閑話:冒険王 邂逅編 Ⅸ
地面の下で大きな生物が蠢いているのではと想像してしまいそうな揺れがやっと収まった頃、アンドリュー・モーガンは不安そう天幕から外へと出た。
大森林の一角に作られた追撃部隊の本陣では、騎士たちが右往左往しており混乱している光景が広がっていた。
「……おい。おい、其処のお前! いまの地揺れは何だったんだ。轟音は、状況はどうなっているのだ! 奴の捕縛は成功したのか!?」
その内の一人を捕まえて話を聞こうとするも、アンドリューの顔を見て騎士は明らかに苛立った感情を隠そうとしない。
「申し訳ないが、情報が錯綜していて、正確な状況を把握しきれていません。ただ、この地揺れが続く可能性はあります。そこで、特別顧問殿は安全な場所で待機しては頂けませんか。我々の騎士団長が戻られるまでは」
騎士の言う騎士団長が、三人いるうちの誰なのかは不明だが、全員が本陣を離れているという事実からすれば、大人しく引っ込んでいろと言われたのに等しい。
アンドリューは耳まで赤くして声を荒げた。
「なっ、貴様、この私を」
「失礼。私も動かなくてはならないので。余計な事に時間を取られる余裕はありませんので」
慇懃無礼な態度でアンドリューの前から立ち去った騎士を、彼は恨みがましい視線で睨んだ。騎士の中には貴族としての位を持つ者も居るが、兵隊上がりの平民も大勢いる。それだけに、自分の身一つでそこまで上り詰めた彼らの自負は強く、生まれながら地位を与えられているだけの貴族に対して反感を持っている者は珍しくない。加えて、騎士団単位で動くことが多い彼らは仲間意識が強い分、部外者への風当たりが強くなる。
三つの騎士団が合同で任務を行う中、どの騎士団にも属さず、汗もかかずに口だけは出す部外者は煙たがれていた。
その部外者こそ、アンドリューだった。
彼は今回の追撃部隊における特別顧問という役職で同道していた。名目としては、不可思議な魔法を操る存在に対する知識と経験があるため、有益なアドバイスが出来るという触れ込みだったが、実情は違う。
彼は追撃部隊の中でお荷物となっていた。
騎士団側からすれば、追撃部隊に参加して、未知の魔法を使う存在を確保した功績が狙いなのは見え見えだった。軍人の集合体である騎士団という組織に置いて、命令系統に組み込めない異分子の存在は邪魔だ。有益なアドバイスが出せるならまだしも、功を焦るばかりに勝手な口出しや、更には指揮権も無いのに軍事行動までとろうとするアンドリューは邪魔としか表現できなかった。
大森林で待ち伏せする作戦でも、アンドリューは三つの騎士団から邪魔者扱いをされ、それぞれの騎士団の待ち伏せしているポイントから同距離にある本陣の天幕で置物のように放置されていた。
こんなはずでは無かったのだ。
少し前までの彼は、逃亡奴隷の討伐で成果を上げ、苛烈極まる若き王に認められ、貴族界隈で名を上げていた。栄達はその手にあったはず。それなのに現状は、職人気質の騎士たちの中で、僅かな従者を連れて身の置き場所を探している有様だ。
何がいけなかったのかとアンドリューは自問し、すぐさま答えを導きだした。
あの女だ。
思い出した瞬間、肌を重ねた時の快楽が頭の天辺に突き刺さる。他者か与えられる最大級の快楽は、思考すら飲みつくそうとする。懸命に頭を振って、煩悩を退けて思い出す。
国王の愛妾と噂され、影の女帝と揶揄されるムルリエ・プルクラと出会ったから、自分はこうなったのだと繰り返し言い聞かせた。そうしないと、彼女とのひと時の逢瀬で、全てを許してしまいそうになる自分を律せられない。
それだけ、彼女は素晴らしかった。
彼女と邂逅した日は、まさに至上の日だ。アンドリューにとって、生を受けた事を感謝しても足りぬぐらい。だが、その日を境に自分が何か言い様も無い流れに囚われているのではという不安が拭えないでいた。
