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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第2章 祭りへの旅路
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2-38 マクベとホラス

「ご主人様。鍛冶王との歓談は終りましたでしょうか?」


「うん。色々と面白い事が分かったよ。……ところであれは何をしているんだ」


 鍛冶王の執務室を後にした僕はリザ達を探して工房をうろついていた。彼女たちは女性の職人と防具談議に花を咲かせていたようだ。


 だけど、どういうわけかレティが着せ替え人形の様に防具を着けたり外したりしている。職人の輪に囲まれて身動きが取れなくなっている。


「えっと。あの子用の防具を探しているという話をしてしまったら、皆さんどうしてか乗り気になってしまって」


「レティのサイズに近い防具を持ってきては魔法でサイズを合わせて一つずつ試着させて、感想を聞いてるんだよ」


 今も、膝や肘を守るプロテクターをレティは身に着け感想を聞かれている。


 その輪のうちの一人が僕に気づき近づいてきた。


「ごめんなさいね。ちょっと使用に関する感想を取らせて欲しいの」


 女性はすまなそうに言うと理由を付け足した。


「最近、子供奴隷が迷宮へと主人に付き従って潜るケースが増えているの。いくら奴隷だからと言って着の身着のままで行く訳にも行かないから子供でも動きやすい防具の需要が増えてきてね。ここでもその試作品を幾つか作ってるの」


 彼女は作業台に積まれた数種類の防具を見せた。たしかに、子供でも装備できる様に工夫が施されている。素材を革に絞ったり、体の重要な部分だけを守るように範囲を狭めたりと少し特殊だ。


「けど、やっぱり難しい分野だから使用者の感想を聞きたいなってみんなで話していた時に丁度レティシアちゃんが現れたの」


「モニターとしてうってつけだったと」


「そういう事よ。もう少しで全部を試着し終えるからもう少し待ってて。何だったら、あの子が気に入った防具を安く売っても構わないわ。皆の許可は取ってある」


 僕はもう一度作業台の上を見た。試作品ではあるが技術力の高い職人による防具を安く手に入るいい機会だ。彼女に向かって肯定する様に頷いた。


「ありがとう! みんな、彼女の主から許可が出たわ。急いで全部を試着してもらいましょう」


「「「はい!」」」


 職人に呼びかけながら彼女は輪に戻っていた。


 人の隙間から見えたレティの顔は僕を恨めし気に見つめていた。心の中で、


(もう少しだけ、付き合ってくれ)


 と、頼んだ。当然、彼女には伝わらなかっただろう。


 それからしばらくして、くたくたに疲れ切ったレティが満足そうな職人たちから解放された。


「つ、疲れたー! もう、ご主人さまの馬鹿!」


 倒れ込みかけた少女をかかえると、非難するような目で見つめられた。エメラルドグリーンの瞳に不満の色が宿る。


「ごめん、ごめん。お疲れさまだね。それで、何か気に入ったのはあった?」


 僕が問いかけるとレティは少し考えてから作業台の上にある防具の一つを指さす。子供用に素材から軽さを追求した軽鎧だ。どことなくリザの装備している防具と意匠が似ている。


「あれが良かったの?」


「うん。軽かった上に防御の面積も一番多い。……でも基本的には前衛向きじゃないから守ってほしいな」


 レティは小首を可愛く傾げた。どうもこの子は幼さとあざとさがコインの表と裏のようにくるくると変わるな。


 ふと、冷たい視線が二つ突き刺さるが、無視する。


 どうせリザとファルナだろう。このままレティの言うものを買えば幼女の魅力に負けて言いなりになったと思われるんだろうな。


(でも、自分を守る道具だ。自分で着てみて気に入った物を買うべきだ。だから、僕は間違っていない……はずだ)


