけど、嘘だとしてポラリスの名前が出てくるのはおかしい。悔しいけど、真実だと思うしかないだろうな」
「そうなると、二つの《送声》の違いから読み取れるのは、あの後にリザとポラリスが乱入してくるという事よね」
前回の時間軸、オルタナが撤退し、ヨシツネとキョウコツが死んだ状況でシアラは絶対絶命だった。これまでの死に戻りで、あの時間帯にシアラが死ぬことは一度も無かったから、殺される事は無かったが、無力化されて拘束されている可能性があった。
それなのに一時間後にまた《送声》を発動できたのは、誰かに助けられたからだろう。
その可能性が最も高いのは、リザとポラリスだ。
「あそこで僕が乱入せずに様子を窺っていれば、ポラリスたちと接触できたかもしれないな」
メッセージの違いを詳しく考えずに、フィーニスに向かって挑んでしまったのは失敗だった。
「……そうかもしれないわね」
「シアラ殿。それはあまりにも」
バッサリと言い切ったシアラにヨシツネは目を白黒させる。だが、彼女は金色黒色の瞳で素早く制すると、言葉を続けた。
「《トライ&エラー》の最大の利点は情報を得られること。仕切り直す必要があったあの時点で、ワタシを助けるよりも情報を優先しておけば、もっと多くの事が分かったはずよ」
でもね、と彼女は言葉を区切った。
「それでも、助けてと叫んだあの瞬間、青い空を緋色の流星が駆け抜けたのを見た時には、心の底から嬉しかったの。だから、自分のした事をそんな風に言わないでちょうだい」
そっぽを向きつつ、耳を赤くした少女の言葉にレイは幾らか報われた気持ちになった。
そんな時だった。通りに面した扉がノックされた。
室内に居た全員が一斉に身構えた。武器に手を伸ばし、扉を注視すると、声が聞こえた。
「私だ。頼まれた事の報告に来たぞ」
「この声、キョウコツか。入れてやってくれ」
ヨシツネが扉を開けると、キョウコツが屋敷の中に入ってきた。
「まったく、ワタシを使い走りにするとは大概だな、貴様。っと、レイか。お前、どこにいたんだ?」
「迷宮だよ」
「はぁ? 迷宮って、なんでそんな所に……ああ、あの方の仕業か」
「おそらくね」
「それでハンドベルで転移できなかったのか。……いや、でもあの方は迷宮でも転移を使えたよな。前にも貴様等をセーフティーゾーンまで運んだし」
「悪いけど、こっちも時間が無いの。先に報告をしてくれないかしら」
先程の反動なのか、苛立ちを滲ませるシアラに、キョウコツは先程頼まれて調べた事を伝えた。
「街外れにある馬屋に行ったが、お前らのニチョウは既に引き取られていたそうだ。残念ながら、あのちび共の足取りは追えなかった」
「ちび共?」
「エトネとコウエン様の事よ。あの二人を探して連れてきてほしいと頼んだけど……使えないわね」
「貴様が時間制限なんかを作るからだろ! もっと時間をくれれば調べられるがどうする?」
「……ううん。今は時間が惜しいわ。エトネたちとはこれを使わずに合流したかったけど、見つからないんじゃ仕方ないわね」
シアラはキョウコツから取り上げたハンドベルを見て、小さく不満の声を呟いた。
人物を指定して、その人の近くにまで転移する道具だ。カタリナの使う影の転移を込めたような道具だが、回数が三回までと定まっている。キョウコツがシアラの所に転移するのに一回、シアラがレイの所に転移するので一回、残りは一回だけだ。
この一回はリザと合流する為に取っておく必要があった。だから、エトネの事をキョウコツに頼んだのだ。
「街の様子はどうなっている。研究地区であれほどの騒ぎがあったのでござるから、警備隊でも動員されているのでござるか?」
