7-37 既視感のある戦い
離れを襲撃した兵士たちとリザ達が入り乱れて戦う中、剣呑な視線で睨みあうレイとクリシュ。互いに手にした武器は、日本刀と双頭の槍という、エルドラドでも珍しい部類に入る武器。
向けあった刃先が細かく揺れ、どちらも攻撃するきっかけを探り合っていた。
クリシュの呼吸が絞られ、彼の体から闘気のような物が迸る。エルドラドに来て、何人もの強者を見たレイは、彼らの共通点を見つけていた。それが強者特有の空気のようなものだ。荒々しく殺伐とした闘気を纏う者や、敬虔な宗教家のような静かな闘気を纏う者など種類は様々だが、確実に強い人ほど独特の空気を持つ。
御多分に漏れず、クリシュものその一人だ。鉄のように冷たく硬質な闘気がレイを威圧していた。
そして、口火を切ったのはクリシュだ。
槍の穂先が真っ直ぐに、レイの首筋を狙う。鋭い一撃に反応したレイは僅かに体を傾けて、これを回避。
だが、クリシュは槍を横に滑らす事で、回避したレイを逃さない。たまらずレイは龍刀で槍を下から押し上げた。弾かれるクリシュの槍はそのまま穂先を天に向け、くるりと一回転する。反対側にあるもう一つの穂先が地を掠めつつ、レイを下から狙う。
鼻先を掠める槍を見送ると、レイは一気に距離を詰める。手練れ相手に、距離を取り続けるのは一方的に嬲られるだけと知っている。距離を潰し、槍が満足に振り抜けないようにするのだ。
相手の嫌がる行動を取り続ける事で、勝負の流れを自分に引き寄せる。
龍刀をクリシュの胴体へと袈裟から振るうと、防御の構えを取った槍に阻まれる。鋼鉄と鋼鉄がぶつかる音が二人を震わせた。
「良き武器だ。一目見ただけで、匠が魂を込めた逸品だと分かる」
「お褒めの言葉、どうも」
鍔迫り合いの最中、クリシュが龍刀の波紋を見つめ褒めだした。この状況で無ければ、これがテオドールの打った刀だと自慢できたが。
ところが、クリシュは惜しいと続けた。
「これだけの武器を持ちながら、この程度の技量とは。武器が泣くぞ」
「なに―――っ!?」
挑発の言葉と共に、衝撃が頭を揺らした。鍔迫り合いの最中、僅かに力を抜くことでレイの態勢を崩したクリシュのひじ打ちが入ったのだ。
続けざまに槍の刺突が一呼吸の内に、三度放たれた。
一つ目は龍刀で完璧に防ぎ、二つ目は辛うじて防いだ。しかし、三つ目はどうしようもなかった。レイの防御をすり抜け、穂先が胸を打つ。
すると槍は防具に触れること無く弾かれた。《耐久》の加護がレイを守ったのだ。
しかし、僅か一撃で加護は消失してしまう。逆を言えば、それだけの威力をほこる一撃だったといえた。
「加護付きの防具とは。成程、守りにも余念は無いと。しかし、それも消えたようだな」
頭を殴られた衝撃で視界が歪むが、クリシュは攻撃の手を緩めるつもりはない。むしろ、好機とばかりに槍を振るう。気が付けば、せっかく詰めた距離が開き、槍の威力が存分に発揮できる、クリシュの間合いだった。
「そら、そら、そら、そら!」
繰り出される攻撃には全て、体重、速度、技量が余すことなく乗せられている。龍刀で防ぐのに手一杯だ。この状況で、自分から攻める事は不可能だ。一つでも直撃したら、そのまま槍で穴だらけにされてしまう。
一合、三合、七合、十合と数を重ねるごとに、槍の穂先がレイの体を掠め始める。
まだ防具で受け止める事が出来るが、いずれは心の臓を貫く。兵士たちが勝手にそう思う一方で、これはおかしいと腹の底で焦りを浮かべている男が居た。
それは誰であろう、レイを追い詰めているはずのクリシュだった。
彼はこれまでの打ち合いで、レイの実力を大よそながら読み切っていた。見どころはあるが、全体的には未熟。まだ、金髪の女剣士の方が強いと判断していた。
それなのに、こうして打ち合っていると、レイの不気味さが浮き彫りになっていく。クリシュの放つ一撃は、どれも芯をずらされ、威力を削がれていく。それどころか、自分が次にどこを狙うのか当てもするのだ。
