3-46 精霊祭 五日目〈Ⅳ〉
ハインツさんの言葉が脳に届くまでしばしの時間を要した。
「……んー? いま、僕にシアラを買わないかって言いましたか?」
「おう、言ったぞ」
ハインツさんは驚くこともあるまいといった風体で肯定した。彼の眼鏡越しに見える細い瞳は真剣そのもので、冗談で持ち掛けてきたのではないと分かる。
だけど、いまいち、理由が分からない。なぜ、僕なのだろうか。
「どうして僕にその話をしたのですか? 言っちゃなんですけど、僕は……問題がありますよ」
暗に対等契約の事を自分で指摘する。ハインツさんも僕の事情の一端を知っており、精霊祭初日に相談を持ち掛けた時も売る気はあまりないと言われた。
「まず、順を追って説明させて欲しい。お前さんを選んだ理由の一つが、お前さんがこの広間で一番の金持ちなことだ」
彼は眼鏡越しに避難民の収容されている天幕をぐるりと見回した。迷宮に押し込まれた彼らも疲弊しながらもある程度環境に慣れたのか、それとも退屈になったのか天幕から出てきて体を動かしている。
「あれを見て気づくことは無いか?」
僕はハインツさんにそう問われて、じっくりと天幕の外に出てきた人々の姿を見つめた。老若男女、年齢も性別も身分もバラバラの二百人。だけど、こうやって一歩引いた視点で見つめると、共通点に近いものは見いだせた。
どの人も身なりは汚く、手入れがされていない。スタンピードが発生しているから不潔なのは仕方ないがそれを差し引いても着ている衣服などはみすぼらしい。
「……言い方は酷いですけど、あまりお金を持っている人は集まっていませんね」
「有り体にいえば貧乏人と奴隷商人とその奴隷ばかりだ。……お前は見てないかもしれんが、避難所から選別されてここに送り込まれた奴らは全員そんなのばかりだ」
吐き捨てるように言われて、王国側の悪意が見えてしまう。もしかすると、迷宮に送られた人々は国にとって死んでもいいと判断された人間なのかもしれない。だとすれば僕らも死んでもいい人間だと思われているのかと思ってしまう
不愉快な思いを吐き出すように口を開いた。
「理由の一つ目は分かりました。奴隷を購入できるような金銭を持つのが僕という事ですね……でしたら同じ奴隷商人に売りつけるのは駄目なのですか?」
「駄目じゃないが……ぶっちゃけ、アイツの悪名が何処も二の足を踏ませちまう」
「悪名って『気狂いの王女』、って奴ですか?」
ハインツさんは無言で頷いた。なるほど、確かに全員死ぬんだ、と叫んでいたころのシアラを知る者なら彼女を購入するのは躊躇うだろう。だが、今の彼女を見て同じように考える人はいないと思う。
旧式魔法を的確に使いモンスターを倒し、子供の労働奴隷にせがまれ歌を歌っていたシアラの姿は普通の女の子にしか見えなかった。
「まあ、正直感触は悪くないんだが……やっぱりあの頃のあいつを知っているだけに危ない品物だと思われている。ぶっちゃけ、アマツマラじゃ売れんだろうな」
ため息を吐いてから言葉を継いだ。
「奴隷は生き物だ。飯を食わす必要もあるし、身綺麗にさせて、病気にさせない方が良い。昔なんか治療の代金を考えると、処分してたがいまはそれもできない。ギルドが奴隷市場を支配下に置き、奴隷を無碍に扱うなという規則が出来ちまった。維持費に金がかかるんだ。売れ残りは身内で流すってのが暗黙の了解だけど、アイツの場合は……」
「シアラを引きとってくれる同業者が居らず、放り出す訳にもいかない、と。手に余っているんですか」
「まさにそうなんだよな。……その上、買い手が付くかもしれないと思っていた矢先に今回のこれだ」
懐から取り出した一枚の書簡を僕に手渡した。エルドラド共通言語で書かれた書簡をざっと上から下まで読み込む。そこに書かれていたのは迷宮の避難民への防衛に戦奴隷を借りたいとの文言だった。これのお蔭で戦奴隷が防衛班に参加したのだ。
