表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第4章 エルフの隠れ里
160/781

4-24 ロテュス

 A級冒険者、『双姫』のロテュス。


 煌めくような美貌に、魂すら凍りつかせる鋭い剣技を持つ冒険者。


 アマツマラのスタンピードに初期から参戦し、土塊の防壁及び外城壁の防衛に従事。最終日の赤龍戦時において上級冒険者数名を引き連れ、アマツマラの迷宮内で起きたスタンピードを鎮圧。避難民と警護の任に着いていた冒険者たちを救った救世主。


 レイは彼女の事をリザから聞いていた。というのも、赤龍戦の時にリザは外城壁まで援軍を呼び行く役割を受けていた。


 その途中でロテュスと出会い、状況を説明。援軍を呼ぶことが出来た。その過程で赤龍に追われているレイを助けるために無鉄砲な行動に出たリザを助けてくれたのも彼女だった。今回と合わせて二度もレイ達を助けてくれた恩人なのだが、なぜ彼女がここに居るのか。その理由が不明だった。


『紅蓮の旅団』、副団長のロータスに顔立ちは似ているが、纏う雰囲気は成熟された魅力的な女性だ。ロテュスは立ち上がると、衣服に着いたモンスターの体液や肉片を嫌そうに拭う。


「まったく。王族ともあろう方が、何をなさっているのですか?」


 すると、今まで屍の山から動こうとしなかった枯れ木のような男が立ち上がった。身長はレイよりも頭二つ分大きいが、病的なまでに痩せているせいか、あまり体格的に変わらない印象をレイは持った。


 腰ひもに反りのある武器を挿すと、屍の山を下りる。


「そっちこそ。こんな坊やを相手に、愛刀を抜こうとするなんて。いい歳の大人がなにしてるのよ」


 ロテュスの咎める声に、男は心外そうに眉を上げた。剣の柄尻を触ると弁解するように口を開いた。


「まさか! 童相手に本気で抜く大人が居るとお思いで? 俺がしたのはこの通り」


 男は素早い動作で剣を抜き、すぐさま収めた。乾いた金属音が響く。


「ほら、抜き切ってない」


「詭弁ね。貴方がやれば、それだけで衝撃波を放てるでしょ。……というか、そうしたでしょ」


 確信的に告げるロテュスに対して男は薄く笑ってごまかした。


 レイはようやく自分が何で殺されたのかを知る。目の前の男は透明な武器を使ったのでも、目にもとまらない斬撃を飛ばしたのではなかった。単に抜刀と納刀を高速で行い、衝撃波を生み出したのだ。武器を抜いてすらいなかった事に冷たい汗が噴き出した。


 もっとも死因が分かっても、理解は追いつかない。どれだけの修練をすればそんな神業が出来るのかレイには見当がつかなかった。


 それに、もう一つ気づいたことがある。


 刹那の間に見えた刀身。僅かな根元しか見えなかったが、アレをレイは知っていた。波打つような波紋に、片刃の刃。異世界にあるべきではない、しかし、エルドラドで見るのはこれで二度目だった。


「……日本刀?」


 呟きはレイが思うよりも大きかったようで、男は不思議そうに首を傾ける。だが、レイに興味が無いように、すぐに視線をロテュスに戻した。


「それで? 本当にこのような所で何をなさっているのでしょうか?」


「半分は里帰り。もう半分はクエストよ」


 ロテュスは言うとレイの方に視線を向けた。合わせるように全員の視線がレイに集まった。


「貴方が……冒険者レイで良いのよね? そっちの子とは一度会っていたわよね」


「はい……その節は本当に、ありがとうございました」


 確認するようにレイとリザの顔を順に見た。リザは助けてもらった時の礼を告げた。しかし、A級冒険者に名前を知られている理由がレイには分からず、困惑していた。


「アマツマラのギルド長、ヤルマルから貴方たちの保護を頼まれたのよ。この森、今はD級以下の冒険者は立ち入り禁止になっているの。理由は……言わなくてもわかるわよね、その姿なら」


 ボロボロのレイたちの姿をロテュスは順に見た。二度も吹き飛ばされ、屍の上を転がったレイはともかく、左腕が骨折したリザを始め、各人戦闘の跡が色濃く残っている。すると、そのうちの一人、エトネに視線が止まるとロテュスの瞳が細く、鋭くなった。