まるで未来か心を読んでいるようだ。
「面妖な奴。それとも、その類の技能でもあるというのか」
口内で呟くと、クリシュは視線をレイでは無く、離れの方に向けた。襲撃が始まって大分経つが、戦況は芳しくない。兵士は既に半数以上が倒されている。どうにか包囲網を形成しているが、それも崩れてしまうのは時間の問題である。
それだけの兵士を消費させて、いまだ《ミクリヤ》のメンバーは健在である。視界の範囲には居ないが、ダリーシャスも無事だろう。
ガヴァ―ナに置いてある兵はさほど多くない。特にアフサルが個人的な目的の為に動かせる兵となれば余計に少ない。そんな台所事情からひねり出した兵をこれ以上消費されるわけにはいかない。
一気に勝負を付けるべく、クリシュは構えを取る。
低く、それこそ地面へと額を付けるほど低い構え。その異形な構えを見た瞬間、レイは不可思議な表情を浮かべた。
懐かしそうな、悲しそうな、困ったような。
複雑な感情が瞬く間に通り過ぎ、最後には覚悟を決めた戦士のように唇を真一文字に引き締めた。良い顔だとクリシュは頭の隅で思う。
そして、一気に動き出した。
足に溜めた精神力を爆発させ、敵の背後へ回る。低い体勢からの突撃となれば、相手は視線を下へと向けざるを得ない。背後に回り、下を向く首に向けて槍を差し込むというシンプルな手法。
これは戦技では無い。ナキ家が対人用にと練ってきた技を、極限まで磨き上げる事で完成された必殺技だ。技術の結晶と呼んでも良い。
相手の裏を取るといっても、相手の呼吸や視線などを、幾つものフェイントを絡ます事で誘導する、一夕一朝では身に付かない奥義だ。ましてや、初見の相手は見破る事すらできない―――はずだった。
レイの背後に回った瞬間、クリシュの視界を紅蓮が覆い付く。何が起きたと悟る前に、危険を知らせる本能が叫んだ。
避けろ、と。
己の本能に従い一歩、距離を取れば、紅蓮の正体が判明した。
それは炎で出来た壁だ。紅蓮の塊が、レイの背中を守るように聳えていた。タイミングからして、背中に回るクリシュを狙った物に違いない。
しかし、どうして自分が背中に回ると分かったのだ。
絶好のチャンスを外された事より、自分の行動がここまで読まれたことの言いようのない不気味さが、男の全身に纏わりつく。そのせいで、一瞬反応が遅れてしまう。
炎の壁を突き破って、戦技を発動したレイの一撃がクリシュへと迫った。その間合いは既にレイの間合い。回避は不可能だ。
槍で攻撃を受け止めようとするも、《崩剣》の一撃は、容赦なく槍を両断する。中央で二つになった双頭の槍は切り口から砂へと変化していく。
驚きつつも、使えなくなった武器をレイに投げつけるクリシュ。武器を無くしたとしても、戦意は挫ける事は無い。
投げつけられた槍を弾き、返す刀とばかりに龍刀で男のわき腹を打つ。無論、刃では無く峰だ。
「ぐぅううう!」
男のくぐもった声と、骨が折れる手応えが龍刀を伝わってレイに届く。クリシュはその場で崩れ落ちるような事はせず、むしろ横からの一撃を利用して、横に飛んだ。地面を転がり、軽やかに立ち上がった時には、兵士が落としていた槍を拾い上げている。
呼吸を乱しながらも、構えを取る男にレイは呻いた。
「嘘だろ。まだやる気かよ」
「無論、当然だ。我が腕は武器を持ち、我が足は大地を踏め、我が眼は敵を睨んでいる。それでどうして、戦いを止められるというのだ」
愛用の槍では無い、普通の槍だというのに、クリシュが構えただけで相当な業物のように見える。男の意思はまるで、鋼の如き硬質さを持っており、レイは仕方ないとばかりに龍刀を構えた。
そして、刃に炎を纏わせる。
「なるほど。それは魔道具の類だったか。やはり、俺の目に狂いは無かったな」
どこか嬉しそうに呟くクリシュだが、やはりわき腹の負傷は酷いのか、顔をしかめている。
「しかし、炎は説明がつくが、こちらの行動を読めたのは納得がいかんな」
