2-15 死への恐怖
鋭い一閃が鼻先をかすめる。目の前を通り過ぎた木刀が手首のスナップを返すだけで同じ軌道を逆から振るわれる。
舌打ちをしつつ、自分が握りしめた木刀を相手と正面から衝突する軌道に振るう。
師匠の木刀と僕の木刀は刹那の間重なり、僕の木刀だけが砕けた。半ばで砕けた木刀の先端部分が宙を舞い、シードラゴンの甲板に影を作る。
全身に浮かんだ大量の汗が僕の疲労の度合いを表す。ガクリと甲板に膝をついて倒れこんだ。
「これで……23本目だな」
木刀を肩に担ぐように持った師匠のこげ茶色の瞳は甲板の隅に積まれた木刀だった残骸へと注がれた。修業が順調にいかない証拠として、そこに存在する。
「まあ、お前さんのレベルで精神力操作を習得するのは難しいのは分かってたが……あと一歩な気がすんだよな」
「……あと……一歩?」
とてもそうは思えなかった。船上生活四日目。修業は遅々として進んでいない。
昨日は大型のタコの形をしたモンスターと足の生えた魚人に襲われたため、修行どころでは無かった。
僕も参加した船上の戦いは師匠も凄まじかったが、彼を上回る程大暴れした人がいた。ロータスさんだ。
ホーンホエール程大きくは無いとはいえ、二階建ての一軒家ぐらいの大きさを有すタコに自分の戦技を叩き込む。名を《線火繚乱》。放たれた矢はタコの頭部に深々と刺さる。その矢が通り過ぎた空間に炎の導火線が走る。ロータスさんが指を鳴らすと炎が一気に矢へと収束し爆発する。爆音と爆炎が帆船を揺らし、黒い煙が晴れた時、タコは頭を半分ほど削り死んでいた。
師匠は僕が落ちてきた木刀を掴むと切断面を見せた。
木刀の切断面は今までの木刀と違い、綺麗な面では無く、力ずくで折ったように砕けていた。
「コイツを見ればわかる。お前は意識できない程微弱だが精神力を武器に流し込んでいる。今までの木刀みたいに刃物で切られたようなのでは無く力ずくで折ったような面になってるんだ」
ようやく乱れた息を整えて起き上がる程度の力を取り戻す。寝ころんでいた体を起き上がらせる。
握りしめた木刀の柄を見つめるが精神力を帯びているようには見えない。
「実感できないか?」
「……はい」
自分への不甲斐なさで情けなくなる。少し離れた所で、エリザベートとファルナが精神力操作の特訓を行っている。
一昨日、エリザベートの指導により自分の体に精神力を纏わせることができたファルナは微量だが愛刀にも精神力を纏わせるようになっていた。
師匠は甲板の隅で少女二人が嬉々として特訓しているのと、無様に落ち込んでいる僕を気まずそうに交互に見る。
「気にすんな……って言っても気にするよな。男だから。……ったく、うちの娘もこんな時に使える様になるなんて。わが娘ながら凄まじい空気の読めなさぶりだな」
ため息を吐いて、師匠は僕の横に腰を下ろした。肌に心地よい潮風が吹き込んだ。
「精神操作を使わないで能力値を上げるだけで彼女に勝てる確率はありますか」
「……難しいだろうな。精神力操作を持っていない相手なら能力値を上げる事で勝てるかもしれんが……戦技を習得した奴には通用しねえ」
断言するように言われた。やはり、勝つための鍵は精神力操作かと思う。
「……なあ、レイよ。船が着いたら」
と、深刻そうな口ぶりで何かを伝えようとした師匠を水夫の叫びが掻き消した。
「陸が見えたぞ!!」
メインマストの上方。見張り員が進行方向を指さして皆に伝える。水夫も冒険者も手を止めて船首を見た。僕も立ち上がり遠くに見える陸地を見た。
「っと。もう、ロージャンの港町に着いたか」
師匠も立ち上がり、微かに見える陸地を見ようと目を細めた。
こうしてキャラバンはネーデの街を出発して一週間。ついに東方大陸に辿りついた。
