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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第4章 エルフの隠れ里
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4-37 神々の遊技場 『中編』

 呆然と、クロノスの突拍子もない話をレイは案山子のように聞いていた。


(滅んで、巻き戻した? 何を言ってるんだ)


 理解できない次元の話は続く。


「今のエルドラドに共通の紀年法は有りません。国ごとに建国された時を元年としております。ですから、これは我々、神の視点だと言う事を念頭に置いて聞いてください」


 クロノスは一歩の線を空中で描いた。上から下へ、滝のように真っ直ぐな線だ。


「これがエルドラドの始まりから……終わりの直前までの時間軸です。これを一周目と呼びます。……私達13神は世界が崩壊する直前、総力を挙げて世界を巻き戻しました」


 言うと、今度はクロノスの指が弧を描きながら上へと舞い戻った。そして再び、先程の線を上書きするように下へと向かう。だけど、先程の線の終点よりもわずかに上で止まった。


「これが現在の時間軸です。世界が崩壊する瞬間より千三百年の時を巻き戻し、そこから千二百九十五年過ぎたのが周目の今です。そしてここから前回の時間軸で言う、終わりの時までの時間が―――」


「―――あと五年しかないって事ですか」


 こくり、と。クロノスは肯定するように頷いた。だけど、レイには疑問がいくつも残る。


「質問がいくつもあります。まず、世界が滅んだと言いましたが、どうして滅んだんですか? いえ、どうやってこれから滅ぶんですか」


 レイには世界が滅ぶという事が到底理解できないでいた。確かに、赤龍やゲオルギウス、テオドールなどの規格外の化け物たちは居る。彼らが全力を出せば、国の一つや二つを更地に変える事も出来るかもしれない。


 それでも世界には届かない。彼らの力は、結局のところ個人でしかない。世界という大きな存在を揺るがす事は出来ても壊すことはできない。


 クロノスはどうやって説明すればいいかしばし、思案した結果、先程の瓶をもう一度手元に呼び寄せた。中には水ではなく、小さな玉が隙間なく詰められている。


「この瓶が世界。玉が人の魂だとします。玉の一個一個が個人で、瓶の口を超える数は入りません」


 彼女の手の中で小さな玉が詰まった瓶を揺らす。瓶の中にはまだ余裕があるようにレイには見えた。


「『招かれた者』を呼び寄せるという行為は、他所の玉をこの中に足す行為。それもエルドラドの許容量が並大抵じゃないからこそ出来ました。……ですが、世界というのはこのように蓋の無い瓶ではありません」


 すると、クロノスはコルク栓のような蓋を持ち出すと栓をした。


「問題です。このように栓がされた瓶の中で変化が起きたら、どうなると思いますか?」


「それは……変化の仕方次第です」


 クロノスはレイの答えに笑みを返した。すると、彼女の手の中で瓶が不快な音を立てる。クロノスの言う変化が起きたのだ。固くされた蓋はビクともせず、次第に音は激しくなり―――ぱりん、と。瓶は割れ、中の玉が溢れた。


「瓶の中に起きた変化はこの通りの結果を招きました。……そして、世界の枠組みが崩壊した理由です」


 彼女の白魚のような指先が床を転がる玉を拾う。


「先程申した通り、玉は人の魂です。人の魂の数は一人につき一つ。『招かれた者』が呼び寄せられることがあっても、増える数は微量でした。……ですが私達は体積・・を見落としていました」


「体積? 玉が魂だとしたら―――」


「―――個々人の魂の数は一人につき一つ。ですが体積はまちまちでした。私達は時を巻き戻した後に、この魂の体積に着目しました。世界が崩壊する瞬間、最後に回収したデータを分析したところ、異常なまでに膨れ上がった魂があり、そのせいで世界が耐えきれなくなったのです」


 レイは瓶が割れた瞬間の事を思い出した。あの時、瓶には蓋がされていた。外から魂は追加できない。では、なぜ瓶が内側から割れたのか。その答えがクロノスのひざ元に飛び散ったたまにあった。確かにクロノスの言う通り、玉の体積はそれぞれある程度の差がある。しかし、その中でも特に大きな玉が転がっていた。他の玉がビー玉程度の体積に比べて、その大きな玉は砲丸玉程の大きさをほこっていた。


