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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第4章 エルフの隠れ里
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4-49 修行の成果 改訂版

※ 戦闘シーン増量。

 レイを囲う六人の集団はいわゆる冒険者崩れのゴロツキ。真っ当に迷宮に潜り、モンスターを相手に命を削るような生活よりも、他者の稼いだ金を奪う事を選んだ集団。


 ステータスの更新をすれば積み上げた罪状は一発でばれる。結果的にギルドから離れていき、アウトローの仲間入りをした。


 元冒険者の集団と言う事もあり、レベルは30から40の間。頭目である大男は60を超えている。例え、自分たちよりもレベルが上の冒険者でも一人を多数で囲めば絶対に勝てると慢心していた。


 男達が今囲っているレイも、見てくれはひ弱な冒険者である。一見して、値打ちのありそうな武器を提げ、年齢にあわない大金を持ち歩いていることから、貴族か大商人の子供が冒険者ごっこをしているのだろうとタカをくくっていた。


 そのため、レイがファルシオンを抜いてもなお、見下していた。此方の方が上だと侮っていった。


 ―――その驕りをレイは突いた。


 まず、手近に居た男へと一気に距離を詰めた。レイを囲っている集団の中で一番装備の貧相な男だった。構えている錆びた剣に、碌に手入れがされず輝きを失っている防具。顔色も悪く、頬もこけていた。おそらく、この集団の中では一番の下っ端なのだろうとレイは推測していた。


 その推測が正解だったかどうかは不明だが、男は自分に向かって迫るレイに対して慌てて剣を振り回した。まさか、この状況で向かってくるとは思っていなかったようだ。剣は出鱈目な軌道を描く。


「ふんっ」


 レイは出鱈目な軌道を描く剣を横一文字に振ったファルシオンで叩き折った。まるで楊枝を折るかのように男の剣は半ばから折れた。


「ひぃ、ひいいい!!」


 男は半ばで折れた剣をレイに向けて放り投げた。唯一残った武器だというのに、それを手放したのだ。男の顔には下卑た笑みは消え、恐怖で引きつっていた。


 レイは手甲で投げつけられた剣を弾くと、拳を握りしめ、一気に男の腹部へと叩き込んだ。かつては鍛えてあったであろう肉体は既に緩み切っており、レイの拳に耐えきれなかった。


「―――っ、ぐぼおおぉぉぉ!」


 膝から崩れ落ちた男はそのまま、自分の吐き出した吐しゃ物の海へと沈んだ。レイは素早く距離を取ると、残りに向き直った。


 五人に減った男たちは多少なりともレイへの認識を変えた。しかし、それは多少に過ぎない。レイの推測通り、いましがた倒された男はこの集団の中で一番の下っ端である。彼らにしてみたら、獲物を取り囲む壁、人数合わせのような存在に過ぎない。やられても、問題は無かった。


 だが、ゴロツキ達にとって好ましくない状況になった。


 六人から五人に減った事で囲いが不十分となったのだ。地面に倒れたままの男の分、逃げるスペースが出来てしまった。


(てめえら! 特大の獲物を逃がしたら承知しねえぞ!!)


 大男は手にした大剣で首を切る真似をして、手下たちを脅した。尻を蹴とばされた手下たちはレイを逃がすまいと抜けた穴を塞ごうとする。


 だが。


 くるり、と。


 レイは躊躇うことなく、集団に背中を見せた。囲いに出来た穴から逃走を図ろうとする。


「てめぇ! 待ちやがれ!!」


 あと少しで、レイに飛びかかれそうな位置に居た男が真っ先に反応した。下っ端とは違い、身に着けている防具も、手にした剣も質は良くないが手入れされていた。単独で追いかけても、レイを屈服させる自信はあった。


 だから男は無警戒にレイを追いかけ、すぐに反転したレイの一撃に驚愕した。


「うおおおおお!?」


 反転した勢いを利用した片手による逆袈裟切り。男の頭上から斜めに振り下ろされた一撃はファルシオンの重みも加わり、死を意識させるのに十分な一撃だった。


 男は足の筋肉を総動員して急ブレーキを掛ける。さらに、迫りくる刃から逃れるために上半身をこれでもかと逸らした。咄嗟の本能から倒れる事だけは避け、手にした剣を地面に突き刺し、杖のように体を支える。


