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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第4章 エルフの隠れ里
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4-44 旗印 『前編』

「そうだ、魔剣で思い出したんだが……少し待っておれ」


 レイの腰に提げられた刀を、目を細めて見ていたテオドールだったが、先程の自分の言葉から何かを思い出したかのように作業台の引き出しを開けた。


 その中から鉄製の小箱を取り出すと、作業台の上に置いた。レイ達は自然と作業台に吸い寄せられる。


 鉄製の小箱の蓋が開けられると、リザが声を上げて驚いた。


「これって、ご主人様のダガー!」


 彼女の言葉通り、鉄製の小箱の中に納まっていたのはレイのバジリスクのダガーだった。細かい意匠が何故か変わっているが、鍔元のソードブレイカーの機構はまさにレイのダガーだ。少女の反応にテオドールは満足そうにうなずいた。


「やはり、其方のダガーか。とっておいて正解だったな」


「確かに、僕のダガーですけど、どうしてこれを陛下がお持ちに?」


 レイのダガーは赤龍戦の時に行方不明となった。ダガーの持つ麻痺毒を赤龍に打ち込む為に文字通り眼球に突き刺さった。その後の行方は不明となっていた。


 レイにしてみると思い入れのある大切な物だ。初めて倒したボスの素材から作った武器だけに、無くした後も鞘だけは後生大事にとっていたほど。


 再び巡り合った事に喜びつつも、どうしてこれをテオドールが持っているのかが不明だった。


 テオドールが説明する。


「赤龍の遺体から発見された。鍛冶に関わるものとして、冒険者の持つ武器は見る癖があってな。見覚えがあった。赤龍の体温によって柄などが一部溶けていたのを手直しさせて貰った。許せ」


「そんな! 僕の方こそ、ありがとうございます」


 レイは礼を言うなり小箱に収まっているダガーに手を伸ばした。しかし、ばちり、と言う音と共に手を引っ込めた。


 レイの指が触れる瞬間、ダガーが雷を発したのだ。


「……今度は一体、何をしたんですか、陛下?」


 オルドが何処か冷ややかな声色で尋ねた。


 全員の眼がテオドールに向いた。テオドールは全員から冷たい視線を浴びて慌てて首を横に振った。


「いや! 俺が特にしたというか、いや、まあ、その、なんだ……」


 最初は勢いよく否定したが、次第に否定する言葉から力が失われていく。最後にはうなだれてしまった。一国の主としては情けない姿である。すると、横からダガーを覗いていたシアラが眉を顰めつつ呟いた。


「もしかして……このダガー、魔剣になってないかしら」


「ええ?」


 レイはシアラとダガーを交互に見た。金色黒色の瞳はダガーを隈なく検分していた。魔剣とは魔力を有する武器の事だ。魔人種の体を流れる血は高濃度の魔力を有す。その血を素材として武器や防具を作れば、戦技とも魔法とも違う、特性を有した物が完成する。


「前に主様の腰から奪った時には感じられなかったけど……今はこのダガーから魔力を感じるわ。凄く微量だけと、歴とした魔剣よ、コレ」


「うむ。其方の言う通りだ」


 うなだれていたテオドールがシアラの言葉を肯定した。


「そのダガーは後から高濃度の魔力を浴びた事で……魔剣もどきとなったのだ。帯電しているので、こうして小箱に収めて仕舞っていた」


「高濃度の魔力……まさか、陛下。貴方の―――」


「―――うむ。俺の戦技、《雷刀双戟らいとうそうげき》を浴びたからだろう」


 テオドールの戦技は刀を代価として発動する。本来の威力に刀の出来栄えによって更に威力を引き上げる。赤龍戦の時に使用された無銘の刀は六将軍第二席ゲオルギウスの血を混ぜた魔剣。戦技を発動させた際、その魔剣が高濃度の魔力として戦技の威力を上げた。


 赤龍を襲った二度の雷は全身を駆け巡る。当然、眼球に埋まっていたダガーも雷を浴びた。そのせいかどうかは不明だが、結果としてバジリスクのダガーは魔剣もどきとなり、雷の属性を得てしまったのだ。