「そいつの下の方を見てみな。そこに死亡した場合の補償は無いって書いてあるだろ」
確かにハインツさんの言う通り、死亡時の補償は無い。戦力の増強を願い出ているのに冷たい物言いだが、言い換えれば弱い戦奴隷を投入しないようにする制限のようにも見えた。
「これがシアラを売ろうとする最後の理由だ。アイツが死んだらこっちの丸損。一応、提供した報奨金は出るだろうが赤字だ。それなら安くても底値で売っちまおうと決めた」
ようやく、ハインツさんの真意が理解できた。商人として損を嫌い、僅かの得でもいいから手に入れようとする腹積もりなのだ。
だけど、疑問も新たに湧き出てくる。僕はハインツさんにその疑問を指摘する。
「だったら、最初からシアラを出さなければよかったのに。こんなの断われば良かったのでは」
「本当なら、そうしたい所だ。でもな、この書簡、この国の宰相とギルド長の連名だ。シアラのなりは目立つ。あとから出自がばれた時、この国で商売するのが難しくなっちまう」
魂から絞り出したかのような溜息をハインツさんは吐き出した。彼にしても本意では無いのだろう。シアラは見た目も魔法の技術もどちらも素晴らしい。ちゃんとした場所でちゃんとした人を相手にすればそれなりの利益になるのは商売に疎い僕でも分かる。
だけど、この先の状況がどうなるか知らないハインツさんにしてみたら、死んだ時の補償が無い以上、シアラを持ち続けるのは不利益に転ぶ可能性が高い。身軽になりたいというのは荷物を減らしたいだけでなく、不利益を被るリスクも減らしたいのか。
とはいえ、シアラの実力なら迷宮内で死ぬことは無いはずだ。もっともハインツさんにしてみたら、死亡時の損失の方が嫌なのだろう。
「あとはまあ……どうもあの小娘、お前さんに心を開いているみたいだな」
「はぁ?」
唐突にハインツさんがおかしな事を言いだした。どこをどう見たら彼女が僕に心を開いているように見えるのだろうか。
「ふん。自分のことほど自分だと分からんとは言うが……以上の理由がお前にシアラを買ってもらいたい理由だ。もっとも決めるのはお前さんだ。買わないって選択肢もある。ただ、考えておいてほしい」
「……唐突に言われたのでちょっと迷っています。こればっかりは仲間との相性もありますから相談もしたいです。……即断はできません」
「分かってる。こっちが急に持ち出した内容だ。それと付け加えるなら、お前には命を救われた借りもある。安くしておくぞ。じっくりと考えてくれ」
そう言い切るとハインツさんは立ち上がって天幕の方へと消えていった。
残された僕は一人、自問自答する。
確かに、遠距離攻撃のできる人材は欲しいと考えていた。シアラの実力は折り紙付きで特殊な能力も持ち合わせる。僕としては、異論は無かった。問題はリザとの相性だ。この前の言い争いを見る限り、二人の相性は悪そうだ。旅をするという事は四六時中同じ空間に居る事。中の悪い者同士を無理に連れまわす必要はない。リザやレティが嫌がったら諦めよう。
ふと、そう考えていた自分に笑みを浮かべてしまう。この前まで赤龍に対する恐怖から逃げるために自分を誤魔化すように倒す方法ばかりを考えて、その先について何も考えていなかった。考える余裕も無かった。それなのに今は自然とその先の―――未来について思いを馳せる自分が居た。
(これもシアラのお蔭だとすると、悪い気分じゃないな)
そう思いながら夕食の準備を始めた。
「私としては構いません」
「え? そうなの?」
休息から復帰したリザとレティが夕食を取る。二人とも幾らか顔色が良くなり、体力気力が回復したように見える。そんな二人にハインツさんから持ち掛けられたシアラの購入について話をした。
レティは真っ先に了承を示した。理由を聞くと面白そうな人だからとあっけらかんと言いのけた。もしかすると僕らの中でレティが一番の大物かもしれない。
