表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第11章 星の橋
655/781

11-16 無人の屋敷

 スライム系のモンスターは己の弱さをよく理解している。


 粘液状の肉体は、普通の斬撃、衝撃ならある程度緩和する。だが、面の破壊に特化した打撃系の武器や魔法の攻撃を防ぐのは難しい。一定以上の斬撃だと、生肉をスライスするように肉体を切り裂かれてしまう。


 何より、自分たちの攻撃力の無さを理解していた。一部のスライム系を除けば、彼らの攻撃方法は肉体に含まれる微弱な酸で溶かしていくか、あるいは不定の形を利用して獲物の口や鼻を塞ぎ窒息させるか、そのまま内臓を食い漁るぐらいしかない。


 そのため、敵と正面切って戦うのを不得意としていた。


 移動速度も遅いため、スタンダードな戦い方が相手の不意を狙った奇襲や、寝静まった頃合いを見計らってこっそりと忍び寄る暗殺などになる。


 スライム系のモンスターを暗殺者のようと喩えるのは、そういった戦い方が原因だ。


 では、スライム系が獲物を待ち構える時に使うポイントはどこかというと、天井の窪みや壁面にある穴、死角になりやすい岩の影などだ。見つかってしまえば、蹂躙される存在の命懸けの習性だ。


 ミラースライムもその習性に則っていた。


 亀裂や窪みなどが無数に広がるボスの間天井に、不定の体を器用に伸ばして貼りついていた。獲物が来れば、センサーを兼ね備えた粘液上の肉体で察知できる。どこに居てもコピーする事が出来るため、ミラースライムが天井に潜んでいるのは初弾を躱す為だ。


 生成されてから獲物が来るまでぼうっと待つこと一日弱、ボスの間とセーフティーゾーンを隔てる扉が開かれた。


 地響きで天井も揺れるが、この程度の揺れで落ちるような軟な体はしていない。ミラースライムたちはじっと、獲物が来るのを待ち構えていた。


 不思議な事に、大概のボスモンスターは門が開いたからといって、セーフティーゾーンに向かって飛び込んでくるようなことはしない。行儀よく、そこから誰かが入ってくるのを待ち構えているのだ。


 ギルドや有識者に言わせれば、彼らは自分たちが迷宮の守り役だと理解しているという。


 ここを突破されれば、下の階層に行かれてしまう。それを防ぐために門番として待ち構えているのだ、と考えられている。


 それはまるで、迷宮に意思があるかのような学説だが、これを否定する確固たる説は無い。


 真意はともかくとしても、ミラースライムにしてみれば不用意に降りてコピー前を攻撃されるリスクを背負ってまで、開け放たれた扉を潜ろうとはしない。まだ来ないのかと、無い手をくすねて待ち構えていると、不思議な気配を感じ取った。


 ミラースライムの感覚器官は主に熱と振動だ。熱で対象の大きさを感知し、床や壁から伝わる振動で位置を観測する。


 いま、何かがボスの間に入ってきた。ただ、熱は全く感じられず、振動も極端なまでに感じられない。まるで薄い紙のような物が床を滑る振動に困惑していた。


 困惑はしつつも、それが敵だと仮定して行動を開始する。


 ミラースライムの体が光り輝き、二つの帯となってボスの間を埋め尽くした。ミラースライムのコピーが発動したのだ。ボスモンスターとなったミラースライムにとって、ボスの間全域が射程範囲であり、コピー対象を選ぶ事が出来る。


 ところが、おかしな結果となった。


 コピー能力を発動したミラースライムは、体をグネグネと変化させてミラースライムに変化したのだ。


 二体のミラースライムは、二体のミラースライムとなった。


 何の意味も無い、何の変化も無い変身に見えるが、ミラースライムたちにしてみれば謎だらけの結果だった。


 射程内に居たコピー可能な生物は互いしかおらず、彼らは互いをコピーしたのだ。


 そう―――ミラースライムは生物しかコピーできない。


 ぐさり、と。


 天井に潜み隠れていたミラースライムAとBの肉体が、床から伸びた影の槍に貫かれた。狙いを外さずに、魔石を貫いた影はフィーニスの影だ。


 それを操る存在の名は影法師といった。







「おい、レイ。こっちは片付いたぞ」


 ボスの間に続く扉が開いてから数分も経たない内に、中から影法師の声がした。レイはあけっぱなしだった扉を潜ると、背後で扉が閉まる音がした。壁にかかっている松明が順繰りに灯り、薄闇の中に漆黒よりも昏い影が起立しているのが浮かび上がった。