ベッドの中で漏らしてしまった、未知の魔法の存在。それはあっという間に王国上層部に伝わり、翌日には王宮へと呼びだされた。
開口一番、王の口から未知の魔法の事が飛び出した時は、全身から冷汗が止まらなかった。父王から玉座を引き継ぎ、まだ日が浅いとはいえ、その辣腕ぶりは王国全土にまで広まっている。古くから続くと言うだけの無能な貴族を粛清し、新しき息吹を王国内に送りこんでいる。そんな革新的な若き王の逆鱗に触れた者は生きて王宮を出られないと、まことしやかに噂されていた。
命だけは助けてほしいという思いで全てを打ち明けると、国王はアンドリューの処刑を命じはしなかった。未知の魔法に関する情報を独占しようとした罪は、未知の魔法の使い手を発見したという事実で帳消しになったようで、情報を引きだし終えたアンドリューは用が済んだとばかりに王宮から追い出された。
結局、未知の魔法を独占し、自分の武力として秘匿する目論見は崩れ、そればかりか王に対して隠し事をしていたという事実だけが残ってしまった。失意の中領地に戻るとすぐさま呼び出されたのだ。
複数の騎士団による追跡部隊に、未知の魔法を使う術者の顔を知っている人間として同道するように命じられた。断るなんて事は出来ない。これは王からの勅命だ。
それが気に入らなかった。
アンドリューの立場は指揮権を持たない部外者だ。ここでは、どうやっても功績を上げる事は出来ない。騎士たちからは同道した事で、未知の魔法の使い手を捕縛したという功績を得ようとしているのだろうという邪推をされているが、これまでの経緯を考えれば王国上層部がアンドリューに対してそのような功績を認めるはずがない。
このまま騎士団に協力していても、貴族としての地位や名声を上げることは絶対にできないのだ。
「空を見ろ! 土埃が、あんなに舞っているぞ!」
誰かの叫びにアンドリューは空を見上げた。天に向かってまっすぐ伸びている木々の隙間に、火山が噴火したかのように土煙が昇っていくのが見えた。誰もが口々に意見を交わす中、アンドリューは従者に小声で指示を出す。
「支度をしろ。此処を離れるぞ」
「はっ? 宜しいのですか。騎士団長殿からはこちらの天幕で待機して欲しいとの事でしたが」
「貴様は私とアイツ、どちらの命令を聞くつもりなのか」
声を低くすると、従者は顔色を変えて天幕に戻って行く。周りを見渡せば、騎士たちの混乱は続いていた。不穏な地揺れだけでなく、その前に三つあった騎士団の内、一つが壊滅した事も、この混乱の理由だ。
より正確に言えば、待ち伏せをしていた騎士団を突破した未知の魔法の使い手が、いつまでたっても次のポイントに来なかったのが、彼らを焦らせていた。どこか脇道に逸れたのではないか、なら捜索隊を編制しなければという議論が、地揺れ前に起きていた。
人手不足に加えて混乱している状況下なら、アンドリューが独断で動いても気づかれる心配は少ない。
ずきり、と。端麗と表現できる顔面に付けられた傷が痛んだ。
斜めに走る傷は、上がった土煙を目にした途端、痛みだしたのだ。まるで、誰かに呼ばれるように。
「間違いない。お前はそこに居るんだな。あの時の奴隷よ!」
どこまでも続きそうな、鬱蒼とした濃い緑が広がる大森林。もしも、鳥と同じ視点で大地を見おろしたなら、何度も塗り重ねた事で厚みの生まれた絵のような光景に心が揺さぶれたかもしれない。
そんな大森林の中心に近い場所が、ぽっかりと穴が開いていた。
穴と呼ぶべきか、全く別の空間となってしまったと表現するべきか。上空から見れば、其処だけが濃い緑では無く、様々な色が折り重なり、混ざり合った混沌とした状況だと分かる。
木々はなぎ倒され、遺跡を構築していた石は砕け、地面は捲れ、大地がへこんでいた。
それまで、地下の空間を内側から支えていた寺院が崩れた事で、開いた空間に向けて大量の土砂が流れ込み、その結果地下深くから地上までの間で局所的な地滑りが起きたのだ。