どんな方法を使ったのだと琥珀色の瞳は問いかけているが、流石にレイも答える訳にはいかなかった。
レイがクリシュの槍を受けきれたのも、奥義である技を読めたのも、全ては《トライ&エラー》のお蔭である。ただし、それはクリシュとの戦いに何度も死んでいるという訳ではない。
かつて。シアトラ村の地下にて起きてしまった、深層迷宮の探索。
何百という回数を死んだレイ。その膨大な死の原因は、大体がモンスターとの戦闘である。狭い迷宮を犇めくように超級モンスターが闊歩する地獄。初見のモンスターと出会えば、一度目は訳が分からないまま死に、二度目はどうにか対処できないかと足掻き、三度目には会敵しなければ死ぬことは無いと悟る。そんな工程を何度も繰り返すうちに、どうしても避けられない戦いというのはあった。
道が二つしか無く、どちらかを進むしかない。どちらにも屈強なモンスターが道を阻んでおり、戦闘は避けられないとなれば、否応無く戦うしかない。
一度戦い、二度戦い、五度戦い、十度目でようやく勝ちの筋が見え、二十に届くか届かないかぐらいで突破できる。そうやって死を積み重ねていた。
そんな中、レイはナリンザの戦いを傍で何度も、何度も、何度も見る事になった。彼女の癖、呼吸、技、構え、間合い。武器を合わせたことは無いが、それでもレイはナリンザの戦い方を熟知していた。
ナリンザとクリシュの槍は、非常に似通っていた。武器が、という意味では無く、槍術が似ていた。
男女の性別や、個々人の能力値、戦闘経験や戦闘時における思考の違いなどはあるが、二人はまるで鏡に映った鏡像の如く似通っていた。それは双子だからなのか、あるいは同じ師に薫陶を受けたからなのか。
ともかく、ナリンザの槍を熟知しているレイにしてみれば、クリシュの槍と渡り合うのは、そう難しい話ではなかった。押されてはいたが、それでも決定的な敗北をする事なく凌げていたのがその証拠である。
そして、相手の必殺の技を破り、武器を壊し、手傷を負わせたのだ。これで終わりだとばかり思っていたが、クリシュは諦めるという言葉を棄てたかのように立ち上がっている。
その精神力も、ナリンザを思い出してしまい、レイは表情を歪めた。
レイはクリシュの命を奪いたいとは、欠片も思っていない。
相手はナリンザの兄で、ラシードの兄でもある。ダリーシャスにとっても、ナキ家の長男は重要な人間であるはず。
ほどほどのダメージを負えば、引き下がるだろうと思っていたが、読みが外れてしまう。それだけ、クリシュの忠誠心が苦痛を上回っているという話なのか。
『これはあれだな。生半可な負傷では、決して膝を屈する事の無い類の男じゃ。首を一思いに断ち切らなければ、それこそ地の果てまで追いかけてくるぞ』
「ふざけんな。首だけになって生きてられる人間が……まあ、居なくもないのかな」
口にしながら、ゲオルギウスの事を思い出す。確かあれは肉体の大部分を失っても、どうにか生き残っていたような。
もっとも、あれは魔人で、クリシュは唯の人である。心臓を貫かれれば死ぬだろうし、血を流し過ぎても死ぬはずだ。
相手を殺さずに、如何にして動きを止めるべきか。ダガーの魔力は既に空だ。兵士に使い過ぎたと悔やむ。
実力差が上の相手を殺さずに無力化するというのはなんと難しい事か。それも相手は手負い。むしろ形振り構わず向かってくるやも知れない。
「だったら、こちらも形振り構っている余裕はないか。コウエン!」
『なんだ、レイよ』
「指輪を使う。一回なら、付き合ってくれるんだろ」
龍刀の中に宿るコウエンがため息を吐いたのが聞こえた気がした。レイは心の中ですまないと呟きつつも、発動させる。
「《全力全開》!」
指輪に刻まれた魔法が、力となってレイの体に宿る。間髪入れず、魂の交換を行うと龍刀が一際強い炎を全身から吐き出した。それは刀身に絡みつくだけでなく、龍刀を握る右手すら覆い、上腕にまで至る炎の手甲となる。
