2-17 予期せぬ奇襲
雨が降る中を全身に鎖帷子や鎧を着こんだ兵士が走って来る。彼らは一台の馬車につき二人一組で近づくと、中を検めたい、と伝えてきた。
商会の御者が頷くと、僕らの乗っている馬車に乗り込む。泥や雨が馬車の床を濡らす。
「ギルドに所属している冒険者ならばプレートを提示しろ」
一人が木箱を検める横でもう一人が横柄に告げる。
余計なトラブルを招く事も無いと思い僕らは素直にプレートを差し出す。受け取った兵士は書かれている内容を自分が持ってきた用紙に書き写す。
その間も木箱を一つ一つ開けて中を覗いていたもう一人の兵士はそれが済むなり、僕らの手荷物を見せろと迫った。
さすがにやり過ぎだろうと思い抗議しようとする僕をオイジンが無言で止める。代表する様に彼は前に出た。
「何用で」
猪人族の静かな迫力に一歩下がる兵士は震える口調で答えた。
「せ、精霊祭が近づいた為。と、と、特別警護中につき、荷物を検めたい……です」
「……了承した」
結局、不承不承ながら荷物を彼らに見せた。何か盗まれないように鞄を探る手元をじっと見つめた。
怪しい動きを見せずに検閲は終わる。彼らは瓶の中身を理解できなかった。余計なトラブルにならずに済んで胸をなで下ろした。
兵士たちは開けた木箱を片付けもせずに馬車を降りて行く。彼らが見えなくなった辺りでファルナが腹立たしげに汚れた床を掃除する。
「ったく! こんなに床を汚しやがってあいつ等!! ウージアに来るといつもあんな感じの奴らばかりで頭にくるよ」
文句を言いつつも手は動かしたままだ。オイジンと共に木箱の蓋を閉じて、紐で括りなおす。
前の馬車も検閲が終わったのか動き出したので僕らの馬車も動く。
ちらりと前方へ視線を向けると街を囲う様に建設された塀をくぐる所だった。
(ここがウージア。眠らない街か)
馬車の車輪の音が変わる。今までは土の上を走っていたのが、石畳の上を走る。固い地面を走る事で揺れが激しくなり、馬車酔いが再発しそうになる。
悪夢の時間は15分程で終わった。
キャラバンはある建物の前で止まった。
それはとても大きな建物だった。窓の数からおそらく四階建て以上。横幅は普通の一軒家が三つ四つ並ぶ。ここからでは奥行きが分からないがそれでも横幅に劣らないだろう。
建物の軒先にはベッドを表す看板が吊るされる。おそらく宿屋なのだろう。
「ここはウージアの中でも上等な部類に入る宿屋さ。フェスティオ商会はここに食品雑貨を下ろしている関係でいつも安く使わせてもらっているんだって」
馬車を降りたファルナが訳知り顔で説明する。僕らを乗せていた馬車はこの宿屋の外れにある厩舎に向かった。そこには宿屋が契約している警備兵が居り、荷物の見張りをしてくれる。
全員が降りたのを確認して、ジェロニモさんが宿屋の扉を開けた。
「こりゃ……また、すごいな」
「だろ」
何故か得意げにファルナは言う。だけど彼女に突っ込みを入れられなかった。目の前のエントランスはエルドラドに来てから見たことも無いような高価な調度品でコーディネートされ、天井から吊るされたシャンデリアが照らすと、どれも輝いているように見える。
だけど、僕の目を捉えて離さないのは従業員の制服だ。目の前を忙しそうに、されど優雅に通り過ぎる男性は執事が着るような燕尾服に身を包む。エントランスにて一列に並んでお辞儀をする見目麗しい女性陣はメイド服を着ていた。
たしかに、異世界とは言え燕尾服も、メイド服も存在するだろ。だけど、
(メイド服の裾はそんなに短くないだろ!!)