「街はいたって普通。確かに派手な騒ぎになったけど、研究地区は閉鎖された環境だから、外に影響を与える事は少ないのさ。街の上役がどれだけ今回の事を把握しているのか知らないけど、明確に動いているのは貴様らだけだろうな」
「それはかえって好都合よね。下手に混乱して冒険者が駆り出されても、相手がアイツラじゃ屍の山が積み上がるだけよ」
厳しい意見だが間違っていない。A級冒険者のオルドですら、ジャイルズと単独でやり合うのは難しいだろう。もちろん、彼らより弱いレイ達にも勝ち目はない。
シアラはキョウコツに対して街中の様子を探るように頼んだ。命の危険が少ない内容に、キョウコツは喜びを隠そうともせずに彼女は去っていた。
残り時間も少ない事を受け、シアラは集めた情報から次の一手を絞り出そうとする。
「今回の騒動は、どこを落とし所にするかによって、取れる手が変わってくるわ」
どういう意味だと、レイが視線で問うと、シアラは説明を続けた。
「いま、街に入って来ている危険人物は四人。『魔王』フィーニスと六将軍第五席ジャイルズ、『魔術師』オルタナ、そして『機械乙女』ポラリス」
彼女は名前を挙げた四人を羊皮紙に書きこみ机の上に並べた。
「この中で、目的がはっきりしているのはフィーニス。あの人は時間に関する権能の調査に来て、どういう経緯か知らないけど見事に引き当てた。ついでとばかりにジグムントへの対策に有効なレティを誘拐し、ついでに主様にちょっかいを出すつもりね」
「僕へのちょっかいが、ついでのついでかよ。なんて傍迷惑な存在なんだ」
「ご愁傷さま。でも、これはこれで悪い話じゃないわよ」
「しかり。フィーニスは既に目的を果たしているでござる。クロノ殿を手中に収めた時点で、学術都市を離れるという選択も出来たはず。それをせずに都市に滞在しているのは、そのついでのついでのためでござろう」
「分類としては、フィーニスは明確な敵意を持った敵よ。話し合いじゃ、解決する余地は無い。レティとクロノの二人を捕まえて、頭数も多い。現状で最も厄介で、なおかつ倒さなくちゃいけない敵」
フィーニスとジャイルズの名前を書いた紙を、彼女は机の中心に置いた。それはまるで、今回の騒動の中心に居るのだと宣言しているかのようだった。
「そして『魔術師』オルタナだけど……こいつは本当の目的は分からないわ。クロノを狙って、正確には時の権能に関する調査のために来たのは間違いない。でも、何であの人の研究所に居たのかしら」
「オルタナはカタリナと知り合い、あるいは味方という可能性は?」
「確たる証拠は無いけど、低いと思うわ。今の所、あの人の行動でオルタナが得している事なんて、一つも無いわ」
「……フィーニスはクロノを捕まえた。最終的に殺すかどうかは別としても、今の時点で殺そうとはしていないのは確かだ。でも、オルタナがクロノを捕まえたら、どうすると思う」
「……それこそ、主様が知っているんじゃないの」
シアラの問いかけに思い出すのは、アクアウルプスでの遭遇だ。一度は死んだと思ったオルタナと面会した時、彼から13神に対する深い敵意と、底知れない憎悪を感じとった。星々の輝きすら奪ってしまいそうな、ブラックホールのような憎悪。あれを見て、クロノが無事に解放されると楽観視する事は出来ない。
「……ヨシツネ。アンタはアイツの事をエイリークと呼んでいたわね。そして、アイツもアンタの事を知っていた」
シアラの告げた内容にレイは驚きを隠せなかった。なぜなら、それは初耳なのだ。
オルタナとヨシツネに関する事を、シアラはあえて伏せていた。下手に知らせると、処理しなければならない情報が増えてしまうのだ。