「それが、君の本気の姿なのか。美しいな。そして、何より……強い。炎のように揺らめく闘気が見える。ならば、こちらも本気で挑ませてもらおう」
レイの異形な姿を、戦士として純粋な、強さを求めた姿と認めたクリシュ。彼は借り物の槍を構え、自らの技能を発動した。
「《我が血潮よ、戦の歓びに吼えたまえ》、《強敵を求めるは、戦士の本能》!」
途端、クリシュの体に劇的な変化が起きる。龍刀の一撃によって生まれた内出血が消え、男の全身に力が漲った。クリシュは二つの能動的技能を発動したのだ。それぞれ、肉体の回復と強化の技能だ。
鋼鉄の闘気が一段と厚みを増した瞬間、クリシュが跳んだ。
跳んだとしか表現できないほどの跳躍力で宙を舞うと、槍を手の中で滑らせ、高速の突きを放った。それを炎の手甲で打ち払うと、レイは龍刀を振り下ろした。触れれば消し炭となる炎の刃を前に、クリシュは体を捻る事で回避。僅か数センチそばを通過した刃を見向きもせず、それどころか躱しつつも槍を振るったのだ。
槍の穂先がレイのわき腹を掠める。だが、その槍をレイは腕で挟み込むと、龍刀で切り落とした。双頭の槍とは違い、兵士の持つ槍は穂先が一つしない。
その一つしかない穂先を切断されれば、ただの棒である。地面へと着地したクリシュは棒となった槍でレイの頭を打とうとする。
「くそ、しまった! 血が」
予想外の反撃に反応が遅れ、僅かに額を掠めてしまい、血が噴き出した。片側の視界を赤く染めたレイの隙を突いて、クリシュは新たな槍を拾い上げてレイへと突撃を仕掛ける。
「はぁああああ!!」
クリシュの咆哮が戦場を震わせる。手にした槍が猛攻となって波のように押し寄せる。《全力全開》にて強化されたレイですら、防御するのが限界だった。
槍と龍刀の激しい打ち合いが繰り広げられる。ただの槍に精神力を纏わせても、僅か数合で槍は削れ、ただの棒きれと化す。それなのに、クリシュは地面に転がる新たな槍を掴み、時には足で蹴り上げて拾った。なにしろ、辺りには戦闘不能になった兵士の武器が墓標のように転がっているのだ。どれだけ消費しても、在庫はあった。
先程とは打って変わったような猛攻は、クリシュが本気になった証だけでない。単に、彼はこの一戦における重要度を引き上げたのだ。
元々、一人でダリーシャスを討つつもりでいた彼は、五連戦するつもりでいた。レイを倒し、リザを倒し、シアラを倒し、エトネを倒し、レティを倒す事でダリーシャスを討つ。
レイとの戦いは五連戦の内の一つにしかすぎず、ここで体力を使い果たすつもりはなかったし、ダメージをため込むつもりもなかった。ところが、予想外の善戦をされてしまい、必殺技を破られ、あまつさえ無視できない一撃を与えられてしまった。
その時点でクリシュはレイとの戦いの重要度を引き上げ、それこそ差し違える覚悟で挑んでいた。それゆえ、技能を使い、全てを絞り出すかのような戦いを繰り広げていた。
そうなると困るのはレイだ。《全力全開》と魂の交換の組み合わせで一気に片を付けようとした目論見が破綻した。まさか、クリシュがこの状態の自分と互角以上に戦えるとは。
レイとて、勝つ方法はあった。ただし、それはクリシュの命を奪うという結末へと繋がる方法だ。それを選ぶつもりは、レイには無い。かといって、殺さなければ倒せないというジレンマがレイを苦しめていた。
そんな中、遂に時間切れを迎えてしまう。
「どういうつもりだ。まだ、戦いは終わっていないというのに、その姿は」
体から力が抜け、刃や腕を覆っていた炎が解け始めて行く。
不審に思ったクリシュですら槍を振るう手を止めた。その槍で十四本目である。炎の熱と、龍刀の切れ味から原型を保ってはいなかった。
《全力全開》の効果が切れたのだ。まだ僅かに残っている炎も、言ってしまえばロスタイムのような残滓であり、数秒も経たずに消える。レイは決着をつけようと戦うが、思いとは裏腹に動きが悪くなってしまう。それは相対するクリシュには直ぐに伝わった。
