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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第11章 星の橋
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11-3 冒険者の街

 ボス討伐を決めたレイ達は、セーフティーゾーンを引き払い地上を目指す『紅蓮の旅団』のメンバーに別れを告げた。合同訓練会は一月近く行っており、歴戦の強者が揃っている『紅蓮の旅団』でも地上が恋しくなるというのに、これから更に地下を目指す《ミクリヤ》に対して、呆れ半分、尊敬半分の視線を向けていた。


 ベルドランドのような豪快な男は、それでこそ冒険者、と笑っていたがロータスやカーティスといった常識人は、連携が馴染んでいないパーティーでボスに挑むのは危険だと止めた。


 どれだけ説得されても意見を変えないレイに助け舟を出したのはオルドだ。


「その辺にしときな。冒険者ってのは、各々に抱えた事情ってのが止まるのを許してくれねえ。レイにはレイの、《ミクリヤ》には《ミクリヤ》の事情ってもんがあるんだろ」


 団長の鶴の一声だった。二人もそれ以上は主張できない。とはいえ、ボスの間は危なくなったら退避するという事が許されない空間。二人はせめてもの支援として、捻出できるだけの物資を用意すると、レイ達に格安で売りつけた。


 こうして出発する彼らを見送ると、レイ達は予定通り体を休めてから、地下へと進んでいく。


 迷宮のため、道中にはモンスターが幾度も行く手を阻んできたが、それらを危なげなく撃破していった。前衛はレイ、リザ、エトネの三人、後衛はシアラ、レティ、そして二人を守るためにクロノとヨシツネが補佐についている。コウエンはスライムの形状のまま、後衛組の切り札として待機だ。


 これまでは、後衛の盾役は状況によってレイかリザのどちらかが受け持っていた。今ではクロノが相手の攻撃を受け止め、その間にヨシツネが奇襲をかけて敵を撃破するという、二人で一組の盾として機能しているお蔭で、レイ達は攻撃に集中できるようになった。

『紅蓮の旅団』との合同訓練会で、彼女のレベルは41に到達している。一月近くかけてゆっくりとレベルアップしたため、身体機能の急激な上昇によるずれは少なく、自らの意思で組み上がる武器を扱う腕前も上達している。


 遭遇した超級モンスターもパーティーの力を合わせる事で難なく撃破。連携を深めつつ、五日ほどかけてボスの間手前にあるセーフティーゾーンに辿り着いた。


「これ、ほんとうにセーフティーゾーンなの?」


 到着するなりレティが感想を口にしたが、それは全員が同じことを思っていた。階段を降りると、そこは明かりに包まれていた。天井を満たす、輝く鉱石の明かりを飲み込むような灯りは、間違いなく魔法工学の道具がもたらしている。木や土で作られた建物が幾つも並び、人々の賑わう声が壁に反響していく。


 あまりの賑やかさに、地上に出たのかと疑ってしまう。


 地下迷宮の奥深くに、人が暮らす街があるのだ。


「話には聞いていたけど、本当に街があるなんて」


 シアラが呆れたとばかりに呟いた。


 ここは迷宮の中にある冒険者の街、エンドスポット。


 セーフティーゾーンという特性を生かして陣地を作ったり、移動式の販売所を開く冒険者は数多くいるが、ここまでの規模はこの学術都市だけだ。


 地上ほどの潤沢な物資は望めないが、この街には武器防具を修繕できる鍛冶師や、病気やケガを診てくれるヒーラー、ポーションの製造工場、持ち込まれたモンスターの素材の売買も行われている。当然のように宿屋や食堂もあるのだから驚きだ。


 それらの資材や物資を地上から運搬するのは、冒険者たちだ。この街の住民の大半は現役の冒険者であり、地上と地下を往復して街を維持している。


「ここでは独自の通貨でやり取りをしているはずですが、換金商はどちらでしょうか」


「お、お姉さんがた、この街は初めてかい?」


 賑わう街並みできょろきょろと首を振るリザを目ざとく見つけたのは、人間族の半分ぐらいのサイズしかない小人ハーフリング族だ。エトネと同い年ぐらいの人懐っこそうな笑みを向けるが、実年齢は不明だ。


