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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第3章 精霊祭
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3-59 精霊祭 七日目〈Ⅳ〉

 そもそも、今回立てた作戦の肝はいかにして龍を地上に引きずり落とすかにかかっていた。テオドールの様に人は自由に空を飛べない。怪物級の強さをほこるオルドでさえ、空を飛ぶ術は持っていないとファルナが断言していた。


 このスタンピードで上空を取られることの厳しさは全員が骨身にしみて理解していた。赤龍が自由自在に夜空を飛翔して、ブレスを落とす姿はさながら爆撃機と同じだ。一時間もかからずにアマツマラは灰燼となって滅びる。


 作戦を組み立てるにあたって目的地は決まっていた。赤龍を城壁に居るはずのA級冒険者の誰かしらに引き渡す。問題はその過程があまりにも難しかったのだ。僕やホラスの持つ、誘導系の技能スキルが赤龍に通じるのは一度実践済みだ。だけど、普通に考えれば効果を受けた赤龍が空を飛ぶのは目に見えていた。


 そこで話は最初に戻って来る。どうやって龍を地上に引きずり落とすか。誰もが思いついたことを述べては却下されていった。高位の魔法使いがいれば、翼を折るなり、幻覚を味あわせて感覚を狂わせるなど手段は存在した。でも、アマツマラの迷宮で一番の魔法使いであるシアラは何の下準備も無しにそんな威力の呪文は放てないと言い、僕ら程度の実力で詠唱が完成するまでの時間を稼ぐのは難しかった。


 誰もが押し黙る中、この場で唯一赤龍との交戦経験という名の被捕食行為を受けた僕の記憶に一つ、引っ掛かる事があった。


 それは胃袋に落ちて這い上がろうとした時の不自然な振動だった。


 食道から真っ逆さまに落ちた僕は強烈な酸の溜まった胃袋へと落ち、瞬く間に溶かされそうになった。バスタードソードは龍の口蓋に突き刺さり、武器はバジリスクのダガー一つだった。真上にある出口に向かって胃壁にダガーを突き刺した。流石の赤龍も内臓を内側から傷つけられれば痛みに身を捩るのだろう。身悶えした結果、胃液は大荒れになり、頭から酸を浴びてしまった。


 奇妙なのは『その後』だ。胃壁に爪を立ててしがみ付いていた僕は、確かに感じていた。赤龍が更に身を捩って、落下・・していたのを。


 あの時、胃の中に居た僕は外の様子なんて見る事は出来ないが、想像することはできる。まず、赤龍は地上に対して平行に飛翔し、地上に居た僕を咥えて、一気に上昇した。その後、天地が逆さまになる事も、胃液の溜まる位置が胃の中で変わる事も無かった。つまり、赤龍は空中で滞空していたはずだ。敵の居ない安全な空中に居たはずだ。


 なのに、赤龍は内壁を傷つけられたあと、ゆっくりとだが地上に向けて落ちていた。外部に敵が居ない以上、落下の原因は内部の僕のはずだ。心当たりは、ダガーの刃が胃壁に突き刺さった事一つ。しかし、いくら体の一部が傷ついた程度で赤龍が落下するとは思えない。


 人間における胃潰瘍のように、傷口に胃液が染み込み激痛が走る、という可能性もあるが僕はもう一つの可能性を思いついた。


 僕のダガーはバジリスクの牙をベースに作られたダガー。鍔元に相手の武器を引っかける返しがついており、ソードブレイカーの真似事のできる、巨人族の鍛冶師フリオの作品だ。追加効果として、効き目の薄い麻痺毒を敵に与えるダガーだ。


 あの時、胃壁から染み込んだ麻痺毒が赤龍に効いたのではないか。僕はそう考えた。


 あまりにも都合のいい考え方だが、それ以外の理由は思いつかなかった。作戦を決める場において、赤龍の状態異常の耐性について尋ねると、意外な事に、その場に居た全員から悪くない反応が返って来た。


「主様。古代種ってのはね、肉体を持つ精霊と言われているの。精霊は言ってしまえばこの世界その物と同義。このエルドラドを構成する要素として世界を支え、世界の変化を受け入れる許容性を持つの。一方で耐性ってのは変化を否定する事。変わる事を拒絶する行為なの。世界の変化を受け入れなければならない精霊や古代種は耐性を持つことが出来ない」