 人の輪郭を模った影が手にした物を投げ飛ばす。レイが受け止めると、それは真ん中に亀裂が入った魔石だった。


 直後、天井から銀色の塊が落下した。不快な水音を立てて、ミラースライムの体が床に散らばった。銀色の水たまりは動く気配をしておらず、そのまま形を保てないように崩れていく。


 明らかに死んだモンスターの肉体だ。


「自分で思いついてなんだけど、ここまでうまくいくとはね。ちょっと予想外だったな」


 レイが思いついたミラースライムの撃破方法とは、影法師を利用した方法だった。


 ボスの間に続く扉を開けたままにして影法師を召喚し、影法師だけを先行して中に入れてミラースライムを倒させるというシンプルな方法だ。


 この方法を思いつたきっかけは、実はクロノス戦に遡る。


 時の権能を使えたクロノスは戦いの最中、時を止める権能を使った。自分を除く範囲内の生物の時を止め自由に動き回れるという驚異の力は、しかし影法師には通じなかった。


 レイの罪悪感を元に生み出された存在は、フィーニスの憎悪の塊である影を肉体に現実世界にまで侵食するようになった。だが、存在としての扱いはレイの技能スキル扱いなのだ。


 影法師は生物では無い。


 この法則がミラースライムのコピーを回避できるのではないかと考えたのだ。


「こいつがコピーした俺の影は、あくまでも技能スキルの再現。フィーニスの影に宿る俺の人格までコピーできていないのが、この選択の裏付けか」


「ああ。前回の戦いで僕とお前がそれぞれ別々にミラースライムと戦って場面で、向うも同じことをすれば良かったんだ。二対二じゃなくて、二体四だったら《全力全開オールバースト》の打ち合いまで行かなかったはずだ。だから、そうしなかったのではなく、そうできなかったんだって考えたんだ」


 レイは砕けた魔石を放り投げ反対側の扉へと真っ直ぐ進む。足取りは早く、一刻も早くこの場を離れようとする意思があった。


「お前をコピーできないなら、お前に中に入ってもらってミラースライムを倒してもらう。これが一番早く、確実に倒せる方法だ」


「ぎゃははは! 邪道な考え方だな。随分と卑怯なやり口も板についてきたじゃないか」


 人の形を崩した影法師は、レイの足元まで音も無く移動すると床に伸びる影となってついていく。影の鎧だと目立ちすぎるからだ。


「緊急事態だ。それに僕をコピーしたミラースライムと我慢比べなんてやってられるか。前回は自分の力を高めるっていう目的もあったけど、今回は速度優先だ」


 その言葉通り、レイは広間に現れた宝箱に見向きもせず、入り口の反対側にある出口へと向かっていた。


 ミラースライムが死んだことで、広間の扉が地鳴りを伴って開かれていた。


「だいたい十分ぐらいか? てめぇが目覚めてから」


「多分、それぐらいかな。このやり方なら、安定してボスの間を突破できる。今回ばかりは、相手がミラースライムだったのが幸運だったな」


 レイの言葉は正しい。


 仮に、別のボスモンスターの組み合わせだった場合、時間はかかっただろうが、最終的には勝利していたはずだ。たとえ負けが込んでいても、繰り返すうちに戦い方が洗練されていき最後には最速手段を導きだせていた。


 幾百の死を積み重ねて勝利を掴む。


 それが《トライ&エラー》という技能スキルであり、レイという人間だ。


 だが、自分と同じ存在になるミラースライムだと限りなく無理に近い戦いを強いられる。他のボスモンスターなら倒した所で一つの山場が超えるのに、ミラースライムの場合は倒してからが本番なのだ。