 轟っ、と音がする一撃は辛くも男の目と鼻の先を通り過ぎて行った。


「はっ、はっ。肝冷やした―――あぶぅ!」


 間一髪で生き残った余韻を味わう事も無く、男は無様な悲鳴を上げた。なぜなら、地面に向けて背中から落ちたのだ。


 レイの目的は最初から、男の足を止める事にあった。逆袈裟の一撃は足止めの牽制だ。振っている途中で右手から左手にファルシオンを持ち替えていた。そして、上半身を逸らしたままの男の横に来ると、相手の右足に自分の右足を絡ませ、相手の首を掴んで下へと叩きつけたのだ。


 柔道で言う所の大外刈りに近い。もっとも、ちゃんとした指導を受けたわけでもないので、レイの能力値パラメーターまかせの強引な投げだ。


(背中から落ちると、息が出来なくて痛いんだよな)


 目の前で呻く男を冷めた感情でレイは見下ろしていた。今の一連の流れはミラースライムが行った戦い方だった。逃げたふりをして、ワザと誘い込む。投げの仕方も、ミラースライムを手本として、形だけを真似た代物だ。


 レイは止めと言わんばかりに、男の胸に向けて足を振り下ろした。鉄板入りのブーツの下で骨が砕けた音がした。


「て、てめぇえええ!!」


 四人になった男の内、一人が激昂と共に駆けだした。後ろで大男が制止の声を上げるが、聞く耳は持たなかった。奇しくも、レイと同じファルシオンを持っていた。


 両者のファルシオンがぶつかり、鋼が鋼を打つ音が繰り広げられる。


 一合、三合、五合と数を増すごとに、男が上げていた気炎は萎み、背中を冷たい汗が流れ落ちて来た。


(な、何だコイツは!?)


 男は言葉に出来ない違和感に表情を引きつらせていた。武器を打ち合わせる度に伝わってくる情報というものがある。相手の技量や、おおよそのレベル。達人となれば、相手の心まで読み取れるようになるが、両者はそこまでの領域に達しては居なかった。


 それでも、同種の武器を使っている分、互いの実力差は明確だ。


(俺よりも、強えぞ。……レベルもだが、技術もかよ!?)


 年若い見た目の割に、レイの太刀筋は乱れていない。ファルシオンという、分厚い鉈のような剣を振り回す姿に、迷いは無かった。息を切らしかけている相手よりも余裕があるレイは思考を戦闘から切り離していた。


(……自分でも驚くぐらい、上達している。やっぱり、ちゃんとした手本があったお蔭かな)


 武道の経験が無かったレイにとって、ミラースライムの繰り出す剣筋は手本そのものだった。五日という短い期間を何度も繰り返す中で、目指すべき境地があるというのは少年を飛躍的に上達させた。 


 少なくとも、ゴロツキを相手にして遅れる事は無かった。攻撃の回転速度に男は付いて行けてなくなる。このままでは押し切られると判断した男は一度引いて戦技か技能スキルを発動しようと企んだ。


「くそっ! 《あがっ》!!」


 無論、そんな猶予をレイは与えなかった。距離が開いた分を更に詰め、ファルシオンの峰で男の顎を砕いた。


 これもミラースライムとの戦いで得た教訓の一つだ。戦技も技能スキルも、戦闘の流れを一気に変える威力を持つ。だが、それには必ず、詠唱が必要なのだ。熟練者となれば剣を振りながらも詠唱は可能である。だが、未熟な者は得てして距離を取ってからでないと詠唱が出来ないという弱点を晒す。