 シアラが僕の知識不足を補うようにこのエルドラドの常識を口にした。本来、古代種とは13神の眷属の為、状態異常攻撃を仕掛けるという発想が彼らには無かったため、盲点を突かれたわ、と彼女は僕を褒めた。


 つまり、赤龍はバジリスクのダガーに含まれた麻痺毒を防ぐ手段は無いということが判明した。次に浮上したのが、どうやって状態異常攻撃を相手に与えるのかの問題に移った。


 残念ながら、状態異常攻撃を備えた武器は貴重で、D級冒険者以下で持っている人はいない。素材を手に入れても、自分で使うよりも売り払う方が利益になるからだそうだ。そのため、僕のバジリスクのダガー以外手段は存在しない。刃渡り三十センチほどのダガーが一躍脚光を浴びる事になった。しかし、このダガーで赤龍の鱗を貫くことは不可能だ。


 それに一度の攻撃で赤龍が確実に麻痺するかどうか分からないため、攻撃を与えるのではなく、ダガーを相手に埋め込むアイディアが他の人から上がった。武器としてよりも毒のように相手に埋め込む。


 だとすれば赤龍の体で柔らかい場所、口蓋か目のどちらかが目標となった。面積の狭い目に決まった理由は単純で、仮にダガーが龍の口蓋や喉、食道に食い込むのなら問題は無いが、そのまま胃に落ちた場合溶けて消える可能性が存在した。その状態から麻痺毒が体内に吸収されるかどうかわからない点と、相手の戦闘力を、視界を奪えるという点で目が標的になった。


 最初はギャラクさんを始めとした遠距離攻撃の可能な人によるダガーの投射が検討されたが、すぐさま本人たちの拒否により没となった。いくらなんでも針の穴を狙う様な精密射撃は出来ない、とギャラクさんが言った時、僕と『紅蓮の旅団』のメンバーは一人の少年の存在を思い出した。


 投擲という一点において非常に稀有な技能スキルを持った少年の事を。


 こうして、集まった中でもメーリアさんやレティに次いでレベルの低いマクベが、赤龍に致命的な一撃を与える役目を担う事になった。本人は水を向けられたとき、怯えたような表情を浮かべながらも、自分が初めて人の、ファルナの役に立つのならやりたいと意気込んだ。


 ここから先はとんとん拍子に話が進んだ。


 マクベが自分の持つ技能スキルの特徴を述べて、彼をどうやって赤龍の元まで安全に連れて行くかになり、遠距離攻撃による囮作戦が立案され、その遠距離部隊が配置につくまでの時間稼ぎとリザが下の城壁までの援軍を呼びに行く時に安全に出発するための囮として僕が名乗りを挙げた。


 作戦の成功率を上げるために、ムスタスを始めとした王宮の魔法使いが総出で耐火結界を冒険者たちの鎧に仕込み、鍛冶師たちが総出で装甲車もどきや、ホラスの鉄板を完成させた。


 ―――そしてリトライ二百八十七回目にして遂に、作戦は最終局面へと辿りついた。


 ガタガタと装甲車もどきは震える。


 赤龍が齎したブレスの影響で大小さまざまな瓦礫が大通りを塞ぐように積み上がる。本来、レールに沿って走行するしかできないトロッコにはハンドルなど無く舵を切る事なんて出来ない。そのため、左右に向きを変えるために鍛冶師たちが知恵を振り絞ったのが折り畳みの長い鉄の棒だった。渓流下りの時、船頭が使う様に棒を左右の地面に突き刺し、小石などで弾んだ隙に空中で無理やり舵を切る。折り畳みの為、耐久性に難があるので複数本、装甲車もどきには同じのが積んである。


 音を立てて着地するたびに車輪が震え壊れないように祈る。もっとも祈る暇なんてない程、状況は厳しい。ブレスの齎した物は瓦礫以外にも炎などもあった。道を塞ぐように燃え盛る火に突っ込んだのも一度や二度では無い。生きて突破出来たのは、ニコラスの持つ加護を与える技能スキルのお蔭だ。車体や湾曲した開閉式の蓋にびっしりと接着された鉄板は小槌で形成された事でニコラスは加護を付与した。もっとも彼の与えられる四つの加護のどれが付与されるのかはランダムの為、手当たり次第に加護を与え、それらを接着したため耐火の加護がどれ程残っているかは不明だ。


