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悪役令嬢だった私はスライムに生まれ変わりました  作者: 狩野生得
第一章 私が悪役令嬢? いいえ、私は聖女です
6/13

6.悪役令嬢の魔力も万能ですよ

挿絵(By みてみん)

 マランさんは教会の中に入っていった。


 一方の私はというと、相変わらず普通に歩いてるわ。


 いや、急ぎたい気持ちはあるわよ。

 私も教会の一員なわけだし、非常事態なんだからさ、持てる力をいかんなく発揮してみんなの役に立ちたいと思ってるのよ。

 でもね、急ぐわけにはいかない理由があるの。

 聖女の衣装って、走るには不向きすぎるのよ…。


 仮にだけど、私がこの衣装で走るとしたら、気持ちスカートを持ち上げて小走りでタッタッタッだと思うのよ。

 聖女としての威厳とか気品とか見映えとかを考えると、ダーッは論外。タタタは気品に欠ける。スタスタスタは威厳がなさすぎる気がするの。


 で、それがどのぐらいの速さかというと、大柄の兵士の早足と大差ないの。絶対的な身長差が原因でね。

 これ、一緒に歩く方は、最初のうちは微笑ましい気持ちで見守る余裕があるの。でもね、だんだん「もっと速く走れないかなー」とか思ってくるのよ。小さな子どもと遊んでるときに私がそう思ったんだから、間違いないわ。

 しかも、そんな状況って、傍から見ると結構笑えるのよ。これも私が実際に見ててそう思ったんだから、間違いないわ。


 つまり、ほんの少し急ぐことと引き換えに、私は一緒に歩いてる僧兵の人たちに複雑な思いをさせ、見てる人たちの笑いを誘うことになっちゃうわけ。

 そんな聖女がどこの世界にいると思う? 少なくとも、私はそうなりたくないわ。

 だから、ここは普通に歩き続ける以外の選択肢はないの。


  ☆


 教会の周りにはお堀があり、入口には橋が架かってる。

 その橋を渡り終えたところで、僧兵を従えたマランさんが建物から出てきた。


 この様子だと、マランさんも現場に急行するみたいね。

 今回の非常事態、私の予想をはるかに超えてるわ。

 最高戦力である枢機卿すうききょうまで出動することになるなんて、どれだけ大事件なの!?

 ここは、私も行くべき…よね?


 などと考えてたら、マランさんが駆け寄ってきた!


「ネージュ様、挨拶あいさつも済んでないうちから申し訳ないのだが、私と一緒に博物館に来てもらいたい」

「わかりました。そこで何か大変なことが起きてるんですね?」

「話が早くて助かる。詳細は移動しながら話そう」


  ☆


 本気で走るマランさんは、マジ速い。

 僧兵は誰もついてこられないスピードに加え、ライン取りが上手い。

 人や物を最小の動きで避け、速度をほとんど落とさない。もはや人間技じゃないわね…。


 えっ、私?

 飛行魔法で少し後ろを飛んでますが何か?

 聖女の衣装は激しい動きに向かないんだから、仕方ないでしょ。

 

 それで、博物館で何が起きたかというと、地竜の骨格標本が突然動き出したのよ!

 モブの兵士や僧兵じゃ手に負えないから教会は神官を出動させたんだけど、それでも手が足りないらしいの。

 で、教会は最高戦力を投入して、一気にかたを付けに出たというわけ。


  ☆


「!」


 現場は予想以上に凄惨だった。


 博物館の建物は半壊! けが人多数!

 見上げるぐらい大きな骨だけの地竜――骨地竜ボーンアースドラゴンは、一応、建物の枠内には残ってる。屋根も壁も無いけどね。


 僧兵(階級は僧侶)は全員――20人ぐらいで骨地竜を足止め中。相手を鎖で縛る聖魔法を使ってるわ。

 そして神官3人は、骨地竜を動かしている闇魔法を解呪中。

 戦力にならないモブの兵士たちは、付近の人を避難させたり、けが人の応急手当てをしてるわ。

 そんな感じで各々ができることをやってる。でも、絶対的に手が足りてない。


 骨地竜は拘束も解呪も気に留めることなく、尖った砂利のブレスを吐きまくってる。あれは、当たると悲惨なことになるわ…。

 僧侶も神官も、力が足りてないのはわかってると思う。それでも、骨地竜が派手に動き回らないように頑張ってる。

 ただ、魔法力(MP)は無限じゃないから、そう長くは足止めできないわ。


 さらにマズいのは、治療役がいないことね。

 このままじゃ、重傷者は助からないかもしれない。


 よし、状況は把握した。


 けが人の治療は、僧侶にもできる。もちろん、神官にもね。

 でも、骨地竜を動かしている闇魔法の解呪は、おそらくマランさんでも無理ね。

 地竜が元々持ってる魔法抵抗力の高さが闇魔法で強化されてて、解呪の効果を1/10以下まで落としてる。


 だったら、私がすべきことはひとつ。骨地竜の無力化ね。

 私は右手を開いて骨地竜に突き出し、手首に左手を添えて神聖魔法を使う。まずは動きを止めるわよ。


停止アレテ!」


 骨地竜の足元に巨大な魔法円が出現。骨地竜の動きがピタっと止まった。

 神聖魔法は聖魔法の上位版。それを神種しんしゅの私が使うんだから、効果は抜群よ。


 神官たちはきょとんとしてる。

 この様子だと、何が起きたのかが理解できてない感じね。


 マランさんは驚きの顔で私を見てる。

 何か言いたそうだけど、それは後でゆっくり聞くわ。


 私は魔法で声を大きくし、神官たちに告げる。


「地竜を動かしている闇魔法は私が解呪します! 神官と僧侶の皆さんは、負傷した人の治療に回ってください!」

「皆さん、この場は聖女様にお任せしましょう。地竜には及ばない力でも、負傷者を治すことはできます」


 マランさんの声で、神官たちは再起動。魔法を止めて、けが人の方へと向かった。


 それじゃ、闇魔法を消し飛ばすわよ!

 地竜の骨は貴重品だから、壊さないように注意して…。


魔法マジー破壊デストリュクシオン!」


 骨地竜の上にも魔法円が出現し、足元の魔法円と光でつながり円柱を作る。

 そして上の魔法円から魔法力が高速で噴出。

 骨地竜に作用しているすべての魔法を吹き飛ばした。


 魔法力をこういうふうに使うと、どんな強力な魔法でも、効果ごと消し飛ばせるの。

 しかも、元の物体は一切傷つけないのよ。

 ふっふっふ。さすが私ね。


 後は、組みあがってる骨が崩れてばらけないうちに収納して終わりね。


「収納!」


 私の収納魔法は神種だけが使える特別版。

 容量や重量の制限なし。時間が止まるので入れたときの状態のまま永久保存もできるの。

 新しい展示場所が決まるまで、このまま入れておいても大丈夫よ。


 さて、けが人の方は、どうなってるかしらね?

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