と心の中で叫んだ。
フリルの着いたスカートを履く彼女たちの丈は短く、扇情的な装いだ。エントランスでくつろぐ男性客の視線が盗み見る様にそこに集中する。
ふと、殺気を感じたと思ったら、脇腹に鋭いひじ打ちをくらった。
「なーにデレデレしてんだよ。このバカレイ!」
「ぐうう。……誰がデレデレしてんだよ」
ひじ打ちを放ったファルナは不機嫌そうに鼻を鳴らすだけだった。
そうしていると、エントランスの受付から一人の女性が進み出る。
年の頃はおそらく40を過ぎてはいるだろう。だけど、着ているドレスや、身に着けている貴重品や化粧が彼女の本当の年齢を霞ませる。
「あらあら。お待ちしておりました。フェスティオ商会の坊ちゃん」
「坊ちゃんは止してください、マダム。……十七人ですけど部屋は取れていますか?」
マダムと呼ばれた女性は頷くと、背後に控えていた従業員に目配せをする。何も言わずに頷いた従業員は受付に回ると数本の鍵を持って戻ってきた。それを恭しくマダムに渡す。
「三人部屋が五つに二人部屋が一つですね。どうします? もう、お部屋に向かわれますか?」
問いかけにジェロニモさんは答えずにオルドの顔を伺った。彼は無言で腹を摩った。
「食事を済ませたいですね。とりあえず荷物を部屋に置いたらレストランに向かいます。……席は空いていますか?」
「少々お待ちを……大丈夫ですわ。それでは先に鍵をお渡ししますわ」
マダムは控えていた従業員に視線で問いかける。彼は無言でうなずく。それだけで伝わったのかマダムは大丈夫と太鼓判を押して、六本の鍵をジェロニモさんに渡した。
そして、それでは私は、と別れの挨拶を告げると受付へと戻った。
「さて、部屋割りを伝えます。少々こちらへ」
ジェロニモさんが他の客の邪魔にならないように僕らを誘導する。彼を中心に輪を作ると、ジェロニモさんは鍵を渡しながら説明する。
「まずは女性陣から。女性は六人いますから三人ずつで分かれてください。部屋は211と212です」
言うと、鍵を二本抜き取り、ロータスさんに渡す。だが、その手を遮る様に声を発した者がいた。エリザベートだ。
彼女は恐縮しきった様子で周りを憚りながらも通る声量で言う。
「待ってください。私たちの分のベッドなんてもったいないです。私たちは厩舎で雨を凌げれば十分です、フェスティオ様」
眉尻が下がり、本当に恐縮仕切っていると周りにも分かる程だ。だけど、ジェロニモさんは事前に予想できていたのか冷静に口を開く。
「大丈夫です、エリザベートさん。ここの宿代や今までの食費などはちゃんとあなたの新しい買い手に請求するつもりです。それにこの街でちゃんとした宿を取らない方が危険です。特に若くて美しい少女を二人も外で寝かすなんて、もっての外です」
諭すようにジェロニモさんは言う。彼の言っていることの意味を理解したエリザベートはしぶしぶだが納得したようだ。一方で僕は、ここの宿代っていくらなんだろうと思う。聞くのは怖いが。
引き下がった少女を見てからジェロニモさんは残りの鍵から二本を残して残りをオルドに渡す。
渡されたオルドは冒険者だけを呼ぶと、その中でオイジンに鍵を渡す。
「オイジンとレイとグスタフ。お前ら三人で一部屋だ。部屋番号は210だ。残りはオレと、209号室になる」
「商会の者は207と208を使います。私は207に居ますから、何かあったら訪ねてください。それでは荷物を置き次第、食事にしましょう」
ジェロニモさんを先頭に二階へと上がっていった。
「はああ、食ったし、風呂にも入れて極楽だね」
「お爺ちゃんみたいだよ、お兄さん」
「こら、レティ。失礼でしょ」
からかう妹を姉が小突く。僕らは宿屋のロビーで寛いでいた。意外な事に、という言い方だと失礼だが、ここの従業員は誰もエリザベートやレティの奴隷紋を見てもあからさまに下に見るような事はしない。
