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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第2章 祭りへの旅路
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2-28 金色黒色の瞳

 薄暗い檻の中、金色の瞳が僕を射抜く。脳裏をよぎるのはあの怪物の姿だ。


 反射的に握りしめた手首を砕くつもりで力を込めた。それでも魔人相手にはビクともしない―――はずだった。


「つぅぅう!」


 襲撃者は痛みに堪えられずにダガーを取りこぼした。床に落ちる前に傍で加勢しようとしていたリザが拾い上げた。僕は視界の端でそれを見ていたが、目の前の少女・・から視線を切る事は出来なかった。


 年の頃はおそらく今の僕よりも少し幼く、されどレティシアよりかは上だろう。

 未成熟の体を粗末なぼろ切れで隠し、病的と言っていいほど肌が白く、顔には生気すら感じられない。

 握りしめた手首から伝わる体温は冷たく、唯一炎のように燃え上っている金色の片目・・だけが彼女が生者である証明だ。


 そう、彼女に二つある目の内向かって左。彼女からしたら右目だけが金色の瞳となっている。反対の目はまるで闇に覆いつくされたような漆黒の瞳だ。


 艶を無くしたウェーブがかった黒髪を揺らして彼女は叫んだ。


「剣を……武器を寄越しなさい!」


 水を満足にとってすらいないのだろうか? 喉は掠れて、まるで血を吐くような絶叫だった。


「武器を渡したら、どうすんだよ!?」


 彼女の両手首を握り、鉄格子越しににらみ合う。身長差で僕が見下ろす形になる。見上げた彼女が揺るがない意志を瞳に携える。それはある種の気高さを感じた。ひび割れた唇が動く。


「死ぬ為に決まってんじゃない!!」


「―――それを聞いて武器を渡す奴がいると思うか!?」


 僕が叫ぶと、途端に彼女は力なく項垂れた。膝から力が抜け、僕の掴んでいる手首だけで吊るされている。その急な変貌に驚いた。


「お願いだから……死なせて。どうせみんな死ぬんだから・・・・・・・・・


「はぁ? ……それってどう意味っ」


 最後まで言い切る事なく僕は後ろに投げ飛ばされた。地面に滑るように着地した僕は檻の前に複数の人影が集まっているのを見た。


 こちらに向かって走ってきていた警備の人たちだ。手に武器を構えて殺気だった表情で檻と、いや檻の中に居る少女と相対していた。


「ああ、アンタたちでもいいや。早く、早くワタシを殺して頂戴! ねえ、お願い。お願いだから!!」


 両手を広げて狂ったように殺してほしいと嘆願する少女。彼女を気味が悪そうに見ていた一人が力任せに槍の石突きで少女を殴る。


 鳩尾に深々と入った一撃は少女の細い体を檻の端へと拭き飛ばした。


「黙れ! この『気狂いの王女』! これ以上不吉な事を口にすると舌を引き抜くぞ!!」


 壁に激突した少女は痛みに呻きながらも、床を這って鉄格子へと近づく。乱れた髪の隙間からまたしても金色の瞳が姿を現す。


「こんなんじゃ……死ねないでしょ。お願いだから、もっと、もっと、もっと、もっと!!」


 檻の中で少女の不気味な声が響く。気圧された様に警備たちは一歩後ろへと下がった。


 地面から起き上がった僕にリザとレティが近づいてきた。リザからダガーを受け取ると、腰の鞘へとしまった。彼女の表情は僕に剣を突き付けた事を後悔し、悔やんでいるようだった。


 そんな表情をするなら最初から剣を突き付けるなよ、と思う反面。それほど殺したい相手が憎く、同じ異世界人という事だけで僕に対して殺意が抑えられなかったのかと驚いてしまう。彼女のどこにそれ程の憎しみをため込んでいるのだろう。


