4-27 エルフ料理
室内にどんよりとした湿った空気が立ち込めていた。レイ達は里長の計らいによって、先程通された客人用の小屋をそのまま借り受けた。隠れ住むように暮らしている割に、急の来客に備えて家の中は清潔に保たれている。藁で編まれた床板に、洞窟内とは思えない程室内に明かりが煌々と煌めいている。
そんな輝きをも通さない黒い低気圧が二つ、部屋の片隅に蹲っていた。
片方はエトネだった。
集会所を出てからも無言を貫き、小屋に戻るなり部屋の片隅に蹲った。座ったままの状態で膝を立てた足を両腕で抱える。そして膝頭に額を着けた。
いわゆる体育座りである。
その状態を小屋に入ってから一時間もの間崩さない。その間、泣くわけでも、恨み言を言う訳でも無く、ただ押し黙っている。気を使ったレティが何度も話しかけたり、用意された茶葉で入れた緑茶にも何の反応を見せない。
まるで嵐の海に投げ出されて抗う事もできず漂う樽の様だった。その場をじいと動かないで蹲る。
甲斐甲斐しく世話をするレティに対してシアラは嘆息した。
「……どう考えても、逆効果だと思うんだけどね」
呟きを拾ったリザは訝しげにシアラに向いた。
「あれは悲しくて思考停止しているんじゃなくて、この先を如何しようかずっと考えているのよ。その証拠に、ほら」
シアラが促すと、薄らと顔を上げて、虚空を睨むエトネの瞳をリザは見た。萌黄色の瞳は悲しみを抗おうとする強い力が宿っている。あれは覚悟を決めた目だとリザは理解した。
「ね? あの子は大丈夫。立ち方を知っている子よ。今は転んだとしても、ちゃんと時間を上げれば、自分から立つわよ」
言うと、緑茶を啜る。流石に七十年を生きている魔人種。人間観察の経験値が自分たちよりもよっぽど高いとリザは感心した。
ところが。
急に表情に苦い物を浮かべてシアラは言う。
「問題は……こっちね」
「……ええ、まあ」
二人して言葉を濁すと、エトネとは反対側の部屋の隅で沈んでいる男の方を見た。藁の床に腹這いに伏せ、頭を抱えて唸っていた。
レイである。
「ああ、なんであんな風にキレてんだよ、僕は。もうちょっとこう、上手く交渉したりとか、下手に出て相手の機嫌を取るとか、妥協点を探るとかあるだろ。なにを偉い人に飛びかかってんだよ。許してもらえたから良かったけど、下手すりゃ皆殺されても文句も言えない場面だったんだぞ。ホントに何をやっているんだ。エトネの事を考えれば、穏便に事を運ぶべきなのに……たとえここで十五歳といっても、実年齢は二十歳なんだぞ。もっとこう、大人の対応をするべきなのにああ、くっそ!!」
ぶつぶつと後悔を呟くと頭を掻きむしって、床をごろごろと回った。そして、部屋の隅にぶつかると停止し、今度は壁に向かって愚痴を呟きだすのである。人が自己嫌悪で死ねるとしたら、とうの昔に死んでいるであろう落ち込み具合だ。
エトネと同時に、小屋に辿りついてからずっとこうなのである。むしろエトネ以上に陰気な空気を醸し出していることもあって、レティは主に対して背中を向けていた。関わりたくないのだろう。
それはリザとシアラも同様だったが声を掛けない訳にもいかなかった。
「ねえ、主様。落ち込んでもしょうがないわよ。もう仕出かしちゃった事は無かった事には出来ないんだから。そもそもそんなに落ち込むぐらいなら、殴りかからなければよかったじゃない」
「……それはそうだけど。気が付いたら、体が動いてたんだよ。……どうしてだか分かんないぐらい頭に血が上ってさ」
「そりゃ、エルフの対応が血も涙もない非情なのはワタシだって思う所は有るわよ。でもね、それはエルフとあの子の事情。主様が一緒になって……ううん。主様が先に怒る事じゃないわ。筋違いも良い所よ」
シアラの言葉はとても正論だった。何一つ間違った点は無い。それはレイ自身、理解できたことのはずだった。それなのにどうしてあれ程の怒りをブーリンに対して抱いたのか。それが自分でも不思議でしょうがなかった。
