2-18 夜雨の誘拐劇
眠らない街とはよく言ったものだ。二階から飛び出そうと窓枠を蹴る瞬間、階下は夜の街に繰り出した雑踏で埋め尽くされている。あの中に降りればレティを追いかけるどころでは無い。
僕は蹴る足に力を籠めて下の通りでは無く、屋根を目指す。幅跳びの要領で飛んだ僕は綺麗に着地、とは行かず屋根の上で一回転してから止まる。
鎧が音を立て雨で濡れる中、レティを連れ去った者たちの姿を探す。
(幾らなんでもこの人通りの中を、女の子を抱えて抜ければ騒ぎになる。だとすれば敵も屋根の上を行くはず)
そこまで考えてから、ふと屋根の上に何かが付着しているのを見つける。
雨水とは違う、粘り気のある液体。
血だ。
ファルナの双剣に血がついているのを思い出した。
目線を血が続く方へと向ける。月も星も輝かず、地上からの街灯が建物の切れ目から零れる暗闇の中で、一瞬、黒ずくめの集団が横切った。
数は四人。内一人は人間ぐらいの大きさを抱えている。
僕は考える前に走り出した。彼らとの距離は間に建物が五、六軒。急がないと見失ってしまう。
「そこのお前ら、待て!!」
屋根から屋根へと音も無く跳ねる様に移動する集団に叫ぶ。相手が複数なのを考慮すれば、愚行と言える。ここは相手の行く先を突き止めるのが先決なはず。
だけど、囚われのレティを思うと、気が付いたら叫んでいた。
集団が一斉に立ち止まる。その間にも距離が近づき、彼らの姿が詳細に見える。
全員が黒いマントを身に着け、口元から鼻までを覆う黒頭巾で人相を隠す。男か女かもわからない。とても真っ当な集団には見えない。
すると、最後列を走っていた黒頭巾が右手を動かした。放たれた殺気と共に雨を切り裂いて何かが飛来する。
僕は培った経験則で左腕の手甲を振るう。飛来したナイフを弾き飛ばした。甲高い金属音を響かせて、屋根の上にナイフが刺さる。
(黒の塗料が付いたナイフ。闇の中でもわずかな光も反射させない工夫。マジで何者だ、こいつら)
躊躇いなく、頭と胸を狙った軌道と併せて考えると、目の前の集団が対人戦闘に特化した集団だと分かる。暗闇での使用を想定されたナイフを落とせたのは、今までの経験から出来たにすぎない。これ以上近づけば防ぐのは難しいだろう。
一方、ナイフを投げた黒頭巾は唯一露出している目で僕を見据えると、集団に手で何かを指示する。
残りの三人は頷くと、僕と向き合う黒頭巾を置いて屋根を渡る。
「行かせるか!!」
僕は危険を承知で、黒頭巾たちとの距離を縮める。
待っていたと言わんばかりに、黒頭巾は両手を振るう。雨の中を黒いナイフが飛来する。僕はあえて避けずに真っ直ぐ進む。当然のように体にナイフが食い込む。
だけど、僕の歩みを止めるほどでは無い。
止まらない僕を見て黒頭巾は空いた手をこちらに向けた。
「《超短文・低級・石化》!」
詠唱と共に放たれた灰色の閃光は僕を貫く。だが、身に着けた装飾品の宝石が輝く。閃光に貫かれた僕の体は何も変化は起きなかった。
(助かったよ、ファルナ!)
心の中で礼を言いながら、鞘からバスタードソードを引き抜き黒頭巾に飛びかかる。
「そこをどけぇぇぇ!!」
足止めとして残った敵を一撃で屠ろうと上段から振り下ろされた剣は、黒頭巾が手にした武器に防がれた。
黒頭巾が左手に握りしたのは鉄製のトンファーだ。肘ほどの長さの鉄の棒は、バスタードソードの刃先を防ぐ。力を籠めても棒は刃を弾く。
(……トンファーって事は!)
