4-4 レイの告白 『後編』 改訂版
※ 1/21 大幅修正。
「《トライ&エラー》……それは一体どのような力なのでしょうか」
リザが代表するように問いかけた。普通の人間の感性なら、一笑に付す内容なのに、その態度は真剣だった。
レイは目を瞑って自分の中にしか存在しないステータス画面と向き合い、今まで経験したことから得た推測を口にした。
「能力は大雑把に言って、技能保有者が死ねば、午前零時か目が覚めた時のどちらかまで時間を巻き戻すんだ。例えば、今この瞬間に死ねば、僕の意識は目が覚めた時間まで戻るし、この後夜になって眠り、午前零時を過ぎてから眠ったまま死ねば、午前零時に戻される」
「午前零時……ああっ! 決死隊の作戦開始時刻!」
レティの言葉にレイは頷いた。ファルナが作戦開始時刻を零時にしたのは恐らくキリが良かったからだろう。だけど、レイにとっては都合が良かったため、自分の作戦に組み込み、セーブポイントとして使用した。
リザとシアラも様子が一変したレイの事を思い出し、その原因に《トライ&エラー》が関与していると分かると納得した様に頷いていた。何しろ、目の前で少年が苦悶の表情を浮かべ、声を押し殺し、何かに耐えるように身を捩れば髪の一部が変色しだしたのだ。何か途方もない事が起きているとだけは理解していた。
「時間を戻すといっても何のリスクも無い訳じゃない。戻る際に、一つの試練が待ち構えている。……リザとレティが味わった、あの苦しみ。あれを耐えきらないと戻れないんだ」
その言葉に二人の顔色は悪くなった。特にレティは口元に手を当てて、ベッドに突っ伏しかねない状態だった。咄嗟にレイとリザが少女の背中を撫で、シアラが備え付けの洗面器を差し出した。レティは青ざめ、息を荒げるも大丈夫と繰り返した。
三人の奴隷少女たちは主が眠っている間も片時も離れないたくないため、この病室に泊まり込んでいた。その際にレティが叫び声を上げて跳び起きたことが何度もあり、今の様子と酷似していた。
後からリザからその事を聞いたレイは自分の迂闊さを責めたい気持ちに陥った。
浮かんだ涙を拭ってレティが主に先を促すように言った。
「……あのイタミが何なのか。僕には分からない。分かっているのは、イタミの度合いや長さは僕を殺した相手との実力差に比例していることぐらいだ。……仮に、あのイタミに屈服した場合どうなるのかは……僕にも分からない」
しかし、イタミを味わった三人は無意識に同じことを思っていた。あのイタミを耐えきれなければ、戻る事はできないだろうと。唯一味わっていないシアラは三人の様子から不吉な予感だけは感じ取っていた。
「ここまではスタンピードが始まる前までに知っていた事だった。それがどういう訳か分からないけど、リザとレティの二人にも同じ現象が起きるようになった。条件が奴隷契約だとすれば――」
「―――ワタシにも同じ現象が起きる、と」
後を引き継いだシアラが締めくくった。レイはその通りだと頷いてみせた。
「確かめるために一度死んでみるってのは」
「それは、ダメだ。……僕自身《トライ&エラー》の全容を理解していない。どのパターンで発動して、どのパターンで発動しないのかよく分からない。僕以外のリザ達の場合でも確実に発動するのかとか、不明な点がある。それに……君らが死ぬところなんて見たくない。例えやり直せるとしてもだ。……だから、望んで……自分から死を試そうとしないでくれ。……こんな力、使わないに越したことはない」
レイの力強い否定にシアラは素直に引き下がった。彼女も試しになんて軽い気持ちで死ねるような度胸は持ち合わせていない。代わりにレティが尋ねる。
「それじゃあ、死に戻りのデメリットはあのイタミ以外は無いの?」
その質問にレイは一瞬応えるのに躊躇した。デメリットに近いのは《トライ&エラー》が『使用不可』になる自殺だ。だが、このことを説明するにはファルナを助けるために一度自ら死んだ経験を明かす必要になる。それは出来れば避けたかった。そしてもう一つ、新しく判明したデメリットがあるのだが、これを如何説明すればいいのか彼は悩んでいた。しかし、その沈黙を肯定と捉えた三人はレイを無言で見つめた。
仕方なさそうにレイは後者の方を説明する。
「どうやらステータスが下がってるんだ。少なくとも赤龍戦の前と後で能力値が違っている。この現象は初めてだけど、おそらく《トライ&エラー》が関与していると思う」