実はカラバやロージャンで彼女らの素性に気づいた人たちはあからさまに見下した様な目をしていた。それが印象的だっただけに、意外に思っていた。レストランでも同じだった。
「そりゃ、あれだ。この街だと人よりもお金の方が上に来るんだよ」
柔らかいソファに腰かけるファルナがサービスで貰った紅茶を口にしながら口にした疑問に答える。
「金の下には皆平等。金のある奴は神様で、金のない奴に用は無い。実に分かりやすいだろ」
「まあね」
僕も紅茶に口をつけながらレストランの豪華な食事や、公衆浴場の規模の大きさを思い出す。こっそり聞いた値段にも驚かされた。今更ながらだが、この仕事の報酬は幾らなのだろうかと思う。思い返せば、金額すら聞かずに飛びつく様に仕事を請け負ってしまった。
食事を終えて、久しぶりの風呂に入れた僕らはエントランスの片隅で遊んでいる。
本当はボロボロになったコートを修繕するなり、新しいのを買いに行きたかったが生憎の雨で外に出るのは億劫だった。かといって部屋に籠って精神力操作の特訓をするのも味気ないと思っていたら、レティに誘われてカードゲームに興じる事になった。
紅茶をテーブルに置いて手元のトランプを見る。現代日本でも見たことのある、四種類の属性が各十三枚の計五十二枚。それに加えてジョーカーを一枚入れたババ抜きをこの四人で行っていた。
これの持ち主はファルナで、旅の必需品だと言う。ちなみにこれを開発したのも冒険王だそうだ。
(もうこれで確定だよな。冒険王は確実に僕と同じ、異世界人。それも近い年代から来た人だ)
前々から怪しい人物だったが流石にここに来て確定と言えることがごろごろ出てきた。と言うのもファルナに言わせると、冒険王は別名発明王と言われ、いまだに根強い人気を誇る遊具を多く残している。
例えば、同じカードゲームのノウや、ボードゲームではオセロと呼ばれるのが代表的だそうだ。当時、まだ商人たちが近場の村々を回る行商しかやっていない頃にある商人と手を組み、これらを商品化して販売。その利益を冒険の資金にしたそうだ。
その鮮やかな手際を聞いて、一つ疑問が浮かぶ。なんだかその冒険王と呼ばれた人は用意が良すぎはしないか。まるでこの世界に来ることを事前に知っていたかのような印象を受ける。
だけど、さすがにそれはあり得ないと思い、疑問を振り払う。とにかく、彼の足跡を追うのも旅の目的に加える。そして、もう一人。魔法工学を生み出した人の足跡も追いたい。
すると、横からエリザベートの白魚のような細い指が伸びた。慌てて残り二枚になった手札を差し出す。彼女の指は迷う様にカードの端を撫でる。
「こっち……それともこっちかしら」
小声で呟きながらカードを真剣に睨む。すでに手札を空にして上がっているレティは姉の姿を見て同じく上がっているファルナに囁く。
「ホント、勝負ごとに熱くなるんだから。これじゃギャンブルとかには向いてないね」
妹の呟きは姉の耳に届かない。僕は真剣に悩む彼女の姿を見て、少し悪戯心が芽生えた。手元に残った数字のカードを少しだけ持ち上げた。
途端に、エリザベートはにやりと笑うと、反対のカードを掴んだ。
「甘いですね、レイ様。私を引っかけようとしてジョーカーを持ち上げたんでしょうが、そんな手には引っかかりませ―――ッ!!」
引き抜いたカードを見て、硬直する。先程まで僕に向かって嫌らしく笑っていたジョーカーが今度は彼女に笑いかける。
「リザってさ……戦っているとき以外ってなんだかその……」
「ポンコツでしょ?」
「や……まあ、そうだけどさ。一応、気を使ったアタシの立場を考えてくんないか」
そこが可愛い所だよね、と自分の姉に辛辣な評価を下した妹の声は届いているのだろうか。あからさまに肩を落としたエリザベートはカードの位置を入れ替える事も無く、手札を僕に突き出す。
(まいったな。これじゃジョーカーの位置がまるわかりだよ)
とりあえず、手を伸ばしてカードの端に触れる。数字と思われるカードに触れると、普段は人形めいた感情の少ない美少女がこの世の終わりのように美貌を崩す。反対のジョーカーに触れると、たちまちに満開の花を咲かせる。