 モンスターの心を屈服させるまで殺し続けなければ、死のループは抜け出せない。


 それが一体だけでも厄介なのに二体も登場されたとなればお手上げだ。


 しかし、結果として最速の攻略方法を思いつき、無傷のままボスの間を突破できた。そればかりか、ちょっとしたおまけ付きだ。


 ―――まるで、誰かの筋書きに従っているような、レールの上を走らされているような都合の良さに悪寒が背筋を伝う。


「……どうした、レイ。魔法陣を前に足を止めて」


「……あ? ああ」


「時間がねえんだろ。色んな手段を考えた中でも、最速で突破したとはいえヨシツネが死ぬまでの時間が読めない以上、余裕なんて無いだろ。さっさと上に行けよ。それとも、今更ビビってんのか。『七帝』とやり合うのが、そんなに怖いのか?」


 影法師なりの発破に笑いそうになる。憎まれ口を叩きながら、気を使っているのだろう。レイは脳裏をよぎった考えを捨てると、魔法陣へと足を踏み出した。


「そりゃ、怖いよ」


 転移の魔法陣が輝きを強める中、その輝きに飲み込まれない漆黒の影に向かって言う。


「怖いけど、お前と一緒なら何とかなるさ。そう、思ってるよ」


 返事は無い。


 レイも求めていなかった。


 一人と一体は無言のまま光の中に飲み込まれ、気が付くと別の場所に居た。


 そこは昨日―――レイの主観ではもっと前になるが―――転移した地上側の魔法陣だ。


 レイが閉ざされた扉を開け放つと、迷宮入り口にいた冒険者たちが振り返る。ラビリンスの特殊な構造からボスに挑戦する冒険者はめっきりと減ったから意外なのだろう。だが、レイに構っている暇は無かった。


 注目と好奇の視線を振り切るように走ると、一気に外へと出た。冬の凍てつく空気を気にも止めず、足元の影法師に向かって命じた。


「影法師、サポートを頼む!」


「あいよ」


 気だるげな声に続き、足元の影がレイの体に絡みついた。あっという間に影の鎧が生まれると、レイはその上に炎の鎧を展開した。


 全身を覆うほどではないが、足元を中心に構築された炎の鎧に周りからどよめきの声が上がる。


「一気に行く。制御は任せた」


「ふん、好きにしな」


 足に力をこめて地面を踏みしめる。舗装された地面が砕けてしまうが、レイは気にせずに跳躍した。炎の脚甲からブースターのように炎が巻き起こり、宙に紅蓮の軌跡を描く。流石に龍刀の真なる力を半分引きだした、半覚醒時のように自在とは行かないが、それでも空を滑るように移動し建物の屋根へと着地した。そして影の鎧によるサポートによって高速で移動できるレイは、となり合った五つの屋根の上をあっという間に走り切ると、またしても空に向かって飛んだ。


 視界は高速で流れていくが、風は顔に当たらない。卵型の兜が守っていた。


 フィーニスの影と龍刀の炎による加速を駆使して進むと、あっという間に見慣れた風景へとたどり着いた。


「屋敷だ!」


「ついてるな。前の道に誰も居ねえ。あそこに降りるぞ」


「はぁ!? ちょっと待って、いまどれだけスピードが出てると思ってるんだ! 減速、減速!」


「うるせぇな、黙ってねえと舌噛むぞ」


 影法師の言葉通り、レイは着地の衝撃で舌を噛みそうになった。大砲以上の速度とエネルギーを持っていたせいで舗装された路面に足が触れた瞬間、レンガは砕けていき道が裂けてしまう。耳障りな破壊音と振動を辺りに振りまきながら止まったのは、ちょうど屋敷の前だった。


 影と炎の鎧によって高速移動を身に着けたレイは、本来なら迷宮から二時間以上はかかる屋敷までの道のりを五分と経たずに踏破した。


 その代償とばかりに目の前の道は、踏みつぶされた貝の殻のような有様だった。


「最悪だ。屋敷を開けがちになるから、ご近所付き合いはきちんとしてって、レティに言われてるのに」


「緊急事態だ。仕方ないだろ」


「お前、この、お前!」


 しれっという影法師に、レイの語彙力は低下していく。やってしまった事は仕方ないと割り切り、レイは屋敷へと近づく。


 鎧は解除しない。屋敷は魔道具と化しているが、内部に侵入される可能性はゼロでは無い。中に敵が居るとしたら、あれだけ派手な音を立てたから、到着に気づかれている可能性もある。