「そういえば……ご主人様のご家族とかは御健在なのでしょうか?」
「急にどうしたの?」
リザが家族の事を聞くのが珍しいと思いレイはリザの方を向いた。相変わらず寝そべったままだが。
「いえ。傍から見ていると、どうやらエトネ様のご家族のあり方に……つまり孫に対するとは思えない祖父の対応に怒っていたようにお見受けしました」
シアラが同意するように頷いた。レイ自身それは自覚していた事なのでリザに先を促した。
「なので、もしやご主人様が、その……エトネ様と同様な目に遭われた事で共感されたのではないかと思ったのです」
「そうね。そう考えれば辻褄が合うけど、その辺はどうなのよ?」
「両親は健在だし、親子仲も悪くないよ。特に虐待……酷い目に遭った過去も無い、平凡な記憶しか無いよ」
事実。レイが自分の記憶を遡っても、それらしい悲惨な過去は無かった。
「それじゃ、ますます分かんないわね。なんで、あんな事したのよ」
「それが分かれば苦労しないよ!」
シアラに叫び返すと、レイはまたしても壁に向かって自己嫌悪を吐き出す作業に没頭してしまう。
その様子に嘆息したシアラは極力レイを視界に収めないように座椅子の角度をずらした。すらりと伸びた足を崩したシアラは机の上に置かれた差し入れを不思議そうに眺めていた。
一つは湾曲した薄い皿と蝋燭入れが一体となった器具だ。下から蝋燭が皿を温めると、中の水が蒸発して何とも言えない心が安らぐ香りが部屋の中を包んだ。そして、もう一つが菓子のような物だ。もうじき昼飯になるが、それまでこれでもつまんで待っていてくださいとの伝言付きだ。
ちなみに。持ってきた若いエルフの女は、この部屋の惨状。特にレイを視界に入れないようにあらぬ方向をずっと見ていた。
「ふーん。見た事ない菓子ね。白くて丸くて……焼き目がついているわね」
対面に座るリザはきっちりと足を揃えて正座をしていた。背筋を伸ばした姿は凛としている。もっとも青の瞳は座卓に置かれた菓子に熱く注がれていた。
「掛かっている飴色の液体は一体? とにかく一口頂いてみましょう」
「そうね」
二人は串を摘まんで持ち上げると、とろり、と。飴色の液体が糸をひくように伸びた。その粘りに驚きつつも、意を決して口に入れた。
途端。
くにゅり、とした官能的な食感に、甘いタレが少女らの口の中で踊った。それも甘いだけでは無い。甘さの中に相反するしょっぱさが加わり、それが更に甘さを引き立てていた。
白い物体は一本の串に三つある。一つを食べ終わると、リザは一度緑茶で口を注ぐ。薄い緑色の液体は、柔らかい渋みを持ち、口の中に残った後をひく甘さを綺麗に洗い流した。
「「美味しい!」」
二人は揃って叫んだ。顔を綻ばせたシアラは三人に向けて言う。
「あんた達も、ほら。一人一本あるから食べたらどうなのよ。えっと……何て名前だっけ、これ」
「さて? 持ってきてくださった方はエルフの里の名物とだけしか教えてもらえませんでしたが……貴女でも知らないのですか」
「何でもかんでも知っている訳じゃないわよ。……ほらほら、ご主人様にエトネも。一口食べないと、ワタシが食べちゃうわよ」
冗談めかして言うも、二人はシアラの方を見向きもしないで返した。
「……いい」「要らない」
ぶちり、と。
シアラのこめかみから、出てはいけない音がした。リザが止める間もなく、シアラは行動に出た。
レイの分の皿を掴むと、壁に向いている主の元に音も無く這い寄る。そして足で肩を踏みつけた。その足で器用に上を向くようにコントロールした。
「つべこべ言わないで食べなさい!!」
「おいこら、ちょっと待っ!!」
抗議は最後まで言えなかった。シアラは串を掴むなり、レイの口に突き刺したのだ。白くて柔らかい物体に口を塞がれたレイは目を白黒させる。そしてシアラは止めと言わんばかりに顎を押して口を閉じさせると串だけを引き抜いた。
