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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第2章 祭りへの旅路
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2-27 対等契約

「―――はい?」


 気の抜けた返事を返すので精一杯だった。目の前の皺くちゃの老婆はこともなげに僕の正体を言い当てた。


 僕が異世界人だと。


 後ろに控えているリザとレティの前で。


 僕の秘密をばらした。


「まったく。異世界人なら異世界人だと先に言っておかんかい」


 僕の混乱を気にした様子も無くため息まじりに老婆は口にした。おそらくこの老婆は火の精霊と同じく人の魂を見抜く術を持つのだろう。僕が異世界人だと見抜いたのはこれで二人目だ。


 頭が真っ白になってしまい、言い繕う事もできずに阿呆のように水晶に手を触れているだけだった。


 すると、みしりと奇妙な音が僕の意識を現実へと引き戻した。背後から聞こえた音に反応して振り向いた。


 後ろで胸甲に手を当てていたリザの顔面が驚くほど白くなっている。音の発生源は彼女の手が鎧を力強く推したからだった。リザだけでは無い。レティもエメラルドグリーンの瞳を小刻みに揺らしている。


 あからさまに動揺した態度を取る姉妹に声を掛けようとした僕を老婆が横に置いていた杖で小突く。


 樫の木で出来た杖は頭で鈍い音を奏でる。


「こりゃ! こっちに意識を向けんか」


「あ……その……」


 只ならぬ様子の僕らを見て老婆は小さく鼻を鳴らす。


「ふん。……すまんね、坊や。どうやらお前さん。後ろの娘たちに異世界人だと教えてなかったようだね」


 老婆がリザとレティに気遣わしそうな視線を送る。


「まあ、無神時代においちゃ珍しくなった異世界人。見るのは初めてだろうしね。動揺するのも無理は無い」


「……それって一体?」


 珍しくなった。その言い方に引っ掛かりを覚える。それじゃまるで、昔は僕のような異世界人は珍しくなかったような口ぶりだった。僕は思わず老婆を凝視した。


 視線を受け止めた老婆は困ったように額を掻いてから口を開いた。


「まだ、エルドラドに13神がいらっしゃった頃。この地には様々な世界から呼び寄せられた異世界人達が降り立っておったそうだ。異世界人たちは良くも悪くもエルドラドに変化を齎していたと聞くよ」


「それって……それっていつ頃の話ですか!?」


「そうさね。13神がいらっしゃったのはざっと1300・・・・年前の話さ。……それから今日に至るまでは神の無い時代、無神時代と呼ばれておる」


「―――はぁ!?」


 想像すらしていない数字が飛び出し、思わず出た大声が天幕を揺らした。この老婆の言が正しければ、僕がこの世界にやって来た原因である神々は少なくとも1300年もの間エルドラドに関わっていない事になる。


(何が、私たちが管理する世界を旅して欲しいだ! そんな長期間放置している世界に放り込みやがって!!)


 心の中でここに居ない神へと怒りをぶつける。怒りと混乱で思考が定まらない。言葉にできない感情が胸の中で獣の様に咆哮する。


 僕の様子を見ていた老婆が、


「しかし、ちょっと困ったことになったね」


 と、呟いた。


 耳に届いた小さな呟きによって僕の意識は内側から外へと引っ張り出された。老婆を見ると彼女はまた困ったように額を掻く。


「いやね。異世界人の魂とこの《コントラクト》の呪文は相性が悪くて。……契約内容が固定されちまうんだよ」


「固定って……もしかして」


 後ろで固まっていたレティが恐る恐る口にした。老婆は肯定するかのように頷いた。


「主従契約は結べん。契約内容は対等契約のみになってしまう」


 背後で手を当ててる姉妹が息を呑んだのが分かる。

 主従契約なら、仮にリザが死んでも僕やレティは死なない。主である僕の死がきっかけで奴隷である二人が死ぬ。


 一方で対等契約は奴隷であるリザやレティが死んだ場合でも僕は死ぬ。そうなれば残ったもう一人も当然の様に死ぬ。


 三人の命が文字通り対等になる。それが対等契約だ。


 命の散らす危険が高い冒険者稼業を行う上で誰かが死ぬリスクは常にある。だけど一人の死がパーティーの全滅に繋がるのはあまりにもリスクが高すぎる上、メリットは無い。


 もっとも《トライ&エラー》で死んで戻れる僕にとっては死ぬ可能性が高くなる程度のリスクに過ぎない。


 けど。


(その事を知らない後ろの二人にとってはとてつもなく高いリスクに見えるんだろうな)


