10-56 神殺しⅣ
龍刀が紅蓮の軌跡を描く。毒によって蝕まれたからか、軌道は鈍く、迫力に欠ける。しかし、クロノスにしてみれば十分脅威だった。コウエンとの戦いで、龍刀が持つ力を理解している。この場で自分の命に届く刃だという認識はあった。
体を仰け反らせて刃を躱した。あまりにも無理な態勢を取ったため後ろに倒れるが、気にしている余裕はない。龍刀が軌道を変えて、倒れている自分に向けて走る。
「『ひ、ひっ!』」
短い悲鳴を上げながら、クロノスは横に転がった。表紙に水晶の草が割れるも、神の守りによって傷はつかない。だが、彼女の肩や腕に赤い筋が二つ浮かび、痛みを告げていた。
龍刀の斬撃が、神の肌を掠めていた。流れていく血を見て、クロノスは自分の時間を巻き戻す権能で傷を癒すも、混乱と動揺は治まっていなかった。
今の状況はクロノスにとってこれ以上ないほど不利だった。
基本的な攻撃手段だった歯車は、シアラの《アイスエイジ》によって、纏めて氷漬けにされてしまった。歯車は限界を超えて生み出す事は出来ない。氷漬けを免れた歯車もあるが、数にしてみれば十個程度。リザやエトネを相手にその数では一分も持たない。
ならば時戻しを発動して歯車が氷漬けされる前に戻れば良いのだが、それも出来ないでいた。一つは、戻った所でシアラを止める事が難しい点だ。リザとエトネ、ついでにヨシツネの三人は歯車の軌道を、正確に言えばクロノスの攻撃の癖を大よそで理解しつつあった。回数を重ねるごとに浮かび上がるパターンを頭では無く体で理解し、反応していた。
ラビリンス入り口の戦いでリザ達に完勝できたのは、パターンを掴まれる前に決着が着いたからだ。数を増やす事で互角に持ち込めていたが、いずれ追いつかれてしまう。
もう一つは、戻るメリットが無い事だ。レイが毒を飲んだのはクロノスが影から解放されるよりずっと前。彼女が歯車を取り戻しても、あるいはその前に戻っても、レイが毒で瀕死という状態は変わらない。今の彼を生かしているのは、レティの回復魔法だ。
自分の時を巻き戻せるが、他者の時間を巻き戻せないクロノスではレイを治せない。歯車を取り戻しても、リザ達に攻撃は通じない。極めつけは影法師という新たなカードによって時間停止が無効化されたことだ。
空間の時間停止は生物のみに効果が限定される。生物では無い影法師は自由に動けてしまう。レイの時間を止めた所で、影法師によってレイが殺されては意味がない。
時間を巻き戻しても、時間を止めても、自分に出来る事は無い。
八方ふさがりの手詰まりの中、クロノスは活路を見いだせずにいた。
それでも近づいて来るレイに向けて、歯車を振るったのは、生存本能が働いたからか。やみくもな軌道のそれは、子供でも躱せそうだったが、レイは避ける事が出来ずにすべて直撃した。後ろへと吹き飛んでしまった。
「馬鹿野郎。あんなしょぼくれた攻撃も躱せないのか! そこまで弱ってんのに前に出ようとしてんじゃねえ!」
影法師が苛立った様子で叫ぶ。それだけ、今のレイは弱っていたのだ。レティが治療を止めれば、あっさりと死んでしまう様な危ういバランス。それこそ、今の接触で死んでもおかしくなかった。全員の背筋に嫌な汗が流れる時、クロノスへの注意が弱まった。
彼女は立ち上がると左右に首を振る。右を見ても、左を見ても濃い緑色の水晶ばかりだ。セーフティーゾーンは広く、脱出口が直ぐには見つからない。だが、彼女はそんなのを探している訳では無かった。
目当ての物を見つけると、真っ直ぐに走り出した。もっとも、その走りは遅く、それこそエトネが駆けだせば数秒で追いつきそうだった。だから、彼女は即座に権能を発動した。
「不味いでござる! クロノス様が―――」