「ありがとう、リザ。さっきの事は後で必ず話を聞くから。……それまで普通に振る舞う事。これは『命令』だ」


 僕らしくなく語尾を強めて言ってしまう。命を獲られるかと思った直後だ。無理も無かった。僕の剣幕を受けてリザが目を伏せて頷いた。


「……それでさ、二人ともあの娘どう思う?」


 重くなる空気を払拭するつもりで質問した。首を傾げながらも二人は檻の中で狂ったように叫ぶ少女を見た。鉄格子を掴み、揺らす少女の手を武器ではたき落していた。


「多分……ちゃんと綺麗にしたらすっごい美人だと思う」


「や、そういうことを聞きたかった訳では無いんだけどな」


「レティ、貴女ね」


 妹の言葉に嘆息する。一方、僕は否定しつつも心の中で同意していた。

 近くで見ると分からなかったが、こうやって距離を取って俯瞰で見るとあの少女はひどくバランスが取れている。思えば目も大きく、鼻筋も通っていた。磨けば光るという奴なのかもしれない。


 ふと、横から感じた視線に振り向くとリザの青い瞳が僕を睨んでいた。


「あの、リザさん? もしかして怒ってらっしゃいますか?」


「いえ。ただ、またご主人様のロリコンの血が騒いだのかと思いました」


「えー!? ご主人さま、もう浮気?」


 非難めいた二人の言い方に僕は勘弁してくれと思いつつ口を開いて弁明する。


「はぁ……あの娘の片目。此処からでも分かると思うけど金色だよね」


 二人は警備の者達の隙間から見えて少女の瞳へと視線を集中する。鉄格子越しでもはっきりと見えたのか頷いた。


「僕はネーデの街であの瞳と出会った。……その男の名はゲオルギウス」


「―――それは、つまり」


「うん。僕はあの少女が六将軍の関係者なんじゃないかと睨んでいるんだ」


 それに、と僕は続けた。


「もう一つ理由がある。僕は一応、話を始める前に周囲に人の気配が無いのを確認した。リザも剣を抜いたのは人がいないと思ってだろ?」


 リザは無言で頷いた。


「つまり、あの少女は僕たち二人から身を隠し通せていたことになる。それが技能スキルなのか本人の技術なのかは分からないけど。……ただの奴隷だとは思えない」


 僕の懸念を聞いてリザは視線を鋭くさせて、少女の入っている檻を睨んだ。何かに気づいたのかレティに問いかける。


「どう思う?」


「……ご主人さまの言うとおりだと思うよ」


「何か分かったの?」


 僕が尋ねるとレティが檻の内側。床へと指を伸ばした。日がわずかにしか当たらない床に目を凝らすと。幾つかの円と図形を組み合わせた魔方陣のような物が刻まれる。


「あれは……一体?」


「あれはね、ご主人さま。魔封じの陣。その陣の上では魔法は一切使えなくなるの」


 一拍の後、レティは言葉を継ぐ。


「それでもあの陣は異常だよ」


 そう口にした少女へと視線を向けた。いつもの快活さは為りを潜め。頬を流れる汗が彼女の驚きを表しているかのようだった。


「あの陣はね、上級魔法を使える魔法使いを閉じ込めておく物だよ」


「……それって本当なの、レティ」


 硬い表情で頷いたレティの様子から間違いは無さそうだ。だとするとあの少女はアイナさんと同じくらいの凄腕魔法使いということになるはず。だけど、檻の中で死にたいと懇願する姿からは想像できない。