 人知れず心の中で嘆息する。重苦しい沈黙を放つ二人に向けて口を開いた。


「エリザベート、レティシア。君たちが望むなら僕は二人をファルナに託しても良いと考えている」


 僕の言葉に二人は息を呑む。


「何ならタダで譲ってもいいぐらいだ。だから態々リスクの高い方を取る必要は―――いたっ」


 最後まで言い切る事は出来なかった。僕の頭頂部に軽い衝撃が襲った。首だけを後ろに向けるとリザとレティが開いた手でチョップを繰り出していた。二人の美少女は呆れた表情を浮かべていた。


「ご主人様。見くびらないでください」


 リザが薄い胸を誇示する様に胸を張る。


「一度、貴方に着いていくと決意した時点で貴方に命を預けました。元から貴方が死ねばそれに殉じるつもりです」


 あっけらかんと重たい事を口にした。同意するように頷いたレティもまた口を開く。


「お姉ちゃんの言うとおりだよ、ご主人さま。……むしろ対等契約はあたしたちのせいでご主人さまの命が危なくなるんだよ。そっちを気にしなよ」


「え? でも、僕は君たちを見捨てる気も、死なす気も無いよ」


 呆れた様に肩を竦めたレティに僕は正直な気持ちを伝えた。たとえゲオルギウスのような怪物が相手でも、死に膝を屈するつもりは無い。僕の言葉に姉妹は動揺と羞恥と喜びが入り混じった何とも複雑な表情を浮かべた。


「それじゃ、それでいいじゃないですかご主人さま」


 薄く、けれども確かに優しい微笑みを浮かべたリザが言葉を紡ぐ。


「奴隷が主人を守り、主人も奴隷を守る。……随分とちぐはぐで歪ですが、なんだか私たちらしいです」


「賛成!!」


 リザの微笑みに見惚れている僕を叩き起こすようにレティが大声を出した。正気に戻った僕は困ったように頬を掻くと、天幕に居たもう一人の笑い声が響く。


「アッハハハ!! この商売も長くやって来たけど随分と面白いパーティーだね」


 笑いすぎて涙を浮かべた老婆が、けど、と繋げた。


「けど、良いパーティーだよ。アンタたちは。アタシが太鼓判を押してやるよ」


「「「―――はい!」」」」


 思わず三人の返事が揃ってしまい、僕らは照れくさそうに笑みを零した。


 呆れた様に嘆息する老婆がしばらくしてから口を開いた。


「それじゃ、対等契約で良いんだね?」


 僕らは頷いた。その返答を受けて再度、老婆は詠唱を開始する。


「《紙よ、千切れろ》」


 老婆の体から精神力が溢れ出る。


「《塒に戻りし蛇よ、呼びかけに応じよ》」


 詠唱に反応して水晶の中を揺蕩っていた鎖が意志を持ったかのように先端を動かす。まるで蛇が鎌首を持ち上げるような動きだ。


「《契約を結べ、主と奴隷は天秤の上にて平等》」


 意志を持った様に動き出した水晶から飛び出して宙に浮く。異変はそれだけで終わらない。鎖の両端が溶ける様に崩れていき、一枚の紙切れに変化していく。


「《魂を縛る蛇よ、その身を契約の証とかせ》」


 老婆の詠唱に合わせて鎖は一枚の羊皮紙へと変化した。古ぼけて、時間の流れによって変色したような色合いの羊皮紙が糸に引っ張られたように宙に浮かぶ。僕らの視線は羊皮紙に釘付けになる。


「《リ・コントラスト》!」


 詠唱が終わるのと同時に老婆は宙に浮かぶ羊皮紙をひったくるように掴む。瞬間、羊皮紙の表面を焔が撫でる。薄暗い天幕の中で目を焼くような明かりが放たれた。思わず目を瞑る。