ロージャンの港町はカラバの港町と違い、全体的に赤い屋根が目立つ。
カラバが地中海風の港町なら、こちらは中国風の港町のように全体的に派手な色使いだ。海から陸を眺めると燃えるような色合いに目が戸惑う。
港町で働く人々の服装も、冒険者や旅人、商人を除くと、映画で見たカンフーシャツのような物を着こんでいる。色合いも原色が多く、随分と派手な刺繍を施す。
着こなし方は人それぞれで半袖や長袖はもちろん、前を開けたり、重ね着をしたりと様々だ。
ただ、黒髪は全く見かけない。入港の検閲の為に乗船した役人らしき男たちは僕を見るなりプレートを見せる様に要求してきた。
「随分と物々しいな」
「まあ、仕方ねえよ。中央大陸みたいに小国家が乱立して国境が曖昧な地方ならまだしもシュウ王国ほどの大国になると間諜の類を水際で防ぐのが肝心だからな」
言いつつもファルナも役人たちに不愉快そうな視線を向ける。彼らは最初、主人を亡くしたエリザベートとレティを何かと理由をつけて入国させないと言い出した。
そんな彼らにジェロニモさんはこっそりとガルスを渡していた。
賄賂だ。
脂ぎった男たちは黄金の輝きを見て、意見を翻した。今では碌に荷物を確認しないで問題なしと繰り返している。
「首都から離れた場所じゃあ汚職と賄賂が横行するか……どこの世界でも同じなんだな」
僕は船縁に凭れながら空を見上げた。
役人たちは潤った懐を叩きながら乗ってきた小舟に戻る。ジェロニモさんはそんな彼らを見送ると振り返り叫んだ。
「上陸許可が出ました! 船長、船を埠頭に着けてください。他の方は接舷しだい、荷卸しをお願いします!」
「「「アイアイサー!」」」
景気の良い返事が返ると船は動き出した。僕は動き出した水夫たちを掻い潜ってジェロニモさんに向かって頭を下げた。
「どうかしましたか、レイさん? また何かしでかしましたか」
「エリザベートとレティシアの二人の為に賄賂を出させてしまい、すいません。いくら払いましたか? 僕が払います」
頭を上げるとジェロニモさんは困ったように笑う。
「気にしないでください。どうせ、賄賂は払う事になっていました。ほら、見てください」
ジェロニモさんが指した方を見る。そこには埠頭に近い距離で帆を下ろして停泊する帆船が何隻も浮いていた。
「彼らは賄賂を払うのを拒否したため埠頭への入港を待たされている船です。シュウ王国は北と南にも港を有していますが中央大陸から一番近いのがロージャンの港です。ここは王国でも数少ない自治裁量を任されている街のためこういう悪行が横行しているので最初から賄賂を払うつもりでいました」
一拍の後、ジェロニモさんは言葉を継ぐ。
「子供にお金は請求できません。さあ、君も下船する準備をお願いします」
片目を閉じてウィンクをしたジェロニモさんは言うと船長に呼ばれてそちらに向かった。僕は遠ざかる背中に頭を下げた。
かなわないな、と思いつつ、頭を上げて船室へと向かった。
一時間後、シードラゴンから荷物を下ろし、用意された馬車へと積みなおした。
カラバの港町までの旅路と同じく、四台の馬車に鞍の着いた馬が三匹。シードラゴンから降りた『紅蓮の旅団』の冒険者とフェスティオ商会の商人、そして、途中で仲間に加わったエリザベートとレティシアを含めた十七人がキャラバンのメンバーだ。
僕らは水夫に馬車の見張りを頼んで、昼食と今後の打ち合わせを兼ねて食堂へと向かった。
白塗りの木造建築が立ち並ぶ市場の中で大所帯が入れる食堂へと入る。中は昼時なのに空いており、二つの長テーブルに分かれて座る。
ジェロニモさんが適当に料理を注文すると、まだ料理の並んでいないテーブルに地図を広げる。僕らは立ち上がり、上座に座るジェロニモさんを囲う様に立って話を聞く。
