10-58 神は死んだ
キョウコツが意識を取り戻せたのは、何もかもを押しつぶしかねない神気が止まったからだ。上位冒険者でも膝を屈するほど高まった神気に、彼女は耐えられなかった。
「……ん。私は……気を」
『お目覚めかい、キョウちゃん』
「え、ええ。どうやらお恥ずかしい所を……って、なんですかこれ!?」
自分の中から聞こえてきた声に返事をすると、彼女は自分の状況を把握する。キョウコツが居たのは床から天井までが水晶で構成されたセーフティーゾーンの壁だ。水晶の壁から上半身だけが飛び出していた。なら、下半身はどうなっているかというと、視界のはるか下にある。
地面に膝を着けて前のめりに倒れている下半身。そこから先は黒い影に飲み込まれていた。
「え? え? ええ? わ、私の体、半分に千切れ、でも痛くない。というか、感覚がある!」
『うるさいな。君が途中で気絶して倒れるから、影の転移で空間を繋げただけだよ。上からの方が視界は広くて見やすいから、こっちの方が見ごたえはあったかな。それより静賀にしなよ。クライマックスだ』
命を絶つ感触は、独特の手応えがする。
これまでレイは、多くの命を奪って来た。大半がモンスターだったが、その中には人間も含まれている。魔石とは違う、柔らかく、それでいて強く鼓動を打つ心臓に刃を突きたてた感触に、首の後ろがぞわぞわとした。
同時に、確信した。
クロノスに対して、致命傷を与えた。普通の生物なら、このままどうあがいても死への一本道を、落下するように進んでいく。だが、クロノスは普通の生物では無い。神であり、何より時を自在に操る。
『この大間抜けが! 心臓じゃなくて、首を狙えと言ったはずだ。最後の最後まで甘ちゃん野郎が!』
怒りをぶちまけるのは、影の鎧としてレイを支えていた影法師だ。心臓への一撃は致命傷になるが、即死には至らない。動物だって矢で心臓を射抜かれても数分は生きながらえる。首を落としても数秒なら、死に際の行動をとることだってできる。
クロノスの心臓に龍刀を突き立てただけでは甘いと断じる影法師は正しい。レイは首を狙うか、あるいは心臓に突き立てて、手首を返して首まで斜めに切り上げるべきだった。
だが、レイは出来なかった。クロノスに対して無残な事が出来ない精神性の問題というよりも、単純に血を流し過ぎた。
歯車を組み合わせた槍を掴む左手が、だらりと落ちた。瞳から光が失われつつある。
『ちっ! 死力を振り絞って最後に出来た攻撃って訳か』
穴だらけの体を影で縛るのも限界がある。特に、最後の槍は心臓のすぐ下を貫通していた。加えて、今のレイは万全な状態ではない。クロノスの行動を削る為に、レティの毒薬で生死の境をずっと立っていた瀕死の人間だ。毒はコウエンの炎で浄化したが失われた生命力は回復していない。最後の一撃以外は浅い傷だが、今のレイにしてみれば致命傷と呼んでも変わらない。
辛うじて繋がっている意識と、僅かに残っていた力を振り絞ってくりだされた最速最短の攻撃が心臓への一撃だった。
そして、それ以上する余裕はレイに無かった。
影法師がどうするべきかと考え込む刹那、空いた時間を埋める様にクロノスが一歩踏み出した。当然、心臓に突き刺さっている刃と槍が更に深く沈む。
『こいつ、何を。まだ、動けて、いや近づかせねえ!』
クロノスを固定していた影に力を籠める。だが、その影はクロノスが触れた途端に塵と化してしまう。まだ神としての権能が使えるのだ。
ならば、時を巻き戻せばいいのに。そう考える影法師を余所に、クロノスは更に近づいた。ずるりと槍と刀は彼女の血を浴びて背中から突き出る。
元から、手を伸ばせば触れあえる距離で切り結んでいた。たった二歩、距離を詰めればクロノスの手はレイに触れられる。
伸びた手はレイの頬に添えられた。まるで、ラビリンス入り口で邂逅した時の焼き直しのような光景だ。