 恐る恐る目を開けた時には焔は消え、羊皮紙に見慣れない書体の文字が刻まれていた。


「これが奴隷契約書ギアスロール。ここにお主たちの名前と奴隷契約における条件を書き込みなさい。もう手を放しても構わんよ」


 老婆が突き出した羊皮紙と羽ペンを受け取る。奴隷契約書ギアスロールに目を落とすと、何かを書き込む空白と名前を書き込む欄がある。


「あの、条件って何を書くんですか」


「ん? そうさね、まず絶対必要なのが解放条件。何をもって奴隷から解放されるかを明文化する必要がある。次は禁止事項」


「禁止事項ですか?」


奴隷契約書ギアスロール自体に『主人はみだりに奴隷を死なせない』『奴隷は主人の命を奪っては為らぬ』『奴隷は心身の喪失の恐れが無い限り主人の命令を背けない』の三つが織り込まれています。それ以外に当人同士で守らないといけないルールをここに書き込むんです」


 後ろから覗きこんだリザが僕に説明する。僕は彼女たちの前に紙を置いて羽ペンを置いた。


「とりあえず解放条件は―――」


「―――私たちの目的を果たすまで、とお書きください」


 ちらり、とリザを見上げた。青い瞳は強い意志に彩られている。僕が何を言っても彼女がこれを譲る気は無いだろうと思える。


 僕はエルドラド共通文字。つまりアルファベットで文字を書き込む。


『エリザベートとレティシアが目的を果たせば解放する』


 黒いインクが羊皮紙に染み込むと、書いたはずの文字が一人でに姿を替える。上半分に刻まれた見慣れない書体へと姿を替えたのだ。驚かない二人を見る所、これは正常な変化だと思われる。


 僕は次に禁止事項を二人に尋ねた。姉妹は顔を見合わせて考え込む。僕も一緒になって羊皮紙を睨みながら何かないかと頭を捻る。


 そんな僕らを見ていた老婆が口を挟む。


「アンタたち。奴隷契約書ギアスロールに書き込むのは何も今すぐに必要ってわけじゃないんだよ。ここで思いつかないなら一緒に過ごしてからおいおい書き足せば良いのさ。……ただし、書く内容は吟味しな。破れば酷い目にあうからね」


「そうなんですか?」


「そうなのさ。ちゃっちゃっと自分たちの名前を書き込みな」


 促された僕らはそれぞれの名前を順番に書き込む。一応完成した羊皮紙を老婆に渡した。彼女は奴隷契約書ギアスロールを上から下までねめつけると、紙を水晶玉の上に乗せる。


 すると、水晶玉に触れた途端、羊皮紙は元の鎖へと変化して水晶玉の中に飛び込んだ。


「これで最後さ。坊や。まずアンタが水晶玉に手を乗せな」


 僕は先程と同じように水晶玉を右手で触れた。だけど、老婆の皺くちゃな手が僕の手首を掴む。どうやら置き場所が違ったらしい。水晶玉の天頂部分まで引っ張られた。


 それを見てリザとレティが僕の右手の上に重ねる様に自分の右手を載せる。刻まれた奴隷紋が目に飛び込んだ。


 老婆が水晶玉を小突くと鎖が動き出す。僕らの重なった手を目がけて突撃した。一瞬、鎖に三人の手が貫かれる姿をイメージした。


 だけど僕の予想に反してそんな事は起きなかった。音も衝撃も無く、鎖は僕らの手に飛び込んで消えた。その際に二人の奴隷紋が鳴動したように見えた。


 老婆の目も同じものを捉えたのだろう。彼女は頷くと、


「これで契約は完了したぞ」


 と、言い切った。


 リザとレティが重ねた手を持ち上げる。僕は嵌めた手甲を脱いで素肌を露わにした右手を見た。少なくとも手の平にも甲にも何の跡は見つからなかった。仮契約の時に感じた魂ごと縛られる感覚は無かっただけにこれで本当に契約できたのかどうか信じられなかった。