 レイもそうだった。


 相手の空振りを誘発させるべく、《心ノ誘導》を発動しようとして、顎を砕かれた。発声できなければ詠唱は出来ない。


 顎を打ち抜かれた衝撃で、脳を揺らされた男は地面に崩れ落ちた。これで残ったのは三人となった。


「……おめえ、何者だ」


 ここに来て、男たちはレイに対する警戒心を最大限に引き上げた。表情は引き締まり、ぎらついた殺気を放つ。


 それでも赤龍の放つ死の圧力に比べれば微々たるもの。レイは微塵も気にせず、自然体のままだった。それがゴロツキ達にとって余計に不気味に映った。


「見ての通り、冒険者さ」


「……名乗ってみな」


「えっと、……『ミクリヤ』所属のレイだ」


 大男に言われて、レイは気恥ずかしげに正式登録されたばかりのパーティー名を告げた。男たちは聞き覚えの無い名前に首を捻る。


「『ミクリヤ』だ? 聞いたことねぇぞ!」


「そりゃ、そうだ。正式に登録されて二、三時間ぐらいのパーティーだ。出来立てほやほやだぞ」


「舐めてんのか、お前!!」


 小男が唾を飛ばして吼えた。もちろん、レイは至極真っ当に受け答えしているだけだ。


 仲間を半数も失った男たちに退くつもりは無かった。理由は幾つかあるが、一番の理由は、失敗すれば雇い主に見限られることだ。ここでレイを見逃せば、少なくとも、この闇市でこういった稼ぎは出来なくなる。逃がすという選択肢は無い。


 一方でレイは逃げる算段を考えていた。


 元々、彼が考えた作戦は単純だ。一対六で勝機が無いのなら、一対一を六回繰り返す、だ。誰が聞いても頭の悪い作戦に聞こえるが、実際の所、ここまでは上手く行っていた。


 だけど、ここから先は厳しいだろうとレイは考えていた。


 残った敵は三人。人の背丈はあろう大剣を抜いている大男。装備も雰囲気も、男たちの中で際立っている。


 その大男から離れようとせず、様子を伺っている小男。手にした鞭はレイにとって未知数な武器だ。


 最後は斧をちらつかせて、レイとの距離を縮めている男だ。地面に伸びている男たちとは違い、レイを舐めた様子は無く、真剣な顔つきである。


(巾着に入った現金は痛いけど……諦めた方が無難かな……それとも、戦ってみるべきか……いや、それでも分が悪いな)


 レイは決して男たちを侮っていない。六人が三人減ったとしてもいまだ自分の方が不利だと弁えている。向うが警戒している今なら、虚を突いて逃げる事もできるのではないか。


 そう考えていた。


 しかし。


 決断するのが一瞬遅かった。


「うぉおおお! 《敵を討つまで、此の身は止まらぬ》!!」


 斧を持った男が技能スキルを発動したのだ。《激昂ノ鬼》Ⅱ。生命力と耐久力を上昇させ、代わりに戦闘が終わるまで目標を変える事の出来なくなる技能スキルだ。狙った獲物は逃さない。


 目が充血し、息を荒くして斧を持った男が突進してくる。横薙ぎの一撃をまともにくらえば、レイといえど吹き飛ばされてしまう。ゆえにレイは地面を転がる事で回避した。


「逃がすか!!」


 男は無理やり、横に薙いでいた斧の軌道をずらした。あらぬ方向に振り回される斧のせいで、男の筋繊維がぶちぶちと音を立てて千切れるのもお構いなしだ。まるでゴルフのスイングのように地面すれすれを斧は通る。


「うわっ!」


 レイは自分を追いかける斧を手甲で受け止めた。衝撃で火花が散り、レイの体は己の意思とは無関係に地面を転がった。近くにあった露天の台にぶつかる事でようやく止まったが、衝撃で傾く台から商品が雨のように顔に落ちた。


「……っうう。なんつう馬鹿力だ」


 レイは落ちて来た商品を払いのけて立ち上がり、正気を失っている男に向けて意識を集中させた。


 ―――つまり、他の二人に対して警戒を忘れたのだ。


 気が付いた時には遅かった。視界外から振るわれた鞭がレイのファルシオンに絡みついた。鞭を振るう小男はレイからファルシオンを取り上げようと引っ張った。当然、レイは渡すまいと抵抗する。


「嘘だろ、この鞭。切れないぞ!」


 絡みつく鞭はファルシオンの刃に触れているというのに切れる気配はない。小男の鞭はあるモンスターの伸縮自在な舌を加工した特別製。しなやかな見た目とは裏腹に強靭性を兼ね備えている。