「いま、私たちがいるのは東方大陸西端のロージャンの港町にいます」
線の細い指が南北に長い東方大陸から突起のように飛び出している半島の一部を指す。そこから蛇行する様に延びる街道を指でなぞる。
「順調にいけば明後日には関所を兼ねたウージアに着くはずです。ここまでは野宿になります。そしてウージアで一泊した後はそのまま首都へ向かいます。ここまではいいですか?」
『紅蓮の旅団』の冒険者も商会の人たちも旅に慣れているからか何も言わない。とてもウージアで一泊する理由が分からなかったが言いだせる空気では無いので後で聞くことにする。
ジェロニモさんは話を続ける。
「首都に着いても『紅蓮の旅団』の方たちには精霊祭終了までは警護の仕事をお願いします。魔水晶から届いた情報によれば後続部隊も無事にカラバの港を出ました。この分なら精霊祭二日目には合流できそうですね」
そう、ジェロニモさんが纏めると、食堂の女将である熊人族が従業員と共に料理を運んできた。
「おや、料理が来ましたね。それでは食べましょう。食事が終わり、三十分後には出発しますよ」
「「「了解!」」」
僕らは席に着いて運ばれた料理に手を着ける。大皿に乗ったから揚げにタレをかけた油淋鶏に太い中華麺とつけ汁がテーブルに並べられた、
麺を口にする。魚介を煮込んだと思うつけ汁は茶色く濁り、油が浮いている。そのまま飲むのは無理だろう。だけど、麺をそこに浸して食べると、何故だか力強いだし汁としての面を見せる。
エルドラドに来て初めての麺料理だったが美味しい。油淋鶏も甘辛いタレがから揚げに染み込んでしっとりとした味わいがする。
冒険者と言う生き物に早食いは必要な技能かもしれない。瞬く間に皿を空にして冒険者たちは店を出る。僕も食べ終わったため、食堂を後にしようとした時、後ろから声をかけられた。
振り返ると師匠が神妙な顔をして僕を見つめている。
「どうかしましたか、師匠?」
「あー、いや。……最後の修業をつけてやるよ。……ちょっと来い」
と、唐突に言われて食堂を出ていく師匠。戸惑いながら背中を追いかけていく。師匠は来た道を戻り、埠頭へと進む。
「ちょっとここで待ってろ」
黙々と歩いていた師匠は立ち止まり僕に言うと、シードラゴンへと乗船していく。僕は黙って師匠を見送った。彼は船長と何かを話し込む。しぶしぶ頷いた船長と離れると船縁からこっちに来いとジェスチャーで示した。
言うとおりに船へと足を運んだ。停船しているシードラゴンの甲板では水夫たちが暇そうに船の掃除をしている。精霊祭が終わるまでは船はここで停船しているそうだ。
木刀を握りしめた師匠が僕と正対する様に甲板の中央で仁王立ちする。彼はピリピリとした気配を放つ。噴火寸前の火山のようにエネルギーをため込んでいるようだ。
「……師匠。最後の修業って何ですか?」
僕が躊躇いがちに口にすると師匠は真っ直ぐこちらを見つめる。焦げ茶色の瞳に剣呑な光が宿る。
「四日後には目的地の首都にたどり着く。つまり、決闘はその前日にする約束だろ。……お前、作戦はあるのか」
「……あります」
虚勢やはったりでは無い。元から決闘を挑まれた段階で考えていた作戦がある。
僕の技能たちを組み合わせることで彼女から一本を取る。ただ、そのためにはエリザベートに僕を殺す気で挑んでほしいのだ。出来る事なら即死に追い込むような切り札を使ってほしい。
だけど、七戦したが、彼女は一度もそれを使わなかった。僕が彼女を追い詰められなかった証明に他ならない。
だからこそ、そこまで追い詰めるための手段として精神力操作が必要なのだ。
「まあ、無策で格上に挑むバカはいないな。……だとすると二択だ」