だが、頬から伝わる温かさは、あの時と違った。
「……これが、貴方のやり方ですね、玲様」
名前を呼ばれるのと同時に、レイの体は温かな輝きに包まれた。気が付くと、いつの間にか両者を繋いでいた槍が歯車に戻り抜け落ち、レイの体にあった傷口は全て塞がっていた。その異変はレイだけでなく、セーフティーゾーンに転がっているリザ達も同様だった。
温もりに意識を取り戻した彼女たちは、自分たちの変化に驚き、そしてもう一つの変化に気づいた。
セーフティーゾーンを押しつぶしかねない神気が消え失せていた。
「傷を癒しました。……時間を巻き戻したのではなく、本来なら長い時間を必要とする治療が行われた結果へと到達するようにしました。こうすれば、この戦いで得た経験を、失わずに済みますね」
「正気に……戻ったんですか、クロノス」
「はい、お恥ずかしながら、ようやく」
こくり、と頷いた青い瞳に、先程までの狂気は無かった。心臓に刃を突きたてられているというのに、凛とした佇まいは神としての威厳を感じさせた。
思わず、レイの瞳に涙が浮かびそうになる。
「良かった。……本当に良かった。なら、これを抜いて治療を」
「それはいけません」
静かな拒絶にレイは言葉を失った。意識を取り戻し、状況を理解し始めたシアラから質問の声が飛んだ。
「どうしてですか? 貴女様が正常に戻り、世界の崩壊が免れたんでしょう。だったら、一刻も早く治療しないと、死の権能で死んでしまいます。そうでしょ、コウエン様……コウエン様?」
この場で様々な事を知っているコウエンに尋ねると、幼い相貌を深刻そうにしたコウエンは沈黙を貫いていた。その様子から、事は単純ではないとレイ達は遅まきながらに気づいた。
「ありがとうございます、シアラ様。ですが、駄目なのです。今までの、私であって私じゃないあれは龍刀に宿る権能で死んでいます。ですが、一時的な物です。刃が抜け、治療をされれば蘇ってきます。それに、どちらにしても神である私が地上に居続ける事は、今のエルドラドに悪影響しか与えません。……地上に落とされた時点で、私は死ぬ運命だったんです」
「そんなの、ひどい」
「ねえ、コウエンちゃん! どうにかできないの。こんなの、あんまりだよ」
エトネとレティが涙を浮かべるも、コウエンは紅蓮の瞳でクロノスを睨むだけだ。すると、クロノスが体を僅かに傾けて、
「ありがとうございます。貴女方に、あのような無残な事をした私に、そのような温情を。それだけで、思い残す事はありません」
「何を諦めているんですか! 貴女は神でしょう。なら、誰よりも可能性を模索しなくてはいけません!」
「その通りです、エリザベート様。私は失格です。世界の滅びを目の当たりにして、救済を掲げても十二の失敗を繰り返し、滅びから逃れられないエルドラドを見て、諦めてしまった私は神として失格です」
世界救済のために呼ばれた『招かれた者』たちが失敗していく姿に、傷ついていく姿に絶望した彼女は、自分の持っていた権利を行使しないと決めた。『招かれた者』を呼ばず、世界崩壊を自分たちの驕りと緩みから招いた結果だと受け入れ、神の座から降りるつもりでいた。
それを黒幕に付けこまれ、偽りの記憶を与えられ、レイをエルドラドに送り込む為に利用された。彼女は神として生きる理由も資格も、自分には無いと思っていた。
静かに、どこか寂しそうに微笑むクロノス。その裏にある覚悟は、意思は、言葉で動かす事は出来ないとレイは感じ取った。それでもと言葉を紡ぐのは、彼女に生きて欲しいと願うからか。
「本当に……本当に心残りは無いんですか?」
すると、クロノスは困った風に首を傾げた。
「実は一つだけあります。……貴方の事を見届けられないのが、少し寂しいです」
自分が心残りだというクロノスに、レイはどういう事だと返した。