 鋭い視線を受けたエトネは慌ててシアラの後ろへと隠れた。レイはその視線に嫌な空気を感じ取って口を開いた。


「ギルド長が……僕らを保護?」


「……ええ、そうよ。赤龍戦の功労者をギルドのクエスト絡みで死なせれば、非難を受けるからって言う理由でね。本当はオルドやディモンド辺りを呼び寄せたかったみたいだけど、あの筋肉共はアマツマラの迷宮に潜りっぱなし。そこで暇を持て余していた私にお鉢が回ったのよ。『頼むから、助けに行ってほしい』って」


「それは、お手数をおかけしました」


「気にしなくてもいいわよ。元々、里の様子が気になるから、一度この森に様子を見に来るつもりだったから。そのついでに、どこかに居たら拾う程度の気持ちで来たんだから。死んでた方が持ち帰る手間が省けて、楽だったわ」


 悪びれもせずに美女は言う。レイはあまりにもあっけらかんとした物言いに言葉を失った。


 見た目はそっくりなのに、性格はロータスとあまりにも違った。レイの中でロータスは『話の通じる出来る人』だ。『紅蓮の旅団』という大きなクランの中で戦闘力だけでなく、事務にも精通し、交渉事を引き受けている姿を旅の間に幾度も見た。


 話が通じ、信頼できる人だからこそ、隠れ里が見つからなかった時は彼女を頼ろうと決めていた。


 一方で目の前に居る女性は、何ともあやふやな気分屋といった印象だった。


 気まぐれに物事を決定する、自由人のような匂いがした。下手に頼っても、最後の最後で梯子を外されて、失敗する。そんな地雷じみた存在。命の危機を救ってもらい、僅か数分の間しか接していないのに苦手な人物だと判断してしまう。


「……それで? 坊やは何をしにここに来たのかしら?」


 突然声を掛けられて、レイは答えに窮した。ロテュスは構わずに言葉を継ぐ。


「ここは人避けの結界が刻まれている場所。エルフ以外が来ようとしても辿りつけない場所。……まあ、超級モンスターやA級冒険者あたりは突破できるけど、基本的にこの森にそんなのは来ないから、地元民すらこの場所を知らない。そんな場所に貴方程度の冒険者が何をしに来たのかしら?」


 レイはちらりとエトネの方に視線を向けてから、告げた。


「この森で一人で生き抜いていたハーフエルフの少女を保護しました。彼女をエルフの隠れ里まで連れて行こうとして、森を探索していました」


 ロテュスはふーんと、呟くとリザ達の方へと歩み寄る。シアラの影に隠れたまま俯いているエトネの顔を覗きこんだ。


「貴女……エスニアの娘かしら?」


 ロテュスの言葉にエトネは弾かれたように顔を上げた。そして首が千切れんばかりに頷いた。


「そう。……それで? エスニアは?」


 続いて投げかけられた質問に、エトネは凍り付いたように動きを止めた。それだけで全てを察したかのか、ロテュスはため息を吐いた。


「……そう、残念。同胞がまた一人死んだのね。……それで、貴女は行く当てがないのかしら?」


 三個目の質問にエトネは小さく頷いた。改めて自分が一人きりだと思い知ったのか萌黄色の瞳に涙が薄らと浮かぶ。すると、驚いたことにシアラがエトネの頭を撫でたのだ。リザ達が驚いていると、エトネはそのままシアラに縋りつくように飛び込んだ。