一人俯瞰で状況を見ていたヨシツネが発した警告は途中で切れる。クロノスは背後を振り返る余裕は無かったが、警告に反応して飛ぶように駆けだしたエトネがクロノスまでの距離を半分以上詰めた状況で停止していた。
時間停止の権能によって生物は動けなくなる。動けるのはクロノスともう一人だけ。
「ちっ、そういうつもりか。悪知恵だけは働くな!」
吐き捨てる様に言うと、影法師は黒い羽を弾丸のように射出する。それは狙いを一点に絞り、クロノスの足を狙っていた。彼女の動きを止めるためだ。
しかし、羽は見えざる壁に阻まれ次々に砕け散る。神格が戻りつつあるため、影法師の攻撃は届かなくなってきた。世界の法則から外れた逸脱者とて、神には逆らえないかのように、攻撃は弾かれて行く。
クロノスの行動を止める事は誰にもできないまま、彼女は辿り着いてしまった。
水晶の森に生えている、天井にも届く大木のような水晶へと。その水晶はクロノスの歯車を中空で氷漬けにしている《アイスエイジ》を支えていた。
彼女は権能を宿した左手で大木へと触れた。宿した権能は無機物の時間を加速させる権能。
触れた箇所がびくりと振動したかと思うと、瞬く間に水晶は風化していった。まるで砂のように崩れていくと、支えられていた氷が地面に向けて落下した。
「―――氷の支えに……どうやら一歩遅かったようでござるな」
「時間停止を使われて、最悪。氷の支えを崩したって訳ね」
時間が動き出すと、シアラ達は変化した状況から何が起きたのかを察知した。激しい粉吹雪が舞う中、金属が何かを削る音が響いた。そして、粉吹雪が散るとクロノスが歯車を従えて構えていた。
その数は、全体の二割程度か。氷の中から回収できたのはそれだけだった。
だが、クロノスの神気と合わせれば、十分に注意が必要なのは変わらない。
「『レイ、レイ、レイ。どうして貴方は、私の気持ちを理解してくれないの。こんなに、貴方を思って、助けたいと思っているのに。どうして拒否するの!』」
「そりゃ、拒否するでしょ。自分の両手両足を切り落として何処かに隠そうとする女、ワタシが主様の立場なら絶対に嫌よ」
シアラの皮肉にクロノスは反応しない。青い瞳は一心にレイへと注がれていた。
レイは、悲しそうに見つめ返すだけだ。これ以上、言う事は無い。言えば決心が鈍ってしまう。
沈黙を答えと捉えたクロノスは、一瞬悲しそうに微笑んだ。
「『そう、ですか。あくまで、私の救いを拒絶するのですね。ならば、分かりました』」
「わかったって、もしかして、やめてくれるの」
「『いいえ。分かったのは、貴方に理解されなくても構わないという事です。私がそうしたいと、救いたいと決めた事を貫くだけです』」
「何ともはた迷惑な結論に達せられましたな。それで、どのように貫かれるおつもりで。時間を巻き戻しても、止めても、このまま戦い続けても勝機は薄いと思うでござるが」
「『ならば、活路は一つだけです。貴方がたを皆殺しにします』」
「……どういうおつもりで?」
貴方がたの中にレイが含まれているのを、ニュアンスから察知したリザは視線を鋭くして質問した。クロノスは平然とした様子で返す。
「『言葉通りです。貴方がたを皆殺しに、邪魔が入らない空間で改めてレイ、貴方を守ります。どんな脅威も、危機も、危険も、貴方に触れさせません』」
「矛盾してるわよね、それ。だって、主様も死んじゃってるじゃない」
「『矛盾はしていません。何故なら、死んでも蘇らせればいいのですから。私はそういういった力があるようですしね』」
どこか無機質めいた瞳に、平然と言ってのけた様子からクロノスが本気だと全員が理解する。そしてコウエンがしまったなと呟き、
「失念しておったわ。死者蘇生では無く、死者の時間を巻き戻す事はクロノス様にも出来たな」
