9-13 雑音
「厳しい、というのは移住の受け入れを制限している地区なんですか」
唐突の宣告にぽかんとしているエトネに代わって尋ねたレイに、職員は困った様子で返す。
「いえ、そういう訳ではないのですが……ともかく、移民課としてはエトネ氏の出生証明並びに必要な書類を全て確認いたしましたので、移住許可証を発行します。後は現地に赴き、直接交渉をして下さい」
明らかに何かを隠した職員は口早にそれだけ言うと、レイ達に許可証一式を押し付けるように渡して次の人に対応を移した。何とも腑に落ちない対応に、レイとリザは顔を突き合わせて、
「なんだか、納得いかないね」
「無理にでも問い質しますか。とりあえず、締め上げますか」
「止めときなさいよ、二人とも。下手に職員の機嫌を損ねたら、発行してもらった許可証も破棄されかねないわよ」
暴力行為も辞さないリザとそれもやむなしとばかりに頷き掛けたレイを呆れた様に、シアラは窘めた。
シアラの言う事ももっともである。ここは引き下がるしかない。どうにもきな臭さを感じつつも、レイ達は次の窓口へと足を運んだ。
途中で検疫の結果を回収し、全員が入国に問題ないと診断されたのを受けて向かったのは旅程課の窓口だ。入国管理局は夜遅くまで対応しているのか、外が暗くなりつつあっても、応対してくれた。
「ようこそ、旅程課へ。入国の際の申請書をお見せください」
窓口で対応する職員に申請書を渡せば、慣れた様に確認を済ませた。
「成程。最終的には西の出国門から学術都市に向かうのですが、途中で移住希望者を、該当地区まで連れていくのですね。それで、どちらの地区まで向かうのですか」
「ホスローちくの狼人ぞくのしゅうらく」
「ホスローですか。ホスローとなりますと、この港から北東に位置しますね。今、地図を出しますので、少々お待ちください」
言って、職員はカプリコルの地図をカウンターに広げた。南北を海に、東西に壁が伸びる国家は色別で地区が分かれていた。レイ達の方から見て、地図の下が南。つまり、大陸から外海に向かって伸びた島こそ現在位置になる。
「ホスローまでは馬車を用いれば七日。徒歩でも十日程で到着します」
職員が指で通るだろう進路をなぞりながらホスロー地区の狼人族の集落までを示した。国の東側に位置する集落からだと、出国するだけならば東の出国門を越える方が早いのだが、それでは学術都市とは逆方向になる。
「ここ、ホスローから西の壁まで、これまた七日は掛かりますね。徒歩でも十日。ホスローでの滞在期間を抜いて計算すれば、大よそ二週間から二十日掛かる計算ですが、旅の間は馬車を使いますか」
「使います。僕たちは自前のニチョウと馬車がありますが、この国に滞在中は使用しても構いませんか」
「問題ありません。案内人は同道しますが、同じ馬車を使わず、馬で貴方がたと共に行動しますので、ご了承ください」
それだけ言うと、職員は書類の作成に入った。レイ達が明日から出発すると仮定して、そこから一日辺りの移動速度を大よそで算出し、実際のルートと照らし合わせながら予定を組み立てていく。あっという間に出来上がったレポート用紙サイズの数枚分の束がカウンターに置かれた。
「それでは代表者の方。此方に旅程が完成いたしました。ご確認を下さい」
差し出された日程にレイはうめき声すら出してしまった。何日までに関所を通過してどこの街に着くかなどは可愛い物で、起床する時間から食事の時間や休憩時間、更には街での自由行動の時間や就寝時間まで事細かに決められていた。
「皆様方がカプリコルを入国してから出国するまでの期間を十八日と定めました。旅の間はこれと案内人の判断に基づいて行動してください」
「……ちなみに、これを破った場合はどうなるのですか」