師匠は空いた手で指を立てる。
「精神力操作を諦めて、俺や他の『紅蓮の旅団』の冒険者と共に普通の稽古をする。これなら三日もありゃそこそこの能力値を手に入れる」
一拍の後、言葉を継ぐ。
「もう一つは、命を賭けたギャンブルに挑む」
冷徹に宣言する様に口にした。彼の口から出た命と言う単語が途轍もなく冷たい響きを持つ。
「何を……何をするんですか?」
震える足に力を入れ、しっかりと立つ。せめて師匠の前で無様な姿を晒さないように虚勢を張る。師匠は木刀を強く握りしめる。
「……いまからオレがお前の頭蓋を木刀で斬る。……それを素手で止めるんだ。武器に精神力を纏わせれないんだ。だったら使い慣れた肉体でやるべきだろ」
「―――っ!」
あまりにも途方も無い事を言われた。今日までの修業で《生死ノ境》Ⅰは発動していない。つまり、僕を殺す気では師匠は木刀を振っていない。
だけど、予感がする。目の前の人は確実に僕を殺す為に木刀を振ると。放たれた威圧が証明している。
「選びな。あの二人を手に入れるために命を賭けるのか! そして、あの二人の命をこの先も守れるかどうか、証明してみな!!」
吠える様に叫んだ。大男の叫びは周りの注目を集めるが、僕らにそんなことを気にしている余裕は無い。僕は、自分の無手を見下ろした。
(あの二人を手に入れるのに命を賭けれるかどうかか。そもそも僕はあの二人の在り方を美しいと思った。でも、それだけだろうか。もう一つ、何か忘れていることが―――)
その時、耳に誰かの問いかけが聞こえた気がした。
―――それ以上にレイ君。君が何をしたいのかを確認するべき。冒険者として、ううん。人として何をしたいかを明確にするべきなの。
思い出すのは旅の目的を決めた時の思い。
ああ、そうだ。僕は一人で生きるのは寂しいと思ったのだ。
だから、姉妹で寄り添うように生きる二人を見て羨ましいと思った。あの輪に加わりたいと。
そのためなら、僕の命を賭ける事すら惜しくない。
「―――やります」
無意識に、決意を口にしていた。師匠の顔にうっすらと笑みが浮かんだように見えた。
「あの二人と共に旅をするのに命を賭けるのは当たり前だ! 師匠! 不出来な弟子だけど最後の修業をお願いします!!」
躊躇わずに、師匠の間合いへと踏み込んだ。師匠の間合いはこの数日の特訓で身に染みて覚えた。この位置なら一番鋭い斬撃が放たれる。
「良く吠えた! 死んでもアイツらは俺たちが拾ってやる!! だから安心して御霊に逝っちまいな!!」
師匠の全身に精神力が充満する。それだけじゃ無い。複数の力が注ぎ込んでいるのが分かる。師匠の技能が発動しているのだ。
全身を鋼のように固める筋肉が盛り上がる。
そして、刹那の間を置いて大上段から木刀が振るわれた。
周りで見ていた水夫たちには木刀が消えたように見えただろう。だけど、僕の目にはスローモーションで映っていた。
《生死ノ境》Ⅰが発動した。
僕の知覚が引き上げられ、比例する様に世界が遅くなる。
つまり、この一撃をくらえば僕は死ぬと言う事だ。そして、もう一つ分かった事がある。
|僕にこれは止められない(・・・・・・・・・・)。
何という思い上がりだったろう。『岩壁』のオルドを相手に分を弁えずに挑むなんて。
考えてみれば、双頭のバジリスクの時も、ゲオルギウスの時も、僕は自分の力で奴らを倒したわけでは無い。
そんな力を持たずにこの世界に来た。
迫りくる、死を齎す一撃を前に、一歩、後退した。
―――刹那。
煮えたぎるマグマのような怒りが体中を駆け巡る。血管とは違う、別の管を通り燃えるような熱が両手に集まる。
(なんで、なんで逃げているんだ、オレは!! 命を賭けると決めたんじゃないのか!)
