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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第2章 祭りへの旅路
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2-19 拷問と殺意

「それで、状況はどうなっているの?」


 二つの選択肢を前にして悩む僕にロータスさんが声をかける。内に向けていた思考を外に向ける。

 囲むように立つ女性陣の顔は一様に緊張している。特にエリザベートの顔色は真っ青を通り越して雪の様に真っ白になる。固く握りしめた拳が軋む。


「敵は四人。そのうちの二人と戦闘になり一人を……殺しました」


 最後は絞り出すように告げた。ファルナの労わる様な視線が返ってつらい。


「もう一人は頭領と呼ばれている老人です。実力は高く、戦技を使いました。奴らは新式魔法を使ってここから向うの屋根まで橋を架けて渡りました」


「貴方が戦った黒頭巾の死体は向うで発見しました。いま、ハイジが身元に繋がりそうな物を探して」


「副団長!」


 ロータスさんの言葉を遮ってハイジが足場の悪い屋根の上を飛ぶように駆けぬける。輪に加わると首を横に振った。


「何も見つからない。プレートも無い。その代り、懐にこれがあった」


 言いながら握りしめた手を開く。一同の視線を受けて艶のある茶色の丸薬が掌で転がる。


「……自決用の薬……ですか?」


 丸薬をつまんで怜悧な瞳で見つめるロータスさんが確かめるように口を開く。ハイジは無言で肯定する。

 一同に重苦しい空気が立ち込める。自決用の薬を持ち、面相を隠す集団。どう考えても影に生きる集団を連想してしまう。


「闇ギルドの商人に裏世界の住人による誘拐劇。どんどんきな臭くなりますね」


 全員の気持ちを代弁する様にロータスさんが呟く。びくりと怯えた様にエリザベートが震えた。ファルナが友人の背中を撫でて落ち着かせようとする。


「ハイジ。貴女の鼻で敵を追えますか」


「無理だ、副団長。距離が開いた上にこの雨だ。レイを見つけるので精一杯」


 顎に手を当ててロータスさんは視線を屋根の上をあちこち見回す。何かを探す視線は、僕が握りしめたバスタードソードの剣先に固定される。


「その剣に付着している血は誰のですか」


 問われて、質問の意図が理解できないまま答える。


「僕が殺した奴と頭領の血です」


「ハイジ!」


 僕の話を聞くやいなやロータスさんが鋭く読んだ。すぐさまハイジは指示も無くバスタードソードの剣先に手を当てる。


「《超短文ショートカット中級ミディアム追跡調査フォローアップ》」


 ハイジの詠唱に合わせて光が現れ、剣先を濡らす血に触れた。まるでスポンジで零れた水を吸うかのように血を吸い取り、紅い光へと姿を変える。そして光はハイジの指先へと戻った。


「……分かった! 誰か地図を!!」


 カーミラが濡れた屋根の上に街の簡易地図を広げる。大雑把に書かれてる地図は宿屋のロビーにあった観光地図だ。


 ハイジは人差し指の皮を噛む。指の腹から玉の様に膨らむ血を地図のある場所に押し付ける。捺印のように地図上に彼女の指紋が着いた。


「今の反応はこのあたりだ。……この先、動く可能性もあるけど」


「いえ、それは無さそうよ。見て」


 後半を自信なさげに言うハイジをロータスさんが否定する。彼女の細い指が血の付いた辺りを囲うように円を示す。


「このあたりは倉庫が密集している区域……悪事を働く集団がねぐらにするには都合が良い場所よ」


 ウージアの南側。地図上で同じサイズの建物が並ぶエリアだ。


 ロータスさんは地図を畳み、ハイジに渡す。受け取った犬人族フントの女性は副団長の真意を探る視線を向けた。


「この地図を団長たちに。大至急来てもらって。酔っぱらっていたら水をぶっかけても良いから」


「了解、副団長」


 地図を懐に仕舞ったハイジは軽やかに屋根の上から飛び降りた。雑踏の切れ間に着地した彼女は眠らない街を疾走する。


「それでは、私達も急いで倉庫に向かいましょう。……事は一刻を争います。レティシアちゃんが死ねばレイさんとエリザベートさんも死んでしまいます。それだけは絶対に避けましょう。……レイさんは立てますか? それともここに残りますか?」