十四本目の槍が砕けるのと、レイの変身が消えるのは同時だった。十五本目の槍を構えたクリシュが言う。
「どうやら、魔法の効力が切れたようだな。だとすれば、俺の勝ちだな」
クリシュの技能はまだ効果を失ってはいなかった。槍が、動きの鈍くなったレイへと迫る。回避は難しい。レイは腕を一本潰す覚悟で、防御の構えを取った。
ところが。
「おにいちゃん! そこどいて!!」
「な、水だと。どこから、ぐぼぁ!!」
背後から聞こえた舌っ足らずだが、二重に聞こえる声に反応して身を捩った。その程度ではクリシュの槍から逃れる事は出来ない。だけど、レイが身を捩った事で、体で隠れていた水流がクリシュの頭に直撃した。
首がもげるかのような勢いが直撃したせいで、クリシュの体は後ろへと吹き飛んだ。
「なんだ、今の。シアラの《ウォーターバレット》……じゃないよな。あんなに強くないはずだ」
振り返れば、そこに居たのはエトネだった。ただし、いつもの彼女では無かった。体の表面を薄い水で覆われ、虹彩の縁を青く彩っている。
「もしかして、ハヅミか」
「半分正解よ、『招かれた者』」
半分とはどういう意味かと首を傾げるレイに、エトネとハヅミは答えた。
「いまは体を借りているんじゃなくて、普通に憑依している状態なのよ。だからエトネもいるんだよ、おにいちゃん」
不思議な光景だ。二重に響く声色に、コロコロと変わる口調。まるで二重人格者と対話しているようだった。もっとも、二重人格などフィクションの世界でしかお目に掛からないが。
「それで、どうして精霊まで呼び出したんだい」
「シアラおねいちゃんがつかえって。この子が敷地の外から兵士が向かってくるのを感じたのよ。実際、あと十分もすれば、援軍が着くわよ」
「そういう事よ。これ以上戦ってると、逃げ出すのもままならなくなるわ」
話に割り込んできたシアラが急かすようにレイの背を押した。いつの間にか、リザやレティ、それにダリーシャスも外へと出ていた。
「こっちは全部片付けたわ。ハヅミを呼んで、兵士を一掃。ついでに指揮官もリザがぶっ飛ばしたからね」
どうやら、自分がクリシュを引きつけている間に包囲網は瓦解した様だ。リザ達に疲労の色はあるが、大したダメージはない。
「分かった。なら、急いで脱出しよう。まずはキュイと合流して―――」
「―――待て。貴様らを行かせる訳にはいかない」
レイの言葉を遮ったのは、エトネの一撃を受けたはずのクリシュだった。髪からは雫が雨のように垂れ、槍を杖のようにして男は立ち上がった。
「止せ、クリシュ。これ以上戦っても、勝ち目は無いはずだ」
ダリーシャスの制止にクリシュはどういう訳か薄く笑った。そして、男は槍を構えて告げた。
「笑止。勝ち目の有無で、戦いを止める理由には当たりません。ナキ家の者は、ただ主命を果たすためだけに存在するのです。……いざ!!」
琥珀色の瞳に宿る強い意思は誰にも止められない。男の最後の突進をレイは受け止めようとした。しかし、するりと割り込んだ影に邪魔をされた。
それはエトネだった。
「子供といえど、我が前に立てば敵。容赦はしないぞ!」
クリシュの鋭い槍が滑るようにエトネの胸を貫いた。レイが驚きで硬直すると、クリシュが怪訝な顔を浮かべた。
どろり、と。
槍が突き刺さったエトネの体が水となって溶けた。
「水の分身!? だとすれば―――」
「―――おそいよ」
声は真上から降り注ぐ。レティの生み出した盾を足場として蹴ったエトネの体が、砲弾のようにクリシュを襲う。槍を構えようと引き寄せるも、水分身がクリシュの体を拘束して身動きが取れなくなる。
無防備となった男の顎を、エトネの渾身の一撃で揺らした。次いで、みぞおち、ひざ裏と流れるように拳と足刀が叩き込まれた。
「む……ねん」
鋼鉄のような意思を宿したクリシュの体が、ようやく地面へと崩れ落ちたのだった。
読んで下さって、ありがとうございます。