「え? それってどういう意味だい。エイリークって、『冒険王』の名前だよね。オルタナはエイリークなのか? いや、それよりもヨシツネを知っているってどういう事なんだ。だって、ヨシツネは前のエルドラドからこっちに流れてきたんだぞ。それなのにオルタナが知っているなんて、どういう事なんだ」
予想通り混乱するレイに、シアラはそっと手を置いた。
「ごめんなさい、主様。色々と聞きたい事はあるでしょうけど、全部を聞いて、答えてもらう時間は無いの。だから、これだけは聞かせて。アンタの知っているアイツは、クロノを見つけて殺すようなことをする人間なの」
ヨシツネの眼が伏せられ、沈黙が訪れる。ほんの数秒だが、躊躇った後に彼は頷いた。
「あの方がどのような歴史を歩んでこられたのかは存じませんが、それでも本質は変わらないはずです。必要とあらば殺しをいとわない御方でした。ご自身で手を下すようなことは決してしませんでしたが、人を介して始末させたという事が幾度かありました」
「決まりね。オルタナはクロノを殺す可能性がある。分類としては潜在的な敵よ。実際、主様が受け取った私の叫びにもオルタナが邪魔をしているという内容があったわ。でも、フィーニスとは違い、明確な敵じゃないのが利用できるところね」
「というと?」
「オルタナは時に関する権能が発動したことを知っていても、それが13神クロノス様で、彼女が人間に転生したことは知らない。だから、クロノの事を知られずにいれば、オルタナは去っていく可能性もあるし、こちらである程度利用できるのよ」
「そいつは危険な手だな。『七帝』を利用するなんて」
「お言葉ですが、主殿。これは有用な手でござる。実際に、エイリーク……いえ、オルタナ殿はこちらの提示した条件に従い、ジャイルズの足止めをしてくださった。交渉の余地がある相手と言えましょう」
研究所を離れる時、オルタナはシアラが時に関する権能に付いての情報を渡すと言ったとき、オルタナはそれを受け入れた。もし、クロノの存在をきちんと知覚できていれば、シアラの提案を飲む理由が無い。
「そう考えると、カタリナの研究所に行ってたのも時に関する権能に付いて、話を聞きに行ったのかもしれないね」
「その可能性も考えられるわ。それで、最後が問題よ」
厳しい表情をさせたまま、シアラはポラリスと書かれた羊皮紙を取る。
「『機械乙女』ポラリス。魔法工学の最高傑作にして、最悪の化身。創造主が生み出した汚点を雪ぐだけの掃除人。彼女の行動は非常に分かりやすい物よ。魔法工学の兵器が起動したら、来て、壊して、帰る。その過程を邪魔する物は、容赦なく排除する。ただそれだけの、兵器殺しの兵器。それなのに、今回は明らかに違う」
「キョウコツの話じゃ、リザと市場で接触して、そのまま屋敷に招こうとしたんだよな。それでフィーニスと遭遇して、戦闘になった」
「通常とは明らかに違う行動よ。魔法工学の兵器関連で動いてないとすれば、やっぱり可能性が高いのは時間に関する権能の調査……かしら」
「あるいは破壊、という可能性もござらんか。話を聞くにポラリスとやらは破壊に特化した存在。ならば、権能の破壊もありうるかと」
ヨシツネが口にした可能性はあり得そうだとレイも同意した。だが、シアラは違っていた。
「それもあり得るけど、それだとリザが屋敷に連れていこうとした理由が分からないわ。そりゃ、頭に血が昇ったら何をするのか分からない、猪突猛進型なのは認めるけど、仲間を売るような真似は絶対にしないわよ」
酷い言い草だが、リザへの信頼が感じられた。
「それじゃ、ポラリスの目的はクロノに危険は無い、あるいは少ないとリザは判断したから、屋敷に連れていこうとしたのか」
「もしくは、ポラリスの目的を見抜けなかったか。……どちらにしても、ポラリスはリザに協力している。ポラリス側に何らかの目論見があるのか、それともリザの交渉が上手くいったのかは分からないけど、この事実は大きいわよ」