「ガアアアア!」


 斧を持った男が咆哮と共にレイへと駆けて行く。狙いは動きを止めているレイだった。高々と振り上げられた斧はさながら断頭台の刃だ。レイは瞬時に判断を下す。


 ファルシオンを手放した。レイの手から離れたファルシオンは小男の方へと宙を飛んだ。


 そしてレイは迫りくる斧に対してバジリスクのダガーで迎え撃った。


 ぎゃん、と。鋼を削るような音がした。バジリスクのダガーは斧の軌道をずらした。そのまま斧は地面へと食い込み、抜けなくなった。その隙をレイは逃さない。ダガーを振るい、男の剥きだしの皮膚を浅く切った。


 致命傷には至らない傷。だけど、麻痺毒を持つバジリスクのダガーなら動きを止めることが出来る。レイはこの集団を殺すつもりは無かった。無力化して、しかるべき場所へ突き出すつもりだった。


 だが。


「グオオ! ガァ!!」


 力任せに抜かれた斧に衰えは無かった。レイは振るわれる連続攻撃をダガーで逸らす。


技能スキルを発揮した、そいつは多少の状態異常なんか無視して動くぞ! 当てが外れたな、ガキ!!」


 大男がレイに向けて叫んだ。元冒険者だけに武器を見る目は確かで、レイの持つダガーの麻痺毒を看破していた。


「どう、やら、そう、みたい、だな!」


 斧を持った男はすでに理性を無くしていた。涎を垂らしながら攻撃を繰り返す姿はまるでモンスターのようだった。


 その時。レイは自分の腰辺りに熱を感じていた。発生源は見なくても分かる。龍刀コウエンだ。


 なぜ、自分を使わないのか、と。苛立ちを告げるように熱は増していく。


(使いたいのは山々だけど、抜く暇がないんだよ!)


 男の攻撃速度は重量のある斧とは思えない程早い。ダガーで受け流すのが精一杯だった。男の出鱈目な攻撃に耐えられる強度を有しているのか、それとも思考するだけの理性も無くしたのか、斧がどうなろうとも攻撃の手を緩めようとはしない。


 津波のように途切れる事のない攻撃によって、レイはコウエンを抜く暇は無かった。こうなると、むしろ気がかりなのは、いつ暴走するか分からないコウエンよりもダガーの方である。


 分厚い刃のダガーではあるが、レイの強化された能力値パラメーターを受け止めるのがやっとである。そこに加えて、技能スキルで筋力を増した男の斧を受け止めているのだ。いつ、刀身が折れてもおかしくは無かった。


 レイは津波のような攻撃を躱すと、精神力を集中させた。その変化にゴロツキの頭目や小男は気づくも、斧を持った男だけは気づかなかった。彼は止まる事を知らず、レイへと襲い掛かる。


「グリュアアアア!!」


 人とは思えない叫び声を上げて男は斧を振り上げた。


「くらえ、《崩剣》!」


 対してレイはダガーに纏わせた精神力を戦技へと昇華させた。両者の武器は接触すると、片方は両断された。


 両断されたのはゴロツキの斧だった。曲線を描く刃先の中央から、斧頭までがずるり、と切り別れた。


 不思議な事に、その断面から灰とも砂とも区別のつかないものがこぼれ落ちた。これこそがレイの新しい戦技、《崩剣》の真価だった。切った物の断面を崩壊させることによって修復不能へと追い込む。それは物だけじゃなく、モンスターも人も同じようになる。《砕拳》が一点から全体を砕く拳なら、《崩剣》は描いた線の部分のみを崩す剣である。


 斧という脅威を取り除いたレイだったが、息を吐く暇は無かった。柄しか残っていない斧を手にした男は、それを投げつけると、素手で殴りかかってきたのだ。無論、レイはダガーで応戦する。


 瞬く間に男の肌に幾筋もの裂傷が出来上がる。すでに、バジリスクの毒は体内へと深く侵入しているはずだ。なのに、男に止まる気配は無かった。


「くそったれ! 殺したくなっていうのに……どうすりゃ、いいんだ」


 レイはアッパー気味の右拳を躱しながら呟いた。男はすでに顔色も悪く、息も荒かった。麻痺毒にやられている体を精神が無理やり動かしているようなもの。遠からず破綻する。死という結末を迎える。


 その結末をレイは認めるつもりは無かった。敵であっても、極力殺さずにいたかった。レイは男を救うためにある決断を下した。


 男の左拳が振り上がった瞬間を狙い、技能スキルを発動させる。


「《留めよ、我が身に憎悪の視線を》!」


 《心ノ誘導》を至近距離で浴びた男は、暴走する本能に従い、無理やりな軌道を描く拳を振るった。レイはそれを難なく躱すと、男の左わきにダガーの刀身を当てた。そして、イメージする。ダガーから雷電が迸る姿を。