レティは納得した様になるほど、と呟いてから眉を顰めた。レイは内心聡い子だとため息を吐いた。そしてレイが意図的に隠していた事実にレティは気が付いた。
「ちょっと待ってよ、ご主人さま。今の話、変だよ」
「どういう事なの、レティ」
姉の質問に妹は頭を捻り、一つずつ確かめるように呟いた。
「だって、あのスタンピードの時にステータスの更新が出来たのは二日目。でも、ご主人さまは三日目に急激なレベルアップを起こして、それ以来今日までステータスの更新をしていないんだよ。なのに、どうして能力値が下がっている事に気づいたの」
レティの推理にリザとシアラははっとした表情を浮かべた。まったくもって筋道が立っている推理にレイは観念したようにもう一つの秘密を打ち明ける。
「……僕にはもう一つ、力がある。これは技能とは違う……と思う。目を瞑ると一冊の本が瞼の裏に浮かび上がって来るんだ。……確認しときたいけど、三人は同じことできる?」
レイの質問に三人は揃って両目を瞑った。だが、《トライ&エラー》と違い、ステータス画面は共有されていなかった。
「その本には僕の現在の能力値や技能、それに称号とかが表示される」
「称号……とは何でしょうか?」
聞き慣れない単語といわんばかりにリザは首を傾げた。その反応にレイはやはり、と。『ある疑念』が確信になった。称号は一般には知られていない。だとすれば、称号を生み出しているのは―――。
「それで、その本には他に何か書かれているのかしら?」
ベッドに腰かけたシアラの何気ない声が思考を遮る。レイは思考を切り替えると目を瞑りステータス画面を見つめた。そこにはいくつかの項目が浮かび上がっている。上から『能力値』、『技能』、そして『仲間』の三つだ。レイはこの三つ目を正直に言うべきかどうか迷った。なにせ、名前と能力値以外黒く塗りつぶされているとはいえ、人の内面を隠れて覗きこむような行為をしていた。
だけど、レイは正直に伝えるべきだとも思った。打ち明けると決めたのなら、隠し事は無しだ。
「ステータス画面で確認できる項目は三つ。『能力値』、『技能』、そして『仲間』だ」
「『仲間』……それってどんな事が分かるの?」
首を傾げたレティに対して、いや三人に向かって謝罪する気持ちで話す。
「この項目では君たちの名前と能力値が分かるんだ」
その言葉に三人は程度の差はあるが驚きを露わにした。シアラは軽く目を見開いた程度だったが、リザとレティは異常なほど狼狽した。レティは先程の死に戻りのイタミがぶり返したかのように青ざめ、リザも妹に負けず劣らず顔を青ざめ掠れた声で問いかける。
「ご主人様……それは……どこまで……名前と……家名……もですか?」
二人の変貌に困惑しながらレイは返した。
「いや。苗字、じゃなくて家名とか称号とか、あとは技能とかは黒く塗りつぶされているんだ」
途端に。リザは脱力した様にベッドにへたり込み、レティも意識が途切れたかのように大きくよろめいた。レイとシアラが手を伸ばさなければ床に激突するかもしれなかった。
「良かった。……本当に良かった」
レイの手を握るレティは大粒の涙を流して喜んでいる。未だに状況に着いて行けないレイたちに大してベッドから上体を起き上がらせたリザが説明する。
「取り乱して申し訳ありません。……ですが、私たちの家名は……その……伏せていないといけないのです」
「それは……リザ達が奴隷でいる事と、復讐したい人物に関係しているの?」
レイの問いかけにリザはこくん、と首を縦に振った。
「なら、分かった。喋りたくなったら、喋ってよ」
「ちょっと、主様」
シアラはリザ達の事情は何一つ知らずに仲間に加わった。レイとの間に何があったのかも知らずにいた。それでも、それだからこそ第三者の立場として聞くべきだと告げるが、レイは頑なに意見を翻さなかった。
「僕だって《トライ&エラー》を喋らずにいた。誰にだって秘密はあるだろ。例えば、シアラ。君の家名を聞きたいと言ったら―――」
「―――いやよ。そんなの。ワタシはとっくの昔に家を捨てたの。思い出したくも無いわよ」
心底嫌そうな口調でシアラは断じた。予想外の反応に面食らったレイだが、気を取り直すとリザ達に向かって告げた。