後ろに下がった足を前に踏みなおす。
折れない覚悟を胸に抱く。力も知恵も無いなら心で負けては駄目だ。
熱を持った両手を頭上へと構えた。
目前へと落ちてきた断頭台の刃を捕えようとする。
「―――うおおおお!!」
「―――おおおおお!?」
腹の底から吠えた僕と反対に師匠は驚嘆を口にする。
何時しか世界は元の速度を取り戻していた。
「はぁ、はぁ、はぁ……出来た…出来た!!」
両手で拝む様に木刀を挟んでいるのを境に、僕の意識は遠ざかって行った。
「ああ。よく頑張ったな、我が弟子よ。―――誇らしく思うぜ」
最後に聞こえたのは師匠の優しい言葉だった。
「まったく、焦りましたよ。本当に本気で振り下ろすとは聞いていませんでしたよ、団長」
木刀を掴みながら気絶したレイをオルドは優しく抱きとめた。すると、背後から様子を伺っていたロータスが姿を現した。手には愛用の弓を握りしめ矢をつがえていた。彼女はもし、レイが動けず居た場合、彼の膝を打ち抜き転ばせるのを目的で物陰から狙っていた。
矢を腰に着けている筒に戻して甲板に寝かされたレイの様子を見た。少年は穏やかな寝息を立てている。
「……おそらく精神力切れだろうな」
「でしょうね。初めての精神力操作で全部使い切ったんでしょう……団長? どうかしたんですか?」
ロータスは少年の体調を確認してオルドを見ると、彼は眉を潜めて手にした木刀を睨みつける。
「いや、何でもない。……すまんがレイを馬車に寝かしておいてくれ」
「……了解しました」
不審そうにしながらもロータスは指示通りにレイを抱えてシードラゴンを降りて行く。だが、急に立ち止まると振り返り、オルドに向けて口を開いた。
「団長……何か焦っていませんか?」
「……いいから、連れていきな」
ロータスに背を向ける。続けて言葉を継ごうとした彼女は、男の背中を見て口を閉ざした。何を問いただしても答えてくれない。ロータスが姿を消したのを確認すると、オルドは木刀を落とした。
くるりと回りながら甲板にぶつかった木刀は粉々に砕け散った。木片とかしたのではなく、文字通り粉塵とかす。強い潮風に吹かれて粉が散っていく。
オルドは風に乗っていく粉を見つつ、胸騒ぎを感じていた。
「……オレは何を目覚めさせちまった?」
彼の言葉は『窓』越しに監視を続けていた神にしか届かない。
星も輝かない黒檀の夜空の下、フードを深くかぶり顔を隠す。男か女かもわからないその人物は唯一露出している口元に悪意に満ちた笑みを浮かべていた。
オルドが胸騒ぎを感じる頃。
神すらも気づかない程静かに異変は進行している。
東方大陸南東部。メスケネスト火山の付近を火山の名前にちなみメスケネスト平野と呼ばれる場所で異変が地上に姿を現す。
荒れ果てて隆起する岩だらけの土地に何世代も前からモンスターたちは種族ごとにコミュニティを築き、暮らしていた。大抵は岩肌や洞窟などに定住するのだが、中には器用にも家を作り、柵を拵えて暮らす種族も居る。
そもそもモンスターが生きていくのに必要なのは魔力だ。迷宮に居る時は迷宮が持つ魔力を食し、地上に居る時は大地を流れる魔力を取り込む。
そのため地上に定住するモンスターたちはより多くの魔力を持つ土地を求める。そのためには他の種族と戦ってでも土地を奪う。魔力の乏しいメスケネスト平野では日夜、わずかな土地を求めてモンスター同士が戦争をしている。
人間を食すことは人間が所有する精神力が目当てだ。魔力程では無いが腹を満たすのには十分。だから襲う。
皮肉にも異変に最初に立ち向かったのは平地に集落を築いていたモンスターたちだった。
その日。不意に起きた地鳴りに彼らは怯えた。
発生源はメスケネスト火山の麓。迷宮の入り口からだった。
地上に暮らすモンスターたちは自分たち以外の種族と行動を共にすることは無い。コミュニティ単位で行動する。だけどたった一つだけ彼らが行動を共にすることがある。迷宮から出てきたモンスターと戦う事だ。
本能的に迷宮から出てくるモンスターと敵対する。祖先を辿れば故郷が同じなのに殺し合う。先住民からすると自分たちの土地を奪いに来た新参者として映るからだ。
一方で迷宮から新天地を求めてきたモンスターたちも自分たちの為に土地を奪いにかかる。
結果モンスター同士の壮絶な殺し合いが往々にして起こる。
この時もメスケネスト平野にモンスターの屍山血河が築かれる。
乾いた大地にモンスターの血が染み込んでいく。彼らの絶叫は日が沈んでも収まりはしない。
読んで下さって、ありがとうございます。
次回の更新は8月17日を予定しております。