「異常に膨らんだ魂って、この大きな玉の事ですか」


「はい。世界が崩壊した瞬間。世界を崩壊させたと思われる魂の数は七つありました。私達はそれらを『七帝』と名付け、称号を作りました」


 俄かには信じがたい話に、レイの喉が鳴る。魂の体積だけで世界が壊れるのか。そもそも、何をすれば、それだけ魂の体積が増えたのか。疑問はまだ尽きない。だけど、クロノスの説明は続く。


「玲様。世界が崩壊しかけ、慌てて時を戻した私達ですが、その時待ち構えていたことは何だったと思いますか?」


 新たなクイズに対して、レイはしばし考え込んだ。世界が崩壊する直前を想像して、もしやと思う事があった。


「その……他の世界の神々から糾弾されたとか? 時を戻せば、彼らが連れてきた『招かれた者』たちが消えてしまったから?」


 この発想に至ったのはレイの《トライ&エラー》が最大二十四時間とは言え時を撒き戻す技能スキルだからだ。時を巻き戻せば、その間に起きた出来事は全て無かったことになる。人の死すら書き換えられてしまう。


 レイは正解に辿りついていた。


「その通りです。私達はいわばエルドラドという賭博場を管理するディーラー。ディーラーが客に断わりなく、勝負を無かった事にしたのです。それまでの勝ちも負けも全て無に帰せば、客が激昂するのは当然です。私達は他の神々によって、エルドラドに直接介入する権能を奪われました。こうやって写し身を送り込み、自分が呼び寄せた『招かれた者』と会う事しかできません」


 その言葉は聞き逃せなかった。レイはぐい、と顔を寄せるとクロノスに問うた。


「それじゃ、やっぱり『安城琢磨』は貴方たちが送り込んだ『招かれた者』で良いんですね」


「……ええ。あの者を呼びよせたのは13神が一柱、風を司るアネモネイ―――」


「―――つまり! 貴方たちは何か目的があって、僕ら異世界人を呼び寄せたんですね」


 レイの語気が荒くなる。それは当然だ。この質問が一番聞きたかったことだ。なぜ、異世界人は呼び寄せられたのか。何が目的なのか。それが知りたかった。


 クロノスはレイの剣幕を正面から受け止め、毅然とした態度で答えた。


「私達、13神が『招かれた者』を呼んだ理由。それは……遊戯の為です」


「…………はぁ?」


 なぜ、ここに『招かれた者』を使った賭け事が出てくるのか理解できないレイは、素っ頓狂な声を上げた。クロノスは感情を排したかのように淡々と告げた。


「話は時を巻き戻した直後から始まります。……他の世界の神々の怒りを買った我々はどうにかして世界の崩壊を防ぐ方法を探りました。そのまま再開すれば千三百年後に世界が滅びかねないからです。なぜなら、七つの魂の内、六つはその時点で、千三百年前の時点で存在していました。千三百年後のある日に七つ目の魂が誕生することで世界は終わる。私達が下した決断は二つでした」


 クロノスの指がまず、一つ伸ばされた。


「その時点で存在している肥大した魂を排除する事」


 そして、もう一本指が伸びる。


「もう一つが千三百年後に肥大する七つ目の魂を排除する事。この二つをすればエルドラドの崩壊は防げると考えたのです」


「ちょ、ちょっと待ってください! 千年以上も生きるなんてそんなの、人間なんですか!?」


 レイの狼狽ぶりが面白いのか、クロノスはくすり、と笑う。


「玲様。私がその七つの魂を、いつ人間だと言いましたか?」


「―――っ!? まさか……」


 レイの脳裏に、人ならざる怪物たちの姿が過る。


「ええ。概ね間違っていません。千三百年前の時点で、肥大した六つの魂は精霊や、古代種の龍。それに魔人や邪法で寿命を消し去った者。はてはモンスターもいました。どれもこれも怪物と呼ばれるにふさわしい存在です」


 ごくり、と。レイの喉が鳴る。精霊、古代種の龍、魔人。その力の一端を知っているだけに体が震える。クロノスは「話を戻しましょう」といい、過去の話を思い出すように語る。


「『神々の遊技場』と呼ばれたエルドラドの名声は地に落ちました。なにしろ、様々な神々の『お気に入り』を消してしまったのです。そして、このまま何もしなければ千三百年後には再び崩壊の危機に直面すると分かっているだけに、どの神も『七帝』を排除するのに積極的な協力はしてくれませんでした。エルドラドの修復は13神の手で行われることになりました。すると、ある神が言い出したのです」