 すると、騒ぎを聞きつけたハインツさんがジェロニモさんを引き連れてやって来た。


「おいおい、こりゃ何の騒ぎだ?」


 手にしたパイプに唇を当て、大きく息を吸いこむ。吐き出された紫煙が風に吹かれて散っていった。


 檻の前に立っていた警備が事情を説明しようとハインツさんの所に向かった。入れ替わるようにジェロニモさんが僕らの所にやって来た。


「本契約は終わりましたか、レイさん」


「ええ。お待たせしてしまい申し訳ありません」


 頭を下げた僕らに手を振って気にしなくていいと言ってもらえた。


 警備員から事情を聞いたハインツさんが僕らの方へとやって来た。メガネ越しに細い瞳が僕らを睨む。


「何があったか聞くきはねぇがここで刀傷沙汰は御法度だ。痴話喧嘩なら他所でやんな」


「痴話喧嘩じゃありま―――ふが」


「本当にすいませんでした」


 赤くなって叫ぶリザの口を塞いで頭を下げた。ハインツさんは鼻を鳴らすだけで済ませてくれた。


 そして、警備が囲んでいる檻の方へと視線を向けた。困ったように額を掻く姿が天幕に居た老婆と姿が重なった。


「まったく。厄介な商品を抱えちまったぜ」


「あの、ハインツさん。彼女の事について聞きたいんですけど」


「あ? なんだ、お前。あれも買ってくれるのか? いまなら安くしても良いぜ」


 僕は首を振って否定してから言葉を紡ぐ。


「彼女は何者なんですか? 聞けば、檻には魔法を封じる陣が仕掛けてあり、口を開けば死にたいと連呼する」


 パイプから吸った煙を吐き出したハインツさんは檻の中で小さく丸まった少女へと視線を投げかける。


「ありゃ、ある島で見つかった王女なのさ」


「王女……ですか?」


 先程の警備も彼女の事を『気狂いの王女』と呼んでいたことを思い出す。


「その島はもう誰も住んでいない無人島でな、ポツンと古めかしい城と遺跡のように朽ち果てた城下町が島の中央にあるそうだ。その城の奥。玉座の裏の隠し通路を越えた先の秘密の部屋にあの娘は氷漬け・・・になって生きていた」


 ハインツさんの話に僕らは驚いた。同時に僕は疑念を深めた。タダの人間なら氷漬けにされた状態で生きているとは思えなかった。


「そいつがいつから氷漬けになっていたのかは知らねぇが、見つけた奴から高値で購入したのが運のつきだった。本当ならこの祭りで売り払うつもりだったんだが……おめえらの見た通り、東方大陸に来てから死なせろ、死なせろ、って騒ぎやがる。仕舞いには水も食事もとらなくなりやがって」


 燃え尽きた煙草を地面にぶちまけた。残っていた火種を踏みつぶす時、抱えている苛立ちごと踏みつぶすような勢いだった。


 ジェロニモさんが苦笑いを浮かべて友人の肩を叩いた。


「また、お前の悪い癖が出たな。奴隷その者に価値を見出すのではなく、出自や曰くを重視してしまう所がな」


「うるせぇ。ワシが初めて見た時はな、今と全く姿形は違っていた。少し幼いが肌はふっくらとしていて、黒髪のくせ毛は艶を放つ。その手の趣味がある奴なら間違いなく飛びつくと踏んでいたんだがな」


「おや、それは残念でしたね、レイさん」


「あははは。……どーいう意味でしょうか?」


 ジェロニモさんの意味ありげな言葉に乾いた笑みを浮かべるしかできなかった。マジで僕のロリコン疑惑をどうにかしたい。と言うかだ。見た目十五才位の少年が十二、三才の少女を気にするのはそれ程変だろうか?


 ……いや、やはり字面から考えると怪しく見えるな。特に十二、三才の下りが。


「それでは私たちはお暇しましょうか。ハインツ。世話になったね。今度一杯奢らせてもらうよ」


「おう、期待して待ってるぜ」


 踵を返したジェロニモさんの後に続く前にハインツさんへと頭を下げた。リザとレティも僕に続いた。


 奴隷商人はひらひらと手を振って天幕へと戻っていった。僕らも市場を出ようとして足を踏み出した。


 だけど檻から聞こえてくる絶叫に僕は再び足を止める。


「どうせみんな龍に殺されてしまう! ワタシも、お前も、お前も、お前も。そこに居る黒髪のお前!! そう、お前だよ!」


 僕は檻へと向き合う。リザとレティが僕の袖を握り、引っ張ろうとするのを拒絶した。


「アンタは特にそうさ! お前は絶対にと会う前に死んでしまうよ! 良かったね! 炎に焼かれることだけは回避できるよ!!」


「ええい! 黙らんか!! このアマ!!」


 石突きで頭を突かれ、ようやく少女は気絶した。その姿を見て、あからさまに警備たちは胸をなで下ろしていた。


 僕の手を握ったリザに引っ張られて檻の前から離れる。その間も、先程の少女の言葉が頭の中で不吉をまき散らしていた。


 ―――みんな龍に殺されてしまう!