「二人に言う覚悟が出来たら、教えて欲しい。……まだ弱い僕だけど、いつか受け止められるようになってみせるから」
リザとレティは深々と頭を下げた。シアラもこれ以上の口出しは野暮だと思って何も言わずにいた。
しばらくして平静を取り戻したリザは先程の狼狽を誤魔化すように口を開いた。
「その。……ご主人様がお会いしたクロノス様から何かしらの説明は無かったのでしょうか? 使い方とか、使用に関する危険性や、能力値が下がる事については」
「全くなかった。こんな技能を僕にくれた理由も不明なままだ」
「……まあ特殊技能はそんな物でしょ」
シアラが事もなげに言い放った。この中でレイ以外に特殊技能に一番詳しい彼女は己の知識を披露した。
「ワタシの《ラプラス・オンブル》も技能を調べる魔道具を使っても名前しか分からなかったの。周りをつぶさに観察し、自分が何を見せつけられているのかを結果から推測していき、手探りで理解していったわ」
苦い過去を思い出したかのようにこめかみを押さえた。レイにはその気持ちがよく分かった。何も知らないままエルドラドに降り立ち、何もできないままスライムに殺され、何が起きたのか理解できないまま死に戻りを繰り返した。
その積み重ねから推測してきた。
「それに、主様が関わると未来が変化するなんて事も初めて知ったぐらいよ。死の影も、未来の光景もどちらもなんて」
レイはその言葉に不思議そうに首を傾げた。死の影の未来を覆したというのは前にも聞いたが、未来の光景が変化したというのはどういう意味なのだろうか?
すると、シアラが指を一本立てて、まるで出来の悪いに生徒に教えるような先生のように口を開いた。
「覚えてる? ワタシが見た未来の光景は『二十人の冒険者が赤龍と戦う所』よ。でも実際に起きたのは、『二十人の冒険者がいくつかのグループに分かれて波状攻撃を仕掛けた』。ワタシが見た光景とは違う結果になったのよ」
「……それは何か違うのかしら、シアラ」
大違いよ、とシアラはリザに返した。
「前者の光景は本当に二十人全員が一辺に戦う未来。でも、現実は役割を分担した各員がそれぞれの役割をこなしていた。そもそも、直接赤龍と戦ってないのも居たじゃない。ワタシも含めてね」
レイはシアラの説明に確かにと思えた。あの繰り返した死に戻りの中で一度として二十人全員が一度に戦った時は無かった。
赤龍は来た。二十人もいた。しかし、予言した未来とは違う過程を通った。
「主様が異世界人だからなのか、《トライ&エラー》という力を持っているからなのか。原因は不明だけど、ワタシが見た未来は起きなかったのよ。……ああ、それともワタシが記憶してないだけで、そういった未来、というか過去もあったの?」
「いや……シアラの見た光景は起きなかったよ」
レイが断言するとレティが何かに気づいたかのようにあ、と短く呟いた。
「……という事は、ご主人さまは赤龍の時も何度も繰り返していたことになるんだよね。一体何回繰り返したの?」
ぎくり、と。レイの肩が震えた。その反応をリザとシアラは目敏く見つけた。
「じゅ、十回くら―――」
「嘘ですね」「嘘でしょ」
二人の即座の否定にレイは喉の奥から潰れたような声を出してしまった。別にこの二人は真実を知っているわけでも、心を読んでいる訳でもない。ただ、レイの様子からカマをかけたに過ぎなかった。それが的中したのだ。
レイは観念したように正確な数字を口にした。
「……二百八十六回です」
「「「にひゃくはちじゅうろく!?」」」
三人は口をそろえて驚くと、あまりの数の多さに何も言えずにいた。
病室に重苦しい沈黙が降り経った。エルドラドに住むリザ達にすればレイの話す内容はあまりにも荒唐無稽な内容だった。無神時代が始まってから千三百年。13神の存在はまさに神話の中でしか語られないような時代なのだ。
しかしながらレイの持つ途方もない力の存在は、13神程の存在が介入しなければ説明がつかない。特にリザとレティはその力の一端を味わっただけに否定できずにいた。
レイはというと三人の反応を伺っていた。自分の出自まではリザ達に説明したが、エルドラドに来た経緯や、なにより《トライ&エラー》の事を話したのは彼女たちが初めてだった。
もし。もしもだ。
否定されたら。
拒絶されたら。
疎外されたら。
彼は心の中で得体のしれない恐怖と戦っていた