 彼は露天商らしく、色とりどりのポーションを手製の屋台で販売していた。


「換金商をお探しなら丁度いい、おいらの店でもやってるよ。うちはモンスターの素材と交換さ」


 デッドエンドで使われている貨幣はデッドと呼ばれる特別な貨幣で、他所から持ち込まれるものすべてと換金が出来る。メジャーなのはモンスターの素材だが、魔石やアイテム、更には奴隷の権利書まで換金可能だ。


 レイは事前に用意していたモンスターの素材を換金商に見せる。おどけた瞳に欲の色が浮かび、本性を僅かに垣間見せた。


「へぇ。アイアンゴーレムの皮膚に、爆弾アリの肺胞か。こっちは、ジャイアントトードの肉。うん、悪くない鮮度だ。これならいい値が付けられるよ」


 そう言って提示された額は、街の入り口にあった相場表と照らしても悪くない額だ。元から、この街で豪遊するつもりの無いレイは、シアラとレティに確認を取ってから了承した。


「へへ、毎度アリ。それにしても、お兄さんたち、見かけない顔だね。なんていうパーティーなんだい?」


「《ミクリヤ》というパーティーだ」


 答えると、見た目は少年の小人ハーフリング族はさらに上擦った声を上げた。


「へええ! アンタらが《ミクリヤ》! それじゃ、白髪まじりのアンタが『緋星』って訳か」


 大きな声は周りの耳目を集めるきっかけとなった。通りに居た人々が、《ミクリヤ》や『緋星』という単語に注目を集めていく。


「上で噂を聞いたよ。水の都やデゼルト国で大暴れした新入りが、学術都市入りしたって。此処まで降りてきたって事は、狙いはボスかい」


「そうなるかな。……ついでだから聞きたいんだけど、ボスに挑むのは時間が掛かるかな?」


 ボスの間とは、基本的に順番制である。先に入ったパーティーがボスを倒せば、再生成されるまでは扉が閉ざされる仕様のため、ネーデでは予約のボードがあった。これだけの規模の街に、多くの冒険者が滞在しているという事は、それだけ順番待ちが長いという事かとレイは考えたのだ。


 ところが、露天商の少年は違うよと首を振った。


「ボスへの挑戦なら、そんなに待たなくてもすぐにやれるよ。というか、最近じゃ挑む冒険者の方がすっかり減ったからね」


「……そうなのかい? これだけ冒険者が居て、誰も挑戦していないのか」


「お兄さん、たしかレイだっけ? 学術都市のボスと中層への行き方が特殊なのは知っているよね」


 見た目は少年の確認にレイは頷いた。


 大迷宮ラビリンスのボスは、常時二体出現する。これまでの調査から、上級から超級までのモンスター、合計十種の中から無作為に選ばれた二体がボスとして強化された姿で登場するのだ。これは、これまで発見された全ての迷宮の中で、ラビリンスだけの特徴として知られている。


 そしてもう一つが、ラビリンスの中層に行くには街の中央部分と北と南にある他の迷宮もクリアしなくてはいけないという事だ。


 ラビリンスが大迷宮と呼ばれる所以は、他に類を見ないほど強大な迷宮だからだ。上層部だけで三つの迷宮が街の北と南と中央にあり、それぞれ最後の階層にボスの間がある。


 中層部に降りるための魔法陣が起動するには、全ての迷宮のボスを倒さなければならないのだ。


 それも迷宮の変成が始まるまでに。ラビリンスの変成は一月に一回のため、変成直後に中央のボスを撃破したとしても、残り二つの迷宮を一月以内に攻略しないといけないのだ。


 片方は変成が終わったばかりで、確実に情報が不足している迷宮の攻略となるため危険度は倍増だ。


 どのルートが最短で、どこに罠があり、どんなモンスターが出没するのか、それらの情報があるかどうかで難度は違ってくる。


「この構造ゆえに、かの『冒険王』すら攻略を断念したほど。何しろボスを倒しても実入りが少ないんだから。他の迷宮なら中層に降りる事で出現するモンスターの難度が上がり、魔石もより上質になるけど、ラビリンスなら上層部でも結構質の良いのが取れちゃうからね。危険を冒してまで中層を目指そうとする冒険者なんて最近は居ないね」