「気持ちが落ちているのは、お腹が空いている証拠よ! 人なんて単純よ。お腹が空けば苛立って、お腹が膨れれば落ち着く。特に美味しい物を食べれば、それだけで幸福になるのよ」
何という暴論か。
リザの中で先程上がったシアラへの評価が揺らぎそうになる。そもそも、今の行為に対して奴隷紋は反応しないのだろうか? 主を足蹴にし、無理やり食べ物を口に押し込むなんて窒息するかもしれない。それが危害と判断されなかったのはおそらくシアラに殺意が無かったのだろうとリザは推測した。
つまり。今の行動は彼女の中では善意なのだ。
リザはシアラへの評価を改めるとともに、彼女の前で軽々しく落ち込んだ姿を見せないことを誓う。何をされるか分からない。
「もぐもぐもぐ、ごっくん。……シーアーラー」
頬をリスのように膨らましたレイは口の中の物を咀嚼し終えると、妙に優しい声でシアラを呼ぶ。呼ばれたシアラは少し照れくさそうに振り向いた。
「ふふん。どう? 少しは元気が―――」
「―――元気が出る以前に殺す気か!!」
レイは怒った。当然である。何しろ喉が詰まるかという様な境地に陥ったのである。例え人を元気づけようとする行為だとしても、文句の一つも出る。
「横になっている人間に串を差し込もうとするのも問題だがな、みたらし団子を人の口に突っ込むなよ。窒息死するかも―――みたらし団子?」
途端。
レイの中の感情が吹き飛んだ。彼は机に置かれている手つかずの菓子を見た。白くて柔らかい丸まった団子が三つ、串に刺さって並んでいる。その上にはタレが掛かっている。それをレイは知っている。
「……なんで……なんで、これがあるんだ?」
「なんでって、エルフが持ってきたのよ。この里の名物だって」
リザとシアラ。それにレティも驚くレイを不思議そうに見ていた。一方でレイは息を忘れるほど驚いていた。
硬直したまま、レイはポツリと呟いた。
「だって、そんな。これは……僕の世界の料理だ」
「……それは一体、どういう事でしょうか?」
リザが視線を鋭くして問い返した。シアラも同様に真剣な顔つきを浮かべて、レイと机の上の団子を交互に見る。
「どういう事も何も分かんない。分かるのは、そう。これは醤油の味がする。……僕の世界。それも生まれ故郷で一般に流通している調味料だ。でも、何でそんなのがエルドラドに。……まさかこの里に、僕と同じ異世界人が―――」
「―――ご主人さまっ!!」
故郷の味との遭遇に驚愕し、判断能力が低下したレイはボロボロと秘密を零してしまう。だけど、レティの制止を受けて、遅れて思い出した。
この部屋に、もう一人いたことを。
ゆっくりと。部屋の片隅にて俯いていた少女が顔を上げた。萌黄色の瞳がじっとレイを見つめていた。
「……ねえ。おにいちゃんは何者なの?」
端的で、しかし的確にエトネは踏み込んだ。返答にまごつく間に彼女は続けて問いかける。
「死に戻りってなに?」
「っ! ……どうしてそれを」
レイ達は驚きのあまり、体を固くしてしまう。まさか、この少女もレイの《トライ&エラー》に巻き込まれたのかと危惧さえした。しかし、彼女はその事を否定する内容を言う。
「朝のモンスターとのたたかいが終わったあと。おにいちゃんたちのはなしを聞いてたの」
「それって起きてたって事?」
「うん。……寝たふりをしてて、ごめんなさい」
盗み聞きしていたことを謝ると、レイ達は一斉に崩れ落ちそうになる。彼女が死に戻りに巻き込まれていない事がこの際重要であった。
「それは、気にしなくていいよ。……そうだね。秘密に出来るって約束できるなら、話してもいいよ」
「ご主人様? 宜しいのですか?」
安易に話してもいいのかリザが心配そうに尋ねるも、レイはしかたないと応じた。自分の秘密がエトネを通じて誰かに知れ渡るリスクよりも彼女に嘘や誤魔化しをして不信を抱かれる方が厄介だ。