仮に自分以外の人間が《トライ&エラー》を持ち、その人間と出会い、その秘密を打ち明けられたら自分はどう感じるのか。
答えは簡単だ。
―――なんて気持ち悪いのだろう。
死ねない人間。時を巻き戻す。言葉にすると魅力的な響きを持つが、実際に体験すれば分かる。死を何度も味わって、あのイタミを何度も味わっても、いまだにこうして普通でいられる自分はどこかオカシイ。そして、ファルナを助けるためとはいえ、自ら死を選んだという事実も拍車をかけている。
(だってそうだろ? 《トライ&エラー》で戻れると知りつつも、死ねるなんて。どこかがイカレている)
赤龍との戦いが終わり、こうして振り返ると自分の異常性が浮き彫りになった。今思い返してみても赤龍に対して二百回以上も死を選んだ自分は何かが欠落している。
それはきっとヒトとして大事な事で、それが欠けた自分はヒトの中に居ていいのだろうか。ぐるぐると、深く考えれば考えるほど胃が締め付けられるような恐怖を味わっていた。赤龍との戦いによる恐怖ではない。
彼女たちに嫌われる事が何よりも怖かった。
(でも、もしも彼女たちが僕を嫌ったら、僕は甘んじて受け止めないといけない。だってそれは正しい事で―――)
ごすん、と。
レイの思考は頭に叩き込まれた手刀によって物理的に遮られた。手刀といってもさほど痛くは無いのだが、驚いてレイは思考の海から浮上する。いつの間にか身を乗り出したリザが手刀を叩きこんでいた。
「いくら呼んでも返事をしなかったので、失礼いたしました」
「あ、ああ。痛くなかったし、大丈夫だよ」
しどろもどろになりながら返事をしたレイを三人はじいと見つめた。三者四様の瞳にレイの本心を覗きこもうとする真剣な色が差し込んでいた。誤魔かすようにレイは、しかし覚悟を決めて口を開いた。
「そ、それで! これが僕の持つ力について以上です。……それで、その。……どうする?」
「どうするって何が?」
レティが要領の得ない質問を投げかけたレイに向けて首を傾げた。レイは一度深呼吸をすると、固い声色で尋ねた。
「僕との奴隷契約を……解除する?」
病室に再び沈黙が支配した。しかし、それは先程の重苦しい沈黙とは違い、張りつめた空気が爆発する寸前の静けさだった。
「「「……何で!?」」」
三人の大声にレイは目を白黒させる。リザもレティもシアラもつかみ掛る勢いで詰め寄った。
「わ、私達が嫌になったのですか!? 確かに、私なんてご主人様を背後から襲い掛かった事もありましたが……」
「嫌だよ! ご主人さまと離れ離れになるなんて」
「……ワタシたちの何が不満なのよ! 黙ってないで何とか言いなさい!」
「ちょ、ちょっと待って! そういう事じゃないんだ!!」
レイが言うと三人は混乱から立ち直ったように居住まいを正し、疑念を込めた視線をぶつけた。まるで針のように刺さる視線を前にレイは自分の心情を打ち明けた。
「……つまり、私達がご主人様の在り様を不気味に思い、拒絶すると。そう本気でお思いになっているのですね」
絞り出すような声がリザから発せられた。肩を震わせて、何かを堪えているかのようだった。同様にレティもシアラも呆れたような表情でレイを見ていた。
「……見くびらないでください」
レイを真っ直ぐに見据えたリザの青い瞳は突き抜けるような空を思わせ、吸い込まれるように釘つげになった。
「……リザ?」
「ご主人様が自分を卑下するのは構いませんが、私は貴方を尊敬しています」
ストレートな物言いにレイは耳が赤くなるのを感じていた。
「貴方の在り様は確かに歪で、何かが欠落しているのかもしれません。だから何ですか? 貴方はあの怪物、伝説の古代種から逃げなかったのですよ」
「それは」
「逃げられる環境に無かった……というのもありますが、それでも貴方は成し遂げました。赤龍を倒すという結末に。……レイ、そんな貴方が私の主人で誇らしい気持ちです」
リザは穏やかに、見惚れるような笑みを浮かべて告げた。
「あたしも!! おにーちゃんがご主人さまで良かったと思っているし、いまさら、おにーちゃん以外をご主人さまって呼びたくないよ!」
レティは身ぶり手ぶりを交えて自分の気持ちを述べた。
「ま、そういう事よ。アンタが危惧したような気持ちをワタシたちは一切抱いていないわよ。……そんなに卑屈になるんじゃないわよ、レイ」