「リザ殿に協力しているという事は、拙者たちにも協力してくれる可能性が高いという事ですな」
その情報は、嵐の夜に差し込んだ月明かりのように、レイ達の道を照らし出した。絶望的な状況で見出した、細い活路だ。
「ポラリスを潜在的な味方と認識して、行動しましょう。彼女を味方に付ければ、フィーニスとオルタナに対して、大きな武器となるわ。今回の騒動、ワタシ達に取って最善の落とし所は、フィーニスとジャイルズを撃退し、オルタナにある程度の情報を渡して満足してもらい、ポラリスと平和的に交渉するのよ。……自分で言っておいてなんだけど、無茶苦茶よね、これ」
「正直な所、戦って勝つよりも難しそうな内容だよね」
「ですが、現状の戦力だけで『七帝』全員を相手取るのは不可能でござる。オルタナ殿とポラリスを味方に付けて、それで勝機が見いだせるかと」
相も変わらず、勝利条件は厳しい。地獄に垂らされた蜘蛛の糸のように細く、脆そうだ。時計の方を見れば、針は二十分を指そうとしていた。
「そろそろ時間ね。それじゃ、まずはリザと合流し、あの子にも戻ってもらうわ。そして何があったのか話してもらい、ポラリスを仲間に出来ないか策を練りましょう」
「……そのためには、僕らの誰かが彼女を殺すのが、一番って訳か」
分かっていた事だが、気は進まない。これからリザの所に飛んで、彼女が都合よく死んでくれるかどうか不明なのだ。
レイ達がリザを殺す。
最悪とも呼べる構図だが、これが適切だ。
シアラはハンドベルを掴むと、レイに見えないようにヨシツネに向かって手招きをした。音も無く忍び寄った男に囁く。
「リザは、ワタシが殺す」
「シアラ殿、それは」
「主様の性格は知っているでしょ。自分が殺したら、それを引きずるわよ。それこそ、『魔王』との戦闘中にもね。だったら、その重荷はワタシが引き受けるわよ」
それに、と彼女は続けた。
「アンタは知らないでしょうけど、前に一度、あの子に殺されているのよ、ワタシ。だから、ここらで一度やり返しておこうかと思ってね」
無論、本心からの言葉じゃない。言葉の裏に、彼女の迷いや苦悩を感じ取っていた。
仲間殺しという汚名は、本来ならヨシツネが背負うべき業だ。忍びとして育てられてきた彼は、有事の際は仲間を切り捨てる事も、手にかける事も教え込まれている。ヨシツネが殺しても、彼はその記憶を引き継ぐことは無い。死に戻りによって、無かった事にされるのだ。
それなのに、レイもシアラも、その事を口に出さなかった。
気づいていないはずがない。
だからこそ、ヨシツネは小さく頷いた。
「了承した。拙者は何を?」
「主様がやろうとしたら、停めてちょうだい。その隙に、ワタシが」
「おーい、二人とも。急がないと時間が無いよ」
レイの声に二人は返事をした。そして必要な物を持つと、一カ所に集まる。
「それじゃ、準備は良い? 正直、リザの所に転移した途端、そこが戦場であっても不思議じゃないわよ。それこそ『七帝』同士がぶつかっていているかもしれないわ」
「分かってるよ。周りがどうなっていても、それに流されずに目的を果たす。その覚悟はしてある」
「拙者も同様でござる」
「そう。……なら行くわよ!」
シアラは叫ぶと、手にしたハンドベルを震わした。澄んだ音は屋敷の中を広がり、そして三人の足元に昏き影が生まれた。粘り気のある影に体が吸い込まれていく。
あっという間に頭の上まで飲み込まれた三人は、一秒のようにも、一時間のようにも、それこそ一日のようにも感じられる時間、影に振り回されてから地上へと吐き出された。
―――そこは、控えめに言っても地獄だった。
読んでくださって、ありがとうございます。