レイは自分が異世界人であること。そして特殊技能を持つことを告げた。もっとも13神の下りだけは省略した。無神時代と呼ばれる今の時代に、神の名を持ち出すのは逆に話の真実味を損ねる可能性があった。もっとも、それを差し引いても荒唐無稽な内容なだけに、レイの話す内容を信じられない様子だった。
しかし、リザとレティ。それにシアラが補足して、ようやく信じる事にしたようだった。
「……うん。なんとなくだけど、わかった。おにいちゃんが死んでも死ねない人……でいいのかな?」
「まあ、おおよそはそんな感じかな」
死ねないのではなく、死んだら時が巻き戻るだけで死んでいる事には変わりないが、その辺りの差を理解するにはエトネは幼かった。
「とりあえず、約束してくれるかな。今話した事を誰にも言わないって」
エトネは頷くと、小指だけを立てた。指切りだ。
レイは少しだけ顔を綻ばせると、エトネの指と自分の指を絡ませ、告げた。
「「ゆーびきーりげんまーん。嘘ついたら針千本のーます。指きった」」
絡まっていた指が離れたのを見計らったかのように、小屋のドアが控えめにノックされた。リザが応対に出ると、先程みたらし団子とお茶を用意してくれたエルフの女が立っていた。
「お食事の用意が出来ました。宜しければ、食堂までいらしてください」
返事はエトネの腹の音だった。
迎えに来てくれたエルフの女性はクリュネと名乗った。見た目は二十代前半の美女だが、見た目からでは年齢が推察できないのがエルフの特徴である。レイは敬語を崩さずに話しかけた。
「エルフの方々は皆さん食堂で食事を取られるのですか?」
「はい。見ての通り、この里は切り立った絶壁の側面を掘り進み、洞窟の中に家を作っています。そのため、各人が勝手に料理をすれば、蒸気や煙などが充満してしまいます。ですので、一カ所で食事を取る事にしているのです。それと、あなた方にも食堂までお越しいただくのは恐らく、里の民にあなた方の顔を見せるのも目的かもしれませんね」
クリュネは淡々と、しかし丁寧に説明をすると、ちらりとエトネを見下ろした。その視線の意味をレイは測り兼ねるが、決して悪意や敵意は含まれていない。
ともかくクリュネの先導に従い、坂道を下る。そして横穴の一つへと潜っていく。着いた場所は、成程、食堂だった。長机と椅子が一定間隔に並べられ、燭台が置かれている。壁の一角には調理場が置かれ、カウンター越しに出来た料理を配るエルフ達が居た。
酒場のような食堂では無く、学校や会社などにありそうな、ひたすらに食事をするためだけの食堂だった。一見するととても普通の平凡な場所だ。
問題は、その大きさだった。
「でかい」「これは、一体」「うわー。上が見えないよ」「すごぉい」
レイ達はただひたすらに広い食堂に圧倒されていた。横にも広く、アマツマラの迷宮の広間の倍はある。しかしなにより、天井が高すぎた。床は燭台などが置かれ、光源は足りているが、天井は漆黒が広がっている。天井の影も見えなかった。
すると、シアラが呻くように呟いた。
「信じらんない。何この場所。空間の歪曲と固定の二重結界を展開してるじゃない。……それも食堂なんかの為に」
「流石ですね。正解です」
レイにはちっとも意味が分からなかったがクリュネはシアラの言葉を肯定した。
「つまりね、この場所は魔方陣によって構築されているのよ。元の空間を魔法で無理やり広げ、それが崩れないように固定化しているの。特に歪曲の方は超級魔法よ」
説明するシアラは足元の床をつま先で蹴る。そこを見ると、床に魔方陣が刻まれていた。
「この里は二百人足らずが暮らしていますから、その人数が一度に集まる空間を掘ったら、落盤事故が起きてしまいます。……あ! もちろん、皆さんが寝泊りする場所も固定化されていますのでご安心を」
クリュネは太鼓判を押すと、食事を配るカンターへと進む。レイ達も遅れて後を着いてく。食堂にはすでに百人を超すだろうエルフたちが食事を取ったり、談笑をしたりと思い思いに過ごしていた。