 シアラとエトネの間に何が起きたのかレイたちは知らなかったが、二人はいつの間にか打ち解けていた。


 そんな光景を見たロテュスは品の良い顎に指を当てて押し黙る。そして後ろに振り返り、エルフの剣士の方へと呼びかけた。


「サファ!」


 サファと呼ばれた男は睨みつけるような視線を止めて、ロテュスの方を向いた。レイはその強烈な視線が気になり、サファが見ていた方向を追いかけた。


 そこに居たのは泣いているエトネを拙くも懸命に慰めているシアラが居た。サファがシアラに送った視線の意味が気になるレイはエルフたちの会話に意識を向けた。


「この子たちを隠れ里に案内するわよ」


 途端。


 サファは顔面の神経を総動員して烈火のごとく怒った。


「ありえない!! 雑種を入れるのはまだしも、魔人種を里に入れるだと! 王族でありながら、何を仰っている!!」


 怒りのあまり、敬語が崩れているのもお構いなしだった。だが、ロテュスは予想していたのか冷静に告げる。


「エルフの『守護者』、サファ。貴方がこの千年。エルフという種族を生かす為に心血を注いできたことに、王族の末席として深い感謝と敬意を表します。……ですが、ここに困難に窮しているハーフエルフが居り、その子供を助けるために危険を顧みずに行動した者達が居ます。彼らを見捨てる事は倫理にもとると思えます。……違いますか」


 淡々と告げられた内容に、サファは苦々しく口を噤んだ。その代りに放たれる圧倒的な殺意は木々を揺らし、地面すら揺らす。だが、それも数秒の事だった。


 サファはため込んでいた感情を吐き捨てるような大きなため息を吐くと、拡散していた殺意が消え去った。赤い森は一応の平静を保つ。彼はくるり、と背中を見せた。


「……貴女が仰るなら、従います。ただし、俺も付いていきます。よろしいですね」


「構わないわ」


 頷くと、ロテュスはレイたちの方を向いて告げた。


「さあ、隠れ里に行きましょうか」






 死体の絨毯を抜けるとすぐさま姿を見せたのは大木だった。エトネの母親が眠っている場所の巨木よりかは小さいが、空へと雄々しく伸びている姿はよく似ていた。もしかしたら、何かしらの繋がりがあるのかもしれないとレイは思う。


 先導するサファはその木の根元に手を当て、何やら呟いた。すると、木の根が動くと、窪みが出現した。


 ぽっかりと開いた窪みに男は躊躇なく入り込んだ。人一人分よりいくらか広い窪みの奥はどこまでも続く様な深淵が待ち構えている。


「どうした? 来ないのか、童」


 暗闇からサファのからかう様な声が聞こえてくる。レイは意を決して暗闇に飛び込んだ。その後をリザとレティ。次いでシアラとエトネが。そして最後尾にロテュスが続く。


 全員が入ると、外から何かが動く音と共に、差し込んでいた明かりが消えた。入り口が閉じたのだった。


 しかし、すぐさま明かりが窪みの中を照らした。


 窪みの中は洞窟だった。エトネの寝床のようにむき出しの土塊ではなく、無数のタイルによって四方はがっちりと固めており、壁に一定間隔で吊るされているランプが煌々と足元を照らす。洞窟というよりも、地下通路の様相を成している。


「行くぞ。付いてこい」


 ぶっきらぼうにサファは告げると、彼はさっさと道を進む。レイたちは慌てて後に続いた。


 通路内はひんやりと冷たい空気が流れている。しばらく進むと、彼らは螺旋階段へと辿りついた。両側がタイルの壁で覆われていて、下は見えず。まるで地獄へと続くかのような階段だった。


 躊躇わずに降りて行くサファに続く。本当にこの先にエルフの隠れ里があるのかどうか不明だった。もしや二人に騙されているのではないかという不信感が頭をもたげる。


 だけど、その間。


 レイは背後から背中に突き刺さる視線の方が気になり、思考は纏まらなかった。


「じー」「じー」「じー」「……じー」


 無視していたら、ついに言葉で表現しだした。たまらず後ろを振り返ると、リザの青い瞳とぶつかる。晴れた青空を思わせる澄んだ瞳は、いまや絶対零度の冷たい輝きを放っていた。曲線を描く階段の後方からレティとシアラも同じような視線を向けている。何故か、エトネまで三人のまねをしていた。