 心の中で何故だか言い訳をしつつ、レティの指さした防具を購入して、工房を後にした。




「ふわぁぁぁ」


「行儀が悪いよ、ファルナ」


 工房を出て、大きな欠伸をするファルナ。彼女は瞼を擦り、少し眠たそうにしている。


「ワリィ。……一応、宿で少し寝たけどちと眠いや。……アタシは一度宿屋に帰るね」


「送りましょうか?」


「いいよ、リザ。子供じゃないんだ、一人で帰れ―――おっと」


 平気な様に振る舞ったが、足元がもつれ人にぶつかりそうになった。慌ててリザが彼女の腕を引っ張りフォローした。


「そんな状態の君を一人で帰すわけには行かない。送ってくよ」


「そうです。さあ、ファルナ様」


「あー。……悪いね」


 ちょっと躊躇った後、彼女は素直に頷いた。眠気と自尊心を天秤に掛けて、眠気の方が勝ったようだ。


 そのままリザが彼女の手を引いて宿屋への道へと進んでいく。精霊祭を明日に控えた街は歌う様な賑わいに溢れていた。


 特に目立つようになったのは奴隷と思われる人を連れて歩く身なりの綺麗な人たちだ。彼らは豪華な意匠の馬車から降りては工房や商店に顔を覗かせていく。


「ねえ、この世界だと貴族ってどういう風な扱いなの」


「どうって言われても……ご主人さまの世界だとどうなっているの?」


 前を行くファルナに聞かれない様に僕らの声は自然と小さくなる。


「王から領地経営を任された特権階級の人々を指していたよ。もっとも今じゃ大分数は少なくて、日本だと制度としては無くなったよ」


「大体、同じかな。シュウ王国は国土を四人の王族が治めてるけど、全部を自分の直轄領としないで貴族に分配しているの。そういった領地持ち貴族の下に名誉貴族、つまり名前と王政府から俸禄をもらう人たちがいるよ」


 レティが冷めた目で奴隷を連れて練り歩く貴族たちを見つめた。その瞳には容易に踏み込めない影のような物を感じた。


「他には……ご主人様のいたネーデ。あそこはもともと冒険王が興した国があったの。だけど冒険王の死後、跡継ぎの居なかった国は勝手に名乗った後継者たちによって分裂と衝突を繰り返して都市国家の形に収まったの。だから一応、領地を治める領主様がそのまま貴族で王様になるのかな」


「ふーん……じゃあさ、帝国はどうなの?」


 僕はさりげなく、しかし、確実に一歩深遠に向かって踏み出した。彼女たちが抱えているだろうと思われる闇へと踏み込む。


 一瞬、小さな体が止まったように見えた。しかし、瞬時に平常を取り戻すとレティは何事もなかった様に口を開いた。


「帝国は王と王を支える元老院が居るよ」


 何事もないように振る舞うが先程までの饒舌さは影を潜めている。彼女の態度から、


(やっぱり、東回りを言わなかったのは帝国を横切るのを避けるためか)


 と、心の中で確信を得た。


 僕はそうなんだ、と短く返して何でもない様に装う。彼女は僕の態度にあからさまに安堵した様子だった。


 それから、僕らは人の賑わう街並みを下り、宿屋の前に辿りついた。


「アンタらに世話焼かせちまったね」


 振り返り、ファルナはしおらしく頭を下げた。いつもと違う彼女の態度に少々動揺してしまう。


「それにレイ。誘ってくれてありがとう。あんまり話せなかったけど鍛冶王にお会いできてよかったよ」


「そう言ってくれてこっちも誘ったかいがあったよ。それじゃ、お休みファルナ」


「また、明日。ファルナ様」


「おやすみなさーい」


「お休み……まだ日がある内に言うセリフじゃないよね」


 沈みかけの太陽を見て彼女は苦笑しつつ宿屋の中へと消えていった。


「それで、私たちはどうしましょうか。レティの防具を買えた事ですし奴隷市場に向かいますか?」


 僕は少し考えてから首を振った。


「いや、仲間探しはまた明日にしよう。それより、本屋に行ってみたいんだ」


「本……ですか?」


 リザは不思議そうに首を傾げる。


「元々、ここまで来たのは帰還の方法を調べるのとこの世界の常識や知識を知るためだったんだ。ジェロニモさんに聞いた話だと精霊祭が始まれば世界中の本が売り出されるみたいだから、その前に都市で普通に流通されている本を見ておきたいんだ」


