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悪役令嬢だった私はスライムに生まれ変わりました  作者: 狩野生得
第二章 真の悪役令嬢は貴女です
8/13

8.悪役令嬢は病死したって本当ですか?

挿絵(By みてみん)

 私が聖女として暮らすようになってから一週間が過ぎた。


 公爵令嬢だった時とは、なにもかもが違う。

 そんな私の生活ぶりを、ザッと話しておくわ。


  ★


 聖女の朝は早い。


「まぁ、神様に頼まれてはじめた仕事だからねー」


 起きるのは、空が少し明るくなるころ。もっと寝ていたいなぁと、愚痴ぐちをこぼしたくなる。

 身だしなみを整え、至聖所しせいじょの前で祈りをささげることから、一日が始まる。神託が下るのは、この時が多いという話だ。


 次は外に出て、昇る朝日を拝む。これには、寮住みの聖職者が全員参加する。

 階位の順に整然と皆が並び、その時を待つ。


「毎日毎日、日が昇るタイミングは違うわ。一瞬たりとも気を抜けない…」


 皆の前に立つ私は、真剣な表情で東の空を見つめる。

 やがて日が昇り始める。皆が瞑目めいもくし、頭を下げる。

 

「一番面白いのは、ダール()様と太陽は無関係ってことね。しかも、知ってるのは私だけ…」


 思わず笑いそうになるのを、今日も全力でこらえた。


 ……。

 今の小ネタ、改変しすぎて気付いてもらえないかもしれないわね…。

 まあいいわ、次に行くわよ。


  ★


 礼拝が終わったら、手分けして掃除と朝食の準備。これは、ゆるい当番制よ。その日の責任者だけが決まってて、あとは自由参加なの。

 と言っても、そこは全員が聖職者。仕事が上手じゃない人や遅い人はいるけど、怠けたりサボったりする人はいないわ。


 私? 掃除はできるけど、料理は初歩中の初歩を勉強中ってところね。

 し、仕方ないでしょ! 掃除は魔法を使ってもいいけど、料理は魔法禁止なんだから!

 そもそも、調理前の食材の姿を知らず、調味料や香辛料の知識もなかった私が料理を作れると考える方がおかしいわ!

 はいそこ、メシマズ聖女とか言わない! まだ犠牲者は出してないんだからねっ!


 教会は敷地が広くて建物も広い。ついでに関連施設も多い。

 礼拝堂、集会場、男女別の聖職者の寮、初級・中級・上級の各学校、武術の訓練場、魔法の訓練場、図書館、研究棟、倉庫、孤児院と養老院。そして大神官の公邸と枢機卿の公邸。

 掃除する場所は、これだけあるの。

 魔法を使わなきゃ、朝のうちに掃除なんてできないわよ。


 ダール教には食べ物の禁忌タブーはない。

 教会の朝食にもミルクや卵、ハムなんかが普通に出るわ。

 

  ★


 朝食の後は、午前の奉仕活動よ。

 あ、その話をする前に、教会の活動を話しておいた方がいいわね。


 教会の活動は、言ってみれば神の御業みわざの代行なの。

 悪霊を払ったり、病気やけがを治したり、悩める者の相談に乗ったり、弱者に施したり、求める者に知恵や力を与えたりね。

 見習いも含めた聖職者が、適性と力量に応じて、いろいろ頑張ってるわけ。

 で、聖職者、特に見習いの立場だと、これらは修行の一環なの。だから、無償か、それに近い報酬で行われてるわ。


 例外として、求める者に知恵や力を与える――具体的には学問や武術や魔法を教える――のだけは、相応の金額を寄付という名目で受け取ってる。

 建物の維持とか、私たちの食費とかで、お金は必要だからね。


 初級クラスの寄付金は、タダ同然よ。そこで教える内容は、プルミエルで普通に暮らすための必要最小限レベルなの。

 でも、ここで才能を認められると、聖職者としてスカウトされたり王宮に人材として斡旋してもらえたりするから、国民のほぼ全員が学んでるわ。

 実質義務教育と言っていいわね。


 中級以上のクラスは、内容もレベルも期間も様々な市民講座だと思ってもらえばいいわ。

 同じ内容でも、短期集中コースもあれば、一年コースもあったりするの。


 で、話を奉仕活動に戻すと、全てのクラスの教官というか指導者は聖職者なの。

 これが、午前の奉仕活動よ。

 見習い中でも初級レベルなら教えられるから、交代で教鞭きょうべんをとってるわ。


 中級以上だと実習や実践(時には実戦)が増えるから、指導者は僧侶以上じゃないと務まらないの。

 逆に言うと、見習いを終えた僧侶以上の聖職者は、知識も肉体も魔法も相当なレベルに達してるわけ。


 学校で指導に当たらない人は、治療やお年寄りのお世話なんかを担当してるわ。


  ★


 朝食は一斉にとるけど、昼食は一部交代でとるの。

 治療を受けに来る人が多かったり、実習が長引いたりとかがあるからね。


 昼食の後は、自由時間。

 といっても、自由に遊んでいい時間じゃなくて、各々が自由に修行する時間ね。知識を高めるのもよし、身体を鍛えるのもよし、魔法の腕を磨くのもよしって感じ。

 市民の頼まれごとを聞いたり、畑仕事をしたりしてる人もいるわよ。


 この時間、私は王宮で魔法を教えてることが多いわね。

 ついでにいろんな話も聞けるから、なかなか有意義な時間よ。


 日が傾いてきたら、自由時間はお終い。

 みんな教会に戻って、頂き物の整理とか、夕食の準備とかに取り掛かるの。


  ★


 夕食は、昼食とは別の理由で、全員揃うことは少ないわ。

 まず、私も含めて偉い立場の人は、パーティーや晩餐ばんさん会に招待されることが多いの。

 神官や僧侶も、葬儀の後の会食に呼ばれたりするわ。


 夕食の後は、本当の自由時間よ。

 娯楽室で遊んでもいいし、外出もOK。


 外泊は基本禁止で門限は9時だから、みんなそれまでに帰ってくるわ。

 消灯は10時。この時間になると、街の明かりも消えるわ。


  ☆


 とまあ、私はそんな感じの日々を送ってるの。


 出待ちする人たちにも、すっかり慣れたわ。

 彼らにとって、私は「会いに行けるアイドル」的なポジションなの。

 身分は高いけど、教会住みだから間近で見られるってやつね。

 そしてあわよくばってことも、考えてるんじゃないかしら。


 もっとも、今の私にその気はないから、フラグは立たないけどね。

 私が処刑された件の真相を暴くまでは、全部へし折るつもりよ。


 というわけで、教会や王宮で親しくなった人から、いろんな話を聞き出したわ。

 私の正体や目的がバレないように、慎重にね。


 それでわかったんだけど、公爵令嬢ネージュ・カデットは、急な病で病死したことになってたの。

 しかも、葬儀は王家とカデット公爵家の合同で、私が処刑されるより前に行われていたの。


 私を病死扱いにしたのは、わからなくもない。

 暴れん坊な上様うえさまに成敗された大名は、病死と届けるのが定番だからね。

 でも、絶縁した娘の葬儀を王家と合同で行ったっていうのは、少し引っかかるのよね…。

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