この一言が後押しした。クロノスは本気でレイも殺す気でいる。
「『さあ、レイ! いま、貴方を殺して、全ての存在から守ってあげる。それが私の使命だから! だから、死んで、レイ!!』」
彼女の殺意を表現するように、歯車が一斉に動き出した。
唸りを持って迫る歯車たち。瀕死のレイがこれ以上攻撃を受けたら本当に死んでしまう。そう予感させる攻撃の嵐を防ぐのは黒い影だった。
「てめぇを俺が守るっていう状況だけでも、吐きそうなぐらい気味が悪いな」
そうぼやいた影法師の体から影が棘となって伸びている。歯車の中心を貫き、動きを止めていた。
「俺は近づけないんだ。あとはお前らに任せるぞ」
「はい、おまかせ下さい」
「うん」
短い返事と共にクロノスへと躍りかかったのはリザとエトネだ。影であるから無機物の時間を加速させる権能に弱い影法師は、中距離での攻撃か、防御しかできない。クロノスに攻撃は通じないが、動きを止めるぐらいはできた。
聖剣が、拳が、幾度も神の守りに阻まれるが、クロノスをこれ以上近づけまいとする。加えてヨシツネとシアラの援護も入る。だが、それらを吹き飛ばすように神の力が発揮された。
四人の攻撃を意に介さないように、クロノスの手が動く。一人でに集まる歯車たちが、絡み合い、固まり合い、槍へと変化した。その槍に見覚えのあったエトネが表情を険しくした。
「きをつけて、このやり、じんきもどきだよ!」
「話し合いの時に出た権能を付与された槍の事ですね。厄介な物を取り出して」
リザは警戒の色を濃くすると、聖剣を鞘に仕舞った。クロノスが降れている限り、この槍は権能を発動できる神器と同様だ。聖剣といえど、時間を加速させられて風化される可能性があった。いや、可能性というよりも、そうなった結末が幾度となくあった。時戻しによって無かったことにされたが、それでも覚えていた。
唯一の救いは槍を振るうクロノスが素人で、能力値が低い事。槍が大きすぎるため、満足に触れないというのがエトネの語った弱点だった。
ところがである。
轟音を鳴らして歯車の槍が水晶の地面を砕いた。
「……今の動きは、聞いてませんね」
リザは自分の頭上まで持ち上げられた大質量の槍が、勢いそのままに振り下ろされたのを間一髪で躱した。あと数秒判断が遅かったら、直撃は免れていなかった。
一般人よりも弱いはずのクロノスが槍を持ち上げられるはずが無い。何か絡繰りがあると身構えていたリザだったが、次の瞬間、彼女の体は横へと吹き飛んでいた。防御をする暇も無く、あまりにもあっけなく。
「気を付けろ! その女、時間停止をしてから槍を組み立て直してやがる!」
謎を解いたのは影法師だった。時間停止の影響を受けない彼は、クロノスが何をしたのか目が無いのに目撃していた。
地面に叩きつけた槍は大小さまざまな歯車の集合体だ。それが時間停止と同時に解けていく。槍の柄だけを握りしめ、斜めに構えるとひとりでに歯車が絡み合い、またしても大きな槍が生成された。あとは、槍の重さに任せて振るうだけだ。斜め横から降り下ろした槍が当たる直前、時間停止は解除された。リザは回避も防御も間に合わず槍の直撃を受けてしまったわけだ。
加えて、槍が触れた瞬間、彼女は別の権能が発動したのを感じていた。
「皆、気を付けて。槍に触れたら、力が抜けた。受け止めきれません」
「そう言う事ね。リザが一撃を喰らったからって、あんな風に吹き飛ぶはずが無いわよね。触れた人物のレベルを戻す権能が槍に付与されてるから、受け止めきれなかったんだわ」
「武器で受け止めれば武器が破壊され、素手で触れれば防御不可能。何とも厄介な組み合わせに仕上がっているでござるな」
「それでもやるしかないよ」