シアラが呆れた様に、しかしどこか楽しげにきっぱりと言い放った。
余りにも清々しい程、三人はレイの在り様を受け止めた。それは怯え悩んでいた事が馬鹿らしくなるほど、優しく、レイは知らずのうちに涙を流していた。
突然の涙に少女たちは慌てふためくがレイは笑って、
「ありがとう。……それと、改めて。これからもよろしく」
と、言った。
「こちらこそ、よろしくお願いします」「一緒にがんばろうね!」「当たり前でしょ。何言ってんだか」
リザ達もとびっきりの笑顔で返した。
「それでこの先はどうするのよ? いつまでアマツマラに居るつもりなの?」
湿っぽくなった空気を変えようとシアラが問いかけた。そもそも彼女はレイが異世界人だという事自体今日初めて知ったのだ。この三人の旅の目的なんて物は一つも知らないでいた。
「えっと。元々、精霊祭が終わったら中央大陸の学術都市って所に行くつもりだったんだ」
「ああ、あの東側にある街ね」
どうやらシアラの生まれた時代にはすでに学術都市はあったようだ。レイはそこに向かうには一度南方大陸を通る必要があると告げた。
「ふーん。氷漬けになっている間に、中央大陸の真ん中付近が海になったのは聞いたけど、随分と情勢も変わったのね。それで直ぐに南方大陸に向かうの?」
「いや、実はもう一つ探している場所があるんだ」
シアラだけでなくリザとレティも場所、と聞き返した。このことはリザ達にも話していない事だった。
「実はネーデの迷宮で出会った精霊。アメノマという精霊が僕の正体を看破し、助言を残してくれたんだ。13神と会話できる場所、『聖域』について。それが何処なのか分からないけど、そこに行けば13神と会えるはずなんだ」
三人は顔を見合わせた。特に三百年前の時代を知るシアラに全員の視線が集中するも、彼女は「聞いたこともない」と首を振った。
「どこにあるか分からないけど、道中でも探すつもりだ……どっちにしろ、当面の目的地は学術都市。問題はそれまでの資金とか旅の物資をどうやって調達するかなんだけど」
資金はテオドールに売った魔人の血の代金が残っている。しかしながら、装備一式に馬車や旅支度を購入すれば吹き飛ぶかもしれない。それにスタンピードを超えたばかりの街に物資が潤沢にあるとはレイは楽観視していなかった。
レイは眠っている間の街の様子などを三人尋ねたが、リザ達もあまり知らないでいた。レイが目覚めるまでの期間、この診療所の手伝いなどをしており、外の情報は時折訪れたファルナやメーリアからの情報しか無かった。
「とりあえずシアラには冒険者になって欲しい。この時代だと身分証になるし、全員が冒険者の方が不都合も無いはずだ」
シアラはレイの要望に、特に否定することも無く頷いた。それからも街を出るまでにどうやって資金を稼ぐのか、どうやって南へと進むのかという議論が行われた。
そして夜が明けると、シアラはレティを連れて冒険者ギルドに向かった。
彼女は出来たばかりのプレートを見せびらかした。窓からの日差しに反射して鉄製のプレートはキラキラと輝いていた。
「まさか、このワタシが冒険者になるなんて。人生何が起きるか分からないわね」
どこか感慨深げにつぶやいたシアラを放置して、レティがレイの方に向かって問題なしと伝えた。
ちなみに彼女をシアラとともに行かせたのは、シアラ一人だと目立つからだ。彼女はリザの洋服を借りているとはいえ、紫がかった黒髪は目立つ。なにより、奴隷一人だと何かしらのトラブルに巻き込まれると判断した。レティは幼いとはいえ、目端が利く方だ。トラブルを回避してくれる。
そんな彼女がそういえば、と前置きして告げた。
「そういえば、ご主人さま。なんだかギルドの人から呼び出しを受けたよ」
「呼び出し?」
「うん。あたしのご主人さまがおにーちゃんだって知ったら、呼んできてほしいって。大事な話があるからだって」
レイの心に雨雲が広がっていく。何やら嫌な予感が腹の底で燻っていた。
「何か、心当たりは有りますか?」
ようやく正座を止めて、膝に着いていた細かいゴミを払ったリザが問いかける。しかし、レイは不思議そうに首を振って―――。
「―――あっ」
ひどく乾いた声を上げた。
額から頬に掛けて冷たい汗が流れた。
レイのレベル急上昇後のステータスは3-34に掲載されています。
読んで下さって、ありがとうございます。