「……貴方は、神ですら認める困難に幾度となく襲われてきました。六将軍、赤龍、『魔王』、『勇者』。今のエルドラドにおける、誰もが認める怪物達と戦い、生き延びました」
「それは偶然と、貴女から貰った《トライ&エラー》があったからです」
「そんなの関係ありません。他の誰かが、同じように死を繰り返せると、そうお思いますか? 自分の命を投げ捨てて、死を積み重ねる事で勝利をもぎ取ると、そう思いますか? 運と技能のお蔭ではありません。貴方だったから成し遂げられた偉業です。胸を張って下さい、玲様」
温かな言葉とは裏腹に、頬に触れる手がゆっくりと冷たくなっていく。命の灯が、彼女の中から消えていくのが伝わってきた。
「そんな、何があっても、諦めない貴方を見ているのが、大好きでした。貴方が、これ以上困難に遭わないでくれと祈りつつも、戦う姿を追いかけている時が、心の沸き立つ時でした。嫌な女と罵って下さい。貴方が傷つく姿が好きなどと。……もう見る事が出来ないというのが、心残りといえば、心残りです」
息がか細くなってくる。誰が見ても、彼女に残された時間は多くなかった。
すると、それまで水晶の上で身じろぎもしなかったコウエンが口を開いた。
「レイ。楽にしてやれ」
「楽にって、刃を引きぬいたら、あっちのクロノスが表に出るんだろ」
「炎じゃ。今の龍刀なら、在りし日の妾の業火を再現できる。権能を宿した炎で送ってやれ。これ以上長引かせる方が、酷であろう」
「……そう……だな」
レイは頷くと、両手で龍刀を握った。そして意識を集中させる。龍刀の奥底に宿る、失われた力に触れた。戦いの最中はそれどころではなかったが、神の権能とはまさに力の塊だ。エルドラドという世界に深く結び付いている。例えるなら、チェスや将棋の駒を動かすように、世界に触るような感覚だ。
権能に触れた事で、龍刀が紅蓮に輝きだした。
「ああ、凄い。神の権能を、人の域で操るのは、凄い事なんですよ」
クロノスも気を使っているのだろう。レイが自分を殺すという事に罪悪感を抱かないように、気を紛らわそうとしていた。レイは耐えきれなくなり、涙を一筋流した。クロノスの指先を涙が濡らした。
「ありがとう……ございます」
「お礼を、言われるようなことは何も」
「違うんです。僕を、この世界に送ってくれて、その事のお礼を。例え、『黒幕』に記憶を操られて、そうするように差し向けられたとしても、僕を仲間達と会わせてくれたのは、他の誰でも無い貴女だ。だから、そのお礼を」
「……あんなに酷くて、辛い目にあっても、そんな風に言ってくれるのですか」
「そうです。これから先、どれだけ苦しい事があっても、貴女に対して感謝を忘れる事はありません。ありがとうございます、クロノス」
その言葉が、クロノスの中にあったブレーキを壊す。
「そうですか。ああ、そんな事を言われると、涙が」
ぽろぽろと青い瞳から涙が宝石のように落ちていく。レイ達に酷い事をした自分に涙を流す資格は無いと、そう覚悟していた彼女が涙を流した。
トーガで涙を拭うと、彼女は笑った。それは、クロノスが見せた事ない満面の笑みだった。
神として抱いてきた重圧や苦しみから解放され、一人の女性として浮かべた笑みだ。
「最期は、笑ってお別れしましょう。さよなら、レイ」
「ああ……さよなら、クロノス」
歪な、笑みと呼ぶには不格好なのを顔に貼りつけ、レイは龍刀の中に溜めこんでいた炎を解放した。
クロノスの体が炎に包まれた。一歩、二歩と後ろに下がると、彼女の体は龍刀から離れ水晶の地面に倒れてしまう。炎はクロノスだけを燃やそうとしているのか、水晶が溶ける事は無かった。
紅蓮の炎がクロノスを包み込む。周囲からはリザやシアラが鼻を啜り、レティとエトネがこの結末に声を上げて泣いていた。ヨシツネは手を合わせて記憶にある念仏を唱えていた。