 皆の視線が屋根に座り込む僕へと集まる。彼女らの前で立ち上がって見せた。


「僕も着いていきます。目の前でむざむざと連れて行かれたんだ。ここで待っているなんてできません」


「……分かりました。ですが、現場では私の判断に従ってください」


 僕が頷いても、ロータスさんは承服しかねるような表情を浮かべる。だが、最後には諦めたようにため息を吐いて広場へと飛び降りた。

 カーミラ、ファルナ、エリザベートと続き、僕も屋根から飛び降りた。


 向かうは南の倉庫。


 《トライ&エラー》のセーブポイントができるまであと四十八分。

 死んで戻るべきか、このまま零時を過ぎるのを、指を咥えて黙って待つか。どちらかを選ぶこともできず、夜の街を走り出した。




「開けた窓から影が二つ、突然入り込んだんだ」


 南の倉庫へと向かう最中、ファルナが僕と並走する。彼女のDEXなら例え万全の状態な僕でも追いつけないはずだ。現に他の女性陣との距離が開きつつある。体力の戻っていない僕を気遣っての行動なのだろう。


 並走するファルナはまだ余裕があるのか、先程隣室であった一幕を僕に説明する。


「タイミングが悪くて鎧を外してしまってね。双剣を引き抜いて一撃を加えたけど、その後簡単に吹き飛ばされちまった」


 自分が情けなくなるよ、と自戒の笑みを浮かべる。


「奴らの内の一人が石化の新式魔法を放ちやがった。アタシは腕輪を着けていたから完全に石化しなかった。だけどエリザベートは正面からくらっちまった。するともう片方がおかしなことを言いだしたんだ」


「はぁはぁ。……おかしな事?」


 肺が軋み、体が酸素を欲する。息を乱しながらも気になった事を聞く。


「ああ。何でも『こいつには聞きたいことがある。石化してしまうと話が聞けない』って怒った風にね。すると魔法を使った方が『妹の方が無事だ。そちらでも事情を知っているはずだ』って。そしたら部屋から逃げようとしたレティを気絶させて連れて行ったんだ」


「つまり、はぁーはぁーはぁー。彼女たちがターゲットだけど、彼女たちの命を狙っていない……ってこと?」


「アタシの予想だけどね」


 人通りを避けて路地裏を駆ける一同。僕は妹の身を案じて先頭を走るエリザベートの背中を見つめる。表情は見えないが、その足取りだけで焦りを隠せないのが分かる。


「それで、アンタが出た後にロータス姐たちがやってきてアタシらの治療を行い、アンタを追いかけたのさ」


 ファルナがそう締め括った。あっという間の出来事だったのだろう。おそらく事前にオルドが居ない事も調べた計画的な犯行。手慣れたやり方から、やはりアイツらはこの道のプロだと思えた。