「坊や。《奴隷契約書ギアスロール・オープン》って言ってみな」


 手を隈なく見ている僕を面白そうに見ていた老婆が口を開いた。僕は言われた通りにしてみる。


「《奴隷契約書ギアスロール・オープン》」


 詠唱と共に変化が起きた。僕の右手の甲から奴隷契約書ギアスロールが生える様に姿を現した。驚く僕の前で羊皮紙が落ちた。


「それが出し方さ。しまい方は奴隷契約書ギアスロールを握りしめて《奴隷契約書ギアスロール・クローズ》と唱えな」


「《奴隷契約書ギアスロール・クローズ》」


 落ちた羊皮紙を握りしめながら詠唱した。すると、握りしめた羊皮紙はまるで僕の体に沈み込む様にして姿を消した。


「後は普通の羽ペンに普通のインクでいつでも禁止事項の追加が行えるぞ。ただし、その際は奴隷の前で記入する必要があるがね。……これで説明は以上だよ」


「ありがとうございました、お婆さん」


「お世話になりました」


「ありがとうね。おばあちゃん!」


 僕らは口々に礼を言って天幕を後にしようとする。だけど、僕は二人が天幕を出たのを見計らい、素早く踵を返す。


 老婆が驚いたように僕を見た。


「まだ、何かあるのかい?」


「最後に一つ。奴隷契約を主人側から一方的に切る方法はありますか」


 質問の内容に老婆はふむ、と呟いた。これは本来なら契約を結ぶ前に聞いておくべきことだが、下手に二人、特にリザの前で口にすると、彼女に何を言われるのか分からない為、居ない隙を見計らった。


「そいつは簡単さ。奴隷契約書ギアスロールを取り出した状態で一言。《奴隷契約書ギアスロール・デストラクション》と唱えなさいな」


「……それだけですか」


 老婆は無言で頷いた。僕は老婆に頭を下げて天幕を後にしようとすると、背後から言葉を投げつけられた。


「坊やが異世界人だと言う事はこの婆が御霊まで大事に持って行ってやるよ」


「―――ありがとうございます」


 僕は今度こそ天幕を後にした。




「どうかしましたか、ご主人様」


「ん? まあ、ちょっとね」


 天幕から外に出た僕を待っていたリザとレティは遅れてきた僕へと問いかけるような視線を投げかけた。だけど僕は曖昧に返す。


 誤魔化した僕を見つめる二人を少しだけ引っ張り、通りから離れた所へと連れてきた。檻が近くにあるが人の気配はしない。見張りのように立っている者も奴隷を求める人もいない空白地帯だ。


「どうかしたの、ご主人さま? こんな所に来て」


「ジェロニモさんの所に行く前に、一言言っておきたくてね」


 前置きしてから僕は周りを伺う。やはりこの辺りはあまり人が居ない。聞かれる心配は無いだろう。


「えっと、僕が前に言った秘密の事は覚えている?」


 二人は頷いた。


「……さっきのお婆さんが言った通り、僕は異世界人だ」


 一瞬。二人に何処まで説明するべきか迷いながらも僕は自分の正体を口にした。


「どうしてこの世界に来たのか。どうやってこの世界に来たかは僕自身良く分からない」


 これは半分嘘で半分本当だ。僕の中で神への不信感は溜まりに溜まっている。正直、僕が事故に遭遇したと言うくだりも怪しく思えてきた。


 とにかく自分の中で判明している真実は神によってこの世界に十五才の体でやって来た事だ。だけど、それを正直に説明しても信じてもらえないと思う。


 だから、二人に嘘を吐くのを心苦しく思いながらも言葉を紡ぐ。


「この世界で異世界人だと知られるとどうなるのか分からないから今まで隠してきた……だから二人にもこの事は秘密にして欲しい。……これは『命令』だ」


 最後を力強く言った。二人の体がぶるりと震えた。


「……了承です」


「分かったよ、ご主人さま!」


「そうか、ありがとう二人とも」


 元気良く返事をするレティとは対照的に考え込むリザの姿が気になった。だけど、ジェロニモさんを待たせているのを思い出して僕は歩きだそうとした。


「ご主人様―――少々お待ちください」


 だけど、僕の足をリザが止めた。彼女へと振り返ろうとして、―――刹那。


 世界が遅くなる・・・・・・・


 コマ送りの様にゆっくりと、だが確実に僕の首を狙ったリザの剣を左腕の手甲で受け止める。


 速度を取り戻した世界で僕は吹き飛ばされて檻へと叩きつけられた。


「止めて、お姉ちゃん!!」


 檻にぶつかった音とレティの絶叫が響き、周りの目が僕らへと集まった。だけど、僕にそれを気にする余裕は無い。


 距離を詰めたリザに対してバスタードソードを抜いた。上段から降り押されたロングソードを受け止める。鍔迫り合いの最中、彼女の瞳に混乱する僕の姿が写る。


「いきなりの……謀反かよ、エリザベート!」


 叫ぶ僕に対して彼女は常に見せる人形めいた無表情では無く、冷徹な殺意を僕に叩きつける。だけど、一方でその表情には玉のような汗が流れている。


 老婆の言っていた奴隷契約書ギアスロールに最初から織り込まれている禁止事項の一つ、『奴隷は主人の命を奪っては為らぬ』を犯したペナルティを受けているのだろうか。息も乱れ、苦しそうだ。