「そうですか……でしたら本屋に向かってみましょう」


「本かー。あんまり読んだことないんだよね」


「君たちも気になった本があったら言ってね。旅に持っていけそうな量と大きさなら買ってもいいから」


 二人は頷き、歩を進めようとして、リザが急に振り向いた。素早く体ごと向きを変えて、手は剣の柄を握る。


 遅れて僕も悪寒につられて振り返った。


 ―――瞬間。


 視界を埋め尽くすように飛来したなにかに気づき、後ろに体を仰け反らした。それは僕の頭部目がけで放たれた拳だった。


 僕の顔面をかする様に通り過ぎた腕を外側から掴む。これで僕は倒れずに済む。咄嗟に相手は腕を引いたので、それを利用してこちらも態勢を立て直す。ついでとばかりに、戻った勢いで相手の脇腹に拳を叩き込んだ。


「ぐふぅううう」


 鈍い音と声が響き、襲撃者の体が地に倒れる、その寸前。走り寄ってきたリザの蹴り足がの顎を打ち抜いた。


「あ、こら。リザ! やり過ぎるなよ!」


「あがぺっ!」


 僕の制止は遅かった。意味のなさない悲鳴を上げて今度こそ彼は大地へと倒れこんだ。すると、彼の仲間と思しき人たちが宿屋から飛び出した。


 意識の無くした彼の顔を叩き、名前を呼んだ。


「おい、ホラス! しっかりしろ!」


 そう、僕を背後から奇襲したのはカーティスが率いた後続部隊に所属していたホラスだった。彼の名前を呼ぶ人たちにも見覚えがある。彼らも『紅蓮の旅団』の冒険者たちだ。


 僕はその中の一人の肩を叩いた。びくりと、少年の体が震えた。


「それでさ―――説明してくれるかな?」


 少しだけ、脅しを籠める様に手に力を込めた。




「はぁ? 僕がファルナに手を出した!?」


「しぃー! 大声を出すな。団長に聞かれたらどうなるか分かってんすか」


 カザネ亭の中庭。井戸が置かれ洗濯ができるスペースまでホラスの体を引っ張った。リザの一撃で意識を刈り取られた彼はレティの回復魔法を受けてもまだ目を覚まさないでいる。


 宿屋に運び入れれば騒ぎになるからと人の居ないこの場所まで連れ込んだ。


 そこで僕は事情を知っていそうな少年―――マクベを問い詰めた。


『紅蓮の旅団』に入ったばかりのマクベはまだ幼く、おそらく年の頃はレティと同じぐらいだろう。少年期の勝気そうな胡桃色の瞳はこの状況に怯えた様に震えている。


「……ご主人様。いつの間にファルナ様に手を出したのですか? というかロリコンでは無かったのですか!?」


 リザが心底驚いた様子で僕を見つめた。


「いや、神に誓って言うけど手を出した覚えは無いからな! あと、後者の方に驚いてんじゃねえよ!!」


「だから声が大きいっす、レイさん!」


 彼女の態度に思わず口調が乱れてしまう。呼吸を繰り返して精神を落ち着かせる。


「それでマクベ。なんでホラスは僕がファルナに手を出したなんて誤解を抱いてんだよ。そして何で襲って来たんだよ」


 少年は躊躇った後、少しずつ事情を説明してくれた。


「俺たちは……ってかホラスさんは帰ってこないファルナ姐をロビーで待ってたんです。そんで帰ってきた姉御に近づいたんですよ。そしたら、姉御の様子が変で」


「昨日はあんまり寝てなかったっていってたな。それで?」


「はい。姉御も同じことを言ってたんですけど、口にした理由にレイさんの名前が出たんすよ」


「僕の?」


 思わず聞き返してしまう。マクベも含めた『紅蓮の旅団』の冒険者は事実だと頷いた。


「横で聞いていたおれでも要領を得なかったんすけど、ホラスさんは何故かその……そういった・・・・・妄想を浮かべたらしくて、あの野郎! ぶっ殺してやるって息巻いて宿屋を飛び出したんです」