「あの……君たち? もしかしなくても怒っていらっしゃいませんか?」


「別に」「怒って」「ない」「……よ」


「何だよ、その無駄に息の合った連携は!」


 レイの絶叫が螺旋階段の中に響いた。しかし、リザ達は動じず、逆に畳みかけるように切り込んだ。


「では、一つだけお聞かせください」


 途端。


 放たれるプレッシャーにレイの喉が鳴る、


「なぜ、あのような場所でロテュス様を押し倒していたのでしょうか? あまつさえ……その……豊満な」


「じれったいわね、リザ! なんで巨乳を揉んでいたのよ! 説明しなさい!!」


 後半部分を口籠ったリザに代わり、シアラが問い質した。その内容にレイは答えに窮した。


「いや、あれは。なんというか不幸な事故というか」


「えー。人の胸を揉んどいて不幸な事故って言うの、坊や。あんなに丹念に揉まれたの久しぶりだったのに」


「火に油を注ぐの止めてくれませんかね!!」


 しどろもどろに言葉を紡ごうとするレイに対して、後方からからかう声が降り注いだ。途端にリザ達の目つきが更に鋭くなる。周りの空気に合わせてエトネも精一杯睨みつけるが、リザ達に比べれば、可愛いものである。


「だから、あれは事故なんだよ。僕がアイツ……じゃなくてあの人に攻撃されそうになった所にロテュスさんが飛び込んできて、庇ってくれたんだ。それでも二人して吹き飛ばされて転がっている内にああなったんだ」


 しかし、リザ達は信じられないように冷たい目線を続ける。それからも言葉を紡ぐことで、ようやく真実だと知ってもらえ、レイは心でかいた汗を拭った。


「……到底信じられませんが、ご主人様がそこまでおっしゃるのなら真実なのでしょう。ロテュス様。我らが主を助けて頂き、本当にありがとうございます」


「「ありがとうございます」」


「別に気にしなくてもいいわよ。たまたま間に合っただけで、間に合わなかったら、見捨ててただろうし」


 三人の礼を受けたロテュスはこともなげに残酷な内容を告げた。レイは背筋に冷たい物を感じる。それでも助けてもらった事には変わらない。リザ達に道を譲ってもらい、階段を駆け上がると、ロテュスの前で頭を下げる。


「それでも、僕からも礼を言わせてください。助けて頂いて本当にありがとうございました。……それと、胸を揉んでしまい、すいませんでした!!」


「ふふ。気にしなくていいわよ」


 ロテュスは妖艶に微笑むと軽く謝罪を流した。しかし、レイにとっては大問題でもある。王族という事は、彼女の身内にエルフの王が居るという事だ。そんな高貴な方の胸を揉んでしまい、こんな謝罪だけで済ましていいのかと思ってしまった。


「あの……里には貴女の……その旦那さんとか身内の方は居るのでしょうか」


 不思議そうに首を傾げるロテュスに、レイは言葉を選びながら言う。


「ですから、その。……揉んでしまった事を、謝らなきゃいけない人が……いませんか?」


 すると。


 ロテュスはぽかんと表情を止めてしまう。そして、爆発したかのような笑い声を上げた。


「アッハハハハハ!」


 今度はレイがぽかんとする番だった。目尻に涙を浮かべるロテュスはしばらく笑い、最後には腹が苦しそうに手を当てる。


「アッハハハ! 初心いわね、坊や。……気にしなくていいわよ。私、結婚してないから」


「え? でも、ロータスさんは……」


「娘よ。それに息子も居るわよ。でも、結婚してなくても子供は出来るし、それに姉弟で父親も違うわよ」


 その内容を理解するのに、レイは数秒の時間を要した。リザ達も唖然とした表情を浮かべた。


「……話しながら進みませんか? ロテュス様?」


 すると、苛立ったように先頭のサファが告げた。ロテュスは謝ると、レイの肩を押しながら説明を続けた。


「エルフってね、子供が出来にくい種族なのよ。特に王族は数打たなきゃ当たらない。かといって王家の血を絶やせば、王国復古の野望が滅びちゃう。だから、昔から幾人もの男と交わるのを掟にしているの。だから私も掟に従って幾人もの男を迎えたわ」


 ロテュスは言葉を区切ると、にんまりと笑う。


「坊やたちには刺激が強いかしら?」


 レイたちは無言を貫いた。その代り、階段を下りる速度が上がった。その反応を面白がるようにロテュスはくすくすと声を上げて笑った。


 速度を上げたのが、はたして効果があったのか。レイたちは遂に螺旋階段の底へと辿りついた。重たい鉄製の扉をサファが開けると、最後部に居たロテュスが告げた。


「ようこそ、エルフの隠れ里へ。……エルフ以外がこの地に来るのはざっと百年ぶりかしら?」


 開け放たれた扉から、風が吹きこんだ。


読んで下さって、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