下が傾けば、上も傾く。木々がなぎ倒され、大森林に突如として穴が開いてしまったのは、そういう理由だ。
そんな、災害現場に音が響いた。鳥のさえずりや、小動物が立てる足音では無い。
重く、鈍く、何より鋭い音が響いた次の瞬間、地滑りで埋まった地面から土砂が吹きだした。
吹きだしたというよりも、吹き飛ばされたのが正解だ。
エルフの剣士が振るった斬撃が、邪魔な瓦礫やら何やらを纏めて押し出したのだ。
「やっと外に着いたな」
人が頭まで埋まりそうな土砂を剣で吹き飛ばしておきながら、汗一つかかず、淡々とした様子でエルフの剣士は地上へと生還した。その後を、エイリークが荷物を持って続いた。
「どういう理屈だ。なんで、剣を振るって土砂があんな風に消えていくんだよ。無茶苦茶にもほどがあるだろ。何でもありにも限度ってもんがあるだろ。異世界ファンタジー万歳」
「不思議なお方ですね。言葉では怒っているようにお見受けできますが、喜んでいる風にも感じられます」
「気にしないで。そういう性癖だから仕方ないの。治療は不可能」
「そうですか。性癖ならば、仕方ない……ですか?」
サーコートの青年が首を傾げると、彼に背負われていたオルタナが仕方ないとばかりに首を振った。
そして、最後に出てきたのは親父さんだ。トレードマークである西部劇に出てきそうな出で立ちは、土の下を這いずり回ったというのに一切汚れていなかった。
どうやら存在そのものが現象となっているため、衣服もその一部に含まれ変化しないようだ。
「……俺が魔法で吹き飛ばせば、一気に地上まで来れたのに、そんな棒切れを振り回して喜ぶ原始人に任せるから時間が掛かっちまっただろ」
「ほう。その原始人に首を落とされた貴様は何だ? 案山子か?」
開口一番、放たれた文句にエルフの剣士が青筋を立てる。二人の間に立つエイリークが、まあまあ、と取り直さなければ、激闘は再開したかもしれない。
「あれだけ土砂とか岩とか、色々入り乱れた状態で魔法を連発してたら、二次災害でもっと広い範囲が影響を受けたかもしれないって、オルタナが言ってたじゃないですか。あの人の剣なら微調整が効いて、周りに迷惑をかけずにこうして脱出できたんですから。適材適所というやつですよ」
あの時、限界を迎えて崩落した遺跡の地下深くで、親父さんが発動した結界によってエイリークたちは間一髪で助かった。
だが、問題は終わってはいなかった。今度は大量に降り注いだ土砂を押し退けながら地上を目指さなくてはいけない。それも酸素がある内に、可能な限り速やかに。
最初は親父さんが魔法で一気に道を開こうとしたのだが、それをオルタナが止めた。地滑りの影響で、辺りの地盤が緩んでいる。下手に魔法で刺激を与えたら、二次災害が起きるかもしれないと彼は説明した。そこで頼ったのがエルフの剣士だった。オルタナが、二人の力が必要だといったのはこれが理由だった。
彼が生む斬撃で、少しずつ掘り進めていく。周りに影響を与えないようにオルタナの勘を頼りに地上へと行く過程で絆が生まれれば理想だったが、現実は無情だ。
間に立ったエイリーク越しに、鋭く熱い火花を散らす両者から、殺気がほとばしる。望んで割り込んだとはいえ、エイリークは生きた心地がしなかった。
だが、その殺気がふいに消えた。エルフの剣士が柄に伸びた手を降ろしたのだ。
「なんだ、やらないのか」
「こら! 挑発しないの、父さん」
「生まれたての小鹿のように、足を震わせた奴を見て興が削がれた。何より、貴様等は同胞とは無関係の様だな」
エルフの剣士が視線を横にすると、サーコートの青年から降ろされたオルタナに注目が集まった。親父さんが被っておけと言っていたフードが、この騒動の中で脱げていた。