僕は楽しくなって二枚のカードの上で指を行き来させる。コロコロと変わる表情を楽しんでいた。もっともファルナの咳払いで止めさせられたが。
「それじゃあ、こっちを」
ジョーカーのカードを引き抜こうとする。喜色満面の笑みを浮かべるエリザベートだが、刹那の間に笑みは萎れた。
僕の指先が直前になって数字のカードを引き抜いたから。カードの数字を確認して対となるカードと共に机に置く。
これで僕も上がりだ。
「はい、上がりだよ」
「くっ!! ……もう一戦、お願いします!」
「えー、まだやるのー。お姉ちゃん、これで三戦全敗だよ。弱すぎるよ」
レティの言葉がぐさりと刺さったのかエリザベートが押し黙る。
すると、二階の階段からオルドたちが群れをなして降りてきた。ジェロニモさんやオイジンを始めとした男衆、総勢十名がホールに姿を現す。
先頭のオルドは僕らを、特にファルナを見つけると、途端にしまったと言わんばかりの表情を見せる。父親のそんな姿を見た娘は眉を片方だけ器用に上げると彼らの元に歩いていく。僕らもそれに続いた。
「お、おう、ファルナ。こんな所に居たのか。部屋にいたんじゃないのか」
「……ここに居ちゃまずいのかよ、親父。そっちこそ男だけでどこに行く気なのさ」
気まずそうに目線を逸らすオルドに、平坦だけどどこか怒りがこもったような口調でファルナは声をかける。大男の全身に汗が噴き出す。
「その、酒を飲みに行ったり」
「酒だけ?」
視線に耐えきれなくなったオルドは僕に目配せするやいなや、一気に駆けだした。遅れて他の男衆も駆けていく。
「あ、こら! 親父」
「すまん、娘よ。帰りは明日になるから今日は寝て待っていろ! 後は頼むぞ、レイ!」
「鍵、宜しく」
すれ違いざまにオイジンから鍵を受け取った。ファルナはそそくさと逃げ出した男衆に地団駄をふむ。
「あいつら、このまま娼館あたりに繰り出す気だよ、まったく」
(僕に押し付けるなよ、まったく)
怒り狂うファルナを前に心の中でため息を吐いた。
結局、不機嫌になったファルナが帰ると言い出したため、その場はお開きとなる。エリザベートは不満そうだがレティが背中から押して歩かせる。僕らは二階の部屋へと向かった。
僕の泊まる部屋と三人の泊まる部屋は隣同士だ。
「おやすみ、三人とも」
「お休みなさいませ、レイ様」
「お兄さん、お休み」
「おやすみ、レイ。……一人でこっそり宿を抜け出したら、ぶっ飛ばすからね」
最後に釘を刺すとファルナたちは部屋に入っていく。僕も鍵を回して部屋に入る。
魔法工学の恩恵を受けた宿には各部屋に電球が設置されている。暗い部屋の中でスイッチに触れる。部屋に吊るされた裸電球が明かりを点ける。
部屋にはベッドが三つ並んでいる。小さいが窓もついているし、調度品も高級そうだ。寝るためだけの部屋だが、十分だ。
僕は壁際のベッドに腰を掛けた。隣からは三人の声がかすかに聞こえる。どうやらまだ、ファルナの怒りは収まっていないようだ。内容は聞き取れないが二人が窘めてるようだ。
(男やもめの40代に禁欲しろ、っていう方が酷だろうに。……いや、それよりもロータスさんとはどういう関係なんだろう。確実に向うはオルドの事が好きだよな)
ベッドの上で鞄の中身を確認しつつ、他人の恋愛事情に思いを馳せる。
同時にもう一つ気になる事がある。この世界に来る前は健全な二十才の青年で、今は十五才の少年と言っても差し支えない年頃に戻ったのに、性欲があまり感じられない。
そりゃ綺麗な人に見つめられると照れるし、近づいて来れば赤面する。ただそれだけなのだ。その感情が性欲と直結しない。
不自然なほど感情を抑制されている気分だ。そうかと思えば、ファルナのロリコン疑惑に対して年上の対応ができずに彼女と同じ目線で声を荒げてしまう。何ともちぐはぐな心の動きに違和感しかない。
(これも魂を削られた代償なのかな?)