「こんな摩訶不思議な事も起きるとは。うむ、世はまさに複雑怪奇なり!」


 何が面白いのか、満足そうに頷いているテオドールに対して全員は心の中で、やっぱりアンタかじゃないか! と、突っ込みを入れた。


 レイは全てを受け入れた様に嘆息すると、再び手を伸ばした。指が触れるなり、青白い雷電がダガーの表面を走った。だが、レイは覚悟を決めて柄を握る。


「―――っう!」


 先程のコウエン程では無いが、レイは苦悶の声を上げた。彼の全身を微量ながら雷電がはしる。視界がちかちか、と揺れるもレイは手を離さない。リザ達が心配そうに見つめる中、遂に雷電は治まった。


 レイの手の中に、バジリスクのダガーが久方ぶりに戻った。すると、レティが気を利かせて鞄に仕舞ったダガーの鞘を取り出し、レイの腰に鞘を付けた。


「どうぞ、ご主人さま」


「ありがとう、レティ」


 レイはダガーを鞘の中に収めた。リザやレティはその姿に何度も頷いた。彼女たちの見慣れたレイが戻ってきた。オルドは楽しそうに唇を吊り上げると、


「随分とまあ、冒険者らしくなったじゃないか」


 と、褒めた。確かに、レイの姿は随分と二月の間に様変わりした。腰にはファルシオンと龍刀コウエン、それにバジリスクのダガーを差し、身に着けた防具は激戦の爪跡を残している。


 そこにはもうネーデの街での冒険者になりたての少年では居なかった。


 すると、レイの右腰に差してあるコウエンが不満げに熱を発した。まるで、レイがダガーを手にした事に抗議しているかのようだった。レイは柄尻を撫でて、宥めてみた。効果はあったようで、熱は治まった。


「武器に嫉妬する武器って……ある意味呪われた武器だな」


 レイがこの先に一抹の不安を抱いていると、テオドールが注意点を伝えた。


「おそらく、そのダガーは振れば雷撃を放ち、武器を受け止めれば武器を伝い雷を流せるだろう。しかし、武器の芯に魔人種の血を使っていない以上、効果は永久とはいえん」


 すると、テオドールはちらり、とシアラを見た。


「だが、もしかすると、其方の血を染み込ませれば、回復するやもしれん。その時が来たら試すのも一興かもしれんぞ」


 シアラの血はハーフではあるが、簡易的な治療効果があるのは証明されている。テオドールの言う可能性は無くは無いが、どれだけの量の血が必要なのか不明なのがレイにとっては気がかりだった。


「これで、こちらの用件は全て済んだ。改めて、レイ。そしてそのパーティーよ。アマツマラの、いや、シュウ王国の国民を代表して礼を言わせてくれ。本当にありがとう」


 テオドールはレイに向けてしっかりと頭を下げた。エトネは驚きのあまり目をまん丸にしてしまう。全員の話しぶりから、テオドールが王様だと言う事は気づいていたが、そんな偉い人が頭を下げるとは思ってもいなかった。


「おにいちゃんたち、なにもの?」


「ただの冒険者だよ。陛下も、頭を上げてください」


 レイは困った風に言うと、テオドールは頭を上げた。


「僕は貴方たちからそんな風に言ってもらえる存在じゃありません」


 何処か悔やむような呟きはテオドールには届かなかった。しかし、不審そうに眉を顰めたテオドールに対してレイは慌てて告げた。


「あ、あの。陛下は、これから時間は有りますか?」


「……多少ならばな。何か用でもあるのか」


 レイは全員の様子を見た。森での戦闘や特訓によって全員の防具はそれなりに痛んでいる。その上、エトネは防具を母親の物を借り、武器はクロスボウのみ。拳を守るのはバンテージのみの素手のままだった。


「皆の防具の修繕と彼女の武器、防具が欲しいのです。……それと、お話したいことがあります」


「……それはクライノートの森にある、特殊な里に関係したことか」


 テオドールの灰色の瞳に理知的な輝きが宿る。流石に一国の王ともなれば、エルフの隠れ里の事は知っていた。レイは曖昧な表情を浮かべつつも肯定するように頷いた。


 顎に手を当てたテオドールはニコラスを手招きすると、全員の武器と防具の修復、そしてエトネの武器と防具を見繕う様に指示を出した。


「了解しました! ……それで、時間はどれぐらいだ、レイ」


「実は今日にもアマツマラを離れようと思っているんだ。だから今日中が良いんだけど」


 ニコラスはレイが今日中にアマツマラを出ると聞き、あからさまに肩を落とした。しかし、彼も工房に身を置く職人。すぐに職人としての仕事に戻った。


「俺一人なら流石に今日中は無理だけど……他の人に応援を呼んでも良いっすか、師匠」


「むしろ、総出でとりかかれ。……話が終わるまでに終わらせろ」


「りょ、了解です!」


 ニコラスは慌てて他の職人に応援を呼びに行った。レイは防具一式とファルシオンを外しながらシアラに後を任せる。


「エトネの武器と防具の予算はそこまで気にしないで。それよりも本人が気に入った物を優先させて。それと、皆も欲しい武器や防具があったら確保しといて。しばらく新調する機会は無いかもしれないから」