「案内人が正当な理由があったと認識するならば問題ありませんが、そうでない場合は厳罰を処します」
淡々とした言葉に此処が病的なまでに管理された国家だと言う事を再認識してしまった。
紙を覗き込んだリザ達が軽く呻く声が聞こえたが、職員は無視をして、
「問題が無いようでしたら、手続きは以上で。本日は橋を渡った先にある街の宿を取ってください。明日の朝、荷づくりを終えて指定された時間までに街の入り口に集合してください。そこに案内人が待つように手配してあります」
そして、旅程課の職員は深々と頭を下げて、
「それでは旅の安全をお祈り申し上げます。ようこそ、カプリコルへ」
「なんていうか、奴隷商人の所に居た時も、こんな窮屈な思いをした事ないわよ」
シアラが細かく刻まれた時間割を眺めつつ文句を言う。窮屈という感想にはレイも同意なのだが、郷に入っては郷に従えとも言う。
「この国がこういう国で、こうやって社会を維持してきたのなら、それに従うしかないだろ。それより、宿を探して泊まろうか」
「さんせーい。お腹空いちゃったよ」
「キュ、キュイイ!」
「そうですね。何しろ、エトネがこの状態ですから」
レイの提案に喜ぶ二人。リザはエトネを背負いつつ、同意した。
あの後、キュイを馬房から出すのに短く無い時間を待たされ、更に陸まで続く橋の入り口で所持品検査の長蛇の列に掴まり、ようやく渡り終えた時には完全に日は沈んでいた。
役所の中で慣れない手続きや応答を繰り返した結果、彼女は舟を漕いでいた。
夜の賑わいを見せる街中を眠ったエトネと、大きなキュイを連れて歩くレイ達は目立つらしく、ひっきりなしに人が寄って来た。
「お客さん、お客さん。宿ならうちにしな。今なら、でっかいベッド、安くしておくよ」「おいおい、お前の所、この前シラミが湧いていただろ。その点うちは清潔を売りにしてるぜ。馬房も綺麗だから、ニチョウも満足間違いない!」「その分ぼったくるじゃねえか。うちは辺りで一番安く部屋を提供するぜ。旅は節約しなきゃ、何があるか分からないからな」「……お客さん。あそこだけは止めときな。最近痴情のもつれで刃傷沙汰があったばかりだから、宿代を下げて客取ってんだよ」「てめぇ! 事実だからって、言っていい事と悪い事があるだろ!!」
押し寄せた人垣はあっという間に血と歓声が飛び交う喧嘩へと発展した。人間種ならば軽い殴り合いで終わるはずのそれは、獣人種と言う事もあり重たい打撃の交換だ。
横じまが特徴的な虎人族の一撃が、犬人族の顔に突き刺さるもその一撃を逸らしつつ下半身を回転させた回し蹴りがカウンターとして決まる。
直立した爬虫類のような見た目の蜥蜴人族が尻尾で大猩々人族の足を払うが、屈強な肉体から伸びた腕は地面を鷲掴みにして倒れるのを防いだ。
何とも派手な殴り合いだが、身体的能力が高い獣人種にとってこれは小競り合いなのかもしれない。街の住人は気にも留めずに無視していた。
「……もうちょっと、静かな場所で宿を取ろうか。あと、食事は部屋に持ち込もう」
「「「賛成」」」
レイ達は騒動からさっさと距離を取ると、手近にあった宿に飛び込み、部屋を二つ取ってキュイを宿に備え付けの馬房に押し込めた。そして隣に併設されていた食堂に無理を言って、食事を部屋に持ち込んだ。パンとシチューというありふれたメニューだが、その匂いに釣られて起きたエトネと共に食事を取るとようやく一息つくことが出来た。
外からはまだ喧嘩の物音がするため、そっと窓を閉じた。
「ふふ。エトネってば、ご飯食べた途端、もう眠ってるよ」
二つあるベッドの内、一つに寝そべる少女を見てレティはしょうがないなと笑った。同じ光景を見たシアラは腰に手を当て、
「まったく、おちびったら。今日は一日中潮風浴びたんだから、体を拭かないと。リザ、盥を出してちょうだい。二つね」