 僕は口を開いては閉じるを繰り返し押し黙っていた。息が苦しいからでは無い。彼女に聞いてほしい事がある。だけど、それを打ち明けるのは気が重く、言葉が出ない。

 そんな僕の様子を見て不審に思ったファルナが口を開く。


「レイ。アンタ、目の前でレティが連れていかれたのを悔やんで、自分の責任だと思っているんじゃないだろうね。だとしたら―――」


「―――違うよ、ファルナ。そうじゃないんだ」


 僕は彼女の言葉を遮る。遮られたファルナは不機嫌な表情を見せるかと思ったが、意外な事にため息を吐くだけだった。


「じゃあ、人を殺したことを悔いてんのかい?」


「―――っ!」


 心の中で棘の様に刺さっていた物が深く突き刺さる。衝撃で言葉が出ない。


「やっぱりね。……いいかいレイ。アンタが人殺しで動揺するのは分かるけど、今はレティの事に集中しな。じゃないと皆の足手まといになっちまう」


 声色は冷たく、内容も辛辣だ。だけど、その言葉の裏にある姉御肌の彼女なりの優しさが見え隠れする。

 僕は小さくありがとう、と言った。ファルナは照れた様に顔を背けた。


「待ちなさい! エリザベートさん!」


 すると、前方から鋭い声が飛んだ。いつの間にか迷路のような路地は途切れ、目的地の倉庫街に着いていた。

 路地の出口で通りを横切り、倉庫へと走ろうとしたエリザベートをロータスが止める。


「お願いします! 妹が、行かせてください!」


「だから、待ちなさいと言っているでしょう。どの倉庫に居るかもわからずに向かう気ですか」


 ロータスを振り払おうと暴れるエリザベートも言われて冷静さを取り戻す。僕ら五人は路地の切れ目から通りの向こう、倉庫が密集している地区を覗く。


 時刻も零時に近づき、通りに沿って等間隔に設置された街灯の下に人気は無い。だけど、倉庫の辺りは明かりが無く、人を探すどころでは無い。


「参りましたね……ハイジが居れば索敵を任せれたのに」


 ロータスさんは己の失策に苛立ったように爪を噛む。敵がどこの倉庫に潜んでいるか分からずに闇雲に探すのはリスクが高い。


「人数が少ない方が見つかるリスクも下がりませんか?」


 回復役のカーミラが手にした杖を握りしめる。彼女の浅葱色の瞳が闇の中に浮かぶ。


「……見つかった時のリスクは高いですが、現状それぐらいしか手はありませんね」


 目を瞑り、今の僕らで打てる手段を検討したロータスさんは妥協した様に告げた。


「私とカーミラで左手側の倉庫たちを。貴方たち三人で右手側の倉庫たちを探ってください。レティシアさんが見つかっても勝手に突撃はしないでください。くれぐれも無茶はしない様に」


「「「了解」」」


 ロータスさんに返事をして僕らは二手に分かれて倉庫が密集する地区へと足を向けた。

 同じような姿形の倉庫の隙間を縫うように静かに進む。どの倉庫も地上部分に窓が無く、大きな引き戸が正面に設置されているだけだ。


 闇の中を進む以上目には頼れない。壁に耳を当てて中の音を探る。地道に一棟ずつ静かに調べる。幸い、振っている雨のお蔭で足音も幾らか掻き消える。


 ところが、先を進むファルナがエリザベートに向かい口を開いた。声量は抑えているが、それでもどこに黒頭巾の集団が居るか分からないここでは危ない。


「リザ。一つだけ答えてくれ」


「……手短にお願いします」


 周りに視線を飛ばし、辺りを警戒するエリザベート。彼女の金色の髪も雨を吸い、体に張り付く。


「今回の誘拐はアンタの願い……その殺したい人と関係してんのか」


 問われたエリザベートは腰に提げた剣を見下ろす。空を思わせる青の瞳からは様々な感情が渦を巻く。怒り、憎しみ、恨み。だけど、それも一瞬の事だった。瞬きを繰り返した彼女の瞳から感情は排除される。


「……おそらく違います」


 数瞬の後。彼女は躊躇いながらも断言した。


「私達の敵なら、誘拐などせずに即座に殺しに来ています。まだ私やレイ様が生きていることがある意味証拠と言えます」


「なるほどね……だとするとアイツらの狙いは一体?」


「―――話はそこまでだ。二人とも、見て」


 僕は倉庫の曲がり角から二人を呼んだ。足を止めていた二人が静かに近づき、僕の示した方を覗く。


 その倉庫は他のと同じで窓も無く、大きな引き戸が正面に設置されている。他の倉庫と見分けがつかない。他の倉庫と違う点は入り口に男が二人立っている。青竜刀のような幅広の剣を腰に提げ、粗末な軽鎧を身に着けている。黒頭巾とは違う、冒険者風の男たちだ。