その次にリザに対してお伺いを立てると、これまたあっさりと彼女も了承を示す。思わず聞き返してしまった。
リザは器を地面に置くと、口を開いた。
「正直に言えば、ご主人さまの色狂い。年下ばかりに興味がおありなのですか。それとも実年齢の方を重視した年上趣味に走る……といった偽装を施しにかかったのか、などなど意見はありますが胸の内に秘めておきましょう」
「全部口から出てますよ、リザさん」
容赦ない口撃に思わず唇の端がひきつき。リザはすました顔で言葉を継いだ。
「少なくとも戦闘において非常に優秀だと思います。敵の危険度から優先順位を割り振り、全体を俯瞰で見る視野を持っています。……正直、ギャラク様よりも戦闘経験は豊富かと思われます」
急上昇した能力値を持て余して、目の前の敵にばかり集中していた僕と違い、リザは冷静にシアラの戦いぶりを評価していた。それもべた褒めだ。レティが「お姉ちゃんの強い人大好き病が出た」、と小声で耳打ちする。
「それに……どうやらご主人様の悩みを助けて頂いたようですし。ご主人様との相性は悪くなさそうです」
思わず呼吸を忘れるほどの衝撃を受けた。レティの方を見ると、彼女も同意する様に頷いている。
「もしかして、二人とも気づいていた?」
「ご主人さまの不調? そりゃ、気づくよ。最近ずっと眉の間に皺を寄せて考え事したり、病室で眠っている時に龍の事を寝言で言ったりしてたもん。無理してるなーって心配していたんだよ」
「それを私達に気取られないように振る舞っていたため何も申し上げられませんでした。ですが昨夜からお顔が晴れやかになり、二人で胸をなで下ろしていました」
どうやら僕はそれほど追い詰められていたようだ。自分では自覚していなかっただけに表情にまで出ていたとは分からなかった。知らないうちに心配を掛けていた自分の未熟さに耳が赤くなる、
「おそらく、あの者が何かをして下さったのでしょう。……ですから、私としては反対する理由は有りません。それに、ご主人様の目的。故郷に帰るという目的の為に未来が見えるという力は重要になるかもしれません」
リザが言うとレティも同意する様に頷いた。確かに、未来が見える力は希少だ。見える事のデメリットもあるがやはりメリットの方が大きい。この先に何が待ち受けているのか知れれば対策なども講じやすい。
「もっとも、戦奴隷は主人を選べる奴隷。向うが拒否なさったら諦めるしかありません」
一拍を開けた後、リザは言葉を継いだ。
「それと本来ならこの様な場合、奴隷に意見を言う権利はありませんし、主も奴隷の意志など無視しても構いません。それをなさらないご主人様のお優しさは美徳だと思います。……ですが、今後はそのようなお気遣いは無用です」
「前から言ってるだろ。僕は二人を奴隷として扱うつもりは無い。旅の仲間として接するつもりだ。もちろんシアラにもそう接する」
僕が言い切るとリザとレティは揃って困った様な、それでいてどこか嬉しそうな曖昧な表情を浮かべた。
ともかく、二人はシアラの購入に賛同してくれた。後は本人に尋ねるだけだ。僕は食事を終えると二人と共にシアラの姿を探して回る。彼女はハインツさん達と共に食事を取っていた。
「ん……ああ、お前さんか。おい、お前に客だぞ」
「え? あら、アンタ、どうかしたの」
ハインツさんは直ぐに用件を察したのか、シアラに声を掛けてくれた。僕は彼女に話があると切り出した。食事の手を止めたシアラは金色黒色の瞳に疑念を浮かべていた。そんな彼女に僕は購入の意思を伝える。
「単刀直入に言う。僕は君を買いたい。僕らの仲間にならない?」
「良いわよ」
「もちろん、急にこんなことを言われて戸惑……今なんて言ったの?」
「良いわよって言ったのよ。なに? その年で耳がおかしくなったの?」
シアラが何の動揺も見せずにあっさりと了承を示した。想定していない対応に思わず思考が硬直する。