 クロノスは手を広げると、ある神の真似をした。


「『神達よ、遊戯をしないか』、と。13神が一柱、光を司る神、ヘリオスです。彼はこう続けました。『今までの我らはエルドラドを管理し、運営する立場。他の神々が遊戯に耽るのを只見ているしかできなかった。だが、此度の変事によって奴らの為に世界を管理する義務が無くなった。つまり、我らが遊戯をする番となったのだ』、と」


 感情を排したクロノスの語りは、どこか無機質めいて寒々しい。ヘリオスという神の真似をしているせいなのか、痛々しくもあった。


「『我らはエルドラドを救うか、もしくは再構築・・・するか決めなくてはいけない。さもなくば、管理する世界を無くし、神の座から落ちるであろう』、と。それは神にとっては悪夢のような事です。無限に近い命を有していながら、管理する世界を無くせば、その無限をどうやって消費すればいいのか分からないのです。どこかの世界を管理する役、神の座に空きがなければ、世界の狭間を漂うしかありません」


「それで、貴方たち13神はヘリオスの言う遊戯に乗ったんですか?」


「……正直に言えば、13神はみな、胸中で鬱屈した思いを抱いていました。私達は『神々の遊技場』の黒子。管理するしかできず、『招かれた者』を連れてきて、どのような物語が展開されるかなんて楽しむことはできないでいました。神々の座から降りる恐怖と魅惑的な誘い。断る理由はどこにもありませんでした。私達は救世主候補を他の世界から選ぶことになりました。各自一人のみ。好きなタイミングで呼び寄せました。最大の目的は『七帝』の排除を目指す事です」


「ちょっと待ってください。他の世界から選ぶって言っても、そこにも管理している神々が居るんですよね。彼らの許可を取らずに人の魂を連れてくるのはいいんですか?」


 レイの疑問にクロノスは「問題は有りませんでした」、と返した。


「確かに、他の神々は私達を糾弾しましたが、一方でエルドラドが正常に機能するのも願っていました。彼らは千三百年後の崩壊を乗り切った後の世界で遊戯を行う事を渇望し、己が世界の魂を譲るのに躊躇いませんでした。……こうして他の世界で英雄とも勇者とも奸雄とも魔王とも呼ばれた救世主候補たちが13神の手によってこちらの世界にやって来ました。この千二百九十五年の間に貴方を除いた十二人が降り立ちました」


 その中の一人が安城琢磨だった。


「遊戯というからには勝利した際の報酬もあります。『七帝』を排除した数やエルドラドの発展にどれだけ寄与したかなど幾つもの項目を総合的に評価して、一位になった救世主候補……いえ、真の意味で救世主となった者を送り込んだ神が、13神の中の主神となる。それが勝利の栄冠です」


「主神……神様の中のリーダーみたいな存在ですか」


「概ねそうです。エルドラドの崩壊が回避された時。エルドラドをどのように管理するのか。これまでは13神の意見をすり合わせて、平均的なプランを練る事で運営されていました。ですが主神を決めれば、最終的な決定権をその神に与える事になります。神の一存で世界の行く末が決まります」


 無意識に、レイは自分の胸元に手を当てていた。ひんやりと冷たい鎧の奥底で心臓が爆発するような音を立てて鼓動していた。


(僕ら異世界人は、神々の玩具。ゲーム盤の駒って訳かよ!!)


 怒りに任せて剣を抜き、クロノスにつかみ掛りたい。幻影でそれが叶わないのなら、口汚く罵りたい欲求にかられる。


 だけど、それではブーリンの前での失態と何ら変わりない。怒りを他者にぶちまけた所で、状況が好転するとは限らない。何度も自分に言い聞かせる事で怒りを抑えていた。


 すると、不思議な事に気づいた。


 感情を排しているはずのクロノスの手が震えている・・・・・のを。


 彼女はレイの視線に気づくと、手をトーガの袖口で隠してしまう。


「……貴方たち『招かれた者』はこの世界に転生、あるいは転移する際に、最低でも一つ。多くても四つの特殊ユニーク技能スキルを手に入れます。玲様の場合は《トライ&エラー》ですね」


「その技能スキルに付いても聞きたいんだ。この技能スキルは使用制限があるのか? それに自殺した場合の『使用不可』。この状態で死ぬと死に戻りは発動しないのか。それと能力値パラメーターの低下は複数人の同時死亡が原因なのか。それに死に戻りの最中のイタミに耐えきれなかったら、やっぱり死ぬのか。……そもそも、何でこんな技能スキルが手に入ったんだ?」