 そして何よりも危険なのは、時折後方から大気を震わして装甲車もどきを追い越すブレスだ。赤龍のブレスが直撃すれば、装甲車は大破し、僕もお陀仏だろう。


 しかし、麻痺毒が体を震わせ、片目が潰された赤龍はブレスを正確に飛ばすことが出来ないでいた。左右に立ち並ぶ工房や建物、果ては夜空へとブレスはあらぬ方向に飛んでいく。だけど、安心はできない。次第に狙いが正確になって来るのが着弾の衝撃波から理解できていた。あと一発か二発のうちに直撃してしまう。


(くっそおおおお!! レティが、マクベが、ホラスが、全員が命がけで生み出したチャンスを生かすことが出来ないのかよ!!)


 上下に揺れる視界の中、自分の無力さに歯噛みしている僕の耳に、ありえない声が聞こえた。涼やかな聞き慣れた声を僕が間違えるはずは無い。。


「《この身は一陣の風と為る》!」


 坂道を落ちるように駆ける装甲車もどきの前方に、建物の隙間から高速で移動したリザの姿が現れた。彼女はロングソードを抜いて僕らの方に態勢を低くして身構えていた。


「―――リザ!? 何でここに!!」


 彼女は城壁に向けて出発していたはずだ。赤龍のブレスやスタンピードの群れによる攻撃などで建物が破壊されていたり、火の手が上がる事で迂回するなどでまだ城壁に辿りついていない可能性もあった。しかし、いま僕らの居る地点は街の中腹よりもさらに高所だ。なぜ、彼女がこんな所に居るのか僕には分からなかった。


 ただ分かっているのはこのままいけば装甲車もどきか、あるいは地を這う赤龍に潰されてしまう未来だ。


 僕は咄嗟に二本の鉄の棒を、タイルを蹴り飛ばして回る前輪二つに向けて突き刺した。ガキンッ、と金属を噛んだ様な音がして、前輪は固定された。


 そして勢いのついている装甲車もどきはそのまま車体が持ち上がった。自転車で坂道を勢いよく下る時に前輪ブレーキをすれば車体ごと前へと倒れる。しかし、このままだと先に僕の体だけが吹き飛んでしまう。回復薬の中に沈んでいる三本目の鉄の棒を広げて、高速で流れるタイルに突き刺した。


「行っけえええぇぇぇ!!」


 突き刺した鉄の棒を軸にぐるり、と装甲車もどきは弧を描いた。装甲車もどきの車体を片手で掴むことで吹き飛ばされないようにする最中、視界が縦に流れる。前方のリザから後方の赤龍へと。


 炎に突っ込む関係上、開閉式の蓋をしていたため、背後の様子を確認することはできなかった。赤龍がついてきているかどうかは地響きとブレスの存在でしか確認できない。空中で回転する最中、逆さまの視界に隻眼と化した赤龍の姿を僕は捉えた。赤龍にとって大通りは狭く、両翼が左右の建物をなぎ倒し、まるで犬のように四つん這いで進む。だからといって、放たれる威圧感に衰えは無い。麻痺毒のせいで飛翔やブレスに影響は出ているが、戦闘力そのものに影響はないようだ。


 そして、頭上の方に視線を向ければリザのつむじが目に入った。いつの間にか僕はリザを飛び越えていた。手を伸ばすが彼女に届きはしない。何より彼女は僕の方を見ず、迫る赤龍へと向いていた。構えていたロングソードに精神力が注がれる。


「《風牙》!」


 リザの戦技が発動した。ロングソードに集まった精神力が風の刃へと昇華され、意志を持ったように赤龍に向かって放たれる。唯一残った、左目へと。


「グギャャャアアア!」


 赤龍の絶叫が再びアマツマラの街を揺るがす。本来の赤龍なら避けるなり、躱すなり出来た攻撃だ。しかし、麻痺毒に誘導系技能スキルの効果。そして地を這うため頭を下げていたことなどの要因が重なり、最後に残っていた視界も赤龍は潰されてしまう。


 同時に、装甲車もどきは一回転した後、タイル張りの地面に帰還した。衝撃で突き刺さった二本の鉄の棒は抜け落ち、音を立てて後方に吹き飛んだ。


 そして、振り返れば赤龍の巨体がさながら雪崩の如き勢いでリザを潰そうとする。止まる術のない装甲車もどきからリザの背中を眺めるしかできないでいた。己の無力さを歯噛みすると、奇妙な光を見た。彼女の飛び出してきた方角からキラキラと火に反射した細長い光を。その光がリザを縛ると少女の体を赤龍に潰される前に引き上げた。急浮上したリザを視線で追いかけると遠くの建物に引き寄せられていった。


 その屋根の上に流れるような長い金髪が見えた。


(……ロータスさん? でも、彼女に糸みたいな戦闘方法ってあったか?)