 シアラたちは了解を示すように頷いた。そしてレイはテオドールと共に執務室へと向かう。どういう訳だか、オルドも一緒だったがレイには好都合だった。






 執務室は前に冒険王のレシピを見た時よりも大分荒れていた。あちこちに羊皮紙が山のように積まれ、足元まで散乱していた。それを掻き分けてレイは着席すると、ある事を思い出していた。


「陛下、一つ尋ねたいのですが、宜しいですか?」


「うむ、許そう」


「陛下は此処で、僕に冒険王のレシピをあるオークションで手に入れたと仰っていましたが、それは嘘ですよね」


 テオドールは泰然とした構えを崩さず、座ったまま話を聞いた。


「あのレシピは誰かから、受け取ったのではないのですか?」


 昨日、サファが自ら言っていたのだ。ある若者にレシピを譲った、と。すると、テオドールはにんまりと笑った。


「はっはっはっ! そうか、サファ殿はそこまで話したか。いや、あの御仁からここまで話を聞くとは。これは愉快だ!!」


 上機嫌に笑うテオドールだったが、自分が嘘を吐いていたことを認めたことになる。ひとしきり笑うと真実を語りだした。


「あれは、冒険王のレシピを探そうとする者を真実から遠ざける嘘だ。許されよ。其方の知っている通り、あのレシピはサファ殿から受け取ったのだ」


 すると、今度はテオドールが切り込む番だった。


「やはり其方は『招かれた者』でいいんだな?」


「―――っ! ……やはり、ご存知でしたか。その言葉を。その意味を」


 衝撃で一瞬、息をするのを忘れたレイは、緩やかな溜息を吐く。だとしたら、隠しておく必要は無い。対面に座る二人に向けて暗に肯定を示した。


「うむ。……やはり、そうだったか」


「……いつから、僕がそうだと思っていったんですか?」


「確信したのは今さっきだ。サファ殿の名前が出たからな。可能性だけなら、こやつから聞いていた。オルド、説明してやれ」


 テオドールはオルドに視線を向ける。オルドは禿げあがった頭を指先でかきながら説明する。


「別に確信があった訳じゃない。ただ、お前は色々と派手だったからな。娘の件やゲオルギウス。前から陛下から『招かれた者』たちが特殊ユニーク技能スキルを持つのは聞いていた。……ネーデで起きた出来事をただの冒険者がどうにかできるとは思えなかった。だからもしやと思って、お前を連れてシュウ王国に来たんだ。陛下に会わせる為にな」


 レイはネーデの街を離れる際の事を思い出していた。オルドはあの時、ファルナの命を救ってもらった礼だといい、アマツマラまでの護衛任務を振ってくれたが、実は裏でそのような考えを持っていたとは気づけなかった。


「オルドを始めとした、俺がパトロンを務めている複数の冒険者には『招かれた者』の事を話してあった。もちろん、世界崩壊についても、こいつらには話してある」


「……それじゃ、『七帝』についてもご存じなのですね」


 二人は肯定するように頷いた。レイはその返事に絶望と希望が胸の中でない交ぜになる。クロノスの言っていたことが事実だと裏付けされた絶望と、それに立ち向かおうとしている人が居た希望だ。


「……もしかして、陛下も『招かれた者』なんですか? だから、『招かれた者』や『七帝』を御存じなのですか?」


「それは違う。俺が『七帝』を知るのはシュウ王国に代々伝わってきた申し送り事項だったからだ。王はいずれ来る崩壊に立ち向かうべく、国を栄え、人を育てろと言われてきた。オルドのような強い冒険者の支援をしているのもその一環だ」


 そこで言葉を区切るとテオドールは不審そうな表情を浮かべた。


「それより、俺も『招かれた者』とはどういう事だ? 俺の知る限り、ここ数十年の間に『招かれた者』は来ていないはずだが」


 レイはテオドールに対して神域でされたクロノスの説明を両者にした。『招かれた者』、『七帝』、世界の崩壊、そしてレイの他にいまだに活動を続けている『招かれた者』の存在を。ただし、《トライ&エラー》と彼女が世界救済を諦めた点だけは口を噤んだ。