 レイの矢継ぎ早な質問にクロノスは一つずつ、答えていく。


特殊ユニーク技能スキルに付いてですが、詳しい事は私達にもよく分かりません。この技能スキルは元の世界で成し遂げた偉業や結果、あるいは持っていた異能や在り様がエルドラドの形式に合わせるように変化しているのです。つまり、『招かれた者』の特殊ユニーク技能スキルは私達が与えた物ではなく、その者の持つ資質を表しています。その事を踏まえた上で、私達の観測した結果からの推察となりますが、宜しいですか?」


 クロノスの断わりに対してレイは頷いてみせた。


「では。……まず、一つ目の使用制限に関しては無限と思っていてください。理由は後で説明します。『使用不可』については前例があります。その方も『使用不可』が付いている間は技能スキルは発動しません。その事から玲様のも恐らく」


「……そうか。そうなんだな。その時は普通に死ぬのか」


 これで自殺は最大の禁じ手となった。死に戻れるのがレイの強みなだけに、自殺という手段が簡単に使えないのは厳しい物がある。


「それと、解除の仕方は分かりません。条件なのか時間制限なのか、観測している側からでも掴めません。……次に能力値パラメーターの件ですが、玲様の考え通りです。貴方の契約している戦奴隷。彼女たちの誰かと同時に死ぬと低下します。そして、これはよく分かりませんが、合わせるように白髪も広がっていきます」


 クロノスは言うと、両手の人差し指をそれぞれ立たせて、前に突き出した。


「仮にこの二本の指をそれぞれ、玲様と戦奴隷とします。戦奴隷が死ねば、奴隷紋の契約で玲様は死にます」


 片方の指を折り曲げて、次いでもう片方の指を彼女は折る。


「ですが、同時に死ぬと少し違います。赤龍のブレスで同時に死んだ場合を引き合いに出します。ブレスによって貴方たち二人は同時に死にました。そして、死に戻りが発動する、と同時にもう一つの呪いが発動していました。それは対等契約です。戦奴隷と共に死んだ場合、玲様は二度の死を一度に味わうことになっているんです」


 直接の死因ブレスと対等契約の呪い。この二つが過去に戻るレイの魂を削り取っていたのだ。結果、彼の能力値パラメーターが減ってしまうのをクロノスは観測所から見ていた。


「そして、死に戻りのイタミに耐えきれなかった場合。それは玲様。貴方が先程見た通りの結果です」


 クロノスの言葉にミラースライムの死に姿がまざまざと蘇ってしまう。つい先ほど見てきた光景だけに細部までよく思い出せる。自分と同じ姿の死体だけにショックは大きい。


「観測所から、あのミラースライムがどのように《トライ&エラー》を使っていたか見ていました。あのモンスターは玲様と同じことをしていました。何度も何度も死亡してはやり直しを繰り返し、どうにかして貴方様を殺せる結末に辿りつきました」


 ミラースライムは本当の意味でレイの戦闘を真似ていたのだ。いままで、彼は格上の相手も、数多の敵も、何度も死に戻る事で攻略法を見つけて倒していた。ミラースライムはそれを真似した。


 一度のやり直しで駄目なら、二度、三度、七、十、二十、と敗北を乗り越えて、勝利へと辿りついた。なまじ、レイの方もミラースライムに追いついた手ごたえを感じてしまい、深追いした結果、逃げる事も出来なかった。戦いを止めると言う選択肢も選ばなかった。


「《トライ&エラー》の意趣返しってわけか。笑えないな」


 レイは自虐的な笑みを浮かべてしまう。今までにしてきた行いが自分に返って来たのがミラースライムとの戦いの真実だった。


「ですが最後の四十戦目の玲様に殺され、何度もやり直しを繰り返しました。ですが、そのどれもが失敗に終わり、何十、いえ、百を超えても勝利することはできません。やり直した全てで、玲様は新しい戦技を習得され、それを超える事が出来なかったのです。遂には死に戻りに耐えきれなくなり精神を崩壊させました。結果、玲様の勝利した時間軸だけが残り、ミラースライムの死が確定しました。……つまり―――」