かつて見たカンフー映画のワンシーンを思い出す。トンファーは攻防一体の二本一組の武器だ。
黒頭巾の右腕に握られたトンファーが狙いすましたかのように僕の腹部を撃つ。
幸運にも棒の先端は平たく、槍のように鋭くない。致命傷は免れたが鳩尾に深く入った一撃は肺から空気が漏れ、僕は膝をつきそうになる。
―――だが、ここで倒れる訳にはいかない!
瞬時に腰に提げているダガーを抜く。膝に力を籠めて倒れるのを拒否する。左手で抜いたダガーの刃が黒頭巾に迫る。
「―――っ!?」
仕留めたと思い、気を抜いていた黒頭巾は右のトンファーでダガーを防ぐ。奇しくも両者は共に両手が塞がる。
互いの獲物が噛みあい、拮抗した状況で先に動いたのは僕だった。空いた足で黒頭巾の胴を蹴る。エリザベートが決闘で良く見せていた動きをトレースした。防ぐこともできず、黒頭巾の体は後方へと吹き飛ぶ。
ここに来て、一つ確信を得た。
目の前の敵は強くない。
僕よりも格が上ならナイフの威力だけでも致命傷を与えるチャンスなのに《生死ノ境》Ⅰは発動していない。
同じくらいのレベルか、上でもそれほど高くは無い。
体に刺さったナイフを抜き、屋根に倒れこんだ黒頭巾にバスタードソードを振り下ろそうとする。
「―――たすけ」
刹那。
僕の動きは止まる。
黒頭巾は先程までの殺気をどこかに置き去りにして怯えた目を僕に見せる。慈悲を請う様な目だ。
頭に冷水を浴びせられた気分だ。戦いの高揚感が冷め、手にしたバスタードソードがやけに重たい。僕は今、人を躊躇なく殺そうとしていた。
そのことに動揺する。
震える刃先は黒頭巾を向いたまま止まる。動揺から考えが纏まらない。
それを好機と捉えたのだろう。倒れた黒頭巾は懐からナイフを抜くと、僕に向かって投擲した。
投げる瞬間を見ていた僕は咄嗟に首を横にそらす。黒いナイフは頬を浅く裂く。たらり、と血が頬を伝う。
ナイフが肌を裂き、熱を感じた。気が付くと自分でも止める間もなく刃先が黒頭巾の首を貫いていた。
「あ―――」
果たして、どちらが言ったのか分からない。か細い声が雨に掻き消される。
刃は首の中程までに突き刺さり、黒頭巾の目はどこかを凝視して固まる。剣越しに人を殺した手ごたえが広がる。
刃を抜くと、どぷり、と鮮血が溢れる。屋根の上に黒頭巾の血が津波のように広まっていく。
(ああ―――ちくしょう)
僕は目の前の光景に目を瞑り、動揺を隠せないまま残りの黒頭巾の集団を追った。彼らとの距離は開いてしまった。
両足を必死に動かしたのは敵に追いつくためだろうか。それとも自分の仕出かしたことから少しでも離れたかったのか、僕にはわからなかった。
だが、加速したのが功を奏した。逃走劇は変化を見せる。
屋根が途切れたのだ。いつの間にか足元の通りは道幅を広げ、黒頭巾の進行方向は広場に行きつく。これ以上屋根を伝い移動するのは出来ない。
「やっと、追い詰めたぞ!」
僕は当然、奴らが下に降りる事は無いだろうと思っていた。逃げ場はもうないと思った。
だけど、奴らは僕の考えを裏切る。
黒頭巾の一人が広間の反対側の屋根に手を向ける。
「《超短文・中級・空中通路》!」
黒頭巾の詠唱と共に、広間の端と端の屋根が光り輝く道で繋がる。
「な、何でもありだな! 新式魔法はよ!!」
僕は走りながらダガーを投擲した。少しでも時間を稼ぐつもりだ。だけど、黒頭巾の一人が振り返りもせずにダガーを撃ち落した。
「頭領!」
新式魔法を使った黒頭巾が焦る様に口を開いた。
頭領と呼ばれた男は口元を覆っていた布を下ろすと残った二人に光り輝く道を指さす。