「なんだかすごい女の子でしたね」


 奴隷市場を抜けたジェロニモさんの言葉に同意を示すように僕らは頷いた。


 僕らは精霊祭開催期間中のみのフェスティオ商会臨時店に向かって歩いていた。ジェロニモさんは店に用事があり、僕らはオルドやファルナに用があった。


 実質的な依頼主はジェロニモさんだが、道中世話になった礼を言いに行くためだ。


 先導するジェロニモさんの後を付き従いながら、僕はリザに口を開く。


「ねえ、龍ってやっぱり居るの?」


 彼女は青い瞳を数回瞬きさせると、咳払いをしてから口を開いた。なんだか物を知らない生徒に対する教師のようだった。


「ワイバーンのような飛龍種なら迷宮にも地上にもいます。ですが本物の龍となると現存するのは北の大地。北方大陸に逃げ込んだものしかおりません」


「逃げた?」


 僕が聞き返すと、彼女は頷いた。自分が異世界人だと打ち明けたおかげか、この世界で常識である事を聞いても不信感を抱かれずに済むようになったのはある意味メリットかもしれない。


「昔。今から数百年前に龍は国を作ったのです。ですが、世界はそれを許さず龍との間に大規模な戦争が起きました。結果龍の国は亡び、生き残りは北の大地に逃げたのです。以来、彼らが北の大地を離れたという話は聞きません。だから先程の女が言ったことはただの出鱈目です」


 最後を力強く、ハッキリと言った。どうやら先ほど投げかけられた呪いじみた言葉を気にしているのを気づかれたようだ。


 絶対にありえないと繰り返すリザには悪いが、やはりあの少女の言葉が棘のように胸に刺さって取れない。


 もし、あの少女が僕の予想する特殊ユニーク技能スキルを持っているならあれは呪いでは無く予言となる。だとしたら、この都市に龍が現れる事になってしまう。


(まあ、龍はともかくとして、その前に訪れる死には警戒しておこうか)


 たとえ精霊祭の最中でも、堅牢な防壁に囲まれた都市の中でも死ぬときは死ぬ。それを避けるためにも気を緩めないようにしないと。


 そう決意したのと同じぐらいに僕らはフェスティオ商会の店に到着した。

 いつの間にか倉庫のような店に看板が掲げられていた。エルドラド共通文字でフェスティオと書かれていた。


「む? 帰還か」


 槍を構えたオイジンが店先で佇んでいた。どう考えても、寡黙な彼が武器を持って店先に居ると客は逃げていくのではないかと思えてしまう。まあ、今はまだ店の開店前だからセーフなのかもしれない。


 僕は店の中を覗きこみ、ファルナかオルドの姿を探した。だけど二人の姿は見つからなかった。


「オイジン。オルドかファルナがどこに行ったか分かる?」


 彼は振り返ると、防壁の向こう、僕らが訪れたギルドを指さした。どうやら入れ違いにギルドへと向かったようだ。


(さて、如何しようかな。今からギルドに向かっても入れ違いになる確率は高いし、かといってここで待っても帰って来るって保証は無いし。それに仕事が完了した以上、このアマツマラでの宿は自分で確保する必要がある。どうするべきかな)