シアラは空の盥に魔法で湯を張ると、一つをレイに渡した。エルドラドに来て半年近い月日が経過し、何も言われずともどうすれば良いのか分かっていた。
「それじゃ、隣で汗を拭ってるから、終わったら声を掛けてくれ」
言って、レイは借りている隣の部屋に移動。服を脱ぐと湯に沈めたタオルを固く絞って体を拭いていく。
温もりが潮風で冷めた体をほぐしていく。余裕があるなら風呂や頭から水浴びをしたいのだが、夜も遅い。下手に出歩いて妙な事に巻き込まれてもしたら厄介だ。
一通り体を拭くと、寝間着に着替えた。用心の為にとダガーは手元にあるが、龍刀は隣の部屋に置いて来た。つまり、レイは室内に一人きりなのだ。
束の間の自由な時間に、今抱えている問題を改めて考える時間に丁度いい。レイは床に腰を下ろすと、エトネを如何すべきか頭を悩ませた。
(彼女の今後の安全を考えれば、間違いなくこの国に残らせた方が良い。それは間違いない。この国の警備や、迷宮、モンスターとかの、人類に対する脅威がどうなっているのかは案内人から聞くとしても、今の彼女を簡単に倒せる人間はそうそう居ないはずだ)
レイ達と旅をしてきた経験に加え、黄龍とディオニュシウスから獲得した経験値によって急上昇した。レベルだけでも高位冒険者の入り口に立っている。その上、彼女には水の最上位精霊ミヅハノメの中枢にして末端のハヅミが守護霊のように傍に居る。
身内びいきを差し引いても、上級モンスターが相手でも後れを取ることはあるまい。
未知数ではあるが孵化前のモンスターの卵もある。これが彼女を守る力になれば、鬼に金棒だ。
(彼女が一人で生活できる基盤さえあれば、何の問題も無い。……あるのは、この胸に宿る寂しさだけだな)
何の問題も無い事なのに、どうしても胸に空いた穴の如き寂寥感を拭う事が出来ない。レイは折り畳んだ羊皮紙を開いた。それは旅程課が発行した日程表だ。
それはつまり、エトネとの別れの日までの予定表でもある。
思わず破きたい衝動に駆られるも、それを辛うじて押しとどめた。
「これでいい、これでいいんだ」
漏れた呟きは誰かに聞かせるというよりも、自分に言い聞かせているようだった。
「僕らと命の危機が付き纏う旅をするよりも、故郷に残った方がずっと彼女の為だ。だって、そうだろ。僕も同じ理由で旅をしているんだ」
レイがこうして旅をしている理由は元の世界に、つまり日本へと戻るためだ。肉体の治療が完了するまでの五年という時間を旅し、そしてクロノスの導きに従って元の世界に戻る。
故郷に帰る為に旅をするという点ではエトネと何ら変わりない。
自分は彼女の気持ちをもっとも理解しているはずだ。
「そうだよ。僕だってあの世界に戻りたいんだ。会いたい人だって居るんだ」
目を瞑れば、直ぐに、浮かび、あがる、元、いた、場、所、そこに、住む、人々、友人、家、族――――。
―――ザザザ―――ザザザ―――ザザザ―――
「―――あれ? 何を考えていたんだっけ」
雑音が頭の中でしたと思うと、レイはつい数秒前まで思い出そうとしていた事を思い出せなくなった。思考に出来た空白地帯に違和感を―――、
「まあ、いいか。思い出せないなら、それは……思い出せない……だって」
―――抱けた。
口にしてから、自分の言葉に冷汗が浮かぶ。秋に入ったとはいえ、まるで極寒の海から這い上がった様に震えていた。
「思い、出せない。なんでだ。なんで、ほんの数秒前の事が、思い出せないんだ」
気をしっかりさせようと何度も頭を振るが、効果は得られない。それどころか、体の中で細かい虫が這いずり回るような気持の悪さに襲われた。胃が競り合がり、取ったばかりの食事を戻しそうになる。
「これは、何だ? 認識の喪失、いや、何か違う。何か、もっと別の。誰かが、僕の思考を邪魔している?」