「ハインツから話は聞いていたわ。他の誰か見知らぬ人間に買われるくらいなら、アンタの方がマシよ」
彼女はいつもの上から目線の物言いだが、見た目十二、三の少女が言っていると可愛げがあるように見える。その上、本人の持つ気品さも相まって自然のように受け入れてしまう。腐っても姫と渾名を付けられただけの事はある。
「僕の場合事情があって対等契約しか結べない。契約を結んでいる誰かが死ねば、君も死ぬ可能性があるよ」
「なら、死なない様に努力しなさいよ」
「無茶苦茶な事言い出したよ!」
だけど、詰まる所そういうことなのだ。誰も死ななければ三人の命も消える事は無い。《トライ&エラー》が死なせてくれない以上、生き続ける事は僕の義務のようなもの物だ。
しかし、こうもあっさりと話が進むと逆に違和感が付き纏う。だけど、シアラがハインツさんに目配せすると彼は懐から書類一式を携えてやってきた。
その書類は奴隷購入の書類だった。この手際の良さはどうやら僕を逃がす気は無いようだ。
僕は流れに身を任せるようにシアラの購入手続きを進めてしまう。代金は安くしてもらいレベルに対して一万五千ガルスを掛ける。彼女のはレベルは31。よって購入金額は四十六万五千ガルス。僕は書類に名前を記入すると持ち合わせていた小切手とハインツさんが記入した小切手を交換した。
「よし、後は契約だな。こっちが無理を言ったんだ。これぐらいはタダでやらせて貰うぞ」
ハインツさんは言うと、奴隷紋を操作できるお婆さんを呼び出した。老婆は水晶玉を抱えて天幕から姿を見せた。僕らの姿を見ると白い眉を動かしたが何も言わずに準備を始めた。
やり方は一度行ったから覚えていた。老婆の前に置かれた水晶球に手を置いた。シアラも僕の背中に手を置く。
「《紙よ、千切れろ》」
宣言と共に精神力が老婆の体から漏れた。
「《契約に縛られし蛇よ、皮膚の下を這いる蛇よ》、《呼びかけに応じ塒へ戻れ》
すると、かつての焼き直しのように僕の右手から水晶球に向かって鎖が吐き出された。この手順は仮契約の解除じゃ無かったか?
「奴隷の追加購入は新しい鎖を用意するか、もとある契約に追加で施すのさ。道具が無いから今回は連名でやらせてもらうよ。なーに、不安そうに見てるんじゃないよ」
僕の不安を読み取った老婆が素早く言うと儀式は続いた。
「《塒に戻りし蛇よ、呼びかけに応じよ》、《ここに新たな契約を追加せしめんとす》」
新しい詠唱によって水晶玉の鎖に変化が生じた。泳いでいた鎖がなんと伸びたのだ。この伸びた分が新しい契約用の部分なのだろう。
「《契約を結べ、主と奴隷は天秤の上にて平等》、《魂を縛る蛇よ、その身を契約の証とかせ》」
詠唱が進むと意志を持った様に鎖は動き出して水晶から飛び出して宙に浮く。異変はそれだけで終わらない。鎖の両端が溶ける様に崩れていき、一枚の紙切れに変化していく。
「《コントラクト》!」
詠唱が終わるのと同時に羊皮紙の表面を焔が撫でる。薄暗い迷宮の中で目を焼くような明かりが放たれたが、知っていた為、先に目を瞑っていた。瞼の裏で輝きが弱まったのを確認してから目を開けた。
老婆が差し出した紙片は僕とリザとレティの間で交わした奴隷契約書だった。見慣れない言語が魔法言語だと分かるのは多少の知識が付いたからか。僕らの名前と解放条件の書かれた文字そのものが動いて空白を作る。
「空白部分に新しい奴隷の名前と解放条件を書きな」
しゃがれた老婆の言葉の従い、僕は羽ペンを掴んでシアラの方を見上げた。
「解放条件だけど、如何しようか?」
「……普通、そこは主人が決める事でしょ。変わってんのねアンタ」
「まあね。……それじゃ適当でいいかな?」
僕が書こうとするとシアラは待ったと鋭く言う。しばし考え込んだ後、口を開いた。
「そうね、適当でいいならワタシが満足するまで……ってのはどうかしら?」