「出ろ、雷撃!」


 レイの叫びに合わせるように、青白い電撃がダガーから放たれ、男の全身を駆け巡る。


「グオオッ!」


 技能スキルによって耐久が上がっていた男も、心臓近くから浴びた雷撃に思わず動きを止め―――白目を向いて崩れ落ちた。頭目も小男もあっけに取られ、何もできないでいた。


 レイはすぐさまゴロツキの頭目に向けてダガーを振るおうとする。両者の距離は、三メートルはある。振った所で当たるはずの一撃では無い。


 しかし、それなりの修羅場を潜った大男は先程の光景を見て、レイが何をしようとするのか分かり身構えた。


「はぁ!」


 意識を集中させ、レイはダガーから発せられる雷撃を飛ばすイメージを作り上げる。レイのイメージ通りにダガーが生み出した雷撃は大男へと迫る。


「へぇ? 大将、何をっ!?」


 ところが、大男は危険を察知するなり、傍に居た小男を摘み上げ、盾のように構えたのだ。レイの飛ばした雷の刃は小男へと命中した。


「ギャアアアア!」


 小男の全身を雷が蹂躙する。大男はすでに小男から手を離し、遠ざかっていた。


 小男は斧を持った男と同様に白目を向いて地面に大の字となって失神した。これで残りは大男一人となった。


「……冗談じゃねえな……まさか、戦技は使うわ、魔剣を持っていやがるとは」


 正確に言うと、レイのダガーは魔剣もどきである。しかし、わざわざそれを説明するつもりも無い為、レイは黙っている。


「だが、ネタがわかりゃ対処の仕様もある。見た所、そこまで使いこなしてないだろ、その魔剣」


 レイは表情を変えずに、されど内心で顔を顰める。事実を言い当てられた。まだ、ダガーの雷撃に対する理解は浅い。何発撃て、最大威力がどれ程なのか。殆ど不明のままだ。


「飛ばした雷撃の速度もそれ程早くねえ。例え近距離で放たれたとしても避ける事は簡単だ。戦技の方も俺に見せたのは失敗だったな。対策なんていくらでもあんだよ」


 言うなり、大男は大剣に精神力を纏わせる。切れ味と耐久力を上げて、レイの《崩剣》を防ぐ気でいる。《崩剣》にしろ、《砕拳》にしろ、精神力を纏わられると効果は十全に発揮しない。赤龍に《砕拳》の効果が発動しなかったのはそのためだ。


 大男は精神力で強化した大剣を振るう。距離が離れているというのに、そのひと振りはレイの所まで剣風を送る。


「俺の剣はそんな短い刀身ごと、てめぇを切り裂く!」


 レイは迷った。すでに相手は大男一人、逃げる事は難しくない。このまま戦闘を続けるよりも一度退いておくべきなのかもしれない。だが、大男の剣幕からすると簡単に逃がしてもらえるとは思えない。ここで逃げたとしてもそれこそ、地の果てまで追いかけてくるかもしれない。断てる禍根は断っておくべきだ。


 そうなると今度は別の問題が浮上する。先程から自己主張を続けるコウエンだ。戦いを続ける以上、ダガーよりも龍刀を抜くしかない。龍刀を抜くリスクと大男たちに追いかけられるリスクを天秤にかけ、レイは決断した。


「参ったな。まさか、こんな人のいる場所でお前を抜くことになるなんて」


 レイは一瞬、闇市が炎に包まれている光景を想像してしまった。コウエンを抜くというのはそうなる可能性が生まれるという事だ。


 だが。抜くしかない。


 こんな奴を相手に死んで、《トライ&エラー》を発動し、因果を重ねてしまうのだけは避けたかった。レイはダガーを鞘に戻すと、左手でコウエンの柄を掴む。


 抜き放たれた刀身から紅色の炎がこぼれ落ちた。


「喜ぶのはいいけど、頼むから暴走だけは勘弁してくれよ」


 当然ながら返事など無かった。


読んで下さって、ありがとうございます。

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