エトネが短く言うと、ヨシツネは違いないと笑い、そして笑みを消した。逆手に握った刃が水晶の輝きを受けて鈍く光る。拳を軽く握るエトネが体を小さく揺らし始めた。そして、地面に倒れ伏すリザが流れる血を省みず、立ち上がった。
そして、三人の戦士は言葉も無く、目を合わせる事も無く、クロノスと挑む。時間停止と神器もどき、そして神の守りを手にして難攻不落の砦となったクロノスは、三人の猛攻をはじき返す。シアラや影法師の援護もあるが、それでも厳しいのには変わりない。
―――がちゃん、がちゃん、がちゃん、と。
幾度となく時間が巻き戻る。クロノスは自分にとって有利な結末が出るまで何度でもやり直す。一人一人、確実に叩き潰せるまで叩き潰す。
それも前回とは違い、今回はレイが死んでも構わないと考えた上での行動だ。死んでも死者の時間を巻きもどせる。そう考えた上での手加減無しの猛攻に、リザ達は懸命に食らい付いていた。
僅か一分。
実際に進んだ時間はそれだけ。
だが、その一分の砂が尽きるまでにかかった時間は、その数十倍以上はあった。どれだけ繰り返されたのか分からないほど、泥沼になった状況で、最初の落後者が出てしまった。
「……無念。ここまででござる」
そう言って、地面に倒れたのはヨシツネだった。槍の一撃がわき腹に穴をあけ、ポーションで辛うじて塞いでいる満身創痍の状態だった。彼は水晶の地面に顔を押しあて、無念そうに歯噛みした。
ヨシツネのリタイアは予想出来た事だ。リザ達に比べればレベルが一つ低いヨシツネが、ここまで戦ってこれたのも奇跡とまでは言わないが十分すぎる結果だ。
だが、一人倒れれば、その分の負荷が他に回る。次に起き上がれなくなったのはエトネだった。水平に振るわれた槍の一撃を真面に喰らい、地面を二転三転した末に止まった彼女はぴくりとも動かなかった。
精霊を召喚させ《憑依》させる事で強くなるエトネだったが、精霊無しで戦うのにも限界があった。そして、彼女が気を失った事で呼び出された精霊たちが消えてしまった。
途端に、抑えられていた神気が膨れ上がる。神の圧がセーフティーゾーンを蹂躙する。
一人残って戦っていたリザですら、膝を折ってしまうほどの圧だった。
「申し訳、ありません。ここ、まで、のよう、です」
「リザ、エトネ、ヨシツネ。アンタ達は頑張ったわよ。胸を張りなさい」
「そうです、か。なら、あとをおねがいします、レイ、様」
それだけ言い残すとリザは崩れ落ちた。もう、神の行く手を阻む者はいない。青い瞳は、同じように倒れる寸前のシアラと、そしてレイに抱きかかえられているレティを睨みつけた。
睨んだという動作だけで神気が一段と膨れ上がり、シアラとレティを苦しめる。精神がすり減り、肉体が割れそうだった。
「ごめん、なさい。おにい、ちゃん。あたしも、限界だよ」
「ああ、分かってる。コウエン。もう、十分か?」
この状況下で平然としていられるのはレイと影法師、そしてコウエンの三人だけだった。コウエンは腰かけた水晶から動かず、紅蓮の瞳を細めた。
「良き頃合いだ。ここまでよう、辛抱したな。準備は整った」
「そうか……長かった。ここまで犠牲をだして、ようかく始められるのか」
レイは言うと、レティを地面に寝かせた。彼女は言葉通り限界だった。もう、意識を失い杖が手から零れていた。当然、回復魔法も途絶えていた。レイの命は今にも尽きそうなとき、レイの体が突然燃え上がった。
体の内側から吹きだしたかのような炎は、一瞬で消え去る。炎は夢だったかのように跡も残さない。ただ、夢では無かったようにある物だけを燃やし尽くしていた。
「……うん。毒だけを狙って燃やし尽くせたようだね。本当に、こんな使い方ができるなんて、知らなかった。もっと他に役立つ方法を教えてくれよ」
「この戯け者。其方には、妾の炎を扱う資格を与えたのだ。あとは手探りで身に着けていかんか」