「―――僕も死に戻りのイタミに耐えきれなくなれば、ああなってしまうって訳か」


 言いづらそうに口籠るクロノスの代わりにレイは告げた。控えめにクロノスはこくり、と頷いた。


「ミラースライムの場合。戻れる時間が玲様の《トライ&エラー》をコピーした瞬間しかありませんでした。逃げることが出来ず、戦いを回避すると言う選択肢を選べなかったのです。……どうしても勝てない相手を前にした時は逃げるという選択肢もあります。それをお忘れなきように」


 彼女が何を言いたいのか、レイは直ぐに分かった。ゲオルギウス、赤龍。独力ではどうしても勝てない相手に何度も挑んだことを暗に窘めている。


 そして、話が最後の謎に迫る。


 なぜ、御厨玲に《トライ&エラー》が宿ったのか。


「これは先程の使用回数とも関係しますが、私はこの技能スキルが宿った原因は貴方の肉体がまだ生きていることにあると思われます。エルドラドよりも上位の世界、神の観測所で治療されている御厨玲様の肉体。エルドラドの貴方が死んでも、こちらの貴方が死んでいない以上、どちらかに帳尻を合わせないといけない。結果、上位世界である神の観測所側に影響され、貴方は死に戻れる。……ということかと思います」


「死んだけど、死んでない。その矛盾を修正しようとする力が《トライ&エラー》って訳かよ。……それじゃもう一つ質問だ。世界が崩壊するまであと五年。僕の体が修復されるのにあと五年。これってなんで同じなんですか? これにも理由があるんですか」


「これは偶々です。私達が全力を尽くしてどうにかエルドラドが崩壊する前に回復できる見込みがあるから、貴方をエルドラドに送ったのです」


 クロノスの言葉にレイは頷きつつも違和感を拭えずにいた。先程から感じていた齟齬を考える。


(何だ? 何か変だぞ。……クロノスはさっきから何かおかしなことを平気で言っている。それは一体―――っ!)


 レイの中で一つの疑念が形を成した。


「なんで……なんであなたは」


 クロノスは言いよどむレイに対して首を傾げた。絞り出すかのようにレイは尋ねた。


「何で貴女は、いままで『招かれた者』を呼んでいなかったんですか? 世界救世という遊戯に参加せず、この時まで何もしていなかったんですか」


 その質問にクロノスは全身を硬直させた。彼女自身先ほど言っていた。13神がそれぞれに呼べる『招かれた者』は一人まで。レイを呼んだのがクロノスである以上、彼女は二か月前まで遊戯に参加していなかったことになる。


 考えられる理由は二つある。一つは遊戯自体がすでに終わっている場合だ。『七帝』の内、現存する六つの魂を排除して、遊戯が終了した可能性。しかし、これはあり得ない。クロノスは五年後にエルドラドの崩壊が待っていると先程から言っている。つまり『七帝』の脅威がまだ残っているのだ。


 もう一つの可能性。それは。


「それは……私が遊戯を降りてしまったからです」


 彼女自身に参加する意思や理由が無くなった場合だ。参加する気が無いから、権利だけが残っていた。


「どうして貴女は世界を救うつもりが無いんですか?」


 13神や、他の神々が行ってきた遊戯をレイは認めるつもりは無い。だけど、少なくとも何もしなければ世界が崩壊してしまう以上、13神を否定することもできない。遊戯を行う理由は私欲だが、世界を救済するという目的は正しい。それなのにクロノスは参加していなかったのだ。


 レイが静かに問いただすと、クロノスは話し始めた時から被っていた無機質な仮面を外した。その下から、どこか疲れた色が露わになった。


「玲様。最後の問題です。これまでの千三百年の間に、私を除く13神たちは全員、『招かれた者』を呼び寄せました。……十二人の世界救世主候補は『七帝』を何体倒したとお思いですか?」


 先程の、レイの中に芽生えた疑念とリンクした。最悪の想像をレイは口にする。


「……誰も倒せていない。だから貴女は諦めてしまったんですか?」


 半ば確信めいた回答だった。だけど、クロノスは首を横に振って否定した。


「不正解です。……正解は『七帝』の内、現存していた六つの魂は全て排除されました。……そして」


 一拍開けた後、彼女は言葉を継ぐ。レイの予想を上回る最悪の現実を告げる。


新たに肥大した・・・・・・・六つの魂・・・・が誕生しました・・・・・・・。……言ってしまえば、新生『七帝』が誕生したのです」


読んで下さって、ありがとうございます。

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