レイを苦しめる、《グレートディバイド》の副作用である認識の喪失。それに酷似している悪寒に覚えがあった。
あれはシュウ王国首都アマツマラにてスタンピードに襲われた時、家族を失って気丈に振る舞おうとして出来なかったファルナを見て、自分は何かを思い、しかし直後に起きた不快な音に思考が無へと消えた。
あの時は気にも留めなかったが、今は違う。
自分の中で明確に何かが起きている。そう確信できた。認識の喪失という疾患を得た事で、違和感を違和感として捉える事が出来た。
しかし。
―――ザザザ―――ザザザ―――ザザザ――――――ザザザ―――ザザザ―――ザザザ―――
再び雑音が脳の中を洗い流す。気が付いた違和感を拭い去ろうとする。
「嫌だ。忘れて、たまるか。これ以上、人を、好き勝手に、出来ると、思うな!」
口を突いた言葉は誰に向けたのか。レイは自分の頭の中で起きる雑音に抗おうとした。
―――ザザザ―――ザザザ―――ザザザ――――――ザザザ―――ザザザ―――ザザザ――――――ザザザ―――ザザザ―――ザザザ――――――ザザザ―――ザザザ―――ザザザ―――
だが、非情にも雑音は増していき、レイは白目を剥いて気絶してしまった。静寂に包まれる室内。レイ以外に人の姿は無く、青い月光だけが射し込む部屋で、彼の異変に気が付いた者は居らず、それから十数分後、控えめにノックがされた。
「ご主人さま? レティだけど、入ってもいいかな」
呼びかけにレイは目を覚ました。辺りを見回して、立ち上がると扉へと向かった。その足取りに乱れは無く、つい先程まで気絶していた人間だとは思えなかった。
開け放たれた扉から廊下の灯りが部屋を照らす。
「灯りも点けないで、何してたの?」
当然の疑問にレイは恥ずかしそうに頬を掻いて、
「体を拭いたら眠くなっちゃってね。つい、うとうとしてたよ」
と、何も違和感を抱かずに答えた。つい先程までの事など、一欠けらも記憶していないかのように。
室内に入ったレティは灯りを点けて回ると、手に持っていた荷物を降ろした。リザやシアラの所持品が主だ。
「いま、お姉ちゃんたちがエトネの体を拭いて着替えさせているから、終わったらこっちの部屋を使うって」
「ああ。それじゃ、僕と君等で向うの部屋だね」
《ミクリヤ》の基本方針として男女の部屋は別だ。これはレイの希望である。しかし、今夜のように部屋が二つ取れてもベッドが二つずつの場合は、彼は幼女組と部屋を同じにしていた。
寝てしまったエトネを気遣い、部屋の移動は諦めたのだろう。用が済むまでは此方の部屋で待機だなとレイが考えていると、
「ねえ、お兄ちゃん」
と、レティに呼ばれた。
少し前までのレティは人前であろうとなかろうとご主人さまと呼び、滅多にお兄ちゃんとは呼んでいなかった。これは推測ではあるが、彼女なりの線引きなのだろう。共に行動する事で、帝国絡みの騒動でレイを失っても傷つかない様に心に壁を作っていた。
それが、デゼルト動乱の後はお兄ちゃんと呼ぶ頻度が増えていった。最初は驚いたが、彼女なりに距離を縮めようと、心を開こうとしているのだと考えると嬉しくなる。
「どうかしたのか、レティ」
「お兄ちゃんはさ、エトネをどうするの。この国に置いていくの?」
エメラルドグリーンの瞳がまっすぐとレイに向けられた。彼女もエトネの事を心配しているのが伝わって来る。レイはレティと目線を合わせる様にしゃがみ、自分の考えを伝えた。
「僕はエトネの気持ち次第だと思っている。彼女が集落に残るというのなら、当分生活に困らない程度の金銭を渡すし、彼女が僕らと一緒に居たいというのなら、一緒に居ようと思う」
「そうじゃないよ」
シアラとも話し、自問自答を繰り返した事でスラスラと出た言葉だが、レティはそれが建前だと直ぐに見抜いた。