 悩む僕を見たジェロニモさんが口を開いた。


「レイさん。お二人を連れてギルドに向かった方が良いですよ」


 言われて首を傾げる僕を助ける様にリザが口を開く。


「私も同意です。この先、ご主人様と共に旅をするなら私たちも冒険者としてギルドに登録するべきだと思います」


「ああ、成程ね。……そんなこと可能なの?」


 最後は声を潜めて尋ねるとリザは頷いた。少々面倒だがあの坂をもう一度上る事にする。


 ジェロニモさんに頭を下げて店を後にしようとする僕を彼が引き止めた。


「僕らが精霊祭の間使う宿はカザネという女将が経営する宿です。ギルドで入れ違いになったらそこの女将にでも伝言を残しておけばいいでしょう」


 僕は再びジェロニモさんに頭を下げてから今度こそ店を出た。




 再びやって来たギルドに『紅蓮の旅団』の姿は無かった。職員に聞いたらすでに更新を済ませて出ていったそうだ。やはり懸念した通り入れ違いになってしまった。


 プレートの更新と登録を願い出た僕らは審判官の控える別室へと連れてかれた。

 理由は二つ。一つはリザとレティに関するパーソナルデーターを審判官の前で宣言するため。もう一つは僕の賞罰、殺人について疑いを晴らすためだ。


 更新されたプレートに赤いバッテンがついた時、職員は一切の動揺を見せずに僕らを別室へと連れて行った。あの流れるような所作に騙されて警戒することなく着いていった。


 別室は他の審判官の部屋と同じで、机と椅子しかない殺風景な景色だった。机を挟んで座る審判が、


「リラックスしてください。冒険者様」


 と、穏やかに言った。すでに目隠しは取られている。


「それでは確認ですが、レイ様。貴方は人を殺しましたね」


「はい」


 審判官が手元の羊皮紙に何かを記入する。


「その殺した者は手に武器を持っていましたか」


「はい」


「貴方が先に攻撃しましたか? それとも向うが先に攻撃しましたか」


「向こうが先に攻撃しました」


 魔方陣が刻まれたアメジストの瞳が僕を丹念に見つめる。その瞳は雄弁に語りかける。偽証は許さないと。


 しばらく、無言で見つめていた審判官が視線を切ると、手元の羊皮紙に書き込み、ハンコを押した。


「はい、結構です。レイ様。貴方の正当防衛が認められました。罰金なしで殺人の取り消しができます」


 その言い方に引っ掛かりを覚えた。まるで、罰金を払えば殺人は消せるような言い方ではないか。


「失礼を承知で聞きます。もし、正当防衛が認められなかった場合、僕はどうなっていましたか?」


「前例に従えば殺した人数や状況を考慮して罰金。もしくは拘束となりますね」


 思った通り、罰金を払えば殺人と言う罪すら簡単に償える。この世界で命はあまりにも軽く扱われていることに怒りに似た感情が込み上げてきた。背後で僕の肩に手を当てるリザが居なかったらこの場でぶちまけていただろう。


 書き終えた書類を脇に寄せた審判官がリザと入れ替わるように要求した。僕は彼女に椅子を譲り立ち上がる。


 その後、ネーデの街を初めて訪れた時と同じ質問がリザとレティに投げかけられた。淀みなく答える彼女たちの回答を手元の羊皮紙に書き込む審判官。


 しばらくしてから僕の手に三枚の書類が手渡された。


「これらの書類を受付に見せればプレートの発行と殺人の取り消しが完了します」


 言いながら布を巻きなおした審判官に礼を言って退出した。廊下に出た僕は胸に溜まった苛立ちを抑えきれずに頭をかき毟る。


 驚いて立ち止まる姉妹に僕は自分の気持ちを伝えた。


「ねえ、人を殺してそれを金で解決するのがこの世界での一般常識なの? そんなに人の命は軽いもんなの!?」


 困ったように顔を見合わせた二人に、すまないと謝った。


「そう……ですね。もしかすると私たちは死に慣れきってしまってるのかもしれません。人の命を軽視しているかもしれません」


 リザが悲しそうに呟いた。

 そんな姉と入れ替わるように押し黙った僕に対してレティが口を開いた。


「ご主人さまの優しさは、きっとご主人さまの居た世界が優しかったおかげなんだろうね」


「レティ?」


 急に大人びたような表情を浮かべた少女に戸惑う。彼女はエメラルドグリーンの瞳をまっすぐに向けて、何時もの快活さを取り戻した。


「今度、ご主人さまの世界について聞きたいな」


「あ、出来れば私も」


 おずおずと手を上げたリザ。ようやく僕は二人に慰められていることに気づいた。誤魔化すように頬を掻くとぶっきらぼうに、


「また今度な」


 と、言ってしまう。


 もっとも耳が赤くなるのは誤魔化せなかっただろう。二人の視線を感じた。


 クスクスと笑う二人を置いて僕は廊下を逃げる様に早足で進んだ。


読んで下さって、ありがとうございます。

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