「襲撃してきた奴らとは違うね」


「でも、この時間にこんな所に居るのは怪しくないか」


「ただの倉庫の見張りか……あるいは私たちの敵か」


 顔を引っ込めて僕らは口々に相談し合うが答えは出ない。とにかく一度ロータスさんたちを呼ぶためにファルナが暗闇へと静かに移動する。

 残った僕は一度眼を瞑る。時間を確認するためだ。


 二十三時五十五分。


(まずいな……一度戻るとしたら今しかないぞ)


 一番恐ろしいのは零時を過ぎて直ぐ・・にレティが死ぬ場合だ。わずか数分の間を《トライ&エラー》で繰り返しやり直しても彼女を助けるのは不可能だろう。


 だけどやり直したところで先程の屋根からどれだけ急いでここに来ても十分程度しか猶予は増えないだろう。

 こうして逡巡する間にも貴重な時間が過ぎていく。頭の中を二つの選択肢が回転木馬の様に行き来する。


「ああ、クソ。どうすりゃいい」


「……ごめんなさい」


 どんどん悪くなる状況に気が付くと思わず悪態を吐いてしまう。周りを気にして小声で言ったつもりだが、隣に控えていたエリザベートの耳に届いてしまう。

 彼女は俯き、小さな声でごめんなさいと再び繰り返した。


「私たち姉妹のせいで貴方の命も危険に晒せてしまいました。……本当にごめんなさい」


 言うと、細い肩が震える。いつもは気丈に振る舞っているがやはり十五、六才の少女。自分たち以外の命を危険に晒していることに重圧を感じている。


 僕は咄嗟に彼女の頭に手を当てる。泣き止まない少女を落ち着かせるために穏やかに撫でた。これで二度目だ。


「大丈夫。気にしない、って言えば嘘になるけど、こういう事は覚悟していたよ」


「―――え?」


 涙で濡れた青い瞳が不思議そうに僕を見つめる。


「ロージャンの港町で決めたんだ。君たちを守ると。そのためなら命を掛けるつもりだって。だから絶対にレティも君も守るよ」


 僕が言うと、エリザベートは瞬きを繰り返す。言葉の意味を噛みしめる様に。


「……レイ様って幾つですか?」


 急に彼女は口にした。涙を拭い、口調も明るくなる。落ち着いたと思い、頭から手を離した。


「え……十五だけど、それが?」


「同い年でしたか。……なんだか年上の様に感じたのでつい」


 はにかみながら言った彼女に自分の本当の年齢を感づかれたかと思い、どきり、と心臓が跳ねる。

 誤魔化すつもりで目線を逸らして瞑る。ステータス画面を開くと、零時を過ぎていた。これで《トライ&エラー》のセーブポイントが出来てしまう。


(ここから先は神様に祈るしかないのか……でもこの世界の神様信用できないんだよな)