「ぐっぅぅぅ! ……非礼も無礼も承知しております。……これが済み次第いかなる罰も受けます。……ですが一つだけ質問をさせてください」


「何をだっ!?」


 精神力を纏った剣に押される。目の前に迫った剣から視線が逸らせない。


「ご主人様……貴方の居た元の世界の名前は『アースガルス』ですか?」


「アースガルス? 悪いけど、聞いたこともねえよ!」


 僕の返事を聞いて空を思わせる青の瞳から殺気が消えた。剣に纏わせていた精神力も霧散し、鞘に収まった。僕は檻に背中を預けないと立っていられない程消耗していた。リザも同じようだった剣を鞘に仕舞いながらも肩で息をしている。


「ご主人様、申し訳ありませんでした。……この始末いかようにも」


 項垂れたリザに対して色々と言いたいことはあったがとにかく最初に思ったことを口にした。


「アースガルスって何だよ。何処かの世界の名前なのか」


「……はい。私がかつて口にした、殺したい者の話は覚えていますか」


 忘れるものか。カラバの港町で聞かされた話だった。彼女たちの目的だ。


「そいつもご主人様と同じ、異世界人・・・・なのです」


「―――それは本当か!!」


 叫ばずにはいられなかった。彼女の発言が本当ならこの地上のどこかに僕と同じ異世界人がいる事になる。そいつに会えれば13神についても何かしらの情報が手に入るかもしれない。


「は、はい。私自身、直接聞いたわけではありませんが異世界人だという話です」


「そうか、そうか! そうなのか!」


 僕がまだ見ぬ同種の存在に胸を躍らせると、遠くからこちらを目がけて走って来る人たちがいた。各々、バラバラの鎧を着こみ手には武器を持っている。僕らを遠巻きで見ている人垣を掻き分けて向かってくる。


「なんだかあの人たち、怒っていないか?」


 人を突き飛ばしながらこっちに向かってくる集団の目が血走っているように見える。咄嗟にウージアの街にて遭遇した黒頭巾たちを思い出す。


 だが、否定する様にリザが口を開く。


「おそらく、この奴隷市場の警備をしている者達でしょう。私達が武器を抜いたのを聞きつけたのでこちらに来ているかと」


「ねえ、あっさりと言いのけてるけど先に抜いたのは君だってこと忘れてないよね?」


「……申し訳ありません」


 僕はため息を吐きながらバスタードソードを鞘に仕舞う。ここは賄賂でも払って見逃してもらうのが良いのかもしれない。そんな風に思っていると。


 ―――背にした檻から伸びた手が僕を逃がすまいと掴んだ。


「―――なっ!?」


「ご主人様!?」


 檻から伸びた手は鞘に仕舞ったバスタードソードを掴もうとする。僕はその細い手首を掴んで防ぐ。


(檻の中に人がいたのか!? いくら薄暗いと言っても人の気配なんか感じなかったぞ!!)


 突然の事態に僕もリザもどう対処すればいいのか分からなかった。少なくとも檻の中で人の気配はしなかった。おそらくリザも同じように感じたのだろう。だとすると、この手の主は冒険者二人から身を隠し通せていたことになる。


 混乱する僕の耳に、ちゃきり、と鞘から剣が抜かれる音がした。


 咄嗟に、音の原因が理解できた。腰のダガーを奪われたのだ。僕は慌てて後ろへと振り返る。視界の端で煌めいた光へと向かって手を伸ばした。


 ダガーを握りしめた手首を掴む。期せずして檻の中にいる人物の両手首を握りしめ、向き合う形になる。


 まず、最初に思ったのはその病的までに細い手首と、氷の様に冷たい体温だった。一瞬、死者と触れているような錯覚を味わう。


 鉄格子越しとは言え互いの息がかかる程近い距離。僕の視界に飛び込んできたのは金色・・の瞳だった。


読んで下さって、ありがとうございます。

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