 龍刀の柄に手を当て、空いた手で扉のノブを掴む。


 普段なら在宅でもカギをかけているが、レイの予想に反して扉は何の抵抗も無く開いた。


 普段と違う結果に一気に警戒度が上がる。


 ゆっくりと、音を立てないように扉開けると、静かな廊下が待っていた。レイの屋敷には通りに面した正面に扉が二つある。


 もう片方は応接室に直接つながっており、いま開け放った廊下の隣がそうだ。


 レイは慎重に廊下を踏みしめる。この廊下はこれほど長かったのだろうかと疑問が頭の片隅に浮かぶ。


 廊下を渡り切り、視線を上下左右に向ける。奥に行けば台所があり、その向こうには中庭だ。右手には応接室へ繋がる内側の扉があり、吹き抜けには上階に続く階段がある。


 レイはまず、近い応接室の中を覗いた。


 争った形跡はない。ただ、暖炉に薪がくべられているのと、机の上にティーカップと茶菓子が置かれてあった。


 部屋の中に不審物が無いか確認しつつ、暖かい部屋に入る。そしてティーカップの器へと手を伸ばした。中身の入ったそれは温くなっていた。どうやら入れてからそれなりの時間が経過したようだ。


 ティーカップが置かれているのは上座という事は、誰かを招いたのだろう。


 茶菓子も客用にとレティが買い置きしている物だ。


(誰かを招いたのは間違いないが……誰だ? 今日、誰かがうちに来る予定なんてあったか)


 レイは記憶をひっくり返すが、答えは出ない。これ以上いても答えは出ないと考えて応接室を出た。


 そして階段の裏手にある地下室への扉を開けた。


「影法師、行ってくれ」


 頼まれるのを予期していたのか影法師はレイの体から離れると、そのまま地下室へと滑りこんでいく。地下室はシアラ専用の部屋となっており、魔法や魔法薬の研究、開発の為のスペースとなっている。それほど広いスペースでは無いため、戦闘になったら長物を持っているレイだと不利な地形だ。


 また、探索中に出入り口を閉じ込められるという可能性もあった。空気穴はあるが、ほぼ密室なのは変わりない。


 レイは影法師が探索している間に台所へと回った。


 台所は整然としていた。やかんが台の上に置かれていたが、それ以外に怪しい形跡はない。客をもてなすのに湯を沸かしたのだろうと推測して、レイは更に奥へと行こうとした。


「地下室は異常ないぞ、レイ」


 だが、その前に戻ってきた影法師の報告に耳を傾けた。レイは一瞬考え込むと、


「二手に別れよう」


 と、提案した。


「僕はこのまま庭を見たら二階から順番に確認する。お前は逆に最上階まで行ってから順番に確認してくれ」


 了解と短い返事と共に音も無く影は壁を伝って上に行く。レイは裏口を開けて中庭を覗いた。


 中庭は畑の準備が行われつつある状態のままだった。影法師が作ったキュイの小屋も空で、敵の気配や戦った様子は無い。


 そのまま扉を閉め、近くにあったグラスを置いておく。もし、この扉を誰かが開けたら、すぐに気づける用のトラップだ。


 そして二階、三階と順番に調べていったが、誰も居なかった。


 敵はおろか、リザ達の姿も無かった。ベッドが多少乱れてはいたが不審な跡は無い。


 つい先程まで此処に誰かが居て、その人がふっと消えたような不気味さだけが漂っていた。


「くそっ! 皆、どこに行ったんだ。もう、戦闘は、誘拐はされているのか」


 苛立ちと共に壁を叩く音が虚しく響く。最上階の自室に戻ったレイは、戦いに備えて予備のポーションなどを揃えていた。


「落ち着け、レイ。まずは心当たりのありそうな場所から順に回ればいいだろ」


「これが落ちついていられるか! もう、死のタイムリミットまで一時間を切ってるんだぞ! 早くしないと、皆が、ヨシツネが危ないんだ」


「だからこそ、だ。焦っていても、上手くいくわけねえだろ。そんなのも分かんねえのか」


 影法師の皮肉に、幾らか冷静さを取り戻す。不安で胸を掻きむしりたくなるのをぐっとこらえ、何をするのが最善なのか、思考をまとめるために言葉にした。


「まずは、カタリナの研究所に向かおう。あの人が僕を地下に送りこんだのは間違いない。何か事情を知っている確率は高い。それに昨日、シアラに彼女の所へ行くように頼んだんだ。もしかしたら、そこで合流できるかもしれない」