 不注意で僕を瀕死に追いやった時の神クロノスの土下座姿を思い出した。


 そこでようやく、ファルナが消えた暗闇から帰ってきた。ロータスさんやカーミラを連れている。


「そっちで怪しい倉庫は見つかりましたか?」


 倉庫の角から見張りを覗くロータスさんに問いかける。彼女は小さく首を横に振った。やはり可能性があるのは目の前の倉庫に絞られてきた。


「あの倉庫でしょうね」


 断言する様にロータスさんが言う。僕らは驚いて彼女を見つめた。


「あの見張りはの見張りです。隣の倉庫の上に黒頭巾らしき人物が張っています。あの二人に何かあればすぐに対処できるようにしています」


 言われて、隣の倉庫の屋根を見上げた。だけど何も見えない。だが、ファルナとカーミラはロータスさんの言葉を疑わずに作戦を練る。


「じゃあ、屋根の黒頭巾はロータス姐に任せる。アタシとリザの速度なら地上の二人を武器を抜かす前に倒せるよ」


「ファルナの案に賛成です。少なくともあそこに連れていかれてから一時間以上も経っています。団長たちを待つ時間はありません」


 二人の意見に耳を傾けたロータスは覚悟を決めた様に頷く。

 背中の弓を手にし、矢を番える。ファルナとエリザベートも愛刀を抜く。


「カウントします。3、2、1、0!」


 ロータスさんの合図に合わせて三人は角から飛び出す。闇夜を切り裂き矢が飛翔し、放たれた弾丸の様に二人が見張りに飛びかかる。少女たちは宣言通り相手に抜く暇を与えずに気絶に追い込んだ。


 屋根の上で影のように潜んでいた黒頭巾が声も出せずに死亡していた。ここからでも矢が頭部に刺さったのがやっと見えた。おそらく姿を隠す技能スキルか魔法を使っていたのだろう。


 ロータスさんは人を殺したと言うのに動揺を見せずに淡々と倉庫へ近づく。倉庫は側面に窓が無く、外からでは中の様子が伺えない。

 僕らは慎重に壁に視線を向ける。屋根に上った奴が居た事を考えると、外側か内側のどちらかに屋根へと上れる梯子があるかもしれない。


 幸運にも外側に梯子があった。その足元で最後の打ち合わせをする。


「いいですか。この手の倉庫では火を使うのが危ないため天窓を作ることで日中は明かりを取り込みます。この中で敵の姿を多く目視したのはレイさんだけです。だから貴方は私と共に天窓からの偵察と奇襲を」


「天窓からの偵察と奇襲?」


「はい。残りの三人はタイミングを合わせて突入を。……中の状況が分からない状態での突入、乱戦になります。くれぐれも同士討ち、そしてレティシアちゃんの安全を確保してください」


 僕らは無言で頷き、それぞれの持ち場に着いた。


 小さなビル三階建て位の高さの屋根の上。雨が降り、急な角度の屋根を歩くというよりも這うように進む。僕らは天窓の傍へと近づいた。

 日光を取り込むために大き目に作られた窓から下を覗いた。


 倉庫の中では最低限の明かりが灯されているだけで、黒頭巾の集団が何人居るかすら、分からない。

 その明かりの傍で椅子に縛られたレティが殴打・・されたのを見た。


 ―――刹那。


 ロータスさんが止める間もなく、僕は天窓を突き破り下へと向かって跳躍・・した。


 地上へと激突する数秒の間に精神力をバスタードソードに籠める。


 突然の闖入者に気づいた黒頭巾が殴打に使ったトンファーを、頭部を守る様に交差して掲げた。

 だが精神力を纏い切れ味を増した一撃はトンファーごと男の両腕を文字通り両断する。


「―――うわぁぁぁ!」


 悲鳴と共に床に鮮血が舞う。両腕を無くした男に対して剣の柄で腹部を撃つ。鳩尾に入った一撃で男の意識は電源を切ったように崩れ落ちた。


 僕は着地で痺れて動かない足を引きずってレティを振り返る。

 椅子に縛られた少女は顔だけでなく全身を固いもので殴られ、着ていた服が破け露出した肌に内出血の後が浮かぶ。とても正常な精神を持つものがしたとは思えない悪行がそこにあった。


 遅れて我に返った黒頭巾の集団が武器を構え、輪を作り殺気立つ。特に一番濃い殺気を放つのは顔に真新しい裂傷を作った老人だ。


「小僧!! よくぞここに来―――」


「―――黙れ」


 静かに、頭領の言葉を遮る。

 自分とは思えないほど、低く、冷たい声色だった。


 怒りと言うのはあるラインを越えると冷たい感情を作るのだと初めて知った。


 これは―――殺意だ。


 抑えきれない、生まれたての感情を持て余す。


「こんな子供をここまで傷つけたんだ。……お前ら、ここを生きて出れると思うなよ」


 バスタードソードを握る手に爪が食い込み、血が流れた。


読んで下さって、ありがとうございます。

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