 見覚えのある金髪を持つ女性の名が浮かんだが、確認できない。だけど、僕の知る女性ならリザを守ってくれたはずだ。何より、城壁上に居た彼女がこの付近にまで上がって来たというのはリザが役目を果たしたことに他ならない。そしてそのリザは更に龍の視界を完全に潰すという大金星を挙げた。


「こりゃ、ますます死ぬわけにはいかないな」


 呟いて、僕は視界を前方へと向けた。すでに工房街は抜け、この大通りにおいて一番の難所にして分水嶺へと差し掛かる。


 僕の願い通り、遠距離部隊の全員が生き残っているかどうかが、ここではっきりと分かる。


 あと数十秒もすればそこに到達する。


 大通りの中腹。まるで行く手を遮るようにアマツマラのギルドがそびえ立つ。僕は建造物の背面に向けて拳を突き出し、叫んだ。


「シアラ! 《命令》を下す! 魔法を使え!!」


 ここに居ない、仲間に向けて告げた。







 シアラは瓦礫と化したアマツマラの城門前にて待機していた。手にはレイから渡されたターコイズブルーの宝石を天頂に着けた杖を握る。


「《器を満たせ》」


 呟いた途端、自分の体から膨大な、いや、全精神力が組みだされるのを感じていた。それは本来持っている許容範囲を逸脱した量だった。これから放とうとする呪文はシアラの持つ精神力の量では足りない。いや、放つこと自体は可能である。問題はレイの望む場所に届かせるのが不可能なのだ。


 そこで彼女は足りない分の精神力を生命力で補填した。


 仕掛けはもう誰も居ない迷宮入口の洞窟にある。そこには生命力を精神力に変異させる魔方陣が残されていた。


 奇しくも、ファルナがネーデの迷宮で精霊魔法を使う為に刻んだのと同じ魔方陣だった。彼女はレイたちが時間を稼ぐ間に、自分の持つ殆ど全ての生命力を精神力に変換した。そのため、シアラの生命力は風前の灯火といえた。


 それでも気力を振り絞って詠唱を続ける。


「《世界よ、鎮まれ》」


 歌うかのような詠唱に導かれるように決死隊の面々が集まった。その数は自分を含めて十八人。この場に居ないレイとリザを除いた全員が生き残っていた。遠距離部隊の面々は怪我や火傷などを負っているが重傷者は居ない。


 シアラは金色黒色の瞳をそっと臥せて心の中で胸をなで下ろしていた。


 実は他の者には秘密の役目が彼女にはあった。もしも、作戦の最終段階になって一人でも死んでいた場合。自分を見捨てろ、とレイから言われていた。それもご丁寧に命令として言われたのだ。彼女に逆らう選択肢は無い。


「《水よ、氷結し》」


 もっとも、見捨てろと言っても、魔法を放つなと言うわけでは無い。魔法の効果範囲を途中で打ち切るように命令されたのだ。


 反対したが、彼は作戦戦開始時刻になっても自分の意見は変えなかった。そして、シアラに告げたのだ。


「僕は決めたんだ。全員を生き残らせてやる」


 と。何とも馬鹿げた夢物語を、至極真面目な表情で言いのけたのだ。


「《時代を凍えさせた、審判の吹雪よ》」


 詠唱を続けながら、自分の主の秘密に思いをはせた。


 レイは恐らく、死ぬことで時を巻き戻す術を手に入れている。リザから教えてもらった情報とレティの異変を合わせて出した結論だ。なにより、絶対に覆せない死の影を覆すことが出来た理由にこれなら説明がつくのだ。一度、死の結末を見届けてからやり直して対処しているのだ。運命を覆す事なんて訳は無い。