しかしレイたちが通ると、彼らの萌黄色の瞳が一斉に動いた。驚愕に不信、それに興味が混じる。エトネには憐憫と警戒。シアラにはそれらを上回る憤怒が視線に込められている。
じろじろと視線を向けられると、見返したくなるのが人の性。レイは躊躇うことなく、食堂に集まっているエルフたちを見返した。彼らの多くは二十代前半、遅くても二十代後半の見た目を持つ。だが、少数ではあるが、壮年の域に達したような老人もちらほらといた。
「確かエルフは子供の頃は普通に成長してあるとき見た目は止まり、そこから先は若い時間が続く。そして死に近づくと急激に老け込むんだっけ」
「はい、私はそのように聞いております」
すると、囁くような会話を聞いたのかクリュネも肯定する。
「その通りです。身共のような平民の平均的な寿命は大よそで三百から四百。長くても五百を前にして亡くなります
彼女は三つ編みにしてある緑色の髪を撫でた。緑色の頭髪が平民で、金色の頭髪が王族の証となる。
「それじゃ、ロテュスさんのような王族の方は?」
「王族は皆様、八百年前後は生きられます。その分、子供が極端に出来にくいなどの特徴もありますが」
「八百年!? そりゃ、また……凄いな」
レイにはピンと来ない数字だった。途方もないにも程があった。
ふと、サファの事を思い出した。彼の髪の色は緑だったが、ロテュスは彼の事を千年生きたと言っていた。その辺りを聞こうとしたが、その前に列が進み、レイ達の番となる。
置かれたトレイを受け取ると、料理が数品置かれた。
その内容にレイは目を見開いた。
主菜に薄い肉とネギやゴボウなど炒め、それを途中から煮汁で煮て、最後に豆腐を投入したのであろう肉豆腐。
副菜にほうれん草のような葉野菜を下茹でし、その後別に用意したであろう出汁にて茹でた、おひたし。
副菜はもう一品。ゴボウ、レンコン、人参などの野菜を乱切りし、調味料と共に炒めるきんぴら。
主食はお椀に入った粥だった。匂いや見た目からすると、米では無く、ソバなどの穀物を煮たものかもしれなかった。
クリュネは当然のように受け取り、リザ達もあまり目にしない料理に興味をそそられそている中、レイは叫びだしたくなるのを堪えていた。
その代り、心の声を聞こえる者が居たら耳を塞ぎたくなるような絶叫を上げていた。
(和食じゃん! 白米が無いだけで、これ和食じゃん! 団子でまさかと思ったし、そもそも通された小屋や集会所の床! あれだってよく見りゃ畳じゃないか!!)
思い返せば、集会所に入る時から変だったのだ。小屋に通された時、土足厳禁な事を言われる前に自然にブーツを脱いでいた。これから里長に会うことを考えてしまい、緊張していたため、頭がそこまで回っていなかった。
「どうかなさいましたか、ご主人様?」
「……いや……なんでも……無いよ」
先に着席したリザに対してレイは何とも言えない表情で返した。そして遅れて空いている席に着席した。クリュネを入れた六人は三人ずつに分かれて座る。レイの隣にはクリュネとシアラが。反対側にはエトネを挟んでリザとレティが座っている。
レイ達はごく自然な動作で食事を始める前に言う。
「「「「「「いただきます」」」」」」
ごん、と。
六人分の言葉を聞いたレイはテーブルに額をぶつけた。咄嗟にシアラがトレイを持ち上げなければ、粥で顔を洗う羽目になっていただろう。
「ちょ、ちょっとレイさん? だ、大丈夫ですか?」
「……いえ……ほんと……大丈夫です」
額がじんじんと熱を持つが気にしている場合では無かった。
もうこれは確定的だ。和装に、和風の室内や料理。そして慣習。これだけ重なれば、偶然とは思えない。エルフ、いや少なくともこの里は同郷の人物か、あるいはあの男と繋がっている可能性が高い。
『冒険王』ことエイリーク・レマノフ。
そしてまたの名を安城琢磨。
御厨玲と同じ―――日本人と。
読んで下さって、ありがとうございます。