「……少しは冷静になれたようだな」


「ああ。悪いな―――ッ!!」


 謝ろうとしたレイが言葉を止めたのは二つの衝撃が全身を貫いたからだ。


 一つは声だった。


 不安と絶望で押しつぶされそうになりつつも、気丈さでどうにか保っている少女の必死な声だ。


『主様、聞こえているなら急いで! お爺様がジャイルズと一緒にレティとクロノを誘拐して。ワタシ一人で……ヨシツネはワタシを庇って死んじゃって……お願いだから、早く来て!』


 前回と違う内容を分析する余裕は無かった。


 なぜなら、もう一つの衝撃がレイの体を震わしていた。


 それは憎悪だ。


 左目下に走る傷が疼きだし、体の内に眠る憎悪が吼えた。


 自分の中に根付いた力が共鳴しているのだ。


 自分と同じ力を、すぐ近くで誰かが使っている。予感では無く、推測では無く、確信があった。爪先から脳天まで憎悪の毒に浸され、レイは眩暈を感じつつも決断した。


 レイは天窓を開け放つと、屋根へと飛び出た。そして晴れた空を見回し、西の方に浮かぶ黒い点に気づいた。


 漆黒よりも昏い影。


 それが何なのか考えるまでも無かった。


「行くぞ、影法師! 止めるなよ!!」


「止めねぇよ。行っちまいな」


 レイが吼えると、影法師は諦めた様に呟いた。


 全身を影の鎧が覆い尽くし、その上を炎が走る。影法師はその炎の量に違和感を抱き、気づいた。


 レイが《全力全開オールバースト》も無しに、龍刀の真なる力を半分まで引き出していた。その証として、中華風の鎧が全身に巻き付いていた。


 ミラースライムと全力でぶつかった結果、レイは《全力全開オールバースト》無しでも半覚醒状態まで持って行けるようになった。


 正確に言うなら、既にその境地には達していた。ただ、そこまで自分を追いつめるという機会が無く、コウエンを失ってから龍刀の力を引き出す事に不安を抱いていたから、自分の成長に気づかなかった。


 いま、レイは時間制限という鎖から解き放たれていた。


 炎の塊となったレイは轟音を響かせ学術都市の空を飛ぶ。人々は紅蓮の軌跡に驚愕した。


 目指すのは空に浮かぶ影だ。


 高速で飛翔して行くと、点のように浮かぶ存在の姿が、細部まで見えてきた。


 白い、禍々しさすら感じる白髪の下は正反対の漆黒よりも昏い影の鎧をまとっている。奇しくも、それはレイの鎧とほとんど同じだ。いや、同じで当然だ。彼の鎧を無意識に真似て形成しているのだから。


 だが、真似しているのは形だけだ。


 自分と同じぐらいの背丈なのに、近づくにつれ感じる力は圧倒的で底が知れない。


 まるで星も瞬かない夜の海を覗き込んだかのような、無辺に広がる闇の中に踏み込んでしまったような感覚に囚われる。


 ―――だから、何だ。


 レイは更に加速する。炎によって飛翔するレイは、地上から見れば緋色の流星のように見えていた。


 そして、緋色の流れ星は空に浮かぶ漆黒の闇と激突する。


 レイが渾身の力、渾身の速度、渾身のタイミングで振るった最強の一撃は、しかし細腕に支えられた影の剣に容易く阻まれてしまう。龍刀の持つ圧倒的な存在感とは真逆の、触れれば消えそうな頼りない刃なのにヒビすら入らない。


 それが二人の力の差を物語っていた。


 だが、レイは怒りの咆哮を上げずにはいられなかった。


「フィィイイイイイイニスゥウウウウ!」


「あは、あははは、あははははははははは! 心地よい憎悪じゃないか、レイ!」


 名を呼ばれ、幼い子供のような風貌をしたフィーニスは歓喜の笑みを浮かべる。


 ぶつかり合う緋色と漆黒。


『緋星』と『魔王』。


 二人の『招かれた者』が学術都市の空で激突する。


読んで下さって、本当にありがとうございます。


申し訳ありませんが、次回の更新をお休みさせてもらいます。

次の更新は12月1日を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