「うわぁ。すっげぇ、偉そう」
「何よ? 戦奴隷の解放条件にはアンタの死亡は含まれないし、他に良さそうなのは無いんでしょ。なら、何だっていいじゃないの。ねえお婆さん」
「七十代に婆呼ばわりされるとはね……たしかに、解放条件としてはとんでもないけど……問題は無いよ」
老婆のお墨付きをもらって僕らは奴隷契約書に解放条件を書き込み、シアラに自分の名前を書いてもらった。完成した紙片を老婆に渡すと、彼女は水晶球に放り込んだ。紙片から鎖に戻れば、最後の工程だ。
僕がまず水晶球に手を乗せてその上にシアラが自分の手を重ねた。そして、水晶球の中で泳いでいた鎖は目的地を定めて一気に飛び込んだ。僕の掌からシアラの掌までを貫くかという突進を見せて姿を消した。一瞬、シアラの奴隷紋が鳴動したように見えた。
「これで終わり。アンタたちはこれから先、主従の関係さ」
老婆の言葉に自分の掌を見つめていた僕らは互いの顔を見合わせた。
「それじゃ、シアラ。これからよろしく」
「こっちこそ、お世話をよろしくね、主様?」
シアラのとても美しい笑顔に僕の背筋は震えた。なにか、悪魔と契約を交わしたような居心地の悪さを感じる。シアラは当然のように言葉を続けた。
「だってほら、奴隷の世話は主人の義務でしょ。衣食住、ぜーんぶお願いね」
「……お前、まさかそのために奴隷になったのか!?」
「実際の所は違うわよ。氷から出た時、行く当ても無かったから奴隷の身分を得たの。でも、その奴隷商人から戦奴隷は割と自由があるから戦奴隷でもいいかなって思って。だから養ってね、主様」
奴隷がニートのようなことを言い出しやがった。僕は老婆に向かって叫ぶ。
「この契約を解除してください!」
「残念だけど、一度交わした契約は奴隷契約書を処分するしかないよ。でも、その時はアンタの奴隷全てと契約を破棄しないといけないけどね。なにせ連名で書いちまったんだから」
どうやら僕は嵌められたらしい。肩を落としてがっくり項垂れていると、肩を叩かれた。
「大丈夫。養われる分はちゃんと働くわよ、主様」
白々しいシアラの言葉を聞いてから僕は戦奴隷が増えたことをギャラクさんに一応報告するために歩き出した。足取りはひどく重い。
「宜しかったのですか? あのような茶化した言い方で?」
「……何の事かしら?」
去りゆく主の背中を見つめたリザとシアラが言葉を交わした。リザはどこか呆れたような口ぶりで、シアラはどこかとぼけたような口ぶりだった。二人は視線を交わらせることなく続ける。
「ご主人様は鈍いですから本心を口にしなければ貴女が何を考えているかなんて気づきませんよ」
「やーよ。本心なんてそんなの言えるほど青臭く無いわよ。……だいたいワタシの本心って何の事かしら?」
「……とぼけるなら、口の端の笑みを隠してください」
指摘されてからシアラは自分の唇が笑みの形を成していたのに気づいた。バツが悪くなり咳払いをすると二人に向き合った。自然とリザとレティもシアラに向き合う。
「改めて、ワタシの名前はシアラ。生きた年数は上だけど、敬語は要らないわ。アイツに買われたいと思った理由は氷漬けから解放されてから見た中であの男が一番面白そうだから付き纏う事にしたわ」
しれっとした顔で嘘か真か分からない事をつくシアラに頭痛を感じてしまうリザ。一方でレティはニコニコと楽しそうに笑っている。
「……エリザベートです。リザと呼んで下さい。ご主人様に買われたいと思った理由は……秘密です」
「レティシアでーす。レティでいいよ。ご主人さまに買われたいと思った理由はお姉ちゃんと同じでご主人さまの優しい所です」
あっさりとばらしたレティに対してリザは鉄拳を下した。シアラはそれを見て、腹の底から笑ってしまう。この時代に蘇ってから初めて心の底から笑えたことに驚きながら笑った。
読んで下さって、ありがとうございます。