 そんな奇跡のような力を持っていながら、自分だけでも、自分たちだけが生き残るという選択肢を捨てて、全員を生き残らせるという茨の道を選んだのだ。


(なんとも甘ったるい考えを持った人。あの時、自分が一番だと考えるのは当たり前、って言った人間が自分を一番に考えないなんて)


 精霊祭初日。スタンピードの先触れから逃げる最中、助けてもらった事に礼を言わなかった人間にシアラが腹を立てた時、レイが言った言葉を思い出していた。自分が大切なのは当たり前のはずなのに、レイ本人は自分だけが生き残るのをよしとしないのだ。


「《いま一度、この地に再臨したまえ》」


 リザとレティが優しい所を気に入ったと言ったのも納得だ。底抜けに甘く優しい主を助けるために呪文を完成させる。


 同時に、右手に刻まれた奴隷紋に電流が奔った。合図が来たのだと理解するよりも前に、シアラは魔法を放った。


「《アイスエイジ》!」


 ―――瞬間、アマツマラのメインストリートたる大通りが一面氷の世界へと変貌した。


 新式魔法においてのランクは上級に分類されるこの魔法は、本来のシアラの力量だと大型モンスターを氷漬けにする程度しか使えない。例え、生命力を精神力に変換したとしても赤龍には足止め程度にしかならない。


 だが、今回の彼女の目的は膨大な精神力を使い効果範囲を広げ、とてつもない集中力で魔法をコントロールすることだ。坂の入り口から目的地までに形成される氷面ひょうめんはいってしまえば副産物に過ぎない。遠く離れた場所に目的の物を建造するための余波だった。


 一瞬で精神力が空っぽになったシアラは意識を失う直前、ここに居ない主に向けて呟いた。


「勝って帰って来なさいよ……主様」







 世界が一変した。


 背後から押し寄せて来た寒波がアマツマラの街並みを凍らせる。


 一瞬、車輪が氷に固定されたが、これまでの運動エネルギーが氷を砕いて前へと進ませた。後ろからでも赤龍の足音に乱れは無かった。リザが視界を潰してもなお、僕を追いかけてくるのは僕の技能スキルの影響か、執念のなせる業か。


 どちらにしても、ここまでは上手く行った。そして僕の最大の懸念にも片が付いた。シアラには準備の間に命令を下していた。この局面で一人でも死んでいたら自分を見捨てろ、と。命令を下した以上、彼女は誤魔化す事は出来ない。


 だから、目の前にできたギルドを跨ぐように出現した氷の道は全員の無事を知らせるメッセージでもあった。足元が氷になった事で余計に加速していく装甲車もどきはシアラが用意した氷の道を駆け上がり―――飛んだ。


 壁のようにそびえ立つギルドを跳び越えた。


「うぉぉぉおおお! 超えたぞぉぉぉおおお!」


 自分を鼓舞する絶叫と共に装甲車もどきは高く舞い上がった。すると、後方の下の方から轟音が響いた。


 開閉式の蓋を開けて下を見下ろせば盲目の赤龍がギルドの建物を吹き飛ばしたのが見えた。シアラが作った氷のジャンプ台を砕き、ギルドの建物を突き破った所で一度止まり、顔に積もった瓦礫を振り払った。そして潰された両目で僕を睨むかのように見上げると、再び歩みを開始する。


 心の片隅ではギルドにぶつかった衝撃で足を止めてくれるんじゃないかと思っていたが、現実は甘くない。赤龍はゆったりとした速度ではあるが僕を追いかけて地を這って進む。


 そして、高く上がった装甲車もどきは氷の世界からタイル張りの地面へと激突し、大きく跳ねた。衝撃で舌をかまない様に歯を喰いしばっている僕の視界に奇妙な破片が舞っていた。それは曲線を描き、元は円形だったと推測できる物体だった。


 再び着地すると、装甲車もどきの底面からガリガリガリッ!! と、金属を擦り合わせる音が響く。火花が下から吹きあがって来る。そして、何より、速度が遅くなった・・・・・。僕の技能スキルが発動したのではない。


「まさか! 車輪が壊れやがったのか!!」


 都市を守る城壁。その中央の正門から伸びる街の動脈ともいえる大通り。拙い策と奇跡のような確率でここまで来たのに、ゴールまでまだ、半分もあった。


読んで下さって、ありがとうございます。


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