そんな中、レイは隣に誰かが立つのに気づいた。視線をそちらに向けば、赤い髪の旋毛が見えた。
コウエンがレイの傍まで近寄って、同じ紅蓮の色をした炎を見つめていた。
「……コウエン。本当にこれしかなかったのか。こうする以外に本当に、道は無かったのか」
「くどい。いつまで、そのような戯けた事を申しておるのだ。選んだ道の結末を粛々と受け入れるのも男の度量だぞ」
「それはっ! ……確かに、この道を選んだのは僕だ。でも……それでも」
納得いっていないとばかりに龍刀を固く握るレイに、コウエンはため息を一つ吐いた。
「まあ、その諦めの悪さが其方の美徳ではあろう。……じゃが、これしか道は無かったのだ。成功するかどうか、危い賭けではあったがな」
「……コウエン?」
「そして、賭けには成功したぞ」
どういう意味だと問う前に、変化は起きた。
クロノスを燃やし尽くす紅蓮の炎は、渦を巻いて上に伸びていく。それは次第に巨大に膨らんでいき、横に広がっていく。この変化に、レイだけでなくリザ達も目を白黒とさせて呆然と見上げた。
彼らが見つめる中、炎は一つの形へと変化した。
横に伸びた炎はそれぞれ翼となり、繋げるように胴体や顔が出現した。頭上を覆い尽くすような炎の化身を見て、レイはある存在を連想した。
「……不死鳥?」
炎の不死鳥は頭を下に向け、地上に向けて羽ばたいた。そこで倒れ伏しているクロノスの体にぶつかり―――熱気がセーフティーゾーンを駆け巡る。
悲鳴があちこちで聞こえ、レイは咄嗟に龍刀を地面に突き刺して難を逃れた。
「ふむ。……終わったぞ、レイ。さっさと目を開けんかい」
コウエンの言葉に、恐る恐る目を開くと、そこに居たのは変わり果てたクロノスの姿だった。
龍刀が突き刺さった傷口は醜くも塞がっていた。眠るように穏やかな美貌は一切損なわれず、ただ神としての証だった青い髪が白く、色を失っていた。
だが何よりも、レイを驚かせていたのはクロノスの胸が上下に動いていることだった。
クロノスの傍でしゃがみ込み、呼吸、脈拍を確認しているコウエンは、それまで浮かべていた険しい表情をようやく解いた。
「……コウエン、これは、いったい。今のは、何だったんだ」
「先にも言ったな。他の神々から権能を預かっていた、と」
「あ、ああ。火を司る神と死を司る神の二柱から権能を預かっていたんだろ」
「戯け。誰が二柱だけと言った」
「「「……え?」」」
言葉が重なったのは、異変に気付いて近づいたリザ達か、あるいはレイの体から剥がれつつある影法師だったのか。誰もが二の句を継げない中、コウエンは言う。
「妾が預かったのは火を司る神プロメテウス様と死を司る神タナトス様、そして生を司る神ヘメラ様だ。存在に終わりを付与する権能とは別に、存在に再生を付与する権能を、赤龍は持っていた」
「そ、それじゃ、まさか。クロノス様は」
一縷の望みを持って呟くと、赤龍の記憶を引き継いだ存在は断言した。
「うむ。生きておるぞ」
空白。痛いほどの静寂が周囲を包み込む。クロノスが微かに立てる呼気だけが、唯一の音だった。そして、衝撃から真っ白になった頭が再起動したレイが叫んだ。
「な……なんでそれを先に言わないんだよ!! そんな権能を持っていると知ったら、あんなに苦しむことなんて無かっただろ!!」
「そうよ! コウエン様、いいえ、コウエン! この際だから呼び捨てにさせて貰うわ! そんな大事な事をどうして黙っていたのよ!!」
レイと同じくらい激昂しているシアラに、コウエンは面倒だとばかりにこめかみを掻いた。
「仕方あるまい。ヘメラ様から預かった権能は三番目。妾が卵から孵った時点で覚醒していたのは、二番目にあったタナトス様の権能で、それも中途。正直な所、存在に再生を付与する権能が覚醒するかどうかは五分五分だった」