「先に行け。ワシは後から行く」
言われた二人は逡巡するように動きを止めるが、刹那の間に決意した。
「「御武運を!」」
レティを抱えた黒頭巾を先頭に二人は魔法で出来た橋を渡る。
残った頭領と呼ばれた男は僕と正対すると、袖口を切り裂いて刃渡りの短い双剣が伸びる。男の武器はその暗器だった。放たれる殺意は先程の黒頭巾とは比較にならない程濃い。
「《この身は闇の中の影也》!」
頭領の待ち構える屋根に到達するなり、詠唱が響いた。遅れて技能が発動したと理解した。
だけど、理解したときには遅かった。頭領の体が闇に溶ける。彼は屋根の上から消えていた。
屋根の中央で足を止める。四方に視線を飛ばし警戒するが頭領の姿はどこにもいない。こうしている間にも広間の上空に架かった光の橋を渡る二人。厄介な事に渡り終わった所から消えていく。これでは後を追いかける事もできない。
焦りから乱れる呼吸を整える。考えろ。実力が足りないなら思考で差を埋めろ。
(技能にしろ、魔法にしろ、詠唱は効果を表す。いまの詠唱からイメージできるのは―――)
瞬間、僕は逆手に持ち替えてバスタードソードを背後に振り下ろす。
ガキリ、と金属が噛みあう音が響いた。
「……ほう。よく読んだ、小僧」
背後から年老いた男の声がする。声色だけだと五十、六十ぐらいをイメージするがバスタードソードを防ぐ力は若い健康な男性のようだ。
いくら力を籠めても暗器を弾き飛ばせない。精神力操作を使う暇も無い。僕は諦めて前に飛び、距離を取りながら振り返る。
だが、悪手だった。
僕の行動を予測していたように頭領も距離を詰めていた。一直線に防具をしていない喉を突こうと迫りくる暗器に対してバスタードソードを振り下ろした。
再び、金属が噛みあう音と、ぐちゅり、と肉を裂く音が屋根の上で生まれる。
バスタードソードは左手の暗器に防がれ、右手の暗器は僕の脇腹を貫く。致命傷とは言わないが刀身の殆どが体に沈み、警報の様に鳴る痛みで意識が掻き乱される。
突然、頭領は鍔迫り合いをするバスタードソードに付着した血を舐めた。舌で掬い、口に含むと味わうように飲み込んだ。息がかかる程近い老人の顔には年輪のような皺が刻まれ、それが固まっている。その顔から感情を読み取るのは難しい。
「小僧……リンドウを殺したな」
血を舐めた口からは蛇のような生臭さが鼻をつく。脳裏に目を開き絶命した黒頭巾の男が過る
その間も両手の力は緩まない。この老人のどこにこれほどの力があるのか分からない。
「それが……どうかした」
「いやな、小僧にはわからんか。お主の剣に憑りついたリンドウの怨念が」
不気味な声色の老人が意味ありげに視線をバスタードソードに向けた。僕も状況を忘れて彼の視線を追いかけた。
その隙を突かれた。
頭領は右足を振り切り僕の体を横に蹴り飛ばした。衝撃で暗器が抜け血が溢れ出る。蹴りにより屋根の上を転がると血が周りを汚した。
このまま倒れていたいと思う情けない欲求をねじ伏せる。転がる勢いを使い立ち上がり、余裕を見せている頭領へと駆けだした。
「ひょひょ。若いのう」
頭領はその場を動かずに僕を迎え撃つ。
バスタードソードを振り回す。傷が痛み、時間が経つ程レティが遠くに連れていかれる恐怖から、能力値任せの出鱈目な軌道を描く。
頭領は余裕な態度を崩さずに手に仕込んだ暗器で軌道を撃ち落す。短い刀身の暗器は防御に向いている。一合、五合、九号と打ち合うが一向に僕の剣は頭領に届かない。
それどころか頭領は時折、徒手空拳による打撃を、足刀を繰り出す。攻防一体を体で表すかのような頭領の戦い方に僕は為す術も無く傷つけられる。