「それはお兄ちゃんの、保護者としての大人の意見でしょ。そうじゃなくて、お兄ちゃんの思ってる本音が知りたいの」
翠の瞳は自分の心を覗き込むかのように深い色をしていた。その瞳の前では真実は隠せない。
「……この先の旅を考えれば、彼女は降りられる時に降りるべきだと考える。それが、今この時だと……そう、思っている」
絞り出すようにして告げた天秤の片方の思いにレティは同意するように頷いた。
「うん、あたしもそう、思う」
「そ、そうなのかい?」
その反応は予想外だっために驚きの声が出た。てっきり、レティもシアラと同じで反対派であり、エトネをパーティーに残留してほしいと望んでいるとばかり思っていた。
しかし、彼女は見ていると痛々しくなる笑みを浮かべて、
「やっぱり、あたしのせいで帝国から狙われる確率はあがったもの。それにエトネを巻き込みたくない。お兄ちゃんや、お姉ちゃん、シアラお姉ぇを巻き込んでも良いって訳じゃないけど、それでもあたしより年下のエトネは、ここで別れた方が良いと思うの」
そう、言いきった彼女の表情は、言葉とは真逆だ。目に涙を溜め、必死に感情を吐き出さない様に堪えていた。
今にも泣きそうな少女の頭を撫でる。
大人顔負けの考え方をしても彼女は十二歳の少女だ。妹のように可愛がっているエトネと離れる事を寂しいと感じても仕方ない。
頭を撫でられていると、レティの瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れていた。溜めこんでいた感情が決壊したのかもしれない。拭っても、拭っても尽きる事の無い涙に、
「あ、あれ? へんだな。ご、ごめんね。あたしが居なければ、エトネはきっと、こんな事、選ばなくても済んだかもしれないのに」
「レティ。君が彼女の為に悩んでいるのは、きっと彼女に伝わるよ。それに、君は悪くない。だから、いまは一杯泣いて、明日はエトネを心配させないように笑いな」
「うん……うん、うん」
言葉にならずに涙を流すレティ。レイは彼女が泣き疲れて眠るまでの間、ずっと頭を撫でて上げた。
その際に就寝の支度を終えたリザに見つかりひと悶着あったが、それはまた別の話である。
「うーん、よく寝たー! エトネはどう? ちゃんと、眠れた?」
「むにゃ。……まだ、ねむい」
「あはは、おねぼうさんだね!」
一夜明け、昨日の涙雨は何処へ消えたのか。空と同じ快晴の笑みをするレティは、眠そうなエトネの手を引き市場を巡る。後ろに付くのは荷物持ちのレイだ。
朝食をそこそこに宿を引き払ったレイ達は、二手に別れて物資の買い出しを行っていた。レイ達が食料で、リザ達が消耗品だ。日程表を見る限り、こうした市場がある街までは三日先の事だ。その分の旅支度は自分たちで行うようにと旅程課からも言われていた。
必要な食材を購入して膨れ上がった鞄を背に、リザ達と合流して街の入り口まで向かった。
朝早いと言うのに、出立する人々で賑わう入り口を前にしてシアラが危機感を持って呟いた。
「これだけの人ごみの中で案内人と会えるのかしら。大体、時間と場所だけ指定されて、向うの顔とか名前は知らないんでしょ」
「そうだよな。とりあえず、時間が来たけど」
辺りを見回して、それらしい人物でも居ないかと探すレイ達の背後から、固い声が飛んだ。
「失礼。《ミクリヤ》のレイ殿でお間違いないですか」
問いかけに振り返ると、そこに居たのは灰色の毛並みをした狼人族の女性だった。旅支度をしてある彼女は自身に手を当てながら、
「レイ殿一行の案内人を任されましたミエリッキと申します。以後、出国までのお付き合いよろしくお願いいたします」
と、武骨な紹介と共に頭を下げた。
読んで下さって、ありがとうございます。