「それで入り口に居た僕を殴ろうとして」


「カウンターを受けて伸びてしまった訳です」


 僕らは揃って気絶したままの彼を見つめた。腰には片手剣が差してある。それに手を伸ばさなかっただけの理性はあったという事だろうか。


 それにしても、ファルナの奴め。幾ら寝ぼけているからって不用意に僕の名前を出すんじゃねえよ。


「レイさんも気づいてると思いますけど……ホラスさんは姉御に気があります。そんでネーデの街でアンタと姉御が一緒に先に行ってからずっと姉御の心配をしていて」


「それがここに来て爆発したと」


「はい。根は悪い人じゃないんです。入ったばかりのおれにも優しくしてくれるいい先輩なんです。だから、本当にすいませんでした!」


 マクベは勢いよく頭を下げた。僕はため息を吐くしかなかった。彼を責めるは筋違いという奴だ。


 困ったなと思っていると、


「―――ぅぅぅううう」


 と、ホラスが小さく呻いた。みんなの視線が倒れている彼に向かう。


「ここは―――おれは……っう!」


「ホラスさん。まだ起き上がっちゃだめですよ!」


 マクベを始めとした取り巻きがホラスを抑え込もうとする。だけど、当の本人は構わずに体を起き上がらせた。


「たしか、そう。ファルナに会って、それで……そうだあの新参者!」


「……それってもしかしなくても僕の事かな」


 怒りに任せて拳を振り上げたホラスに声を掛けた。暗緑色の瞳が僕に焦点を当てると、みるみるうちに顔に朱が差した。


「てめぇ! よくもファルナに手を出したな!!」


「手なんか出してねよ! オルドに聞かれたら、殺されるだろ!!」


 怒鳴る彼に思いっきり怒鳴り返してしまう。心配になって宿屋の窓を見たが、こちらを覗いている人影は見なかった。


 ホラスは怒鳴られたことでぽかんと、あほのような表情を浮かべている。


「アンタがファルナから何を聞いてどんな想像をしてるのか知らんが、僕はファルナとは何ともないよ」


 怒鳴る事で苛立ちが晴れ、冷静に彼に説明ができた。ぽかんとした表情は変わらないままだが。


「―――それじゃ、お前はファルナの事をどう思ってんだよ」


「はぁ? 急に何を聞いてんだよ」


「いいから、答えな」


 急に意識を取り戻した彼は真剣な表情で僕を問い詰める。その熱に当てられたように僕も真剣に考え込んでしまう。


(僕がファルナの事をどう思ってるかって? ―――そりゃ)


 思い出すのはネーデの迷宮。僕が攻略した直後に発生した異常事態によってバジリスク亜種の幼生体に殺されたファルナ。最初はその責任感から彼女を助けに行った。


 後になってその異常事態の原因はゲオルギウスだと分かった。だけど、もし。また、彼女が死んでしまったら僕は彼女を助けに行くだろうか?


 答えは―――是だ。


 迷うことなく、助けに行くだろう。なぜなら。


「―――戦友だよ。冒険者になりたてで一緒に強敵と挑んだ戦友だ」


「そうか―――そうかい」


 二度繰り返すと、ホラスは納得した様に頷いた。そして、彼は座ったまま頭を下げた。


「お前が団長に贔屓されてることにはまだ腹は立つけど、さっきのは漢らしくなかった。すまなかった。許してほしい」


「ホラスさん」


 周りの取り巻き達が驚いているのを見ると、きっと彼が心の底から謝っているのだろうと思えた。


「―――ま、こっちも気絶にまで追い込んでしまったんだ。お互い水に流しましょう」


 言って、その場を立ち去ろうとして足を止めた。


 僕は素早く宿屋の窓に視線を向けた。見える範囲の窓を注意深く見つめた。宿屋の方から視線を感じた気がしたのだが。


(なんか赤いのが視界の端に見えた気がしたけど……気のせいかな)


 不思議そうに僕を見つめるリザとレティに目配せして僕らは中庭を後にした。


読んで下さって、ありがとうございました。

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[一言] あまりに短気で思慮が浅いから驚いたけど学がないとこうなってしまうものなのかな
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