気づけば、全身を殴られ、投げ飛ばされ、目は腫れ口内も血まみれだ。脇腹の傷口も手で広げられ、出血が広がる。
満身創痍だった。まだ生きているのが自分でも不思議だった。
「ほほう。随分と男前になりおったのう」
「う……るせえ……なんで、レティを……連れて行った!」
気力だけで立っている僕を見て頭領は楽しげに笑う。せめて一太刀を入れたいと思った僕は斬りかかりながら相手の意識を逸らすため口を開く。
だが、頭領は振り下ろされた剣を半身で避けると、返す刀で掌底を顎に叩きこむ。衝撃で脳が揺れる。
連動する様に視界も揺れる。
「はて、レティ? ああ、あの小娘か。あれには聞きたいことがあってな。なに心配するな。用が済めばお主らの所に帰してやるとも」
剣を杖代わりにして立つ僕に頭領は安心させるように笑う。
「ちゃんと、五体を切り分けて送り返してやろう。まあ、その前にワシらで味見をするかもしれんがのう。たまには青い果実を嬲るのも悪くない」
邪気を孕んだ声色に反応して僕は頭領に斬りかかる。
予測していたように暗器を振るう頭領。それでもまだ僕を舐めているのか刃先は急所を狙わない。だから、僕は切り札を切る。
「《留めよ、我が身に憎悪の視線を》!」
技能を発動した瞬間、連続してもう一つの技能が発動する。
―――世界が遅くなる。
《心ノ誘導》Ⅰを受けた為、弄ぶための一撃が、殺意ある一撃へと変化した。暗器の刃先は僕の首を狙う。
刺されば即死だ。
このため、僕を守る《生死ノ境》Ⅰが発動した。
スローモーションの世界で僕は一歩後ろへと距離を取る。短い刀身の暗器を防ぎに近づけば、剣を満足に振り切る間合いが取れない。それどころか目の前の男なら、片方が防がれてもすぐさまもう片方の暗器を繰り出すだろう。
だからここは距離を取るのが正解だ。
剣を大上段に構える。短い暗器が届かない範囲から精神力を込めたバスタードソードを振り下ろした。
―――世界は元の速さに戻る。
バスタードソードが老人の頭部を縦に切り裂こうとする。
「ぐ―――ぬおおお!!」
だが、頭領は咄嗟に前へと進めようとする己の体を押しとどめる。振り下ろされるバスタードソードの軌道から外れようと体を逸らす。流石としか言えない、脱帽物だ。
だけど、完全に避けるには遅かった。
老人の皺だらけの顔面に深々と刃先がくいこむ。縦に振り下ろされた剣は老人の顔を切り裂いた。
一瞬遅れて、鮮血が屋根を舞う。
「ぐおおおお! 貴様、貴様、貴様!」
顔の左側を抑えた頭領は無事の右目にこれでもかと言うほどの憎しみを込めて僕を睨む。
(くそったれ。ここまで耐えて作ったチャンスだったのに。倒し切れなかったのかよ)
心の中で悪態を吐く。睨みたいのはこちらだ。
元々、《心ノ誘導》Ⅰから《生死ノ境》Ⅰへとつなげる戦い方はエリザベートとの決闘に用意していた戦術だ。これならどんな格上にも一撃を与えられる。特に今回は奇跡的にも精神力操作も成功していた。
勝てる可能性もあっただけに失敗したのが悔やまれる。
もう、僕に打つ手は無かった。
広場の上空に架かっていた光の橋も消えレティがどこに連れていかれたか分からず、満身創痍。武器を振るう体力も無い。
頭領は懐から回復薬の詰まった瓶を取り出すと、蓋を開けずに顔面へと叩きつける。割れた破片が緑色の液体と共に顔に降りかかるのもお構いなしだ。
「殺してやる! 殺してやるぞ、小僧!」
傷口は回復薬で塞がりかけていたが、老人の激昂に合わせて再び開き、鮮血が飛び散る。縦に切り裂いた傷は彼の左目を潰していた。
