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悪役令嬢だった私はスライムに生まれ変わりました  作者: 狩野生得
第一章 私が悪役令嬢? いいえ、私は聖女です
5/13

5.悪役令嬢には自業自得がつきものです

挿絵(By みてみん)

 私が降らせたのは、傘が無くても雨宿りをする人はいないような小雨。

 そんな雨がパラパラと降る。


 王都の人たちは、小雨程度じゃ傘をささない。年齢、性別、身分の高低に関係なく、持っていてもささないの。

 親兄弟がそうだし、周りの人もそうだから、みんな自然とそうなるの。

 当然、私も同じよ。この程度の雨なら、濡れても全然気にならない。


 そんな中、明らかに浮いてる人たちがいるのよね~。

 カンのいい人は、そ~っとそこから離れてるわ。


 誰が見ても「ちょっと普通じゃない」と感じるのは5人。

 偽物と、彼女の周りにいる4人の兵士よ。兵士のうち1人は、そこそこ偉そうな恰好かっこうをしてるわ。


 私が雨を降らせたとたん、4人の兵士は大急ぎで偽物に駆け寄った。

 そして、偉そうな人がマント――偉そうな人だけが着けてる――を脱いで、4人で偽物の頭の上に広げたの。

 これはもう、怪しいなんてものじゃないわ。ハッキリ言って、真黒まっくろよ!


 4人の頭の中には、偽物の髪を濡らさないことしかないみたいね。

 あ、ひょっとしたら、もうひとつあるかも。あのフォーメーションなら、ヤバいと思ったら、すぐに偽物を隠せるわ。

 どちらにしても、「自分たちが周りからどう見られるか?」ってことを考える余裕は、1ミリもなさそうね。

 予想してた以上におバカすぎて、笑いをこらえるのが大変よ。


 おかげでひとつスッキリしたわ。

 私、少し疑問だったのよ。


 先に現れた偽物が聖女として扱われたのは、自然な成り行きだと思う。

 でも、同じ青髪の私が現れたとき、なぜ彼女の言い分が一方的に通ったのか? それが疑問だったのよ。

 普通に考えたら、両方から言い分を聞くわよね?


 でも、偉そうな人が偽物の仲間にいたら、話は違ってくる。

 偉そうな人が本物だと断言したら、誰も疑わないし、疑えない。ハッキリした証拠がなけりゃ、異議なんて唱えられないわよね。


 見たところ、偉そうな人は中隊長クラス。

 バレたら一族郎党打ち首獄門の大罪をくわだてるには、ちょっと小物な気がするわ。

 もしかすると、偽物には、もっと偉い人が関わってたりするかもしれないわね。

 まあ、それは今考えることじゃないわ。


 もう雨は要らないわね。

 それじゃ、最後の仕上げといきますか。


 私は偽物一味を指さし、威厳たっぷりに人々に告げる。


「そこにおのが身を偽っている者たちがいます。その者たちは、偽りを洗い流されると困るようですね」


 人々の視線が偽物一味に集まる。

 近くにいた人たちは、申し合わせたような動きで偽物一味から離れる。


 兵士たちが素早く偽物一味を取り囲み、次々と武器を向ける。

 偽物一味は「しまったー」って顔でオロオロしてるけど、残念ね。もう遅いわよ。


  ☆


 偽物一味は捕らえられた。

 待っているのは形だけの取り調べからの極刑。まあ、自業自得よね。


 私は地上に降り立った。


 それを待ってましたと言わんばかりに、3人が私に歩み寄ってくる。

 先頭は教会の偉い人。偉い人なのに偉そうな感じがしない、柔和でいい感じのおじさまよ。

 後ろの2人はモブじゃない僧兵。1人で兵士の一小隊に勝てるレベルの強者つわものたちね。


 おじさまは歓迎の意を前面に押し出し、私に名乗る。


「ようこそ、聖女様。教会で枢機卿すうききょうを務めるマランです」


 枢機卿という地位は、大神官に次いで№2。

 大神官は象徴的な地位なので、実質最高位と言っていい。

 枢機卿は3人いる。私に極刑を言い渡したのは、その中の1人なの。私の反応からわかると思うけど、マランさんじゃない人よ。


 聖女の地位は、枢機卿と同等。なので、お互いを敬称で呼ぶのが習わしとされてるわ。

 私はカーテシーでマランさんに返す。


「初めまして、マラン猊下げいか。ネージュ・プリエールです。全能なる神ダール様のめいにより、プルミエルに参りました」

「聖女ネージュ様、プルミエルの教会は、貴女を歓迎します。教会へご案内します。どうぞこちらへ」


  ☆


 兵士たちが人々を分けて道を作り、僧兵に先導される形で、私は教会へと向かう。

 隣にはマランさん。

 歩きながら、偽物が現れたいきさつを教えてくれた。


 雲間から神々しい光がさしたので、誰もが空を見上げた。

 しばらくすると、轟音ごうおんとともに大地と大気が震えた。

 誰もが神の御業みわざだとおそれ、慌てて地に伏した。

 そして顔をあげたときには、青い髪の女性が処刑台跡に立っていた。

 流れをまとめると、こんな感じよ。


 …そう。私、最初からやらかしちゃったのよ。

 ダール様の知識をもらったから、それがよーーーくわかるの。


 大地と大気を震わせた轟音の正体は、私が音速マッハを超えたときの衝撃波よ。

 あの時は急降下することしか頭になかったから、何も考えずに全力を出しちゃったの。

 今考えれば、降下速度はそこまで上げなくてもよかったと思うわ。


 そも、最初から姿を消して手頃な高さまで降下して、そこから降臨の演出を始めてれば、偽物の出る幕はなかったと思う。

 図々(ずうずう)しくノコノコ出てきたとしても、その場で捕らえられるのがオチだったと断言できるわ。

 私が偽物扱いされたのは、自業自得だったのよ…。


  ☆


 教会に近付くと、神官の人たちが慌ただしく出ていくのが見えた。

 神官は3人。護衛の僧兵は10人近く。

 これは、相当な大事件が起きたってこと…よね…?


 プルミエルの神官が教会を出るのは、僧侶では手に負えない事態が起きたとき。

 具体的に言うと、強力な悪霊が出たとか、重病人や重傷者が多数出たとか、そんなときよ。


 一応言っておくと、プルミエルに医者はいない。病気やけがの治療は、教会の仕事なの。

 ついでに言うと、神官1人の能力は、僧侶10人ぐらいに相当するわ。

 そんな神官が3人も、しかも緊急で出向くなんて、どんな大事件が起きたっていうの!


「ネージュ様、私は少し急ぎます」

「はい、どうぞお先に」


 事の重大さを察し、マランさんが少し足を速める。


 フッ、さすが枢機卿。教会の最大戦力だけのことはあるわ。

 ついていけてるのは一部の僧兵だけ。並の僧兵は完全に置き去りね…。

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