早く『聖域』に辿りついて神達から何らかの情報を掴みたいな。
鞄の口を締めて、棚に置く。壁にかかっている時計を見ると九時を過ぎている。まだ、寝るには早いと思い僕は床に腰を下ろす。柔らかいベッドの上では集中できない。
胡坐を組んで呼吸を整える。
明日の決闘に備えて少しでも精神力操作の成功率を上げようと努力する。
―――イメージしろ。
全身に不可視の管を通せ。
心臓を介さない管は心と直結している。
マグマのような熱の塊が堰を切って雪崩れ込むのを想起しろ。
体が熱く燃えるようだ。その熱を逃がさないように両手へと送り込む。
だけど、腕にまで来た精神力が霧散してしまう。
「はぁはぁはぁ。くっそ、また失敗か」
滲む汗を拭って、もう一度挑戦する。
大量の失敗を重ねつつも、成功率が徐々に上がり始めた頃、僕の耳に二つの音が響いた。
十時を告げる鐘の音と、戦闘の音だった。
咄嗟に外していたバスタードソードを握りしめると、廊下に飛び出した。向かったのは音源と思われる隣室だ。
「ファルナ! エリザベート! レティ! 何があった! 返事をしろ!!」
扉を叩くも、誰も返事をしない。その代りに暴れるような音が返事をした。僕は咄嗟に両手に精神力を籠めて引っ張った。
奇跡のように一回で成功した精神力操作に喜ぶ暇は無い。急いで部屋へと踏み込んだ。
部屋の中は嵐が通り過ぎたように調度品は壊され、ベッドが引き裂かれる。それだけで何かがあったと一目で分かる。
「何があった……三人とも、無事か!!」
焦る思いで部屋の中に入った僕はエリザベートとファルナの二人を発見した。ただし、彼女らは無事とは言えなかった。
「レイか……悪い、ドジった」
下半身を石と化したファルナが床に寝そべる。両手には双剣が握りしめ、刃には血がついていた。その傍には部屋にそぐわない彫像が立っている。
いや、彫像では無い。石化してしまったエリザベートが苦悶の表情を浮かべている。手はなぜか窓の方へと伸びている。
「―――何があった。レティはどこ」
室内の為、ダガーを抜いて周りを警戒しつつファルナに姿を見せない少女の事を尋ねる。ゆっくりと石化が進行している彼女はまだ無事な手で窓を指す。視線を窓に向けると、壊されている。
「あそこから、連れていかれた。数は少なくとも二人。どいつも黒ずくめで……一人は石化の呪文を使った」
「連れていかれた!?」
咄嗟に、姉妹が抱えている秘密との関連が頭を過る。どうする、ここは《トライ&エラー》で一度戻ってから迎え撃つべきか。
(いや、相手の素性が分からないうちに戻ってもリスクが高いだけだ。このタイミングでの奇襲はオルドたちが居なくなったから襲ってきたと考えるべき。相手も分からずに闇雲に動けばこの奇襲自体が変わってしまう。そうなったらこちらのアドバンテージが無くなる)
刹那の間迷った挙句、壊れた窓へと走った。今は情報が足りない。零時前に死ねば今朝に戻れる。ここは追いかけるのが得策だ。
そう判断した僕をファルナが背後から呼び止めた。振り返ると彼女は装着していた腕輪を放り投げる。弧を描いて飛んできた腕輪を掴む。
「それを着けな。アンタのと合わせれば石化の低級魔法ぐらいなら防げるはずだ! アタシらはロータス姐が来るまでここで待つよ」
「分かった! 行ってくるよ、ファルナ」
受け取った腕輪を着けながら、雨で煙る眠らない街へと飛び降りた。
読んで下さって、ありがとうございます。