「なら、この街に滞在している冒険者たちは何をしているのかしら?」


「ここに定住する冒険者の主な仕事は、変成したばかりの迷宮探索さ。地上から降りてくる冒険者と、地下から昇って来る冒険者が途中で合流すれば、このバカデカい迷宮の探索に必要な時間が半分に削られるだろ」


「確かに効率的でござるが……それをして冒険者たちに何の得があるので。まさか義侠心でござるか」


「はは、まさか。そりゃきちんと報酬が支払われているからね」


「報酬? どこから」


「そりゃギルドに決まってるだろ」


 レイに対してデッドを支払った少年は、受け取ったモンスターの素材を種類ごとに分けていく。その作業中も喋りが止まらないのは、おしゃべりな性格なのだろうか。


「この街の財源の一つが、ギルドからの支援さ。迷宮の変成が終わり次第、速やかに正確な情報が欲しいと考えた統括長の肝いりで、この街は誕生したのさ。『冒険王』の遺志に反するが、無理に中層部を目指して有能な冒険者が死ぬよりも、魔石を大量に確保する事で人々の生活を豊かに、そして安定させる方に舵を取るべきだって主張してな。見所のある冒険者を片っ端から声かけて、この街に住まわせて変成直後の迷宮探索の専任として雇い入れたんだよ。アンタらもそれなりの強さだろうけど、ここの奴らは冒険者としての年季が入ってるから、レベル差なんて簡単にひっくり返されちまうぞ。だから、ここじゃ喧嘩は痛い目見るだけだから止しときなよ」


「成程ね。事前情報なしに変成直後の迷宮を探索なんて、その辺の冒険者じゃ無理な話よね。それだけに従事させていれば、凄腕の冒険者が生まれても不思議じゃないわね」


「うん。……でもそれって」


 レイは思ったことを言葉にはせず、しかし胸の内に芽生えた違和感を拭えなかった。


 ラビリンス攻略を夢見て、ここにギルドの本部を作った『冒険王』安城琢磨。彼が目指したのは、この迷宮の最深部だ。そこに何があるのか知らないが、その理想を無視し、力のある冒険者に地下へと進ませなかったオーギュスターの行動は、漠然とではあるが気に入らなかった。


 この街の名前もそうだ。


 デッドエンドスポット。


 行き止まりの場所。


 お前たちはここから先に行く必要が無い、と言わんばかりの名前ではないか。


「そいじゃ、こいつはおまけだ。持って行きな」


「ポーション? 別に何かを支払ったつもりは無いけど」


「いやいや。今夜の飲み代がタダになる情報を貰った礼だよ。これをネタにただ酒が飲めるゾ!」


 やはり、見た目と実年齢が大きくかい離していたようだ。







 街の中を探索すればするほど、地上の街と変わらないと感じてしまう。行き交う人々も、目にする建物も、売られている商品や漂ってくる食事の香りにここが迷宮だと忘れそうだ。


 ただ、視界の端に映る無機質な岩壁や、美しくはあるが異質な天井を見るとここが迷宮だと思い知らされる。


「ちょっと主様。何処を見てるのよ。今は作戦会議中でしょ」


 シアラのつっけんどんな声に、レイは意識を戻した。デッドエンドスポットの一角にある食堂にはオープンテラスがあった。雨が降る事も強い風が吹くことも無い地下だからか、そう言った店が幾つもあった。


 レイ達は近くにあった店のテーブルを二つばかり借りて、街で集めた情報を話し合っていた。


「やはり、ボードに名前は記入されていません。ここ一月、ボスに挑戦した者は居らず、いつでも挑戦する事が可能なようです」


「拙者は街の冒険者から実際にボス討伐に成功した体験談を聞きだせたでござる。幾つか組み合わせがあるでござるが、一番楽なのが上級と上級の組み合わせ。超級でも、組み合わせ次第では同士撃ちも狙えると。詳しい情報は、こちらに纏めてあります」


「物資とかはそんなに良くないね。高品質なポーションとかは、変成直後の迷宮探索用にストックされているみたいで、市場に出ているのは良いとこ二級品。これなら手持ちのアイテムの方がずっと良いよ」


 一時間ほど別れて情報収集したのだが、手に入った情報の多さや質に驚いてしまう。特に、ヨシツネの調査力はずば抜けており、彼が聞きだせた体験談は非常に大きな成果と言えた。