「摩訶不思議な魔法ではあったが、『精霊の養い児』が関わっているとなれば納得できる。ならば、これ以上貴様等と関わる理由は無い」
「待てよ。俺を殺そうとしたことは、どう落とし前を付けるんだ?」
「世界にしがみ付く染みを掃除しようとしたのだ。褒められはすれど、叱責される筋合いは無かろう。……此度の装備では貴様を殺し切るのは不可能だ。それに、それは俺がすべき事では無い。偶々、道が重なりすれ違っただけの事。これ以上拘泥するつもりは無いな」
そう言って、エルフはあっさりと背中を見せる。無防備そうに見える背中だが、エイリークが攻撃した所で、回避不可能な反撃が雷鳴のような速度で迫るのだろうと想像できてしまう。
そんな背中を見つめて、親父さんも脱力したように肩を竦めた。どうやら、親父さんも矛を引いた様だ。
そのまま、去って行こうとするエルフに、エイリークは待ったと言ってしまった。
「……なに用だ、小鹿。俺を呼び止めるとは。……というか、先の言葉は本心ではあるまいな」
「あれは、アンタらを止めるために言った事だ。……まあ、半分ぐらいは願望が混じっていったけど。って、そんな事を言いたいんじゃない。……昔、俺はエルフと会った」
自分を一撃で屠れる存在を相手に、記憶を整理しながらエイリークは切り出した。すると、エルフは興味深そうに振り返る。
「……ほう。詳しく話せ」
「二十年近く前だ。俺が、まだ国営の奴隷採掘場で、それこそオルタナよりも小さかった頃にエルフと会ったんだ。でも、そのエルフは奴隷じゃなかった。採掘場の外から忍び込んで、大移動から逸れたエルフを探していると言っていた。アンタ、心当たりは無いか?」
当時を思い出すと、身を捩りたくなる苦い感情と、戦いを決意した強い思いが蘇って来る。採掘場に侵入したエルフの言葉は、兄弟を亡くして、未来が塞がっていた幼いエイリークを奮い立たせた言葉だった。
できれば、もう一度会いたいと考えていた。
すると、エルフは何かを考え込むようなそぶりをした後、口を開いた。
『童……もし、理解できているのなら片目を二回閉じてみろ』
耳に飛び込んできた言葉が、あまりにも懐かしい内容だった。後ろで、サーコートの青年がエルフの言葉かと呟いているが気にならなかった。エイリークが右目だけを二度瞑ると、エルフの剣士は驚いたとばかりに続けた。
『あの時の童か! 人間種は成長が早いからな。もう、こんなに伸びたのか』
間違いない。このエルフこそ、ターバンで顔を隠して採掘場に忍び込んだエルフだ。エイリークは嬉しさのあまり、笑顔で頭を下げた。
「久しぶりです。あの時は、色々とありがとうございました」
『……ん? 感謝をされるような覚えはないが……まあいい。受け取っておこう。それで、貴様はどうして『精霊の養い児』なんかと行動を共に? 奴隷の役は終わったのか』
「いえ、その辺りは色々とありまして。……そういば、この国の言葉を喋れるようになったんですか?」
『招かれた者』として転生した事で、エイリークは《エルドラド共通言語》という技能を手に入れていた。エイリークには、周りの言葉が自分を含めて日本語として聞こえ、周りにはエイリークの言葉が聞き手の最も馴染んでいる言語に翻訳されるという便利な技能だ。
奴隷時代は、これで言葉の違う新入りの面倒をよく見ていた。そして、エルフの言葉しか使えなかった彼とも言葉を交わせたのだ。
それが二十年たってエルフの剣士が、王国の言葉を使える事に気づいた。地下でも、サーコートの青年がした失言を理解していたのは間違いない。
「同胞を探すのに使えれば便利だと考えて学んだのだ。今では、この辺りの地域ならどこへでも行けるぞ」
「まだ、行方不明のエルフを探していたのか。あれからずっと、この国で探していたのか?」
「一人は見つけた。……生きてはいたが、随分な目に遭ったらしく、相当消耗していた。移動できるだけの体力が回復するまで待ち、里に送り届けてまた戻ってきた。だが、手掛かりは皆無だ」