「もしや、一連の作戦はタナトス様の権能を目覚めさせるのではなく、ヘメラ様の権能を目覚めさせるための時間稼ぎだったのでござるか?」
「うむ。クロノス様を殺すだけだったら、実の所もっと前に事足りるだけの力が覚醒しておった。だが、それでは腹の虫が治まらなくてな。クロノス様にこの様な醜態を晒させた、『黒幕』とやらの鼻を明かさせてやろうと考えておった」
「では、世界が崩壊すると言ったのは嘘だったんですか。私達の危機感をあおるための方便、でしたか」
「否。あれは嘘ではない。正直な所、あと数合相打ちが続いておったら、間違いなく世界は滅んでいた。呵々、まさに際の際だったのう」
ケラケラと笑うコウエンに一同は脱力してしまった。地面にへたり込み、身動きが取れなくなってしまう。
「世界が滅ぶ寸前だったというのに……そんな軽い調子で」
「ああ、どっと疲れてきたわ。この幼女を一発引っぱたきたい」
「まあまあ。それで、コウエン様。クロノス様はもう、世界を崩壊させることは無いのでしょうか」
「それに関しては保証しよう。何しろ、今のこやつは、神として死んでおる。神として死んで、人間として生まれ変わったのだ。世界を滅ぼす事は無くなったが、神としての力は失っておる」
「……そうか。それでも、生きててくれるだけで、僕は嬉しいよ」
心の底から言うレイに皆が同調した。クロノスがどんな形であり、生きてくれたことに喜んでいた。
「もっとも、目が覚めるまでは時間が必要だ。その前に迷宮から脱出するべきだろう。クロノス様の影響は地上にまで及んでいた。ようやく収まった事で、迷宮に人が送られ調査が始まれば厄介だ」
「そうだね。クロノス様が見つかれば、色々と面倒な事になりそうだもんね。でも、今から地上まで目指すのも……何か、ぱーっと行ける方法ないかな」
レティの言葉に全員は揃ってシアラの方を向いた。正確には、彼女と繋がりのあり、迷宮入り口からセーフティーゾーンまで移動させた彼女の存在を思い出す。
「……嫌よ。ワタシの口から、あの女に頼むのなんて」
「頼むのは僕からするよ。ただ、シアラはそれで納得してくれるかなと思ったんだ」
「心の底から嫌よ。絶対に嫌。……って、言って突っぱねたいけど状況が状況だもの。ワタシが大人になって折れてあげる事にするわ。何だったら、ワタシの方から言っても……やっぱ駄目、想像しただけで血圧が上がったわ」
多少なりともカタリナに対する感情が柔らかくなったシアラだが、投げられた言葉に眉を吊り上げる事になる。
「残念ながら、あの方の影で戻るのは無理だぞ」
「……なんで、アンタがそんな事を。あれ? アンタ、顔に貼りつけてあった影は?」
いつの間にか近づいてきたキョウコツの変化に全員が嫌な予感を抱く。それは正しかった。
「あの方は全部を見届けた後、眠くなったから帰ると言って影を引っ込めた。……お蔭で私は迷宮に置き去りにされたぞ、どうしてくれる。私の実力で、帰れると思うか?」
「ワタシに文句を言われても。……でも、なんかごめんなさい。一応、あんなのでも身内だから謝らせてもらうわ。……なんなら、一緒に地上を目指す?」
キョウコツが不憫に思えたのか、申し訳なさそうにシアラは謝った。リザとヨシツネは武器や防具のチェックを始め、レティとエトネは雛馬車を取り出し物資の確認を始めた。
レイはようやく立ち上がると、疲れた体を押してクロノスの元へと移動した。
穏やかな寝息を立てている彼女の手に触れると、伝わってくる温かさは頬に残る物と一緒だった。
「……良かった。……本当に生きてくれて、良かった」
クロノスから伝わる温もりに、何度も感謝の言葉を送るのだった。
神は死んだ。
そして―――人間となった。
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