「最悪な組み合わせは超級モンスターのグランドメイジか。範囲攻撃魔法は対策が無いと全滅するかもしれないよな」


「こちらのフィンガープラントも気になりますね。地面の下に魔石のある本体が潜んでいるとなると、相手を地上に引きずり出さないといけません」


「反対に、アルバトロスゴーレムは組み合わせ次第だと勝手に自滅するみたいだね。楽な敵だと楽が出来るけど、それじゃ経験にはならないよね」


「その通りよ。これは、このパーティーで強敵とぶつかった時を想定しての訓練よ。本当ならこうやって下調べをせずに挑戦したいところだけど、流石にそれは無謀とも言えるわ。何しろ、主様の《トライ&エラー》も万能じゃないもの」


 レイの死に戻りの技能スキルは、レイか他の対象者が死亡しなければ発動しない。石化は死亡の範疇には入らないし、クロノやヨシツネ、エトネとコウエンが死んでも技能スキルは発動しない。


 下手なタイミングで死亡すれば、死ぬ直前がセーブポイントとなってしまい無限に死ぬ環が生まれるかもしれない。


 考えられる組み合わせの全てに対策を用意する時間は無い。レイ達は、危険とされている組み合わせに絞って念入りな打ち合わせと準備を行う。


 初めてのボス戦となるクロノとヨシツネが緊張した面持ちで話を聞く中、デッドエンドスポットの中心にある鐘が鳴った。


 すると、街の明かりが絞られていき、夕暮れ時から夜の狭間へと街は表情を変えた。太陽が無いため、時間の経過を忘れないようにする工夫の一つだ。


 途端、エトネとヨシツネの腹がぐぅと鳴った。どうやら限界が来たようだ。


「切りも良いし、これで以上にしよう。実際の作戦は突入した時次第だから今の時点では何とも言えないけど、覚えておいてほしいのはボスとして強化されたモンスターが二体、同時に出てくる事。自分と向き合っているモンスターだけに集中していると、もう片方を見落としかねない」


「そうね。……とにかく、今夜は一泊してトライ&エラーのセーブポイントを作りましょう。そしてもし挑んで勝てないと判断したら死に戻りましょう。自分たちの利点は最大限活用しなくちゃ」


「……一応、死んだらイタミが来るのを忘れないでね」


 レイのぼやきにクロノは申し訳なさそうに俯いた。


 一行はテーブルの上を片付けると、長時間使わせてもらった礼と言わんばかりに食事を注文した。机を足して乗せる事の出来た食事はあっという間に平らげると、宿屋で一泊した。


 そして、レイ達がボスの間へと向かうと、巨大な威圧感を放つ扉の前は人垣で満たされていた。急遽作られた屋台が軒をつられ、あちこちで酒盛りが始まり、賭けのオッズがかすかに聞こえてくる。


「……リザ。話が違うんだけど。どこが閑散としているんだよ」


 問われ、リザは困り顔で辺りを見渡した。


「おかしいですね。昨日は、本当に何もなかったのに」


「なら、なんだよこれ! あそこの幟には《ミクリヤ》ご一行ボスに挑戦するってデカデカと書いてあるし、屋台まで出ているじゃないか。あっちじゃ僕らが討伐できるかどうかの賭けまでやってる!」


「主殿、主殿。あちらを御覧ください。賭けの胴元を」


 ヨシツネが指さす方を見て、レイは昨日会話した小人ハーフリング族が積み上げた木箱の上で、観客を煽っているのを目撃した。言葉は正確には聞き取れないが、どうやら賭けを仕切っているのは彼の様だ。


「やられたわね。この盛り上がりぶりは、間違いなくアイツのせいよ」


「あははは。商魂たくましいね、こんな街で商売やってるからかな」


「……ちょっとめいわく」


「き、緊張して来ました」


 図らずも目立ってしまったが、仕方ないとレイは意識を切り替えた。そして、準備を整えた仲間達を順番に見て、静かに言う。


「さあ、行こうか皆」


 その言葉に、全員が一歩前へと歩みだすと、ボスの間へと続く巨大な扉が開いていった。


読んで下さって、ありがとうございます。

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