頭領は流れる血を拭きもせずに低く構える。老人の体から殺意と共に精神力が溢れる。
「戦技を使う気か」
僕はバスタードソードを中段に構える。もう、この時間軸で僕に出来る事は相手の切り札を引き出すだけだ。死ぬ覚悟を抱く。
だけど、僕の予想は若干外れた。
「《この身は闇の中の影也》!」
技能が発動されるなり、頭領の姿は屋根の上から掻き消えた。
(しまった! この技能は背後からの奇襲だ)
僕はバスタードソードを逆手に握るとタイミングを計る。いつ、背後に現れてもいいように備える。
それが裏目に出た。
僕の足元から竹のように闇を割って頭領が姿を現す。
「戯け。一度見せた手管を二度も披露すると思うてか」
頭領は暗器の刃先を僕に向けて突き刺そうとする。咄嗟に体をねじる。少しでも生きようとする本能からの行動だ。
「死ね、《暗夜紅露》!」
だが、頭領は避けようとする僕に向かい戦技を発動した。
僕の目は不可解な現象を捉えていた。
暗器の刃先に淡い赤色が灯ると僕の胸当てをすり抜け、胸を貫いた。
「―――なんで」
目の前で起きた事が理解できずに呆然としていた。だが胸に突き刺さった暗器が発する痛みが現実だと証明する。
ずるり、と引き抜かれる。その際にも胸当てに傷一つ無かった。両足から力が抜け屋根に仰向けに倒れこむ。胸から夥しい血が溢れ、胸当ての隙間から流れていく。
「死ぬがよい、小僧。なに、小娘もじきにお前と同じところに逝くだろう」
頭領はマスクのような布を口に巻きなおすと屋根の上から姿を消した。
(……つまり、あいつらは……僕が主人だと……知らない訳か)
雨のせいか、血が流れ過ぎたせいか、刻々と冷えていく体。それでも意識だけはやけにクリアだった。
(バカだな……僕が……死ねば、レティも死ぬのに)
その事を知らないと言う事は黒頭巾の集団はこの街に着いてから僕らをマークしていたのかもしれない。これは重要な情報だ。
闇へと落ちていく意識の中、僕は最後の瞬間まで次の時間軸でどう動くべきか考えていた。
「レイ様! 死なないでください!!」
「このバカレイ! さっさと起きろ! いつまで寝てんだよ!!」
「二人とも落ち着きなさい!! レイさん。しっかりして! カーミラ。回復魔法をかけ続けてください」
「分かっています、副団長。《超短文・中級・回復》」
闇に落ちた意識が急速に浮上する。同時に暖かな光が体を包む。失った体温の代わりが注ぎ込まれ、体が活力を取り戻す。
目を開けるとそこには見慣れた顔が心配そうに僕を見下ろす。
ロータスさんにファルナにエリザベート、それに『紅蓮の旅団』冒険者のカーミラだ。今回キャラバンに付き添う二人いる回復専門の魔法使い。船の上での修業だけでなく、ゲオルギウスに潰された右腕を治してくれた恩人ともいえる人だ。
彼女らは防具を装備しており、手には武器を持っていた。
「良かった。貴方が死んだらエリザベートさんたちが死んでしまう所でしたよ」
胸をなで下ろしたロータスさんを前に僕は一度眼を瞑る。
ステータス画面に表示される時間を見た。
二十三時五分。
あと五十五分後に《トライ&エラー》は自動でセーブポイントを作ってしまう。仮に今死んでもこのタイミングにしか戻れない。
(……やばい、死に損なった!)
助けてもらっておきながら何て言い草なんだろうか。自分でも情けなく思ってしまう。
止まない雨を浴びたせいか、体が芯の奥まで冷えていく。これからどうするべきなのか、思考が悪寒によって刻まれていく。
読んで下さって、ありがとうございます。