「なるほど。其方以外にまだ『招かれた者』が居たとは。……オルド、心当たりは?」


「陛下に無ければ、オレにもありませんよ。そもそも、初めて見た『招かれた者』がレイなんですから」


「そうなんですか?」


 レイの疑問にテオドールは残念ながらな、と返した。


「『招かれた者』は今の所大きく分けて二つの行動をとる。一つは徹頭徹尾、自分の素性を明かさずに行動する場合。もう一つはあからさまに開示して行動する場合だ。後者ならまだしも、前者ならどうしようもない。……有名どころの冒険者を当たってみるか」


「『聖騎士』とかはどうでしょうか?」


「あやつか。しかし、あやつは法王庁の管轄だ。迂闊に手を出すわけには行くまい」


 二人が口々に今のエルドラドに置いて有名な人物を上げている間、レイは記憶の隅に引っかかっているものを感じた。


(何だっけ……確か、誰かが異世界人絡みの事を言っていたはずだけど……あっ!!)


 瞬間。脳内で一つの記憶がまざまざと蘇った。


 ―――「そいつがやって来た世界の名はアースガルス。このエルドラドとは違う歴史や文化、魔法体系を用いる世界と聞いています」


 それはリザの言葉だった。彼女が怜悧な美貌を歪め、憎悪と共に吐き出した言葉。彼女の仇はレイとは違う異世界から来た者だ。


(じゃあ、まさかリザ達の仇が『招かれた者』って事かよ!?)


 今のエルドラドにおいて異世界人が来れる方法は13神による『招かれた者』しか居ない。リザの言葉に偽りがなければ、仇と『招かれた者』は同一人物となる。


 その事実に戦慄したレイを置いて、テオドールとオルドの話は打ち切られた。


「……こうして想像を巡らした所で意味は無いな。他に居るという『招かれた者』の人数すら分からんのだから。他の救世主候補についてはこちらでも調べておこう。なにか分かったら、連絡をする」


 リザの仇が『招かれた者』かもしれないという推測に言葉を失っていたレイはテオドールが声をかけても反応に遅れてしまった。


「え、……あ、はい。えっと、ギルドを通じてですか?」


「いや、それだと反応が遅くなるやもしれん」


 根無し草の冒険者と連絡を取り合う方法の一つがギルドに仲立ちしてもらう事だ。しかし、テオドールは否定すると棚に飾ってある水晶球の一つを机に置いた。


「これは魔水晶と言ってな。遠距離での通信が可能な魔道具だ」


 テオドールは適当に書かれた羊皮紙を水晶に押し込めた。すると、水晶球の中で羊皮紙が姿を消したのだ。


「この魔水晶は俺の持つ魔水晶とのみ繋がっている。今後、連絡を取る時はこれを使え。……他の魔水晶と触れ合わせることで、送り先を増やすこともできるぞ」


 差し出された魔水晶をレイは受け取る事は出来なかった。龍刀に始まり、ダガー、そして魔水晶。一介の冒険者に対して王とは思えない好待遇に不信を抱いてしまった。


「恐れながら陛下。一つ尋ねたいです」


「……申してみよ」


 レイは警戒心を滾らせつつ、言葉を選んだ。


「どうして、僕なんかにこれだけよくしてくれるんですか。『招かれた者』だからですか? それとも僕に何かをさせたいのですか?」


 テオドールの態度は一国の王としては破格の対応だった。龍刀に始まり、ダガーの件も、レイたちの装備にしろ、魔水晶にしても。いくら、レイが赤龍討伐に一役買ったかとはいえ、度が過ぎている。同様に『招かれた者』だとしても、釣り合いが取れない。確かにレイは『招かれた者』、つまり救世主候補の一人ではある。しかし、まだ何者でもない、ただの冒険者である。過剰な待遇は警戒心を呼び寄せた。


 テオドールは顎を撫でると端的に告げた。


「両方だな……。やはり、腹芸は好かん。……単刀直入に言わせてもらうぞ」


 テオドールは灰色の瞳でレイをじいと見つめたまま、動かさなかった。殺気や敵意などを漲らせているわけでは無い。しかし、無言の圧力がレイを縛っている。身動きの取れないレイに向けて王は告げた。


「其方には旗印になって欲しいのだ。俺達、エルドラドの国々が作る、『七帝』討伐軍の旗印に」


読んで下さって、ありがとうございます。

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