一瞬だが、怜悧な双眸に影が差した。見つかったエルフがどんな状況だったのか、彼の反応から窺えてしまう。
親父さんが納得したとばかりに頷いた。
「成程。それでエルフの痕跡らしきものがあれば、こうやって首を突っ込んでいる訳か。どうせ、行く先々で騒動を起こしているんだろ」
「……好きに言え、『精霊の養い児』。もういいか、童。過去を懐かしむ気持ちはあるが、俺は行かねばならぬ」
「どこに、と聞いても答えてはくれないんでしょ」
「それに関しては俺にも分からん。……やはり、人の集まる場所で情報を集めるべきか」
そんな風に呟いたエルフに対して、思いもよらぬ方向から声がかった。
「あの、お話しの最中恐縮ですが」
それはサーコートの青年だ。彼はエルフや親父さんの視線を浴びても物おじせず、柔らかい物腰で続けた。
「エルフに関する噂話なら、以前に聞いた事があります」
「なにっ! それは本当か、人間!?」
エルフの反応は劇的だ。人間離れした存在だが、喜怒哀楽ははっきりとしていた。今にも飛びかからんばかりの勢いで詰め寄ると、青年の肩を揺らす。頭が前後に激しく傾くが気にしていない。
「……おい、エイリーク。そろそろ移動するぞ。どうやら、お邪魔なようだからな」
親父さんが先に行くぞと促す。元々、騎士団に追われる身だ。遺跡の地下を使って、こっそりと待ち伏せを回避するはずが、エルフと親父さんの激突で地下が崩壊してしまい、こんな災害級の結果となった。
地下で起きた出来事とはいえ、地上にもこれだけの影響が出てしまっている。当然、騎士団側も異変に気づいて行動しているはずだ。いつ、此処に騎士が現れてもおかしくなかった。
エルフときちんと言葉を交わさずに別れるのは心苦しいが、エイリークは親父さんに従おうとした。
「そうだな。それじゃ、エルフの、えっと。……そういえば、名前を―――」
「―――お、お、お、お待ちください!」
エイリークの言葉は頭を容赦なく振られている青年に遮られた。彼は必死に言葉を紡いだ。
「お、お、お願いがあります。私を、どうか貴方の御そばに! 荷物持ちでも、雑用係でも、それこそ盾のように使い潰して下さっても構いません。どうか、貴方の御そばに置いてくださいませ! そのためなら、この身を捧げる事も厭いません!!」
熱烈な要求だった。
青年の熱意が伝わって来て、鳥肌が浮かんだ。
「……え、勘弁してください」
思わず、敬語になってしまう。
「何故ですか。私は、こんな、にも、貴方を、想って、いると、いうのに」
「いや……そっちの趣味は無いんで。本当に、勘弁してください」
「……エイリーク。多分、勘違いしているよ。この人は、君個人に対して欲情しているわけではなさそうだよ」
「そ、その通りです。私は、貴方が、あの方々から遣わされた―――むぎゅぅ」
サーコートの青年が最後まで言えなかったのは、揺れに耐えきれなくなったからでは無く、横合いからエイリークに攫われたからだ。口を抑えられ、エルフの剣士から距離を取った。
「すいませんけど、地下での話は聞かなかった事に。それができなければ、どうか内密にしてくださいませんか」
本人は丁寧に頼んでいるつもりなのだが、傍から見た絵面は脅迫しているようにしか見えない。青年が頷くと、エイリークは手を離す。
「で、では交換条件です。あの事は誰にも明かしません。代わりに、私を貴方の傍に。どうか、お願いします」
そう言って、頭を下げた。顔を伏せてはいるが、熱意は伝わってくる。断っても、付いてくる予感がしていた。どうするべきかと困り果てたエイリークが、親父さんに相談しようとした時、辺りを取り囲む気配に気づいた。
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