「厳しいね。まあ、それぐらいが丁度いいかもね。……影法師、来い」
「偉そうに命令するんじゃねえよ」
文句を言いつつも、影法師は歯車を弾き飛ばしながらレイの方へと移動した。そして、自分の体を解くと、一枚の布のようにレイの体に巻き付いていく。
幾重にも折り重なるそれは、まるで皮膚を剥いでむき出しとなった筋肉のように脈動する。一人、まだ意識を繋いでいたシアラが、その姿を嫌そうに思い出す。
「あれって、神前決闘の時の鎧でしょ。また、見る事になるなんて、最悪」
呟くが、これしかなかったのだと理解もしていた。
クロノスを殺す為には、こうするしかなかったのだ。仲間が全滅して、世界崩壊まで残り僅か。クロノスの神格は最大値を更新して、戦えるのがレイと影法師の二人だけ。どう考えても敗北が濃厚な状況だ。
だが、これしかなかった。クロノスを倒すにはリザでも、レティでも、シアラでも、エトネでも、ヨシツネでも、コウエンでも、影法師でも―――レイだけでも駄目なのだ。クロノスを倒すには、クロノスの力が必要なのだ。
ようやく、その準備が整ったのを見届けてから、シアラも意識を手放した。次に目が覚めた時には勝利を手にしているのか、あるいは世界が崩壊して無くなっているのか。彼女の特殊技能は答えなかった。
神前決闘の時と違い、顔はむき出しのまま、黒の鎧に身を包んだレイはクロノスを見つめる。
クロノスは、その視線を歓喜の笑みで迎えた。
「『今度こそ、邪魔者は入りません。貴方を殺して、そして救ってあげるわ、レイ』」
「無茶苦茶なこと宣いやがるな。殺すのと救うのが繋がってるって、どういう思考回路だ」
鎧にさざ波が立つと、影法師の声がした。鎧になっても影法師の意識はあった。
「僕らだって変わらないよ。あの人を救うために、殺そうとしているんだから」
レイは寂しそうに呟くと、一気に駆けだした。黒い鎧は筋肉を模しているかから、その速度は通常よりも早い。
だが、クロノスには関係なかった。
右手を前にして時間停止を発動させた。途端に、ピタリと動きが止まるレイ。クロノスは身動きの取れないレイに近づこうとした。
ところが、動けないはずのレイが動いたのだ。ミシミシと音を立て、無理やり関節が曲がる。ぎこちない動きから、何が起きているのかクロノスはすぐに気づいた。
「『信じられない。貴方が動かしているの!?』」
「その通りさ。何ともあべこべな話だよな!」
レイの鎧として纏わりついている影法師。それがレイの体を無理やり動かしていた。当然、無茶な行動の代償はある。時間停止を受けて動けないはずの体を無理に動かすのは、氷漬けになった体を動かすのに似ている。余計な圧力で肉が割れ、血が噴き出していた。
クロノスはレイを守る為に仕方なく時間停止を解いた。
「―――っと。どうやら、時間停止を解除したようだな。そして、予想通り血まみれか、僕の体は」
「必要な行為だ。諦めて受け入れろ」
他人事のようにしれっと言う影法師だったが、その通りだ。この程度の痛みで文句を言っている暇はない。レイは、再び走り出すと龍刀を縦に構えた。
上段からの切り落としだ。
あまりにも見え見えな一撃にクロノスは槍を分解し、そして横に構えた状態で構築した。もしも、軌道が変化しても時間停止を行い、攻撃を防ぐ自信はあった。そして防げれば勝利だ。例え龍刀であっても無機物には変わらない。時間を進めて風化させれば、もう脅威は無い。
勝利を確信して槍を形成するのと、レイの渾身の一撃がぶつかるのは同時だった。
神にすら届く刃と、どんな物体をも風化させる権能。
ある意味、究極の矛と盾の激突、その結果は―――破砕音と鮮血が水晶の森を汚した。
読んでくださって、ありがとうございます。




